株主代表訴訟で問われた株主旅行の費用負担・退職金の上乗せと取締役の責任―那覇地方裁判所平成13年2月27日判決

非上場会社の株主が、取締役らに対し、従業員に退職金規程を超える退職金を支給したこと、株主や役員の海外旅行の費用を会社に負担させたこと、株主総会で決めた上限を超えて監査役に報酬を支給したこと、会社が保有していた自己株式を安く譲渡したことの4点を取り上げ、株主代表訴訟で損害賠償を求めた事件の判例です。那覇地方裁判所平成13年2月27日判決は、株主又はその代理人の旅行費用139万3,000円を会社が負担した点と、監査役報酬の上限超過額11万0,555円の点について取締役らの責任を認め、合計150万3,555円の支払を命じました。退職金の上乗せと自己株式の譲渡については、取締役の裁量の範囲内であるとして責任を否定しています。
判決は、同じ株主代表訴訟の中で、責任が認められた支出と認められなかった支出を分けた理由を、会社の業務との関連性、支出の合理性、会社に対する背信的な意図の有無、株主総会決議や定款との関係から具体的に述べています。株主から事前に警告の文書が届いていたのに旅行を実施したことも、取締役らに不利な事情として指摘されました。
本記事では、判決が認定した事実と判断の枠組みを争点ごとに整理し、株主代表訴訟を起こされるおそれのある非上場会社の会社・経営者の側が、経費の支出や退職金の支給をどのように判断し、記録しておくべきかを確認します。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 那覇地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成13年2月27日 |
| 事件番号 | 平成11年(ワ)第606号 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 審級 | 第一審 |
| 訴訟の種類 | 株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役の会社に対する責任を追及する訴訟)。判決は旧商法(平成17年の会社法制定前の商法)の規定を適用しています |
| 結論 | 請求の一部を認容(取締役ら7名に連帯して150万3,555円及び遅延損害金を会社に支払うよう命令)。その余の請求は棄却。訴訟費用は5分の4を株主側、5分の1を取締役側の負担。第1項に限り仮執行の宣言あり |
| 上訴の状況 | 控訴の有無及び確定は、判決本文からは確認できていません |
この表は、判決本文の主文及び事案の概要の記載に基づいて当事務所が作成したものです。会社は、取締役ら側に補助参加しています。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた「原告」「被告」「被告ら補助参加人」及び英字の符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、その旨を示しています(主文の引用を除きます)。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 信用情報会社KSJ | 責任追及の対象となった取締役らが所属する株式会社です。貸金業者を会員として運営され、会員から融資の情報の提供を受け、会員が融資の審査に使う情報を提供することを目的としています。株式は上場しておらず、定款で株式の譲渡が制限されています。訴訟では取締役ら側に補助参加しました |
| 株主会社ATR | 原告の1社。信用情報会社KSJの株主である有限会社です |
| 株主会社BMK | 原告の1社。信用情報会社KSJの株主である株式会社です |
| 株主会社CNP | 原告の1社。平成9年に、別の株主から信用情報会社KSJの株式50株を350万円で譲り受けた有限会社です |
| 個人株主DWE氏 | 原告の1名。信用情報会社KSJの株主である個人です |
| 元取締役FRN氏 | 株主会社ATRの代表取締役。平成9年8月23日まで信用情報会社KSJの取締役でした。海外旅行の実施前に、警告の通知書を送った人物です |
| 元代表取締役GMS氏 | 株主会社BMKの代表取締役。平成9年7月9日まで信用情報会社KSJの代表取締役、同年8月23日まで取締役でした |
| 代表取締役TKA氏 | 被告。平成9年8月23日に信用情報会社KSJの代表取締役に選任されました |
| 専務取締役SMB氏 | 被告。自己株式の譲渡の議題を提案した取締役の1人です |
| 取締役OTE氏 | 被告。自己株式の譲渡の議題を提案した取締役の1人です |
| 取締役HRC氏、取締役KYF氏 | 被告。海外旅行に参加した取締役です(代表取締役TKA氏、専務取締役SMB氏、取締役OTE氏も参加しています) |
| 取締役NKD氏 | 被告。平成11年7月4日に取締役を退任しました |
| 取締役MZG氏 | 被告。自己株式の譲渡価格が低すぎると考えて反対した取締役です |
| 従業員ISK氏 | 信用情報会社KSJの所長の地位にあった従業員。勤続35年で、平成10年7月末に退職し、退職金271万3,600円の支給を受けました |
| 顧問税理士JZR氏 | 信用情報会社KSJの顧問税理士。自己株式の価格の査定をしました |
| 譲受人KGY氏 | 信用情報会社KSJから自己株式50株を350万円で譲り受けた人物です |
| 専務LSM氏 | 従業員ISK氏の処遇について意見を出した人物です(判決本文では「専務」と表示され、被告らとは別の符号が付されています) |
| 監査役MKS氏、監査役NKT氏 | 信用情報会社KSJの監査役。元取締役FRN氏から通知書を受け取りました。監査役NKT氏は海外旅行に参加しています |
| 会社QRV | 平成7年10月30日に、信用情報会社KSJに同社の株式50株を350万円で売り渡した有限会社です |
判決は、平成10年5月の韓国旅行を「本件旅行」、譲受人KGY氏への自己株式50株の譲渡を「本件株式譲渡」と呼んでいます。本記事でも同じ呼び方を用います。代表取締役TKA氏から取締役MZG氏までの7名を、まとめて「取締役ら」と表記します。
事案の概要
株主4名が、取締役ら7名に対して4つの行為の責任を追及した
