相続で少数株主が増えた会社がすべきこと

株主であった方が亡くなり、その相続人が複数名で株式を共同相続することになったが、会社としてどのように対応すればよいのかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、相続人の範囲が確定しているか、遺産分割が完了しているかによって、株主としての権利を行使できる者が誰であるかが変わってくるという点です。この確認を怠ると、権利者でない者からの請求に応じてしまう危険があります。

以下では、相続人の範囲及び遺産分割の状況ごとに、会社が確認すべき事項を御説明します。

6 株券の有無 定款、株券の所在
7 権利行使者の指定と通知の有無 会社への通知の記録
8 定款における売渡請求に関する定め 定款
9 今後の株主総会の予定 会社の日程

 相続人の範囲を確認します

会社としては、相続人が誰であるかを確認する必要があります。相続人からの連絡だけによらず、戸籍等による確認を求めることが望まれます。

相続人の範囲が確定していない場合、株主としての権利の行使に支障が生じます。

 遺産分割の状況を確認します

遺産分割が完了し、株式を取得する者が確定しているかどうかによって、会社の対応が異なります。

表2 遺産分割の状況による違い

状況 株式の状態 会社の対応
遺言により取得者が定まっている 当該相続人が取得します 名義書換の手続を確認します
遺産分割が完了している 取得した相続人の単独の所有です 名義書換の手続を確認します
遺産分割が未了である 相続人の共有の状態です 権利行使者の指定と通知の有無を確認します
遺産分割について争いがある 共有の状態が続きます 議決権の行使の取扱いを検討します

 権利行使者の指定と通知を確認します

株式が複数の相続人の共有に属する場合、権利を行使する者を1人定め、会社に通知することが求められます。この指定と通知がされていない場合、原則として権利を行使することができません。

会社としては、この通知を受けているかどうかを記録により確認してください。この点については、相続人が確定するまでの議決権の取扱いに関する既存の記事において詳しく整理しております。

 定款の定めを確認します

相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し、会社が売渡しを請求することができる旨の定款の定めが置かれている場合があります。この制度には期間の定めがあります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

定めがない場合には、この制度を用いることができません。将来に備えて定款の変更を検討するかどうかは、別途の判断となります。

 株券の有無を確認します

株券を発行する旨の定款の定めがある会社においては、株券の所在が問題となります。相続の場面では、株券が見つからないという事態が生じやすくなります。この点については、株券に関する記事をご参照ください。

会社側の法的な立場

 会社は相続人を株主として扱うことになります

相続により株式を取得した者は、株主となります。会社が、その者との関係が薄いことを理由に株主として扱わないということはできません。

もっとも、株主名簿の名義書換がされるまでは、会社に対して株主であることを主張するための手続が問題となります。会社の側から相続人を株主として扱うことができるかどうかについては、事案に応じた検討を要します。

 共有の状態における取扱い

株式が共有に属する場合、権利行使者の指定と会社への通知がされるまでは、原則として権利を行使することができません。

ただし、会社が同意した場合の取扱いについては、別途の検討を要します。会社が安易に一部の相続人のみを株主として扱うと、他の相続人から問題とされることがあります。

 相続人等に対する売渡請求

定款に定めがある場合、会社は、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し、株式を会社に売り渡すことを請求することができます。この制度には、株主総会の決議、期間、財源に関する要件があります。

この制度は、相続を機に株式を集約する手段として有用です。もっとも、期間の定めがあり、また、当該相続人が議決権を行使することができない場面があるなど、手続上の論点があります。この制度については、既存の解説記事をご参照ください。

 合意による取得

売渡請求の制度によらず、相続人との合意によって株式を取得する方法があります。相続人が会社との関係が薄い場合、現金化を望むことも少なくありません。

この方法については、任意の買取りに関する記事をご参照ください。

会社側が検討し得る選択肢

表3 相続の発生後における会社側の選択肢

選択肢 内容 主な要件・制約
名義書換を行い、株主として扱う 相続人を株主として遇します 相続人が複数の場合は権利行使者の問題があります
合意により取得する 相続人との合意により会社又は支配株主が取得します 相続人の意向、資金
定款の定めに基づき売渡しを請求する 相続人等に対する売渡請求によります 定款の定め、期間、財源
遺産分割の帰趨を待つ 分割が完了するまで対応を留保します 期間の定めのある手続に注意します
何もしない 積極的な対応を行いません 分散が固定化します

