株券発行会社で株券が見つからない場合の株主整理

現在の制度においては、株券を発行しないことが原則とされています。株券を発行する会社は、定款にその旨の定めを置いている会社に限られます。

もっとも、古い会社においては、制度が改められる前の定款の定めがそのまま残っていることがあります。この場合、会社は株券を発行する会社として扱われます。

 定款の定めがあるのに株券を発行していない場合

定款に株券を発行する旨の定めがあるにもかかわらず、実際には株券を発行していないという状態は、実務上しばしば見られます。

この場合、株式の譲渡の効力について問題が生じます。株券の交付を要するとされている以上、株券が存在しなければ、交付をすることができないためです。

もっとも、株券を発行していない会社について、株券の交付なしに譲渡の効力が生じる場合があるとする議論があります。この点の取扱いは、事案の内容によって異なり得ます。

 会社側から見た意味

株主の整理を進めるうえで、この問題は次のような形で現れます。

株式を取得しようとしても、株券の交付を受けることができません。過去に行われた株式の移転の効力が不明確となります。株主名簿の記載が正確であるかを確認することが困難となります。M&Aにおいて、株式の移転の適法性について表明することができません。

したがって、この問題は、株主の整理に着手する前に解決しておくべき事項です。

要件と論点

 まず確認すべき事項

表2 株券に関する確認事項

番号 確認事項 確認の方法
1 定款に株券を発行する旨の定めがあるか 現在の定款
2 登記に株券を発行する旨の記載があるか 登記事項証明書
3 実際に株券を発行したことがあるか 設立時の資料、増資の資料、社内の記録
4 株券の用紙、控え、番号の記録があるか 社内の保管資料
5 株主が株券を保有しているか 株主への確認
6 過去の株式の移転の際に株券が交付されたか 譲渡に関する資料
7 株主名簿の記載が更新されているか 株主名簿

定款の定めと登記の記載が一致しているか、実際の運用と定款の定めが一致しているかを確認してください。

 株券を発行する場合

株券を発行するという対応があります。株主から請求があった場合には、会社は株券を発行することになります。

もっとも、株主の数が多い場合、所在が分からない株主がいる場合には、発行の作業自体が負担となります。また、発行した後に紛失されるという事態も生じ得ます。

 株券を発行しない旨に定款を変更する場合

株券を発行する旨の定めを廃止する定款の変更を行うという対応があります。株主の整理を進めるうえでは、この方法が用いられることが多くなります。

定款の変更には株主総会の決議を要します。また、変更にあたっては、株主に対する通知又は公告といった手続が必要となる場合があります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

表3 定款を変更する場合の検討事項

検討事項 内容
決議 株主総会の決議の要件を満たすか
通知又は公告 必要となる手続と期間
既発行の株券の取扱い 発行済みの株券がある場合の処理
登記 変更の登記
効力が生じる時期 手続の完了との関係

対立している株主がいる場合、定款の変更の決議が成立するかどうかが問題となります。この点を先に確認してください。

 株券を発行していない場合の株式の移転

定款の定めがあるものの実際には株券を発行していない場合において、株式の移転をどのように行うかについては、事案に応じた検討を要します。

会社としては、当事者間の合意の内容、会社に対する通知、株主名簿の記載の請求といった一連の手続を記録として整えることになります。

もっとも、この方法による場合、後日、移転の効力が争われる余地が残ります。M&Aを控えている場合など、高い明確さが求められる場面では、定款の変更を先行させることが望まれます。

 株券を発行したが所在が分からない場合

過去に株券を発行しており、その所在が分からないという場合、株券を無効とするための手続が制度として設けられています。この手続には期間を要します。

会社側としては、この手続に要する期間を、全体の日程に織り込む必要があります。

 相続の場面

株主に相続が発生した場合、株券の所在が分からないという事態が生じやすくなります。相続人が株券の存在を知らない、遺品の中から見つからないという場合です。

この場合、まず定款の定めと発行の有無を確認したうえで、対応を検討することになります。

会社側の実務

表4 株券の問題を解決するための手順

順序 行うこと
第1 定款と登記における株券に関する記載を確認します
第2 実際に株券を発行したことがあるかを確認します
第3 発行の記録、番号、控えの有無を確認します
第4 株主に対して株券の保有の状況を確認します
第5 対応の方針を決めます
第6 定款の変更による場合、決議の成否と手続を確認します
第7 株主総会を招集し、決議を行います
第8 必要な通知又は公告を行い、登記の手続を行います
第9 株主名簿を整備します

 定款と実態の一致を確認します

定款の定めと実際の運用が一致していない状態は、株主の整理を進めるうえでの障害となります。まずこの点を確認してください。

 株主への確認の方法を検討します

株主に対して株券の保有の状況を確認する場合、その方法と内容について検討が必要です。確認を機に、株式の買取りを求められる、権利を行使されるという展開があり得ます。

 定款の変更を先に行うことを検討します

株主の整理を予定している場合、定款の変更を先行させることによって、その後の手続が簡潔になります。決議の成否を確認したうえで検討してください。

 記録を残します

株券の発行の有無に関する調査の結果、株主への確認の内容、定款の変更の手続については、記録として残してください。

 株主名簿の整備と併せて進めます

株券の問題と株主名簿の問題は、多くの場合、同時に存在します。併せて整備することが効率的です。

関連する手続

株主名簿の整備については、株主名簿が古い会社の対応に関する記事をご参照ください。

所在の分からない株主については、所在不明株主に関する既存の記事をご参照ください。

株主権の帰属が問題となる場合については、株主権の帰属に関する既存の記事をご参照ください。

株式の取得の方法については、任意の買取りに関する記事をご参照ください。

弁護士に相談する意味

株券の問題は、株主の整理に着手して初めて顕在化することが多い事項です。株式を買い取ることになった段階、M&Aの交渉が始まった段階で問題が明らかになると、日程に影響します。

したがって、株主の整理を検討する段階で、あらかじめ確認しておくべき事項です。

また、定款の変更による対応を選ぶ場合、株主総会の決議が必要となります。対立している株主がいる場合、決議の成否が問題となりますので、対立が顕在化する前に行うことが望まれます。

さらに、株券を発行していない状態で行われた過去の株式の移転の効力については、法律上の判断を要します。この判断を誤ると、株主名簿の記載が不正確となり、その後のすべての手続に影響します。

なお、株主への確認の方法、手続の順序については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 株券を発行した記憶がありません。定款には定めがあります。

定款の定めが残っている場合、会社は株券を発行する会社として扱われます。定款の変更を含めて対応を検討することになります。

質問2 定款を変更すれば解決しますか。

多くの場合、その後の手続が簡潔になります。もっとも、株主総会の決議が必要であり、通知又は公告といった手続を要する場合があります。

質問3 株主が株券を紛失したと言っています。

過去に発行された株券である場合、無効とするための手続が制度として設けられています。期間を要しますので、早期の確認が必要です。

質問4 株券がないまま株式を買い取ってよいですか。

移転の効力について問題が残る可能性があります。事案の内容を確認したうえでご相談ください。

質問5 M&Aを控えています。急いだ方がよいですか。

株式の移転の適法性について表明することが求められます。早期の解決が望まれます。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、株券の用紙又は控えがある場合はその写し、設立及び増資に関する資料、過去の株式の移転に関する資料をご持参ください。

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