信用情報会社KSJの株主である株主会社ATR、株主会社BMK、株主会社CNP及び個人株主DWE氏は、いずれも訴え提起の6か月以上前から株主でした。株主らは、平成11年7月9日に到達した書面で、信用情報会社KSJに対し、旧商法第267条に基づいて取締役らの責任を追及する訴えの提起を請求しましたが、30日を経過しても信用情報会社KSJは訴えを提起しませんでした。そこで株主らは、取締役ら7名を被告として株主代表訴訟を提起しました。
株主らが問題とした行為は、次の4つです。
- 従業員ISK氏に、退職金規程を大きく超える退職金を支給したこと
- 信用情報会社KSJの費用負担で、株主及び役員らの海外旅行を実施したこと
- 株主総会決議の上限を超える監査役報酬を支給したこと
- 信用情報会社KSJが保有していた自己株式を廉価で譲渡したこと
なお、株主会社ATRの代表取締役である元取締役FRN氏と、株主会社BMKの代表取締役である元代表取締役GMS氏は、いずれも平成9年8月23日まで信用情報会社KSJの取締役であり、同日、代表取締役TKA氏が代表取締役に選任されています。
退職を求めた所長が退職の意思表示を撤回し、上乗せした退職金で退職した
判決の認定によれば、取締役らは、平成9年11月28日、業務能力の欠如を理由として、同年12月31日付けで従業員ISK氏を解雇する旨の解雇通知書を作成したうえで、退職を要求しました。従業員ISK氏は同日に退職願を提出しましたが、同年12月9日付けで、弁護士を代理人として、退職の意思表示は強迫により無効であると通知してきました。信用情報会社KSJは、同月12日の取締役会で退職の意思表示の撤回を認め、雇用を継続することを全員一致で可決し、従業員ISK氏に業務に精励する旨の誓約書を提出させました。その後も、従業員ISK氏は、平成10年3月12日にキャンセル料の回収を期限までにしなかったことについて始末書を提出し、同年6月1日には、講習会の講師をする旨の業務命令指示書を交付されています。
信用情報会社KSJには就業規則がなく、平成10年4月13日の取締役会で就業規則が承認されて成立しました。その第44条は60歳を定年とするものでしたが、従業員ISK氏は当時既に60歳を超えていました。同年6月11日の取締役会では、同年12月末まで雇用する案と、同年7月末で退職してもらい優遇措置として退職金及び退職慰労金を10か月分支給する案が多数決にかけられ、後者が可決されました。その後、専務LSM氏から12月末まで雇用してはどうかとの意見が出たため、代表取締役TKA氏が従業員ISK氏の希望を確認したところ、給与の10.6か月分の退職金を認めてくれれば7月末に退職するとの返答でした。同年6月17日の取締役会は、賛成多数で、10.6か月分である271万3,600円を支払うことを条件に7月末に退職してもらうことを決定しました。この取締役会には取締役ら全員が出席し、議事録に異議をとどめた者はいませんでした。
従業員ISK氏は、同年6月24日付けで、7月31日付けで退職し一切の不服申立てをしない旨の誓約書を提出し、同日に退職して271万3,600円の支給を受けました。
恒例の株主旅行を、株主から警告を受けながら実施した
信用情報会社KSJは、平成5年ころから毎年、株主相互間及び株主と役職員との親睦並びに利益の還元を目的として、役職員及び株主並びにそれらの知人が参加する海外旅行を実施していました。役職員と株主の費用は会社が負担し、株主は代わりの者を参加させることができ、役員と株主を兼ねる者は旅費の免除の点で2人分の権利を持つ扱いでした。
平成10年3月12日の取締役会は、取締役ら全員が出席し、目的地を韓国、1人当たりの費用を9万9,500円、日程を同年5月2日から5日までとする本件旅行の企画を全員一致で可決しました。これに対し、元取締役FRN氏は、同年4月9日付けで、代表取締役TKA氏と監査役MKS氏・監査役NKT氏に通知書を送り、旅行の費用は税務上損金に算入できず株主への配当とみなされること、参加しない株主との均衡を欠くこと、会社と株主に損害が生じ株主代表訴訟が提起されることが予想されることなどを指摘しました。
しかし、本件旅行は取りやめられずに実施されました。参加者は、代表取締役TKA氏、専務取締役SMB氏、取締役OTE氏、取締役KYF氏及び取締役HRC氏並びに監査役NKT氏のほか、株主の代理人及び役員の家族の合計30名で、職員は1人も参加しませんでした(信用情報会社KSJの株主は36名ですが、株主又はその代理人の資格で参加した人数は明確でないとされています)。信用情報会社KSJは、役員の費用59万7,000円と株主の代理人の費用139万3,000円の合計199万円を負担しました。信用情報会社KSJは、平成8年に実施したアメリカ・メキシコへの海外旅行の費用を福利厚生費として損金に算入していましたが、平成10年6月29日付けで、税務署長から、社会通念上福利厚生行事とみることはできず、役員に要した費用は役員賞与に当たるとして更正を受けました。そのことから、信用情報会社KSJは、本件旅行の役員の分を役員報酬、株主の代理人の分を接待交際費として会計処理しました。
旅行費用を報酬に計上した結果、監査役報酬が上限を超えた
信用情報会社KSJの定款第24条は、取締役及び監査役の報酬を株主総会決議で定めるとしており、株主総会は、第19期(平成9年6月1日から平成10年5月31日まで)の監査役報酬の上限を50万円と決議していました。ところが、本件旅行に参加した監査役NKT氏の報酬が24万0,555円となり、ほかの監査役4名の報酬合計37万円と合わせて、監査役5名の報酬合計は61万0,555円となりました。
平成10年7月30日の株主総会では、第19期の計算書類等の承認の議案に際して、個人株主DWE氏や元取締役FRN氏らから本件旅行や監査役報酬の上限超過への批判が出て議場が混乱し、議長の代表取締役TKA氏が質疑を打ち切って採決し、議案は可決されました。
会社が保有していた自己株式50株を350万円で譲渡した