 時期の判断が重要です

相続の発生から一定の期間が経過すると、用いることができない手段が生じます。また、相続人の側の意向も、時間の経過とともに変化します。

相続の発生を把握した段階で、方針を検討することが必要です。

 相続人の意向を把握します

相続人が株式の保有を望んでいるのか、現金化を望んでいるのかによって、採るべき手段が異なります。会社との関係が薄い相続人は、現金化を望むことが少なくありません。

もっとも、相続人が複数いる場合、それぞれの意向が異なることがあります。

 遺産分割が未了である場合

遺産分割が未了である場合、株式は共有の状態にあります。この状態が長く続くと、株主総会の運営に支障が生じます。

会社としては、権利行使者の指定と通知を求めることになります。もっとも、相続人間に争いがある場合、指定が行われないことがあります。

 他の株主との均衡

相続人から株式を取得する場合、その条件は、他の株主との関係でも意味を持ちます。同族会社においては、条件が他の株主に伝わることを前提とした検討が必要です。

してはいけない対応

表4 避けるべき対応

避けるべき対応 理由
相続の発生を把握しながら放置する 期間の定めのある手段を用いることができなくなります
一部の相続人のみを株主として扱う 他の相続人から問題とされます
相続人からの照会に回答しない 不信を招き、対立の原因となります
相続人に対して株主でないかのような説明をする 後日、説明の内容が問題とされます
権利行使者の通知がないまま議決権を行使させる 決議の方法の適法性が問題とされます
株主名簿を更新しない その後のすべての手続に影響します
遺産分割の内容に会社が関与する 会社の権限の外にあります

とりわけ、遺産分割は相続人間の問題であり、会社が関与すべき事項ではありません。会社が特定の相続人に加担していると受け取られると、新たな紛争を生じさせます。

案件として確認すべき事項

表5 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
被相続人 氏名、死亡の日、保有していた株式数
相続人 範囲、会社との関係、居住地
遺言 有無、内容
遺産分割 完了しているか、争いがあるか
通知 権利行使者の指定と通知の有無
株主名簿 現在の記載の状況
定款 譲渡制限、株券、売渡請求に関する定め
財務 直近3期分の計算書類、分配可能額の見当
他の株主 他の少数株主の状況、高齢の株主の有無
日程 次回の株主総会、その他の予定

弁護士に相談する意味

株主の相続は、会社にとって株主構成を整える数少ない機会です。相続人は被相続人と異なり、会社との関係が薄いことが多く、現金化を望むことも少なくありません。この段階で対応するかどうかが、その後の株主構成を左右します。

他方で、この機会には期限があります。定款の定めに基づく売渡請求には期間の定めがありますし、相続人の意向も時間の経過とともに変化します。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

また、遺産分割が未了である場合の取扱い、権利行使者の指定と通知、名義書換の手続については、いずれも会社法上の論点があります。処理を誤ると、株主総会の決議の効力に影響します。

さらに、この問題は1件の相続にとどまりません。高齢の株主が複数いる場合、同様の事態が繰り返されます。株主構成の全体を見据えた対応が必要です。

なお、相続人への働きかけの方法、条件の組立てについては、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 招集通知は誰に送ればよいですか。

遺産分割の状況、権利行使者の指定と通知の有無によって異なります。処理を誤ると決議の効力に影響しますので、事前にご相談ください。

質問2 相続人が複数いて、話がまとまらないようです。

権利行使者の指定と通知を求めることになります。指定がされない場合の取扱いについては、事案に応じた検討が必要です。

質問3 相続人と面識がありません。

会社としては、株主名簿の整備と、今後の連絡先の確認から始めることになります。

質問4 この機会に買い取りたいのですが。

合意による取得、定款の定めに基づく売渡請求のいずれについても検討の余地があります。期間の定めがありますので、早期にご相談ください。

質問5 定款に売渡請求の定めがありません。

その場合、この制度を用いることができません。将来に備えて定款の変更を検討するかどうかは、別途の判断となります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、被相続人及び相続人に関する戸籍等、遺産分割に関する資料、直近3期分の計算書類、相続人とのやり取りが分かる資料をご持参ください。

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