少数株主との株式買取交渉がまとまらない場合の選択肢

少数株主との間で株式の買取価格についての交渉を重ねてきたが、折り合いがつかず膠着状態に陥ってしまったという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、交渉が進まない原因を見極めないまま次の手段に移ってしまうと、かえって解決を遠ざけてしまう危険があるという点です。価格に関する見解の相違なのか、それとも資金の準備状況によるものなのかによって、採るべき選択肢が異なります。

以下では、原因の見極め方、及び交渉が行き詰まった場合に会社が採り得る選択肢を御説明します。

8 資金 用意することができる資金の額

 原因の見極めを最優先で行ってください

表2 協議が進まない原因の類型

原因 特徴 次に検討すること
価格の隔たり 売却の意思はあるが金額が合わない 算定の根拠の整理、条件の組替え
売却の意思がない 保有し続けたいと述べている 保有し続ける理由の把握
判断できない事情 高齢、健康上の理由、家族の意向 相手方の側の体制の確認
会社への不信 過去の経緯に対する不満が背景にある 情報の提供のあり方の検討
第三者の関与 代理人その他の第三者が関与している 相手方の意向の確認

同じ「まとまらない」という状態でも、原因が異なれば対応が異なります。価格の隔たりであれば算定の根拠を示すことに意味がありますが、売却の意思がない場合には、価格をいくら説明しても進みません。

 相手方の目的を把握します

相手方が現金化を望んでいるのか、経営への関与を望んでいるのか、過去の経緯に対する不満を述べているのかによって、採るべき手段が異なります。

 会社側の持株比率を確認します

現時点における議決権の割合は、その後に採り得る手段の要件に直結します。株主名簿により正確に確認してください。

 期限を確認します

M&Aのクロージング、事業承継の時期といった外部の日程がある場合、逆算して選択肢を絞り込む必要があります。時間を要する手段は選択できないことがあります。

会社側の法的な立場

 株主に売却を強制することはできません

前提として、株主が株式を保有し続けることは、株主の権利です。会社が売却を強制することはできません。

したがって、協議が調わない場合の選択肢とは、「売却させる方法」ではなく、「法律上定められた手続によって、対価を交付して株主の地位を失わせる方法」又は「株主として残ることを前提に、会社の意思決定を安定させる方法」のいずれかです。

 法律上定められた手続によるほかありません

強制的に株式を取得する方法は、法律上定められた要件と手続によることになります。要件を満たさない場合には、その方法を用いることができません。

 放置するという選択の意味

何もしないという選択もあり得ます。もっとも、放置には次のような帰結が伴います。

株主に相続が発生すると、相続人に分散し、対象が増えます。株主が第三者に譲渡すると述べる場合があります。将来M&Aを検討する際に、支障となります。

したがって、放置は、問題を先送りするだけでなく、多くの場合、解決を困難にします。

会社側が検討し得る選択肢

表3 協議が調わない場合の選択肢

選択肢 内容 主な要件・制約
条件を組み替えて協議を継続する 買主、支払の方法、付随する条件を変更します 相手方の意向によります
他の株主から先に取得する 応じる株主から順に取得します 対象となる株主の存在が前提です
定款の定めに基づく取得を検討する 相続人等に対する売渡請求等によります 定款の定め、要件を満たす事由の発生が前提です
株主総会の決議等による排除を検討する 株式の併合その他の手法によります 議決権の割合その他の要件があります
株主として残ることを前提に安定化を図る 種類株式の活用等を検討します 定款の変更等の手続を要します
相手方からの請求を待つ 相手方が権利を行使した場面で対応します 時期を選べません

これらは排他的なものではありません。実務上は、応じる株主から順に取得して持株比率を高め、そのうえで残る株主について次の手段を検討するという進め方が採られることが多くなります。

 条件を組み替えるという選択

価格の隔たりが原因である場合、価格以外の条件を組み替えることによって進む場合があります。買主を会社とするか支配株主とするか、支払を一括とするか分割とするか、他の紛争を併せて解決するかといった点です。