信用情報会社KSJは、平成7年10月30日、会社QRVから自社の株式50株を350万円で買い受けていました。平成10年9月10日の取締役会で、代表取締役TKA氏、専務取締役SMB氏及び取締役OTE氏から、この50株を譲渡するという議題が提案され、同年10月8日の取締役会で、税理士に適正価格を査定させることになりました。顧問税理士JZR氏は、同年11月12日、50株の価格は平成7年8月の第三者割当増資の時点では350万円であるが現時点では550万円であること、この価格はあくまで参考基準価格であること、時価より著しく低額で譲渡した場合には差額について会社に寄付金課税が生じるおそれがあることを報告しました。
その後の取締役会で、350万円での譲渡について賛否が諮られ、代表取締役TKA氏、専務取締役SMB氏、取締役OTE氏が賛成、取締役MZG氏が反対し、取締役NKD氏と取締役HRC氏が棄権しましたが、承認決議として扱われました。この取締役会の日付は、判決の認定事実の部分では「平成10年10月13日」と記載されていますが、株主らの主張の部分では「平成10年11月13日」と記載され、顧問税理士JZR氏の報告書(同年11月12日)を参考資料として検討したとされています。信用情報会社KSJは、平成10年11月25日、譲受人KGY氏に50株を350万円で譲渡しました。
その後、承認決議の有効性に疑義が生じたため、平成12年4月14日の取締役会で改めて賛否が諮られ、賛成7名、反対2名でした。
事案の経緯の時系列
| 時期 | 出来事(判決本文の争いのない事実等及び認定事実による) |
|---|---|
| 平成5年ころ以降 | 会社負担の株主・役職員の海外旅行を毎年実施(平成5年度中国、平成7年度オーストラリア、平成8年度アメリカ・メキシコ、平成9年度カナダ) |
| 平成6年 | 株主から別の団体へ、信用情報会社KSJの株式50株が500万円で譲渡される |
| 平成7年8月 | 第三者割当により新株200株を1株7万円で発行 |
| 平成7年10月30日 | 信用情報会社KSJが会社QRVから自社株式50株を350万円で買い受ける |
| 平成9年 | 別の株主から株主会社CNPへ50株が350万円で譲渡される |
| 平成9年7月9日 | 元代表取締役GMS氏が代表取締役でなくなる |
| 平成9年8月23日 | 代表取締役TKA氏が代表取締役に選任される。元取締役FRN氏・元代表取締役GMS氏が取締役でなくなる |
| 平成9年11月28日 | 従業員ISK氏に解雇通知書を示して退職を要求。従業員ISK氏が退職願を提出 |
| 平成9年12月9日 | 従業員ISK氏が弁護士を代理人として、退職の意思表示は強迫により無効と通知 |
| 平成9年12月12日 | 取締役会で退職の意思表示の撤回を認め、雇用継続を全員一致で可決 |
| 平成10年3月12日 | 取締役会で本件旅行の企画を全員一致で可決。同日、従業員ISK氏が始末書を提出 |
| 平成10年4月9日 | 元取締役FRN氏が代表取締役TKA氏と監査役2名に警告の通知書を送付 |
| 平成10年4月13日 | 取締役会で就業規則が承認され成立(60歳定年) |
| 平成10年5月2日から5日 | 本件旅行(韓国。参加者30名、職員の参加なし)。会社負担は合計199万円 |
| 平成10年6月1日 | 従業員ISK氏に講習会の講師をする旨の業務命令指示書を交付 |
| 平成10年6月11日 | 取締役会で、7月末退職・10か月分支給の案を可決 |
| 平成10年6月17日 | 取締役会で、10.6か月分271万3,600円の支給を条件に7月末退職とすることを賛成多数で決定 |
| 平成10年6月24日 | 従業員ISK氏が7月31日付け退職と不服申立てをしない旨の誓約書を提出 |
| 平成10年6月29日 | 税務署長が、平成8年に実施した海外旅行の役員分の費用について損金算入を認めない更正 |
| 平成10年7月30日 | 株主総会。旅行と監査役報酬への批判で議場が混乱し、質疑を打ち切って計算書類等の議案を可決 |
| 平成10年7月31日 | 従業員ISK氏が退職し、退職金271万3,600円を支給 |
| 平成10年9月10日 | 取締役会で自己株式50株の譲渡の議題が提案され、継続審議 |
| 平成10年10月8日 | 取締役会で税理士に株価を査定させることを決定 |
| 平成10年11月12日 | 顧問税理士JZR氏が、50株の参考基準価格を550万円とする報告書を提出 |
| 平成10年10月13日又は11月13日 | 取締役会で350万円での譲渡を採決(賛成3名、反対1名、棄権2名)。日付は判決本文の箇所により異なります |
| 平成10年11月25日 | 本件株式譲渡(譲受人KGY氏へ50株を350万円) |
| 平成11年7月4日 | 取締役NKD氏が退任 |
| 平成11年7月9日 | 株主らの提訴請求の書面が信用情報会社KSJに到達。30日を経過しても会社は提訴せず |
| 平成11年 | 株主らが株主代表訴訟を提起(平成11年(ワ)第606号) |
| 平成12年 | 株主から会員へ50株が350万円で譲渡される |
| 平成12年4月14日 | 取締役会で本件株式譲渡について改めて採決(賛成7名、反対2名) |
| 平成13年2月27日 | 那覇地方裁判所が請求を一部認容する判決 |
判断の前提となった規程・定款の条項
判決本文には、信用情報会社KSJの退職金支給規程、定款及び就業規則の条項が記載されています。以下は判決本文に記載された文言の引用です。
退職金支給規程第5条―退職金の計算方法
「退職金は、退職時の本人の基本給月額に第6条で定める退職理由による支給基準及び第8条で定める在職中の評価率を乗じて計算する。」
退職金支給規程第6条―退職理由による支給基準
「次の理由により退職する者は、支給基準表第1号表の支給率基準による。」
「<1> 会社が業務上の都合により解雇したとき」
退職金支給規程第8条―在職中の評価率
「退職金は在職中における本人の勤務態度、業務実績を勘案して次のいずれかを決め、これに所定の支給基準額を乗じたものとする。」
「<1> A率 特に成績優秀なるものとし、支給基準額に14割を乗ずる。」
「<2> B率 成績やや優秀なるものとし、支給基準額に12割を乗ずる。」
「<3> C率 通常の成績を有するものであり、支給基準額どおりとする。」
「<4> D率 成績やや劣るものとし、支給基準額に6割を乗ずる。」
「<5> E率 成績極めて悪いものとし、支給基準額に4割を乗ずる。」
