相続で少数株主が増えた会社がすべきこと

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本記事が扱う場面と、関連する記事

相続によって株主が増えた場面では、会社の側と株式を相続した側とで採るべき手段が正反対になりますので、次のとおり切り分けます。

本ページは、相続及び親族による株主の増加に関する解説の中核となるページです。個別の論点は、次の各ページで詳述しております。

関連するページ


非上場会社の株主が亡くなると、会社が望んでいなくても、配偶者、子、兄弟姉妹その他の相続人が株式を承継することがあります。譲渡制限株式であっても、相続という一般承継は通常の株式譲渡とは異なり、譲渡承認制度だけで相続人の株主化を止めることはできません。

相続直後に会社が確認すべきなのは、単に「新しい株主は誰か」だけではありません。遺産分割が終わっているか、準共有株式の権利行使者が指定されているか、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるか、会社が相続を知ってから1年が経過していないか、会社に株式を取得する資金があるかまで同時に確認する必要があります。

先に結論を申し上げると、会社は相続人を排除することから考えるのではなく、まず相続人・遺言・遺産分割・準共有株式の権利行使者を確定し、次回株主総会等の会社運営に支障がない状態を作ります。その後に、現状維持、任意取得、後継者による取得、会社法第174条以下の制度等を比較します。

Contents
  1. 相続発生直後に確認する9項目
    1. 相続人の範囲を正確に確認する
    2. 遺産分割が済んでいるかを確認する
    3. 権利行使者の指定と通知を確認する
    4. 定款と株券を確認する
  2. 相続発生から株主が確定するまでを時系列で整理する
    1. 死亡直後は、相続人の範囲と遺言の有無を先に確認する
    2. 遺産分割未了の間は、株主総会・配当等の実務も整理する
    3. 遺産分割後は、株主名簿と会社の連絡体制を更新する
    4. 二次相続まで考えると、株主数はさらに増える可能性があります
  3. 会社側の法的な立場
    1. 相続によって株式を取得した者を、関係が薄いという理由だけで排除できない
    2. 遺産分割未了の株式は準共有となる
    3. 相続人等に対する売渡しの請求を利用できる場合がある
    4. 会社が相続を知った日から1年の期間を見落とさない
    5. 合意による取得という選択肢もある
  4. 妻・子・兄弟姉妹・後妻・疎遠な親族へ株式が分散すると何が起こるか
    1. 会社に関与していない相続人も株主権を持つ
    2. 相続人間の不公平感が、会社への要求に変わることがある
    3. 二次相続でさらに株主が増える
    4. 将来の第三者売却・譲渡承認請求につながる
  5. 会社として「残す株主」と「集約する株式」を区別して考える
    1. 任意取得を検討する場合は取得主体と資金を先に決める
    2. 会社法第174条を検討する場合は、定款と期間を最初に確認する
  6. 会社が検討できる選択肢
  7. 相続人との連絡は「株主としての対応」と「家族間の相続協議」を分ける
  8. 相続直後にしてはいけない対応
  9. 相続後の株主分散が会社運営へ与える影響を具体的に確認する
    1. 株主総会の運営負担が増える
    2. 会社情報の請求や株主権行使への対応が必要になる
    3. 将来の第三者譲渡を想定して譲渡制限手続を点検する
  10. 平時から行うべき相続対策
    1. 株主名簿と連絡先を定期的に更新する
    2. 会社法第174条の定款条項を置くかを検討する
    3. 株式集約の目標を決める
  11. 相談時に準備するとよい資料
  12. 相続人の属性ではなく「株主としてどの権利を持つか」で対応する
    1. 招集通知・議決権・配当の取扱いを統一する
    2. 情報請求は請求者の資格と対象資料を確認する
  13. 株式を集約するかどうかは「今すぐ困っているか」だけで決めない
  14. 相続後の会社運営を年間予定に沿って点検する
    1. 定時株主総会が近い場合
    2. 配当・自己株式取得等を予定している場合
    3. 組織再編・会社売却を予定している場合
  15. 準共有の状態にある株式について会社が採るべき取扱い
  16. 相続人等に対する売渡しの請求が招く逆転の危険
  17. いま確認していただきたいこと
  18. よくある御質問
    1. 譲渡制限株式なら、相続人を株主にしないことができますか。
    2. 遺産分割が終わっていない間、誰が議決権を行使しますか。
    3. 会社法第174条の売渡しの請求をすれば必ず株式を回収できますか。
    4. 年を過ぎた場合は何もできませんか。
    5. 会社に関係のない相続人でも株主権を持ちますか。
    6. 会社が相続人から買う場合、相続税評価額でよいですか。
    7. 相続人が第三者へ売りたいと言っています。
    8. 相続発生前にできる対策はありますか。
  19. まとめ
  20. 出典・参考法令
  21. 関連する御案内

