元役員が株式を持ったまま退任した場合の会社側対応

在任中に自社株式を取得した役員が退任することになったが、株式を保有したまま退任されると、退任後も株主として会社に関わり続けることになるのではないかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。
この場面で問題となるのは、在任中の株式取得の際に、退任時に会社又は指定する者へ譲渡する旨の合意がされていたかどうかによって、会社が採り得る対応が大きく異なってくるという点です。
以下では、取得の際の合意の有無を確認する方法、及び退任の経緯ごとに検討すべき事項を御説明します。
| 6 | 退任後の活動 | 競業する事業への関与の有無 |
|---|---|---|
| 7 | 現在の関係 | 連絡の有無、対立の程度 |
| 8 | 他の元役員株主の有無 | 株主名簿 |
取得の際の合意の有無を最初に確認してください
在任中に株式を取得した際、退任時に会社又は指定する者に譲渡する旨の合意がされている場合があります。契約書、覚書、就任の際の書面、社内の記録を確認してください。
このような合意がある場合、その内容と有効性を検討することになります。合意の内容が不明確である場合、価格の定めがない場合には、その解釈が問題となります。
退任の経緯を確認します
辞任であるか、任期満了であるか、解任であるかによって、相手方の心情と交渉の前提が異なります。解任その他の経緯に不満がある場合、株主としての権利行使が、その不満の表れとして行われることがあります。
保有している割合を確認します
保有する議決権の割合によって、行使することができる権利が異なります。会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会の招集の請求、株主提案といった権利には、持株比率の要件があるものがあります。
定款の定めを確認します
取得条項付株式に関する定め、譲渡制限の定めを確認してください。将来に備えた定款の整備を検討する場合の前提ともなります。
退任後の活動を確認します
退任した役員が競業する事業に関与している場合、会計帳簿閲覧謄写請求に対する対応において、拒絶事由の有無が問題となり得ます。この点については、競業関係にある株主からの請求に関する記事をご参照ください。
会社側の法的な立場
役員の地位と株主の地位は別です
取締役、監査役といった役員の地位は、株主総会の決議によって選任され、退任によって終了します。これに対し、株主の地位は、株式の保有によって生じます。
両者は根拠が異なりますので、役員を退任したことによって株主でなくなるということはありません。
表2 役員の地位と株主の地位の違い
| 観点 | 役員の地位 | 株主の地位 |
|---|---|---|
| 発生の原因 | 株主総会の決議と就任の承諾 | 株式の取得 |
| 終了の原因 | 辞任、任期満了、解任、資格の喪失 | 株式の譲渡、会社による取得等 |
| 会社に対する義務 | 善管注意義務等を負います | 原則として負いません |
| 退任による影響 | 地位を失います | 影響を受けません |
会社は返還を求めることができません
株式を返還する旨の合意、定款における取得条項の定めその他の根拠がない限り、会社が一方的に株式の返還を求めることはできません。
「在職中に会社が便宜を図って取得させたものである」という事情があっても、それだけでは返還の根拠となりません。
在任中の情報についての取扱い
退任した役員は、在任中に会社の内部情報に接しています。もっとも、退任後は役員としての地位に基づく情報の取得はできません。株主としての権利の範囲で情報を求めることになります。
会社としては、株主としての請求に対しては株主に対する対応を行い、元役員であることを理由に範囲を拡げることも狭めることもしないという整理が必要です。
在任中の行為についての責任
退任した役員の在任中の行為について責任が問題となる場合があります。これは株主としての地位とは別の問題です。両者を混同して交渉に持ち込むことは、適切ではありません。
会社側が検討し得る選択肢
表3 元役員株主への対応の選択肢
| 選択肢 | 内容 | 主な要件・制約 |
|---|---|---|
| 合意により取得する | 会社又は支配株主が合意により取得します | 相手方の意向、対価、資金 |
| 合意の内容に基づき請求する | 取得の際の合意がある場合に、これに基づき請求します | 合意の存在と内容 |
| 定款の定めを活用する | 取得条項等の定めがある場合に活用します | 定款の定め |
| 法律上の手続により整理する | 株式の併合その他の手法によります | 議決権の割合その他の要件 |
| 株主として残ることを前提に対応する | 権利行使に対して制度に従って対応します | 継続的な負担 |
合意による取得を最初に検討します
最も基本的な選択です。退任から時間が経過するほど、相手方の意向が固まり、また会社との関係が疎遠になります。退任の直後、あるいは関係が悪化する前の段階での協議が、最も進みやすい局面です。
対価の水準については、算定の根拠を整えたうえで検討することになります。この点については、株価の算定に関する記事をご参照ください。