判決本文によれば、支給基準表第1号表は、勤続年数24年の場合の支給割合を290割とし、24年以上は1年ごとに10割を加算する内容です。実際に支給された退職金271万3,600円の算定式は、「25万6,000円×(40割×1.4割+5か月)」とされています(基本給月額25万6,000円の10.6か月分)。判決本文には、第1号表の支給割合と算定式の「40割」との関係についての説明はありません。
定款第24条―役員の報酬
「取締役及び監査役の報酬及び退職慰労金は、株主総会決議をもって定める。」
就業規則第44条―定年
「従業員の定年は満60歳に達したときとする。」
適用された法令(旧商法)と現在の会社法
本件は、平成17年の会社法制定前の事件であり、判決は旧商法の規定を適用しています。判決が用いた主な規定と、これに対応する現在の会社法の規定は、当事務所の整理では次のとおりです。現在の会社法の規定は内容が同じではないものもあるため、本判決の判断をそのまま現在の事案に当てはめることはできません。
| 判決が用いた旧商法の規定 | 内容 | 対応する現在の会社法の規定(当事務所の整理) |
|---|---|---|
| 第266条第1項第5号、第2項、第3項 | 法令・定款に違反する行為をした取締役の会社に対する責任。取締役会決議に賛成した取締役はその行為をしたものとみなされ、議事録に異議をとどめない取締役は決議に賛成したものと推定されます | 第423条第1項(任務懈怠責任)、第369条第5項(議事録に異議をとどめない取締役の賛成の推定) |
| 第267条 | 株主代表訴訟(6か月前から株式を保有する株主の提訴請求と、30日以内に会社が提訴しない場合の株主による提訴) | 第847条(提訴請求後、会社が提訴しない期間は60日とされています) |
| 第269条 | 取締役の報酬は定款又は株主総会決議で定めること | 第361条 |
| 第279条 | 監査役の報酬は定款又は株主総会決議で定めること | 第387条 |
| 第260条第2項 | 重要な財産の処分等は取締役会の決議によること | 第362条第4項 |
| 第260条ノ2第1項 | 取締役会の決議は、取締役の過半数が出席し、出席取締役の過半数で行うこと | 第369条第1項 |
| 第294条ノ2 | 株主の権利の行使に関する利益の供与の禁止 | 第120条 |
遅延損害金の利率は、判決当時の民法所定の年5分です。現在は、改正後の民法により法定利率が変動制となっています。
当事者の請求と主要な主張
株主らの請求
株主らは、取締役ら7名に対し、連帯して、信用情報会社KSJに699万9,755円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年9月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求めました。699万9,755円の内訳は、株主らの主張によれば、退職金の差額209万9,200円、本件旅行の費用199万円、監査役報酬の上限超過額11万0,555円、自己株式の時価との差額280万円です。
主な主張の対立
| 争点 | 株主らの主張 | 取締役らの主張 |
|---|---|---|
| 従業員ISK氏への退職金の支給 | 従業員ISK氏は退職金支給規程第8条のD率(成績やや劣るもの)に当たるから、退職金は基本給月額25万6,000円に支給割合4と評価率0.6を乗じた61万4,400円となる。規程を遥かに超える271万3,600円を支給したことは善管注意義務・忠実義務に違反し、取締役会決議に賛成した取締役らは連帯して209万9,200円の損害を賠償すべきである | 取締役の経営判断は、前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったか、意思決定の過程が著しく不合理でなかったかという観点から審査されるべきである。従業員ISK氏は業務遂行能力の欠如が改善されず、就業規則で60歳定年を設けたことが同人には不利益変更となるため代償措置を検討していたところ、早期退職に応じたので優遇措置をとった。勧奨退職での優遇措置には合理性がある |
| 会社の費用負担による本件旅行の実施 | 参加者の構成や旅程からして業務と関係のない私的な観光旅行であり、それゆえ役員の分は役員賞与として税務処理された。法人株主の代理人として参加したのはほとんどが当時の役員の家族である。株主の旅費の負担は特定の株主への利益供与として旧商法第294条ノ2にも違反する。株主総会の事後の承認は経営判断の当否に影響しない。損害は199万円 | 前の代表取締役の時期にも株主と役職員の親睦を図る目的で海外旅行をしており、従来の慣例を踏まえて実施した。株主と役職員の意思疎通を図り、今後の業務の円滑な遂行に役立つものとして企画した。株主全員に呼びかけており利益供与には当たらない。株主総会の承認決議も得ている |
| 第19期の監査役報酬の支給 | 定款と株主総会決議に反することは明らかである。配分原案は取締役会で決議されており、賛成した取締役らは連帯して上限超過額11万0,555円を賠償すべきである。税理士の指導に従ったことは判断の誤りとは無関係である | 本件旅行の監査役の費用を報酬として計上したため上乗せされたもので、実質は接待交際費である。税理士の指導による処理であり、株主総会の承認決議も得ている。会社に具体的な損害は生じていない |
| 本件株式譲渡 | 当時の50株の時価は630万円を下らず、収益も上昇していた。顧問税理士JZR氏から寄付金課税のおそれの報告があったのに無視し、顧問弁護士の意見も求めなかった。取締役会決議は出席6名中3名の賛成にすぎず旧商法第260条ノ2第1項に違反する。賛成した代表取締役TKA氏、専務取締役SMB氏、取締役OTE氏は差額280万円を賠償すべきである | 550万円はあくまで参考基準価格で、時価相場とはいえない。売上総利益や営業利益の伸びは限られている。株式には譲渡制限があり、会員にしか譲渡しない慣例から市場性は狭く、配当の水準から投資する人はあまりいない。株価の決定は取締役会の経営判断事項である。棄権者を定足数に加えないとの議長の判断で決議は成立しており、平成12年4月14日の取締役会でも7名が賛成した |