相続発生直後に確認する9項目

番号 確認項目 主な資料
1 死亡した株主の保有株式数 株主名簿、株券、過去の株式資料
2 相続人の範囲 戸籍、法定相続情報一覧図
3 遺言書の有無・内容 公正証書遺言、自筆証書遺言等
4 遺産分割の状況 遺産分割協議書、調停・審判資料
5 準共有株式の権利行使者 会社への通知、相続人間の合意
6 株券の有無 定款、株券、株券台帳
7 相続人等に対する売渡しの請求条項 定款
8 会社が相続を知った日 訃報、役員会記録、メール等
9 今後の株主総会・配当・組織再編等の日程 会社の年間日程、招集準備資料

相続人の範囲を正確に確認する

社内で聞いている家族構成だけでは不十分な場合があります。戸籍等で法定相続人を確認し、遺言がある場合には株式の取得者を確認します。再婚、前婚の子、代襲相続等によって、会社が想定していなかった方が相続人となることがあります。

遺産分割が済んでいるかを確認する

遺産分割が成立していれば、誰が株式を取得したかを確認します。未了であれば、共同相続人間の準共有状態として扱うべき場面があります。会社が便宜的に一人だけを単独株主として扱うと、他の相続人との紛争につながります。

権利行使者の指定と通知を確認する

会社法第106条は、共有に属する株式について、原則として権利行使者を指定し会社へ通知することを求めています。株主総会の招集、議決権、配当等の場面で、会社が誰を相手にするかを明確にします。

定款と株券を確認する

定款では譲渡制限だけでなく、会社法第174条の相続人等に対する売渡しの請求の定め、種類株式等を確認します。株券発行会社であれば、株券の所在も確認してください。相続人等に対する売渡しの請求を含む株式集約の各手段は、本記事で全面展開せず、末尾の関連ページに整理しています。

相続発生から株主が確定するまでを時系列で整理する

死亡直後は、相続人の範囲と遺言の有無を先に確認する

会社が「長男が後継者だから長男が株主になったはず」と考えてはいけません。遺言の有無、法定相続人、遺産分割の状況によって株式の帰属は変わります。戸籍や法定相続情報一覧図等で相続人を確認し、遺言書がある場合は内容と有効性の確認を進めます。会社側は、家族内の口頭説明だけを根拠に株主名簿を書き換えないことが重要です。

遺産分割未了の間は、株主総会・配当等の実務も整理する

複数の相続人が株式を共同相続している段階では、会社法第106条の権利行使者の指定と通知が問題になります。株主総会の招集通知を誰に送るか、議決権を誰が行使するか、配当をどのように扱うかについて、株主名簿と会社への通知を確認します。相続人の一人だけを当然の株主として扱うと、後で総会決議や配当をめぐる争いにつながることがあります。

遺産分割後は、株主名簿と会社の連絡体制を更新する

遺産分割や遺言執行によって株式の帰属が確定した後は、必要な資料を確認したうえで株主名簿を更新し、招集通知・配当・会社情報の送付先を整理します。会社と関係の薄い相続人が株主となった場合でも、株主である以上は会社法上の権利が生じるため、連絡を断つのではなく、会社としての対応窓口を決めます。

二次相続まで考えると、株主数はさらに増える可能性があります

相続で配偶者と複数の子に株式が分かれ、そのまま長期間保有されると、次の相続で孫世代等へさらに分散することがあります。今は協力的な親族だけであっても、世代が変われば会社との関係や意向は変わります。相続直後の対応では、現在の株主だけでなく、数年後の株主構成まで見通して方針を決めることが重要です。