もっとも、条件の組替えは、算定の根拠を欠いたまま金額を上げることを意味しません。根拠のない増額は、他の株主との関係で問題となります。

 他の株主から先に取得するという選択

複数の少数株主がいる場合、応じる株主から順に取得することには意味があります。持株比率が高まれば、その後に採り得る手段の選択肢が広がります。

 定款の定めに基づく取得

相続人等に対する売渡請求の制度は、定款に定めを置いている場合に、相続その他の一般承継が生じた際に用いることができるものです。定めがない場合には、あらかじめ定款の変更を検討することになります。この制度については、既存の解説記事をご参照ください。

 株主総会の決議等による排除

株式の併合、特別支配株主の株式等売渡請求その他の手法によって、対価を交付して株主の地位を失わせる方法があります。いずれについても、議決権の割合その他の要件があり、手続の分量も相応のものとなります。

また、対価の額について裁判所の判断を求める手続が用意されていますので、対価の算定の根拠を整えておく必要があります。これらの手法については、少数株主の排除に関する各記事をご参照ください。

 株主として残ることを前提とする方法

株式を取得することにこだわらず、会社の意思決定を安定させるという方向もあります。種類株式の活用、定款の定めの整備によって、議決権の構成を整えるという方法です。

もっとも、これらは定款の変更を要し、株主総会の決議が必要となります。既に対立が生じている場合には、決議の成立が前提となります。

してはいけない対応

表4 避けるべき対応

避けるべき対応 理由
感情的なやり取りを続ける 記録に残り、後の手続において引用されます
根拠のない金額を提示する 後に価格が争われた場合、会社側の説明が一貫しなくなります
相手方の生活上の事情に働きかける 権利行使を妨げる行為として問題とされ得ます
株主としての権利の行使を事実上妨げる 別の紛争を生じさせます
担当者ごとに異なる説明をする 会社としての説明が一貫しません
期限に追われて手続を圧縮する 手続の要件を欠く原因となります
放置する 相続による分散、第三者への譲渡の可能性が高まります

とりわけ、協議の過程における発言は記録として残り、後の手続において引用されます。会社としての説明が一貫するよう、窓口を一本化してください。

案件として確認すべき事項

表5 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
経緯 協議の開始時期、提示した条件、相手方の反応
相手方 年齢、健康、家族の状況、代理人の有無
株主構成 株主名簿、各株主の株式数と割合
他の株主 同様の対象となる株主の数と態度
定款 譲渡制限、種類株式、株式等売渡請求に関する定め
財務 直近3期分の計算書類、分配可能額の見当
資金 会社及び支配株主が用意できる資金
期限 M&A、事業承継等の日程
目標 最終的に目指す株主構成

弁護士に相談する意味

協議が調わない場合、会社側は「次の手段」を知りたいと考えられます。もっとも、実際に必要なのは、手段の一覧ではなく、当該事案において実行可能な手段の絞り込みです。

絞り込みは、現時点の持株比率、定款の内容、相手方の状況、期限、資金によって行われます。これらを整理せずに手段を選ぶと、要件を満たさない方法に着手して時間を失うことになります。

また、いずれの手段による場合であっても、対価の算定の根拠を整えるという作業は共通して必要です。この作業を早期に始めておくことが、その後の進行を左右します。

さらに、協議の段階における会社側の発言は、後の手続において引用されます。協議の段階から、後の手続を想定した整理を行っておくことが望まれます。

なお、条件の組立て、対象とする株主の順序、次の手段へ移行する時機の判断は、株主構成、従前の経緯、相手方の状況により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 売らないと言われたら、もう手はありませんか。

法律上定められた要件と手続を満たす場合には、対価を交付して株主の地位を失わせる方法があります。要件の確認が先です。

質問2 金額を上げれば解決しますか。

価格の隔たりが原因であれば有効な場合があります。もっとも、根拠のない増額は、他の株主との関係で問題となります。

質問3 放置してもよいでしょうか。

相続による分散、第三者への譲渡の可能性が高まります。放置は解決を困難にすることが多いといえます。

質問4 相手方に弁護士が付きました。

会社側も代理人を立てて対応することをお勧めいたします。担当者による個別のやり取りは避けてください。

質問5 株式買取業者に売ると言われました。

譲渡制限の定めがある場合には承認の手続が問題となります。別の記事において整理しておりますので、ご参照のうえ早期にご相談ください。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、これまでの協議の経緯が分かる資料、相手方から届いた書面、目指す株主構成が分かる資料をご持参ください。

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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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