上の表は、判決本文に記載された当事者の主張を当事務所が要約したものであり、裁判所が認めた事実ではありません。株主らは、本件株式譲渡の当期に譲受人KGY氏に50株で100万円の利益配当がされたとも主張しましたが、判決はこの点を事実として認定していません。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
結論を左右した争点
判決が整理した争点は、従業員ISK氏への退職金の支給、会社の費用負担による本件旅行の実施、第19期の監査役報酬の支給、本件株式譲渡の4点についての、取締役らの責任の有無と損害額です。
結論を分けたのは、次の点でした。
- 会社の規程を超える支出や、会社の財産の処分について、取締役の裁量がどこまで認められるのか。とりわけ、その支出に会社の業務との関連性や一応の合理的理由があるのか、会社に対する背信的な意図がうかがわれるのか
- 株主総会決議や定款に違反する支出について、事後の株主総会での計算書類の承認や税理士の指導が、違法性や損害を否定する事情になるか
- 非上場株式の譲渡価格について、税理士の査定額を下回る価格での譲渡が、取締役の裁量の範囲を逸脱した不当な廉価といえるか
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
退職金について示された判断の枠組み
判決は、退職金支給規程の効力について、次のように述べました。
「この退職金規程は、被用者に対して、この規程よりも不利益に取り扱ってはならないという効力を有することは明らかではあるが、使用者に対して、この退職金規程よりも有利に取り扱ってはならないとの効力を有するものではない。」
判決は、就業規則の作成権限が取締役にあることからすれば当然のことであるとしています。そのうえで、取締役の職務執行における裁量権を広汎に認める必要があること、株主は株主総会で選任された取締役に経営を委ねて利益を追求しようとするのであるから、適法に選任された取締役がその権限の範囲内で会社のために最良であると判断した場合には基本的にその判断を尊重して受容すべきことを挙げ、次の枠組みを示しました。
「取締役の行為が著しく不当といえない限りは、裁量の範囲を逸脱したとみるべきではなく、退職金の支給にあたっても、一応の合理的理由があり、会社に対する背信的な契機がない場合には、労働者に対して、退職金規程よりも有利な退職金の支給をしても、取締役の有する裁量権を逸脱したとみるべきではない。」
交際費の支出について示された判断の枠組み
判決は、本件旅行の株主又はその代理人の費用が接待交際費として会計処理されていたことを前提に、法人の支出する交際費が取引を円滑に促進させる側面を有することは否定できず、業務遂行上必要であれば交際費の支出が直ちに取締役の義務違反につながるとはいえないとしつつ、次のように述べました。
「交際費の支出と法人の業務遂行との間に関連がないのにもかかわらず交際費を支出することは、取締役の善管注意義務や忠実義務に違反することはいうまでもない。」
判断の枠組みの整理
判決が示した判断の枠組みは、次のとおり整理できます。
- 取締役の経営判断には広い裁量が認められ、著しく不当といえない限り、裁量の範囲を逸脱したとはみられません。
- 従業員に対し、退職金規程より有利な退職金を支給することは、一応の合理的理由があり、会社に対する背信的な契機がなければ、裁量の範囲内です。
- 交際費の支出は、業務遂行上必要であれば直ちに義務違反とはなりませんが、業務との関連性がない支出は善管注意義務・忠実義務に違反します。
- 定款や株主総会決議で定められた報酬の上限を超える支給は法令違反であり、事後に株主総会で計算書類が承認されても違法性は治癒されません。
- 非上場株式の譲渡価格は、時価の算定が非常に困難であることを前提に、取引事例や譲渡の経緯から、著しく不当で裁量の範囲を逸脱したかどうかで判断されます。
各主張を採用し又は排斥した理由
従業員への退職金の上乗せ―円満に退職してもらうための優遇措置として合理性あり
判決は、取締役らが平成9年11月に解雇通知書を作成して退職を要求し、従業員ISK氏が一旦は退職の意向を示したものの弁護士を代理人として撤回したため、やむなく雇用を継続することになったという経緯から、取締役らがかねてから雇用を止めたいと考えていたことは推測に難くないとしました。しかし、信用情報会社KSJは平成10年4月に就業規則を制定するまで定年制を採用しておらず、従業員ISK氏は当時60歳を超えていたものの、定年制の規定により退職させることはできなかったと認められるから、本人の意思に反して退職してもらうことが当時困難な状況にあったことは明らかであるとしました。
そのうえで、判決は、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。
「優遇措置として退職金の上乗せをすることにして従業員ISK氏に円満に退職をしてもらうことも一の経営判断として合理性がないとはいえない」
また、取締役らが会社に対する背信的意図から退職金の上乗せを画策したと認めるべき事情も一切うかがわれず、退職金の上乗せが会社の規模、売上げ、利益等からみて不当に高額と認めるべき証拠もないとしました。判決は、取締役らの経営判断が著しく不当であるとはいえず、裁量を逸脱したとはいえないとして、この点の善管注意義務違反・忠実義務違反を否定しました。
株主又はその代理人の旅行費用―業務との関連性がなく、責任を肯定
判決は、株主又はその代理人に要した費用について、会社の運営上必要な経費であったと認めることはできないとし、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。
「そもそも、本件旅行は、その参加者の資格を株主又はその代理人に限定する以上、信用情報会社KSJの行う取引とは直接の関係を有しないものと判断せざるを得ない。」
判決は、取締役ら自身、本件旅行が株主と役職員間の意思疎通を図り今後の業務の円滑な遂行に役立つものとして企画、実施されたと主張するにとどまり、会社の業務遂行上どのように有益な行為であるかについては何らの主張もないこと、証拠上も役員、株主等の親睦を超えて業務に有益であったことをうかがわせる事情はないことを指摘しました。職員は全く参加していないから職員の福利厚生とみることもできず、現に福利厚生費としての申告は否認されていることも挙げています。