会社側の法的な立場

相続によって株式を取得した者を、関係が薄いという理由だけで排除できない

相続で株式を取得した方は、会社とそれまで接点がなかったとしても株主となり得ます。「会社に勤務していない」「経営を知らない」という理由だけで株主権を否定することはできません。株主名簿の名義書換等、会社に対する権利行使の要件は事案に応じて確認します。

遺産分割未了の株式は準共有となる

株式が共同相続された後、遺産分割が終わるまでの間は準共有となります。権利行使者の指定がない状況で会社が安易に一部相続人の議決権行使を認めると、決議の有効性等が争われることがあります。

相続人等に対する売渡しの請求を利用できる場合がある

定款に会社法第174条の定めがあれば、会社は一定の手続により、相続その他の一般承継で譲渡制限株式を取得した者へ売渡しを請求できる場合があります。株主総会決議、価格、財源等の要件があるため、条項があるだけで自動的に株式を回収できるわけではありません。

会社が相続を知った日から1年の期間を見落とさない

相続人等に対する売渡しの請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると行うことができません(会社法第176条第1項ただし書)。代表取締役や主要株主が死亡した場合には、会社が死亡を知った日が明確になりやすいため、初動で日付を記録してください。

合意による取得という選択肢もある

会社法第174条の手続を利用しない場合でも、相続人との合意によって会社、後継者、支配株主等が株式を取得する方法があります。誰を買主にするか、価格、資金、自己株式取得の手続、税務上の取扱いを整理します。

妻・子・兄弟姉妹・後妻・疎遠な親族へ株式が分散すると何が起こるか

会社に関与していない相続人も株主権を持つ

会社に勤務していない相続人であっても、株式を取得すれば株主として議決権や情報取得等の権利を有します。一定の持株割合を有する場合には株主総会招集請求や会計帳簿閲覧謄写請求等が問題となることもあります。

相続人間の不公平感が、会社への要求に変わることがある

後継者だけが役員報酬や会社の経済的利益を受けていると感じた非後継者が、配当、資料開示、株式買取り等を求めることがあります。会社は親族間の感情的な問題と、会社法上の株主権を区別して対応する必要があります。

二次相続でさらに株主が増える

現在は配偶者と子数名だけであっても、その株主が死亡すれば、その配偶者や子へ再び株式が承継されます。世代を重ねるほど会社との関係が薄い親族へ広がり、連絡先不明の株主が生じる可能性もあります。相続直後の段階で、次の相続まで見据えて整理することが重要です。

将来の第三者売却・譲渡承認請求につながる

相続人が株式を保有し続けた後、第三者へ売却しようとして株式譲渡承認請求を行う場合があります。会社が不承認とする場合には、会社又は指定買取人による買取りの手続へ進む可能性があります。相続後に放置せず、会社として将来どの株主構成を目指すかを決めておく必要があります。

会社として「残す株主」と「集約する株式」を区別して考える

相続で株主が増えたからといって、すべての相続人の株式を直ちに集約しなければならないわけではありません。会社経営に理解があり、長期保有を希望する親族株主との関係を維持する選択もあります。重要なのは、株主数が増えたこと自体ではなく、意思決定、情報提供、将来の譲渡、二次相続が会社運営にどのような影響を与えるかを評価することです。

任意取得を検討する場合は取得主体と資金を先に決める

会社が自己株式として取得するのか、後継者又は支配株主が個人で取得するのかによって、必要な手続、資金負担、将来の議決権割合が変わります。会社による取得では分配可能額等、個人による取得では取得資金と将来の相続を確認します。相続税評価額をそのまま任意売買価格とすることを前提にせず、評価目的を分けて検討します。

会社法第174条を検討する場合は、定款と期間を最初に確認する

相続人等に対する売渡しの請求は、定款の定めが必要で、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内という期間制限があります。例えば会社が2026年9月1日に相続による取得を知ったと評価される場合、2027年9月1日を過ぎる前に行使の可否を検討することが問題になります。正確な起算点と期間計算は個別に確認し、訃報・通知・メール・議事録等を保存してください。

会社が検討できる選択肢

選択肢 向いている場面 主な留意点
現状を維持する 相続人と関係が良好で株主分散を許容できる 二次相続、招集通知、将来の譲渡
会社法第174条を検討する 定款に条項があり期間内 株主総会決議、価格、財源、相手方議決権
会社が任意に自己株式取得 相続人が換価を希望し会社に財源がある 手続、分配可能額、会社資金
後継者・支配株主が任意取得 後継者へ議決権を集中したい 個人資金、価格、税務
遺産分割段階で後継者へ集中 相続人間で協議可能 株式評価、代償金、遺留分等

