取締役の責任を追及されたときに会社と取締役が最初に確認すること

書面の標題が「損害賠償請求書」となっていても、その実質が会社法第847条第1項の提訴の請求であることがあります。この場合、会社には60日以内に訴えを提起するかどうかを判断する義務が生じますので、性質の特定は極めて重要です。

責任の根拠を確認いたします

 任務を怠ったこと

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。

取締役と会社との関係は、委任に関する規定に従うものとされております(会社法第330条)。したがって、取締役は、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法第644条)。また、取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければならないとされております(会社法第355条)。

 推定の規定

会社法第423条は、一定の場合に任務を怠ったことを推定する規定を置いております。

  • 競業の制限に違反して取引をした場合、当該取引によって取締役又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定されます(会社法第423条第2項)。
  • 利益が相反する取引によって会社に損害が生じたときは、当該取引をした取締役等について、任務を怠ったものと推定されます(会社法第423条第3項)。

これらの推定が働く場面では、取締役の側が反対の事実を主張立証する必要が生じますので、争いの構造が変わります。

 自己のためにした直接取引の特則

自己のために会社と直接取引をした取締役の責任は、任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができないものとされております(会社法第428条第1項)。また、この責任については、責任の一部の免除等に関する規定が適用されません(同条第2項)。

 第三者に対する責任

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第429条第1項)。株主が、株主としての立場から会社の損害とは別に固有の損害を主張する場合等に問題となります。

 連帯責任

役員等が会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は連帯債務者とされております(会社法第430条)。したがって、責任を追及される取締役が複数となることがあります。

会社と取締役の立場の違い

 会社は追及する側にもなり得ます

株主から責任追及等の訴えの提起を請求された場合、会社は、訴えを提起するかどうかを判断する立場に立ちます。すなわち、会社は当該取締役に対して責任を追及する側になり得ます。

他方、会社が訴えを提起しないと判断した場合、株主が会社に代わって訴えを提起することがあり(会社法第847条第3項)、この訴訟において、会社は取締役を補助するために参加することがあります(会社法第849条第1項)。ただし、株式会社等が取締役等を補助するため責任追及等の訴えに係る訴訟に参加するには、監査役設置会社にあっては監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、各監査役)の同意を得なければならないとされております(会社法第849条第3項)。

 提訴の請求の宛先

監査役設置会社において、株主が会社法第847条第1項の規定による請求をする場合には、監査役が会社を代表するものとされております(会社法第386条第2項第1号)。したがって、監査役設置会社に提訴の請求が届いた場合、これを受けるべき者は監査役です。代表取締役限りで処理することは、手続上、適切でありません。

 代理人の選任における留意

会社の代理人と当該取締役の代理人が同一であることは、両者の利害が対立し得る場面では問題となります。初動の段階から、誰が誰の立場で関与するかを整理しておく必要があります。

初動で確認すべき事項

確認事項 内容
書面の性質 会社法第847条第1項の請求か、単なる申入れか
到達の日 60日の起算点となります(会社法第847条第3項)
請求をした者の資格 6か月前からの保有(公開会社でない会社には適用がありません。会社法第847条第2項)
被告となるべき者 請求書に記載された対象者
請求の原因となる事実 いつ、どのような行為が問題とされているか
会社の機関設計 監査役設置会社か否か(会社を代表する者が異なります)
消滅時効 会社に対する責任の消滅時効の起算点及び期間
責任の免除の有無 過去に総株主の同意又は株主総会の決議による免除がされていないか
責任限定契約の有無 非業務執行取締役等との間の契約(会社法第427条第1項)
役員等賠償責任保険の有無 保険契約の内容と通知の期限

 60日という期間

株主が責任追及等の訴えの提起を請求した日から60日以内に会社が訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、会社のために責任追及等の訴えを提起することができます(会社法第847条第3項)。この60日は、会社が調査と判断を行うための期間です。

 役員等賠償責任保険

会社が保険会社との間で締結する役員等賠償責任保険契約については、会社法に規定が置かれております。契約の内容の決定には、取締役会設置会社にあっては取締役会の決議を要するものとされております(会社法第430条の3第1項)。保険契約が締結されている場合には、保険会社に対する通知の期限を確認する必要があります。

 責任の免除

役員等の会社に対する責任は、総株主の同意がなければ、免除することができません(会社法第424条)。ただし、職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、株主総会の決議によって、一定の額を限度として免除することができます(会社法第425条第1項)。また、定款の定めに基づき取締役会の決議等によって免除することができる場合(会社法第426条第1項)、非業務執行取締役等との間で責任限定契約を締結することができる場合(会社法第427条第1項)があります。

これらの制度を用いる場合には、それぞれ要件と手続が定められておりますので、事後的に安易な処理をすることはお勧めできません。理由は、要件を欠く免除は効力を生じず、かえって新たな責任問題を生じさせるからです。

会社が行う調査

 調査の主体

監査役設置会社においては、提訴の請求を受けた監査役が調査を行うことになります。監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(会社法第381条第2項)。

