株式売買価格決定申立を受けた会社の対応

会社が株式を取得しようとする場面において、対価の額について協議が調わないときは、裁判所に対して株式売買価格の決定を求める申立てがされることがあります。もっとも、この申立てが問題となる場面は一つではありません。

いずれの場面であるかによって、手続の名称、申立てをすることができる期間、価格の算定の基準となる時点が異なります。会社側は、まず、届いた書類がどの場面のものであるかを特定する必要があります。

 協議の段階との違い

協議の段階においては、当事者双方が譲歩し得る幅の中で合意を目指すことになります。これに対し、裁判所の手続に入った後は、当事者の合意によらず、裁判所が価格を定めます。

この違いは、会社側の対応を大きく変えます。協議の段階では、価格以外の条件を組み合わせて解決を図る余地があります。裁判所の手続に入った後は、価格そのものが争点となり、資料と主張の内容によって結論が決まります。

表2 協議の段階と裁判所の手続の違い

観点 協議の段階 裁判所の手続
価格を定める者 当事者の合意 裁判所
争点 価格のほか、支払の時期、付随する条件 主として価格
会社側が示すもの 提案の理由 主張とこれを裏付ける資料
時間 当事者の判断 手続の進行に従います
資料の開示 会社の判断による部分があります 裁判所の求めに応じることになります

 会社側にとっての意味

会社側にとって、この手続は単なる価格の争いにとどまりません。第1に、決定された価格は、同じ会社の他の株主との今後の交渉における事実上の基準となり得ます。第2に、手続の過程で会社の財務内容に関する資料が相手方に開示されることになります。第3に、支払うべき金額が確定するまでの間、資金の手当てを含めた定まらない状態が続きます。

したがって、この手続への対応は、当該株主との関係だけでなく、会社の株主構成全体の方針と結び付けて考える必要があります。

 時間の見通し

この手続に要する期間は、事案の内容、鑑定の要否、争点の多寡によって大きく異なります。鑑定が行われる場合には、鑑定人の選任、資料の提出、鑑定の実施、鑑定の結果に対する双方の意見の提出という過程を経ることになり、相応の期間を要します。

会社側としては、短期間で終わることを前提とした資金計画、事業計画を立てないでください。

会社法上の制度

 申立てをすることができる者と期間

申立てをすることができる者、申立てをすることができる期間は、場面ごとに定められています。期間を経過した後は申立てをすることができなくなり、価格は別の方法によって定まることになります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

会社側としては、届いた書類が期間内の申立てによるものかどうかを、まず確認してください。

 価格の算定の基準となる時点

価格をいつの時点を基準として算定するかは、場面によって異なります。承認請求に関する場面と、反対株主の株式買取請求に関する場面と、株式の併合等による排除に関する場面とで、基準となる時点の考え方が異なります。

この点は、会社側の主張の組立てに直結します。基準となる時点の前後で会社の業績、資産の内容、事業環境に変化がある場合には、いずれの時点を基準とするかによって結論が変わり得ます。

 「公正な価格」と「売買価格」

制度によって、裁判所が定めるものが「公正な価格」とされている場合と、「売買価格」とされている場合があります。用語の違いは、考慮される事情の範囲の違いにつながります。

会社側としては、当該事案において裁判所が定めるものが何であるかを正確に把握したうえで、主張を組み立てる必要があります。

 供託その他の手続との関係

株式譲渡承認請求を不承認とし、会社又は指定買取人が買い取る場合には、買取りの通知に先立って一定の金額の供託が求められ、その証明が必要となる制度が設けられています。価格の決定を求める申立てとは別の手続ですが、期限が関係します。

また、価格が決定された後の支払、株券の交付、株主名簿の記載といった手続についても、あらかじめ確認しておく必要があります。

会社側が最初に確認すべきこと

表3 申立ての書類を受領した場合の確認事項

番号 確認事項 確認の方法
1 どの制度に基づく申立てか 申立書の記載、先行する手続の記録
2 申立てをした者が株主であるか 株主名簿、名義書換の記録
3 申立ての期間内であるか 先行する通知の日付、到達の記録
4 対象となる株式の数 株主名簿、株券の有無
5 会社と支配株主のいずれが当事者となるか 先行する手続の内容
6 裁判所から指定された期日と提出の期限 送達された書類
7 先行する協議において会社が提示した価格と根拠 社内の記録、往復した書面
8 会社の財務に関する資料の整備の状況 計算書類、勘定科目内訳明細書、固定資産の一覧

 先行する手続の記録を集めます

株式売買価格決定の申立ては、いずれも先行する手続を前提としています。承認請求と不承認の通知、買取りの通知、供託の記録、反対の通知、株式買取請求の書面といった一連の記録を、日付とともに時系列で整理してください。