相続人との連絡は「株主としての対応」と「家族間の相続協議」を分ける

会社が同族会社である場合、会社側の担当者と相続人が親族であることも多く、会社としての通知と家族間の相続協議が混ざりやすくなります。会社が確認すべきなのは、株主名簿、権利行使者、株主総会、配当、譲渡承認等の会社法上の事項です。遺産全体の分け方や遺留分等は相続人間の問題として分けて扱います。

相続人から「会社が株式を買い取るなら遺産分割に応じる」などの提案があった場合も、会社の資金・機関決定と相続人間の合意を一つの口頭約束で処理しないことが重要です。誰が何を約束するのか、会社の意思決定が必要かを整理します。

相続直後にしてはいけない対応

  • 遺産分割未了なのに相続人の一人を当然の単独株主として扱う
  • 会社に勤務していないことを理由に相続人の株主権を無視する
  • 定款を確認せず会社法第174条を使えると思い込む
  • 会社が相続を知った日を記録せず、1年の期間を放置する
  • 相続税評価額だけを根拠に低額の買取価格を提示する
  • 親族間の遺産分割交渉と会社としての株主対応を混同する
  • 株主名簿や連絡先を更新せず次の株主総会まで放置する

相続後の株主分散が会社運営へ与える影響を具体的に確認する

株主総会の運営負担が増える

株主が増えれば、招集通知、議決権行使、委任状、配当、住所変更等の株主管理が増えます。特に親族間で対立がある場合は、総会手続の瑕疵が別の紛争の入口になり得るため、同族会社だからという理由で手続を省略しないことが重要です。

会社情報の請求や株主権行使への対応が必要になる

会社経営に関与していない相続人であっても、保有割合や要件に応じて会社法上の株主権を行使することがあります。会社は「経営に関係ないから資料を見せない」と感情的に対応せず、請求の根拠と要件を確認して対応します。

将来の第三者譲渡を想定して譲渡制限手続を点検する

相続人が長期間株式を保有する意思がない場合、第三者への譲渡を検討することがあります。会社は定款の譲渡制限、承認機関、社内手続を平時から確認し、実際に株式譲渡承認請求が来たときに慌てないようにします。具体的な不承認手続や価格決定の詳細は専門記事で扱います。

平時から行うべき相続対策

株主名簿と連絡先を定期的に更新する

株主が高齢化している会社では、相続は突然発生します。株主名簿、住所、保有株式数、株券の所在等を定期的に確認しておくことが、初動を早くします。

会社法第174条の定款条項を置くかを検討する

相続人等に対する売渡しの請求は有用な場合がありますが、どの会社にも一律に適する制度ではありません。後継者自身が相続人となる場面、会社の財源、株主構成等を踏まえ、平時に定款設計を検討します。

株式集約の目標を決める

後継者にどの程度の議決権を集中させるのか、少数株主をどの程度残すのかを事前に決めておくと、相続発生時の判断が速くなります。

相談時に準備するとよい資料

  • 定款、登記事項証明書
  • 株主名簿、株券・株券台帳
  • 死亡した株主の保有株式数が分かる資料
  • 戸籍、遺言書、遺産分割協議書等の相続資料
  • 直近3期程度の計算書類
  • 株主総会・取締役会の議事録
  • 会社が死亡・相続を知った時期が分かる資料
  • 過去の株式売買・自己株式取得に関する資料

相続人の属性ではなく「株主としてどの権利を持つか」で対応する

同族会社では、「会社に来たこともない配偶者だから」「兄弟とは疎遠だから」といった家族関係を理由に、相続人を株主として扱うことへ抵抗感を持つことがあります。しかし、株式の帰属が確定して株主となった以上、会社との親密さと株主権は別問題です。会社は感情的な評価ではなく、保有株式数、議決権、会社法上の要件に従って対応します。

招集通知・議決権・配当の取扱いを統一する

相続後の株主が増えた場合、株主総会招集通知の送付先、委任状の受付、議決権数、配当金の支払先を社内で統一します。遺産分割未了の株式と帰属確定後の株式を混同せず、株主名簿と通知資料を突き合わせます。会社の都合で特定の親族だけへ通知しないと、総会手続をめぐる別の争いにつながることがあります。