監査役を置かない会社においては、取締役が調査を行うことになりますが、対象となる取締役自身が調査を主導することは適切でありません。

 調査の範囲

請求書に記載された事実を出発点として、関連する取引の記録、取締役会の議事録、稟議の記録、契約書、会計の記録、関係者からの聴取を行うことになります。

 調査の記録

調査の過程と結果は、記録として残す必要があります。会社が訴えを提起しないと判断した場合、株主又は当該取締役から請求を受けたときは、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を通知しなければならないとされております(会社法第847条第4項)。この通知の内容は法務省令に定められており、会社が行った調査の内容を含むものとされております。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
会社が訴えを提起するかどうかの判断 請求の日から60日 会社法第847条第3項
不提訴理由の通知 請求を受けたときは遅滞なく 会社法第847条第4項
回復することができない損害が生ずるおそれがある場合 60日を待たずに株主が提訴し得ます 会社法第847条第5項
取締役の解任の訴え 株主総会の日から30日以内 会社法第854条第1項
決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項

 ご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた書面及びその封筒
  • 現に効力を有する定款
  • 登記事項証明書(機関設計及び役員の在任期間を確認いたします)
  • 問題とされている取引に関する契約書、稟議の記録、会計の記録
  • 当該期間の取締役会及び株主総会の議事録
  • 役員等賠償責任保険契約の証券及び約款
  • 責任限定契約に関する書面

弁護士にご相談いただく意味

この場面では、60日という期間の中で、事実の調査、法的な評価、訴えを提起するかどうかの判断、不提訴理由の通知の準備を進めなければなりません。加えて、会社と取締役の立場の整理、監査役の関与、保険会社への通知といった手続も並行いたします。順番に処理していたのでは間に合わないことが多く、初動の設計が結論を左右いたします。

また、株主が提起する責任追及等の訴えは、多くの場合、単独では現れません。会計帳簿の閲覧謄写の請求、議事録の閲覧謄写の請求、取締役の解任の請求、株主総会の招集の請求と組み合わせて行われます。個々の請求に個別に応答するのではなく、全体の構造を把握した上で対応を設計する必要があります。当事務所は、会社の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っております。

よくあるご質問

質問1 株主からの書面を無視した場合、どうなりますか。

会社法第847条第1項の請求に該当する場合、請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しないときは、株主が会社のために責任追及等の訴えを提起することができます(同条第3項)。また、請求を受けたときは、遅滞なく不提訴の理由を通知しなければならないとされております(同条第4項)。無視することは適当でありません。

質問2 当社には監査役がおります。書面は代表取締役が受け取りました。

監査役設置会社において、株主が責任追及等の訴えの提起を請求する場合には、監査役が会社を代表するものとされております(会社法第386条第2項第1号)。社内で受領した書面が速やかに監査役に伝達される必要があります。

質問3 株主総会で責任を免除する決議をすれば解決しますか。

役員等の会社に対する責任は、総株主の同意がなければ免除することができないのが原則です(会社法第424条)。職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、株主総会の決議によって一定の額を限度として免除することができますが(会社法第425条第1項)、要件と手続が定められております。要件を欠く免除は効力を生じません。

質問4 既に退任した取締役の責任も追及されますか。

在任中の職務の執行に関する責任は、退任によって当然に消滅するものではありません。役員等の会社に対する責任の消滅時効については、一般の債権の消滅時効の規律によることとなります(民法第166条第1項)。

質問5 会社としては責任がないと考えております。訴えを提起しないことはできますか。

会社は、調査の結果に基づき、訴えを提起しないという判断をすることができます。この場合、株主又は当該取締役から請求を受けたときは、遅滞なく、訴えを提起しない理由を通知しなければなりません(会社法第847条第4項)。この通知の内容は、その後の紛争において重要な意味を持ちます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第330条(会社と役員との関係)
  • 第355条(忠実義務)
  • 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
  • 第360条第1項(株主による取締役の行為の差止めの請求)
  • 第381条第2項(監査役の調査の権限)
  • 第386条第2項第1号(提訴の請求における会社の代表)
  • 第423条第1項から第3項まで(役員等の会社に対する損害賠償責任及び推定)
  • 第424条、第425条第1項、第426条第1項、第427条第1項(責任の免除及び責任限定契約)
  • 第428条第1項・第2項(自己のためにした直接取引に関する特則)
  • 第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
  • 第430条(連帯責任)、第430条の3第1項(役員等賠償責任保険契約)
  • 第847条第1項から第5項まで(責任追及等の訴えの提起の請求、60日、不提訴理由の通知)
  • 第849条第1項・第3項(訴訟参加及び監査役の同意)
  • 第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第854条第1項(役員の解任の訴え)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第644条(受任者の善管注意義務)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、少数株主から取締役の責任を追及された会社の側からのご相談をお受けしております。書面の性質の特定、60日の期間の管理、社内調査の設計と実施、不提訴理由の通知の作成、訴えが提起された場合の応訴まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、少数株主から取締役の責任を追及された会社の方に向けたご案内のページ(/torishimariyaku_sekinin/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主から届いた書面とその封筒、現に効力を有する定款、登記事項証明書、問題とされている取引に関する資料、取締役会の議事録、役員等賠償責任保険契約の証券をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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