期間の計算の誤りは、手続そのものの適法性に関わります。会社側にとって有利にも不利にも働き得ますので、正確な確認が必要です。

 会社がこれまでに述べた価格を確認します

協議の段階で会社が提示した価格、その算定の根拠、口頭で述べた金額は、裁判所の手続においても引用されることがあります。社内の記録、担当者の記憶、往復した書面を確認し、会社としての説明が一貫するように整理してください。

根拠のない金額を提示していた場合、その理由を説明できるようにしておく必要があります。

 財務に関する資料の状態を確認します

計算書類、その附属明細書、勘定科目内訳明細書、固定資産の一覧、不動産の登記事項証明書、主要な契約書は、いずれもこの手続において前提資料となります。これらが整備されているか、複数期にわたって整合しているかを確認してください。

資料の間に整合しない点がある場合、その理由を説明できるようにしておく必要があります。

 資金の手当てを検討します

価格が決定された場合、会社又は支配株主が支払うことになります。決定される価格の水準には幅がありますので、複数の想定に基づいて資金の手当てを検討してください。

会社が買主となる場合には、財源に関する規制の確認も必要です。

 他の株主への影響を確認します

同じ会社に他の少数株主がいる場合、この手続の結果は、他の株主との関係にも影響します。当該株主との解決だけを考えるのではなく、株主構成全体の方針を併せて検討してください。

会社側が検討し得る選択肢

表4 裁判所の手続に入った後の会社側の選択肢

選択肢 内容 検討事項
争う 会社の主張する価格の相当性を資料により示します 資料の整備、主張の一貫性、期間
手続の中で解決を図る 手続の進行の中で、双方が受け入れられる水準を探ります 相手方の意向、他の株主への影響
併行して株主構成の整理を進める 当該株主以外の株主についての方針を並行して検討します 手続への影響、時期

いずれの選択肢を採る場合であっても、会社側の主張とこれを裏付ける資料を整えるという作業は共通して必要です。手続の中で解決を図る場合であっても、資料の裏付けを欠く主張では、相手方も裁判所も動きません。

 「争う」という選択の意味

争うという選択は、会社の主張する価格が相当であることを、評価の手法、前提となる数値、その根拠となる資料によって示すことを意味します。単に「高すぎる」と述べることではありません。

評価の手法には、収益に着目するもの、純資産に着目するもの、市場での取引の事例に着目するもの、配当に着目するものがあります。いずれの手法が当該事案に適合するか、複数の手法をどのように組み合わせるかが、争点となります。

 少数株式であることの取扱い

少数株式については、支配権を伴う株式と同様に評価すべきかどうかが争点となることがあります。この点の取扱いは、制度の場面と事案の内容によって異なり得ます。

会社側としては、当該事案において、どのような性質の株式についての価格が問題となっているのかを踏まえた主張が必要です。

 会社の実態に即した主張

非上場会社においては、役員報酬の水準、同族関係者との取引、事業に用いていない資産の保有、簿価と実際の価値が乖離している資産の存在といった事情があることが少なくありません。

これらの事情は、評価の前提として考慮され得ます。会社側としては、これらの事情を隠すのではなく、その内容と理由を説明できる資料を整えることが必要です。

株価の算定と手続の進行

 手続の一般的な流れ

表5 手続の一般的な進行

段階 内容 会社側が行うこと
申立て 株主が裁判所に申し立てます 書類の到達と内容を確認します
答弁 会社の主張を提出します 主張と資料を準備します
争点の整理 双方の主張を踏まえ、争点が整理されます 追加の資料を提出します
鑑定の要否の検討 鑑定を行うかどうかが検討されます 鑑定の前提について意見を述べます
鑑定 鑑定人による評価が行われます 資料を提出し、質問に対応します
鑑定の結果に対する意見 双方が意見を述べます 鑑定の前提と結論について意見を述べます
決定 裁判所が価格を定めます 支払と株式の移転の手続を行います

事案によって進行は異なります。鑑定を行わずに判断される場合もあります。

 鑑定が行われる場合

鑑定が行われる場合、鑑定人は、会社から提出された資料に基づいて評価を行います。したがって、どのような資料が提出されているか、その資料がどのように整理されているかが、鑑定の結論に影響します。

会社側にとって重要なのは、鑑定が始まってから対応するのでは遅いという点です。鑑定の前提となる事項について、会社側の理解を示しておく必要があります。この点については、鑑定が始まる前の対応に関する記事で詳しく整理しております。

 資料の提出と情報の管理

この手続においては、会社の財務に関する資料が相手方にも開示されることになります。営業上の秘密に関わる資料については、その取扱いを検討する必要があります。

他方で、資料の提出を過度に制限すると、会社側の主張の裏付けを欠くことになります。両者の均衡を図る必要があります。

 決定された後

価格が決定された後は、支払、株式の移転、株主名簿の記載といった手続を行うことになります。会社が買主となる場合には、自己株式としての取扱い、財源に関する規制の確認が必要です。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