情報請求は請求者の資格と対象資料を確認する

相続人が株主となると、会社の経営状況を知りたいとして資料を求めることがあります。すべての資料を無条件に開示することも、家族だからという理由で一切拒否することも適切ではありません。請求者の株主としての地位、保有割合、求める資料、法的根拠を確認し、会社の営業秘密や個人情報にも配慮して対応します。

株式を集約するかどうかは「今すぐ困っているか」だけで決めない

相続直後は、相続人が会社に協力的で、株主総会も問題なく進むことがあります。しかし、数年後に相続人本人の資金需要が生じたり、その相続人が亡くれて次世代へ株式が移ったりすると、会社との関係が変わることがあります。現在の関係が良好だから何もしない、逆に将来が不安だから全株式を急いで買う、という二択ではなく、株主数、議決権、次の相続、会社資金を踏まえて方針を決めます。

会社として株式集約を目指す場合でも、任意取得、後継者による取得、相続人等に対する売渡しの請求等は要件・資金・期間が異なります。本記事では相続直後の会社側初動を中心とし、個別手段の詳細は会社側株式集約の専門記事へ分岐します。

相続後の会社運営を年間予定に沿って点検する

相続が起きた時期によって、会社側が急いで整理すべき事項は異なります。定時株主総会の直前であれば招集通知と議決権行使、配当基準日の前後であれば配当の受領者、組織再編や自己株式取得を予定している場合は反対株主・価格手続等が問題となる可能性があります。相続対応を家族内の遺産分割だけに任せず、会社の年間予定と重ねて確認します。

定時株主総会が近い場合

株主名簿上の名義、準共有株式の権利行使者、招集通知の送付先を早期に確認します。誰が議決権を行使するか決まっていない状態で総会日を迎えると、親族間の争いが会社の決議手続へ持ち込まれることがあります。会社は特定の相続人に肩入れせず、会社法と定款に従って手続を整えます。

配当・自己株式取得等を予定している場合

配当や株式取得を予定しているときは、誰が株主であるか、誰へ支払うか、どの株式を対象とするかを確認します。相続人からの換価要請がある場合でも、会社が行う配当・自己株式取得と相続人間の遺産分割を混同しないことが重要です。

組織再編・会社売却を予定している場合

M&Aや組織再編を進める会社では、株主が増えたことが承認手続や株式買取請求等へ影響することがあります。相続で新たに株主となった者を無視して手続を進めず、現在の株主構成を確定してからスケジュールを組みます。M&A契約の詳細はM&A専門系列で扱います。

準共有の状態にある株式について会社が採るべき取扱い

相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属し(民法第898条第1項)、株式のように所有権以外の財産権を数人で有する場合には共有の規定が準用されます(民法第264条)。この状態にある株式は、共有者が権利を行使する者一人を定めて会社へ通知しなければ、権利を行使することができません(会社法第106条本文)。会社が受け取るべき書面は、権利行使者を指定した旨の共同相続人の全員の記名押印のある書面、各人の印鑑登録証明書、及び被相続人の出生から死亡までの戸籍又は法定相続情報一覧図です。相続人の一人からの電子メールのみを根拠に処理してはなりません。

会社法第106条ただし書は、会社が同意した場合には権利の行使を認めています。対立のある事案で一方にのみ同意を与えますと、決議の方法が争われる原因となります。会社から共有者にする通知又は催告は、これを受領する者一人を定めて通知することが求められ(会社法第126条第3項)、その通知がないときは共有者のうちの一人にすれば足ります(同条第4項)。もっとも、招集の手続の瑕疵を主張されることを避けるため、受領者の通知が到達するまでは、判明している相続人の全員へ発送する取扱いが確実です。

株主名簿の書換えは、書面を確認してから行います。相続による権利の承継は、相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません(民法第899条の2第1項)。確認すべきは、公正証書による遺言の正本、検認を経た自筆証書による遺言、相続人の全員の署名押印及び印鑑登録証明書のある遺産分割協議書、又は調書若しくは審判書及び確定証明書です。写しのみを根拠に名簿を書き換えますと、後に議決権の帰属を争われます。