従来から旅行を行っていること、株主全員に参加を呼びかけていることなどの取締役らの主張については、本件旅行の費用負担を正当化する根拠となるものではないとしました。そして、経営判断の裁量について、次のように述べています。
「客観的にも業務との関連性のないものについてまで会社で費用負担するとの判断は裁量権の範囲を逸脱するものというべき」
さらに判決は、事前の警告を無視したことについて、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。
「元取締役FRN氏から事前に警告の文書の送付がされているのに、これを無視して、本件旅行を実行したのであるから、取締役らに義務違反について責に帰すべき事由がないとはいえない。」
判決は、株主又はその代理人に要した費用139万3,000円について、取締役らの善管注意義務ないし忠実義務違反により会社が損害を被ったものとして、本件旅行の実施の決議に賛成した取締役らが連帯して同額を賠償する責任を負うとしました。
役員の旅行費用―役員報酬として処理されており、違法の主張・立証がない
本件旅行のうち役員に要した費用59万7,000円については、判決は、結局役員報酬として処理されているから、定款又は株主総会の決議に反するものであれば当然違法であるが、後に検討する監査役報酬を除いては、株主らがこの点の違法を主張・立証しないとしました。そのため、取締役の報酬として処理された部分について、取締役らが善管注意義務や忠実義務に反したと認めることはできないとしています。
株主の権利の行使に関する利益供与―株主全員が参加できたため否定
株主らは、株主又はその代理人の旅行費用の負担は、株主の権利の行使に関する利益の供与に当たると主張しました。判決は、次のように述べたうえで、信用情報会社KSJのすべての株主が会社の費用負担で本件旅行に参加することができたのであるから、取締役らに株主の権利に影響を及ぼす意図があったと認めることはできないとして、この主張を退けました。
「商法294条ノ2によって禁止されるのは、株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨で利益を供与する場合であるところ」
利益供与には当たらないとされても、業務との関連性がない支出として善管注意義務違反・忠実義務違反の責任は認められています。
監査役報酬の上限超過―事後の計算書類の承認でも違法は治癒されない
判決は、定款で監査役の報酬は株主総会の決議によって定めるとされ、株主総会が第19期の監査役報酬の合計額の上限を50万円と決議していたのに、61万0,555円が支給されたこと、報酬額の決定についての取締役会の議事録で取締役らが反対の意見を述べ、あるいは議事録に異議をとどめた証拠はないことを認定しました。そして、取締役会の構成員である取締役らは、旧商法第279条に違反し、同法第266条第1項第5号、第2項及び第3項により、上限超過額11万0,555円を連帯して賠償する責任があるとしました。
平成10年7月30日の株主総会で承認決議を得ているとの主張については、次のように述べて退けました。
「違法な報酬の支給がされた後に、株主総会においてその支出を示した決算書類が承認されたからといって、これにより前記違法性が治癒されることはない。」
また、旅費の実質は接待交際費であるが税理士の指導で役員報酬として処理した、具体的な損害は生じていないとの主張についても、判決は、次のように述べ、上限を超えて支払ったことで超過部分の損害が会社に生じたことは明らかであるとしました。
「会計上報酬として計上した以上、商法279条で規定する報酬に当たることは当然であり、これを含めて株主総会で決議された上限内で支給すべきは当然である。」
自己株式の譲渡価格―非上場株式の時価算定は困難で、不当な廉価とはいえない
判決は、まず株式の取引事例として、平成6年に50株が500万円で譲渡されたこと、平成7年8月に第三者割当により新株200株が1株7万円で発行されたこと、平成9年に50株が350万円で譲渡されたこと、本件訴訟提起後の平成12年にも50株が350万円で譲渡されたことを認定しました。また、信用情報会社KSJは株主の資格として貸金業を営んでいること、貸金業協会に加入していること及び会員であることを求めており、各株主の持株数はそれぞれ50株とされていること(定款等に明文の規定はないこと)、株式は上場しておらず定款で譲渡が制限されていることも認定しています。
そのうえで、判決は、顧問税理士JZR氏が50株を550万円と査定していることについて、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。
「信用情報会社KSJは証券取引所に上場しておらず、その株式の時価を適正に算定するのは非常に困難であり、顧問税理士JZR氏の上記査定結果も適正な時価であるかは疑義がある。」
判決は、顧問税理士JZR氏自身が査定価格は参考基準価格にすぎないと報告していること、平成9年と平成12年にそれぞれ50株が350万円で売買され、平成7年の第三者割当増資の際の50株の価格も350万円であったことを考慮すると、350万円が不当に廉価であるとはいえないとしました。
判決は、譲受人KGY氏だけでなく広く希望者を募れば350万円より高額で譲渡できた可能性は否定し難いとしつつ、平成7年10月に自己株式を取得してから本件に至るまで購入希望者が現れなかったこと、他に高額での購入希望者がいるのにことさらに譲受人KGY氏に譲渡したという事情がうかがわれないことから、査定価格より低額で譲渡したという一事で不当に廉価とまでは認められないとしました。平成6年の500万円の取引事例についても、株式を取得できるのは貸金業協会に加入し会員である者に限られ市場が非常に小さいことを考慮すると、350万円が不当に廉価であるとまで断定することはできないとし、本件株式譲渡について寄付金として課税された形跡もないとしています。
株主会社ATRの代表者は、譲受人KGY氏を会員とさせて株式を取得させたのは取締役らの勢力を拡大するためであり、そのために譲渡価格が廉価となったと供述しましたが、判決は、その根拠となるような客観的証拠は見当たらないとしました。そして、次のように結論づけています(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。