取得の際の合意がある場合
退任時に譲渡する旨の合意がある場合、その内容に基づく請求を検討することになります。もっとも、価格の定めがない場合、定めがあってもその内容が問題となる場合には、そのまま請求できるとは限りません。
合意の有効性と内容については、事案ごとの検討を要します。
法律上の手続による整理
合意に至らない場合、法律上定められた手続によって整理することを検討します。要件があり、対価の額について裁判所の判断を求める手続も用意されていますので、準備が必要です。この点については、少数株主の排除に関する各記事をご参照ください。
株主として残ることを前提とする対応
株式を取得しない場合、株主としての権利行使に対して、制度に従って対応することになります。会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会における議決権の行使、株主提案といった権利行使が想定されます。
この場合、対応の負担が継続することを前提とした体制の整備が必要です。
してはいけない対応
表4 避けるべき対応
| 避けるべき対応 | 理由 |
|---|---|
| 退任したのだから株主でないという扱いをする | 株主としての権利は失われていません |
| 招集通知を送らない | 招集手続の適法性が問題となります |
| 在任中の責任の追及と株式の返還を結び付けて交渉する | 別の問題であり、新たな紛争を生じさせます |
| 退職金の支払と株式の譲渡を事実上の条件とする | 後日問題とされる余地があります |
| 元役員であることを理由に情報の提供の範囲を狭める | 株主としての権利の行使を妨げたと評価され得ます |
| 元役員であることを理由に範囲を拡げる | 他の株主との均衡を欠くことになります |
| 退任の際に何も取り決めない | 将来の対応が困難になります |
とりわけ注意を要するのは、在任中の責任の追及と株式の返還を結び付けることです。両者は別の問題であり、これを交渉の材料とすることは、新たな紛争の原因となります。
案件として確認すべき事項
表5 ご相談の際に整理していただく事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 氏名、在任期間、役職、退任の時期と経緯 |
| 株式 | 取得の時期、経緯、数、割合 |
| 合意 | 取得の際の書面、退任の際の書面 |
| 定款 | 譲渡制限、種類株式、取得条項に関する定め |
| 現状 | 連絡の有無、権利行使の有無、対立の程度 |
| 退任後の活動 | 競業する事業への関与の有無 |
| 他の元役員 | 同様の立場の株主の有無 |
| 財務 | 直近3期分の計算書類 |
| 資金 | 取得に充てることができる資金 |
弁護士に相談する意味
元役員株主の問題は、退任の直後に対応するのと、数年が経過してから対応するのとで、難易度が大きく異なります。時間の経過とともに、相手方の意向が固まり、会社との関係が疎遠になり、また相続の発生により対象が増えます。
したがって、退任が予定されている段階、あるいは退任の直後の段階でご相談をいただくことが、最も効果的です。
また、この問題は、当該1名にとどまりません。同様の立場の元役員が複数いる場合、また将来同様の事態が生じる場合に備えて、株式の保有と役員の地位の関係を、制度として整えておく必要があります。
さらに、在任中の責任の問題、退職金の問題が並行して存在する場合、これらを混同しないよう整理する必要があります。混同した交渉は、いずれの問題の解決も遠ざけます。
なお、協議の進め方、条件の組立てについては、退任の経緯、相手方の状況により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 退任したのだから、株式は返してもらえるのではありませんか。
返還する旨の合意、定款の定めその他の根拠がない限り、会社が一方的に返還を求めることはできません。
質問2 在職中に会社が便宜を図って取得させたものです。
その事情だけでは返還の根拠となりません。当時の書面の有無を確認したうえでご相談ください。
質問3 退職金と引換えに譲渡してもらうことはできますか。
事実上の条件とすることには問題があります。それぞれ別の事項として整理したうえで、条件を検討することになります。
質問4 元役員が競業する会社に移りました。会計帳簿を見せる必要がありますか。
拒絶事由の有無が問題となります。競業関係にある株主からの請求に関する記事をご参照のうえ、ご相談ください。
質問5 今後の役員に同じことが起きないようにしたいのですが。
株式の保有と役員の地位の関係について、定款及び契約の両面から整えることが考えられます。ご相談ください。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、当該元役員の株式取得に関する書面、退任に関する書面、直近3期分の計算書類、退任後のやり取りが分かる資料をご持参ください。
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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