相続人等に対する売渡しの請求が招く逆転の危険

定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合(会社法第174条)、会社は、請求をしようとするその都度、株主総会の決議によって、請求をする株式の数と、その株式を有する者の氏名又は名称を定めなければなりません(会社法第175条第1項)。この決議は特別決議によります(会社法第309条第2項第3号)。そのうえで会社が売渡しを請求するという二段の構造ですから(会社法第176条第1項)、決議と請求との双方を、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に終える必要があります。

見落としてはならないのは、売渡しの請求の相手方となる株主は、その株主総会において議決権を行使することができないという点です(会社法第175条第2項)。先代経営者から株式を承継した後継者自身が相続人である場合、後継者を相手方とする議案が上程されますと、後継者は自らの株式について議決権を行使することができず、残る少数株主のみによって特別決議が成立し得ます。会社を守るために置いた定款の条項が、後継者の地位を失わせる方向に働くことになります。

決議が成立しても完結しません。売買価格は会社と相手方との協議によって定めるものとされ(会社法第177条第1項)、協議が調わないときは、請求があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(同条第2項)。さらに、この買取りによって株主に交付する金銭の額は、分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第5号)。定款にこの条項を置いている会社では、後継者が相続することとなる株式を対象から除く設計とするかどうかを、相続の発生前に決めておく必要があります。

いま確認していただきたいこと

  • 亡くなった株主の保有株数、種類株式の有無、株主名簿上の住所を確認してください。
  • 相続人、遺言、遺産分割の状況と、準共有株式の権利行使者の指定・通知を確認してください。
  • 定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるか、会社が相続を知った日がいつかを確認してください。
  • 会社が株式取得を検討する場合は、分配可能額、資金繰り、後継者の取得資金を確認してください。
  • 次回株主総会・配当・組織再編等の日程が迫っていないか確認してください。

よくある御質問

譲渡制限株式なら、相続人を株主にしないことができますか。

相続は通常の株式譲渡とは異なるため、譲渡制限の定めだけで相続による承継を止めることはできません。

遺産分割が終わっていない間、誰が議決権を行使しますか。

準共有株式については、会社法第106条の権利行使者の指定・通知が問題になります。会社が同意する場合の扱いを含め、個別に確認します。

会社法第174条の売渡しの請求をすれば必ず株式を回収できますか。

定款、期間、株主総会決議、価格、財源等の要件があります。自動的に回収できる制度ではありません。

年を過ぎた場合は何もできませんか。

会社法第174条の手続は利用できなくなる可能性がありますが、任意の株式売買その他の方法を検討できることがあります。

会社に関係のない相続人でも株主権を持ちますか。

株式を取得して株主となった以上、会社との人的関係が薄いだけで株主権が失われることはありません。

会社が相続人から買う場合、相続税評価額でよいですか。

相続税評価額と任意売買価格は同一ではありません。評価目的に応じて検討します。

相続人が第三者へ売りたいと言っています。

譲渡制限株式であれば、株式譲渡承認請求への対応が問題になります。不承認とする場合の買取手続まで見据えて判断します。

相続発生前にできる対策はありますか。

株主名簿の整備、定款の確認、後継者への株式集約、遺言・生前の株式移転等を検討できます。税務上の取扱いは税理士に確認します。

まとめ

相続で少数株主が増えた場合、会社は「相続人が誰か」だけでなく、遺産分割、準共有、権利行使者、定款、会社法第174条の1年の期間、会社の買取資金まで同時に確認する必要があります。

妻・子・兄弟姉妹・再婚相手側の家族等へ株式が広がると、その後の二次相続でさらに株主が増えることがあります。相続直後の整理を先送りせず、将来の譲渡・株式買取要求まで含めて会社の株主政策を決めておくことが重要です。

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相続人の範囲、遺産分割、準共有、定款、会社法第174条の期間、会社の取得資金を確認し、株主分散を放置するか整理するかを検討します。

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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

出典・参考法令

  • 会社法第106条(共有に属する株式の権利行使)
  • 会社法第174条から第177条(相続人等に対する売渡しの請求)
  • 会社法第156条以下・第461条(自己株式取得・分配可能額)
  • 民法第896条以下・第898条以下(相続及び遺産共有)
  • 定款、株主名簿、遺言書、遺産分割資料、株主総会関係資料及び相続を知った時期が分かる記録

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