「取締役としては、信用情報会社KSJが所有する株式をできるだけ高額で譲渡すべきであることは当然であるが、経営判断の観点からすれば、本件株式譲渡が著しく不当であり、取締役の裁量の範囲を逸脱したとまではいうことはできず」
自己株式の譲渡についての取締役会決議の瑕疵―決議は不成立でも責任は追及できない
判決は、本件株式譲渡の取締役会には6名が出席し、賛成3名、反対1名、棄権2名であったことから、次のように述べ、株主らの指摘のとおり決議は成立していないと認めました。
「賛成した取締役が出席取締役の過半数に達していない以上、本件株式譲渡は取締役会で承認されたことにはならない。」
しかし、判決は、次のように述べ、取締役会の決議を経ないで本件株式譲渡を行ったことについて、代表取締役TKA氏の責任を追及することはできないとしました。
「本件株式譲渡は、本来、商法260条2項に定める必要的決議事項には該当しないと解される」
その理由として、判決は、会社が自己株式の譲渡を繰り返していること、本来自己株式は限定的にしか取得できないのであるから会社の重要な財産であるとはいえないことを挙げています。さらに、350万円が不当に廉価とはいえず、広く買受希望者を募れば具体的にどの程度の価格で売却できたかについても的確な証拠があるとはいえないことから、結局、取締役らの責任を追及することはできないとしました。
主文及び結論
判決の主文は、次のとおりです(「被告ら」は取締役ら7名を、「原告ら」は株主らを指し、会社名は本記事の表記に置き換えています)。
「1 被告らは、連帯して、信用情報会社KSJに対して、150万3,555円及びこれに対する平成11年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
「2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。」
「3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。」
「4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」
認容額150万3,555円は、株主又はその代理人の旅行費用139万3,000円と、監査役報酬の上限超過額11万0,555円の合計です。株主らの請求額699万9,755円のうち、退職金の差額209万9,200円、役員の旅行費用59万7,000円及び自己株式の時価との差額280万円の請求は認められませんでした。賠償金の支払先は、株主らではなく会社である信用情報会社KSJです。控訴の有無及び確定は、判決本文からは確認できていません。
| 株主らが問題とした行為 | 請求額 | 判決の判断 |
|---|---|---|
| 従業員ISK氏への退職金の上乗せ | 209万9,200円 | 責任否定(一応の合理性があり、背信的意図もうかがわれない) |
| 本件旅行の費用(株主又はその代理人の分) | 139万3,000円 | 責任肯定(業務との関連性がなく裁量の逸脱。事前の警告を無視) |
| 本件旅行の費用(役員の分) | 59万7,000円 | 責任否定(役員報酬として処理されており、違法の主張・立証がない) |
| 第19期の監査役報酬の上限超過 | 11万0,555円 | 責任肯定(定款・株主総会決議違反。事後の承認で治癒されない) |
| 本件株式譲渡 | 280万円 | 責任否定(不当な廉価とはいえない。取締役会決議の不成立も責任の根拠とならない) |
この表は、判決本文に基づいて当事務所が作成したものです。
判断の射程
以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。
参考となる点
- 会社の業務との関連性を説明できない支出は、慣例があっても責任を問われ得ること。判決は、株主旅行が平成5年ころから毎年行われていたこと、株主全員に参加を呼びかけていたことは費用負担を正当化する根拠にならないとしました。業務遂行上どのように有益なのかを具体的に説明できない支出は、裁量の範囲を逸脱すると評価されています。
- 株主からの事前の警告を無視したことが、取締役に不利な事情とされたこと。判決は、元取締役が事前に警告の文書を送っていたのにこれを無視して旅行を実施したことを、取締役らに帰責事由がないとはいえない理由として挙げました。会社の側では、株主から支出についての指摘や警告を受けた場合に、その内容を検討し、検討の結果を記録しておくことが大切です。
- 株主総会での計算書類の承認は、事前の決議違反を治癒しないこと。判決は、株主総会で決めた監査役報酬の上限を超えた支給について、後に株主総会で決算書類が承認されても違法性は治癒されないとしました。報酬の総額に旅費などを計上する場合には、あらかじめ上限の範囲に収まるかを確認する必要があります。
- 税理士の指導による会計処理であっても、法的な評価はその処理に従うこと。判決は、旅費を会計上報酬として計上した以上、旧商法の規定する報酬に当たり、上限内で支給すべきであるとしました。税務上の取扱いを優先した会計処理が、会社法上の規制に触れることがある点に注意が必要です。
- 従業員への退職金の上乗せには、経緯に即した合理的理由があれば裁量が認められること。判決は、退職金規程は会社が従業員を有利に扱うことを禁じるものではないとし、定年制がなく本人の意思に反して退職させることが困難であった状況での上乗せに合理性を認めました。取締役会での複数案の検討、本人の意向の確認、不服申立てをしない旨の誓約書の取得といった経緯が認定されています。
- 非上場株式の譲渡価格は、取引事例と市場の狭さを踏まえて判断されたこと。判決は、税理士の査定額を下回る価格での自己株式の譲渡について、過去の取引事例が同じ価格であったこと、株主となれる者が限られ市場が非常に小さいことなどから、不当な廉価とはいえないとしました。
- 株主代表訴訟では、取締役会決議に賛成した取締役全員が連帯して責任を問われること。本件では、旅行の実施を全員一致で可決した取締役ら7名全員が連帯して賠償を命じられました。監査役報酬についても、議事録に異議をとどめた証拠がないとして全員の責任が認められています。