有事化した場合の進行

 他の権利行使が並行する場合

株式売買価格決定の申立てと前後して、会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会招集請求、取締役の解任の要求、株主代表訴訟の提訴請求が行われることがあります。

これらはそれぞれ別の手続ですが、実質的には一連の対応として進められていることが多く、会社側も一体として方針を整理する必要があります。

 他の株主への波及

1人の株主との間で価格が決定されると、他の株主が同様の対応を検討することがあります。会社側としては、この波及を織り込んだうえで方針を決める必要があります。

 第三者への譲渡が問題となる場合

手続の途中で、株主が第三者に株式を譲渡すると述べる場合があります。譲渡制限の定めがある会社においては、承認の手続を経ることになります。この場合の対応については、株式譲渡承認請求に関する記事をご参照ください。

 支配株主が当事者となる場合

指定買取人が買い取る場合、株式の併合等によって少数株主が排除された場合には、会社ではなく支配株主が当事者となることがあります。この場合、会社と支配株主のいずれが主張と資料の準備を行うのか、費用をいずれが負担するのかを整理しておく必要があります。

平時に整えておくこと

 計算書類と附属する資料の整備

この手続において最も基本となる資料は、計算書類とこれに附属する資料です。複数期にわたって整合していること、勘定科目の内容が説明できることが重要です。

 資産の内容の把握

不動産、有価証券、保険、事業に用いていない資産については、その内容と現在の価値の見当を把握しておいてください。簿価と実際の価値が乖離している資産は、争点となりやすい項目です。

 同族関係者との取引の記録

役員報酬、同族関係者との賃貸借、貸付けについては、その内容と理由を説明できる記録を整えておいてください。

 株主名簿と定款の整備

株主名簿が現在の状態を反映していること、定款の定めと登記の内容が一致していることを確認しておいてください。

 過去の株式の移転の記録

過去に株式の売買、贈与、相続があった場合、その価格と経緯の記録は、価格に関する主張において引用されることがあります。整理して保存してください。

案件として確認すべき事項

表6 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
先行する手続 承認請求、不承認の通知、買取りの通知、供託、反対の通知、株式買取請求のいずれか
日付 各書面の発送日と到達日
対象株式 株式の数、種類、株券の有無
相手方 株主本人か、代理人が付いているか、第三者か
協議の経緯 双方が提示した価格と根拠
会社の財務 直近3期分の計算書類、勘定科目内訳明細書
資産 不動産、有価証券、保険、事業に用いていない資産の一覧
株主構成 株主名簿、他の少数株主の状況
資金 支払に充てることができる資金の見込み

弁護士に相談する意味

この手続において、会社側が最も損をしやすいのは、主張を裏付ける資料の準備に着手するのが遅れる場合です。手続の進行には期限があり、後から資料を追加しても、既に形成された心証を動かすことは容易ではありません。

また、協議の段階で会社が述べた内容は、裁判所の手続においても引用されます。したがって、協議の段階から、後に手続に入ることを想定した整理を行っておくことが望まれます。

評価の手法の選択、前提となる数値の設定、少数株式であることの取扱いは、いずれも専門的な検討を要する事項です。会社の実態を正確に反映した主張を組み立てるためには、会社法上の議論と評価実務の双方についての理解が必要です。

さらに、この手続の結果は、他の株主との関係にも影響します。当該株主との解決だけを目的とするのではなく、株主構成全体をどのように整えるかという方針の中に位置付けて対応する必要があります。

なお、個別の事案における主張の組立ての順序、資料の提出の時期、相手方の主張への対応の方法は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 裁判所が決める価格は、会社の提示額より高くなりますか。

一般的にいずれとは申し上げられません。事案の内容、提出された資料、評価の手法の選択によって異なります。結果を保証する説明はいたしません。

質問2 鑑定の費用は誰が負担しますか。

費用の取扱いは手続の中で定められます。あらかじめ見込みを立てておく必要がありますので、ご相談の際にご説明いたします。

質問3 資料を出したくないのですが、出さなければなりませんか。

資料の提出を過度に制限すると、会社側の主張の裏付けを欠くことになります。営業上の秘密に関わるものについては、取扱いを検討したうえで対応することになります。

質問4 途中で話し合いによって解決することはできますか。

手続の中で解決に至る場合もあります。もっとも、そのためにも会社側の主張と資料を整えておく必要があります。

質問5 他の少数株主も同じことをしてくると思います。

そのおそれがある場合には、当該株主への対応と並行して、株主構成全体の方針を検討することをお勧めいたします。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

裁判所から届いた書類の一式、先行する手続に関する書面と封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類及び勘定科目内訳明細書、不動産の登記事項証明書、協議の経緯が分かる資料をご持参ください。

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