一般化できない点
- 本判決は旧商法の下での判断です。現在の会社法では、株主代表訴訟の手続(会社法第847条)、取締役会決議に賛成した取締役の責任の扱い、自己株式の処分の手続など、旧商法と異なる定めが置かれています。とりわけ自己株式の処分は、現在の会社法では募集株式の発行等と同じ手続によることとされており、取締役会の決議事項に当たらないとした本判決の判断を、そのまま現在の事案に当てはめることはできません。
- 退職金の判断は、従業員に対する退職金についてのものです。取締役や監査役の退職慰労金は、定款又は株主総会決議で定める必要があり、本判決の枠組みはそのまま当てはまりません。
- 退職金の上乗せについて、判決は会社の規模、売上げ、利益等からみて不当に高額と認めるべき証拠もないとしています。上乗せの額が会社の規模等に照らして過大な場合や、役員と親しい従業員への優遇など背信的な契機がうかがわれる場合の評価は、本判決からは分かりません。
- 株主旅行の費用について、判決は、参加資格が株主又はその代理人に限られ、職員が全く参加していないこと、業務上の有益性について何らの主張もないことを前提としています。会社の業務との関連性が具体的に説明できる交際費の支出まで否定したものではありません。
- 利益供与に当たらないとした判断は、すべての株主が参加できたという本件の事情によるものです。特定の株主だけに便益を与える場合の評価は、本判決からは導けません。
- 自己株式の譲渡価格の判断は、株主となれる者が限られ、50株を単位として取引されてきた本件の事情に基づくものです。評価の方法や譲渡の相手方の選定が異なる場合の評価は、本判決からは分かりません。
- 控訴の有無及び確定は確認できていません。
株主代表訴訟に備えて会社・経営者が確認しておきたいこと
本判決を踏まえると、株主代表訴訟を起こされるおそれのある非上場会社の側では、規程を超える支出や慣例的な支出について、会社の業務との関連性と合理的理由を取締役会で検討し、議事録に残しておくことが大切です。株主総会で上限を定めた役員の報酬は、旅費などを報酬として計上する場合も含めて上限内に収まるかを事前に確認し、株主から警告や指摘を受けた場合はその内容を検討したうえで判断することが、後に責任を問われたときの備えになります。自己株式や会社の保有株式を譲渡する場合には、価格の根拠となる取引事例や評価の資料をそろえ、現在の会社法の手続に沿って進めることが求められます。
よくあるご質問
株主から、会社の経費の使い方について株主代表訴訟を起こされることはありますか。
あります。本判決では、非上場会社の株主が、会社負担の海外旅行や退職金の上乗せなどを取り上げ、取締役らの責任を追及する株主代表訴訟を提起しました。株主は、まず会社に取締役の責任を追及する訴えの提起を請求し、会社が一定期間内に提訴しない場合に、自ら訴えを提起することができます。
毎年の恒例行事として行ってきた株主旅行の費用を会社が負担すると、責任を問われますか。
本判決では、株主旅行が平成5年ころから毎年行われていたことや株主全員に参加を呼びかけていたことは、費用負担を正当化する根拠にならないとされました。参加資格が株主又はその代理人に限られ、会社の業務遂行上の有益性が説明されていなかったことから、株主又はその代理人の旅行費用139万3,000円について取締役らの責任が認められています。
従業員に退職金規程を超える退職金を支給すると、取締役の責任になりますか。
直ちに責任になるわけではありません。本判決は、退職金規程は会社が従業員を規程より有利に扱うことを禁じるものではないとし、一応の合理的理由があり、会社に対する背信的な契機がなければ、取締役の裁量の範囲内であるとしました。本件では、定年制がなく本人の意思に反して退職させることが困難であった状況で、円満に退職してもらうための上乗せに合理性が認められました。
株主総会で決めた役員報酬の上限を超えてしまっても、後で株主総会の承認を受ければ問題はありませんか。
本判決は、上限を超えた監査役報酬の支給について、後に株主総会で決算書類が承認されても違法性は治癒されないとし、超過額11万0,555円について取締役らの責任を認めました。税理士の指導で旅費を報酬として処理したという事情も、責任を否定する理由にはなりませんでした。
非上場株式を税理士の査定額より安く譲渡すると、取締役の責任を問われますか。
本判決では、税理士が50株を550万円と査定していたのに350万円で譲渡しましたが、非上場株式の時価を適正に算定するのは非常に困難であること、過去の取引事例も350万円であったこと、市場が非常に小さいことなどから、不当な廉価とはいえないとして取締役らの責任は否定されました。査定額を下回ったという一事だけで責任が認められるわけではありません。
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株主から提訴請求や株主代表訴訟を受けた場合は、問題とされた支出や取引について、取締役会での検討の経過、議事録の記載、規程や株主総会決議との関係、業務との関連性を示す資料を整理し、取締役の裁量の範囲内の判断であったかを確認することが大切です。株主代表訴訟・提訴請求を受けた会社・役員の側の対応については株主代表訴訟・提訴請求への対応に関する御相談で、自己株式の譲渡価格など非上場株式の評価については自社株の株価算定・株価紛争に関する御相談で御案内しています。少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は、少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。
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非上場会社の株主が、従業員への退職金の上乗せや会社負担の海外旅行などを理由に取締役の責任を追及した株主代表訴訟の判例を、経費の支出と退職金の支給の判断に求められる合理性の観点から、会社・経営者の側に向けて解説します。
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