相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の流れ!

相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の流れ!

この記事の位置付け

相続人に対する株式売渡請求の流れに関するメインのページです。本ページは、発行会社の側から、定款の定めと一年の期間の制限を踏まえた進行をご説明します。制度の内容と条件は別のページをご参照ください。

▶ 相続で少数株主が増えた会社がすべきこと

同じ主題を扱う関連ページ

株主の一人が亡くなり、相続人が株式を承継した。定款に売渡しの請求の定めがあるかどうかも確認しないまま、数か月が過ぎてしまった。

本記事は、相続人に対する株式の売渡しの請求を検討している会社の経営者の方に向けたものです。相続を契機に支配権を失う危険を先に確認したい方は、相続クーデターに備えて弁護士に依頼するとき 定款の売渡しの請求が会社を奪う仕組みと防ぎ方をご覧ください。

この請求は、定款に定めがある場合に限り、会社が相続等を知った日から1年以内に行うことができ、分配可能額による制限を受けます。価格は協議で定め、調わなければ20日以内に裁判所へ申し立てます。支配株主の相続では、相続クーデターの危険も併せて検討が必要です。以下、順にご説明します。

Contents
  1. 分配可能額による制限(財源規制)
  2. 制度を用いる前に確認すべき事項
  3. 定款の定めがなければ、この制度は使えません
    1. 会社法第174条の定めの内容
    2. 定款の変更には特別決議が必要です
    3. 相続が生じた後に定款を変更する場合
  4. 1年という期間の制限を見落としてはなりません
    1. 起算点は相続の発生の日ではありません
    2. 1年の間に済ませなければならない作業
  5. 相続クーデターの危険を必ず併せて検討いたします
    1. 会社法第175条第2項の議決権の排除
    2. 支配株主の相続において何が起きるか
    3. 回避のために採り得る方策
  6. 売買価格の決定と、20日の期間
    1. まず協議によります
    2. 協議が調わないときは20日以内に裁判所へ申し立てます
    3. 会社の側から申し立てることもできます
  7. 請求の撤回という安全弁
    1. 会社法第176条第3項の撤回
    2. 撤回を前提とした交渉の組み立て
  8. よくあるご質問
    1. 遺産分割が未了でも請求することができますか
    2. 相続人が複数いる場合はどのように定めますか
    3. 相続人が買取りを拒んだ場合はどうなりますか
    4. 株式の評価はどのように行いますか
    5. 特別支配株主の株式等売渡請求とは何が違いますか
  9. まとめ
  10. 相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の方法
  11. 相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の実務上のポイント
  12. 相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の流れ(フロー)

分配可能額による制限(財源規制)

相続人等に対する売渡請求により会社が自己株式を取得する場合には、会社法上の財源規制が及びます。すなわち、取得の対価として交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項第5号)。

この点は実務上しばしば見落とされます。定款に売渡請求の定めを置き、株主総会の特別決議を経て請求を行ったとしても、分配可能額が不足していれば、その取得は実行できません。剰余金の額が乏しい会社、繰越欠損金を抱える会社においては、そもそも本制度を用いることができない場合があります。

また、裁判所が定めた売買価格が会社の想定を上回った場合には、当初は分配可能額の範囲内と見込んでいたにもかかわらず、これを超過する事態も生じ得ます。売渡請求を行う前に、直近の計算書類に基づいて分配可能額を算定し、想定される価格の幅と対照しておくことが必要です。

分配可能額を超えて取得した場合、業務執行者及び当該取得に関する職務を行った取締役は、会社に対し、交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負い得ます(会社法第462条第1項)。

制度を用いる前に確認すべき事項

第一に、定款に会社法第174条の定めがあるかどうかです。定めがない場合には、まず定款変更のための株主総会の特別決議を要しますが、相続の発生後に定款変更を行うことについては、当該相続人が議決権を行使できることとの関係で慎重な検討を要します。

第二に、相続その他の一般承継があったことを会社が知った日から1年という期間制限です(会社法第176条第1項ただし書)。この期間を経過すると請求はできません。

第三に、分配可能額です。前記のとおりです。

第四に、想定される売買価格です。協議が調わず裁判所が価格を決定する場合、その水準によっては会社の資金繰りに重大な影響を及ぼします。

定款の定めがなければ、この制度は使えません

相続人その他の一般承継人に対する売渡しの請求は、会社法第174条の定款の定めがあることを前提とする制度です。定款にこの定めがない会社は、相続が生じた後になって相続人に株式の売渡しを求める根拠を持ちません。まず、現に効力を有する定款を取り寄せ、この定めの有無を確認していただくことが出発点となります。

会社法第174条の定めの内容

株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます。この定めは、譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定めがある株式、すなわち譲渡制限株式についてのみ置くことができます。非上場の同族の会社の株式は通常この要件を満たしますので、定めを置くこと自体に障害はありません。

定款の変更には特別決議が必要です

この定めを新たに設けるためには定款の変更を要し、会社法第466条及び会社法第309条第2項第11号により株主総会の特別決議によることになります。すなわち、議決権の3分の2以上を確保できる状態でなければ、定めを置くこと自体ができません。株式が広く分散してしまった後に着手しようとしても、既に手遅れとなっている例が現にあります。株主構成が健全なうちに定款を整備しておくことが肝要です。

相続が生じた後に定款を変更する場合

相続が現に生じた後に定款を変更して売渡しの請求を行うことができるかについては、議論のあるところです。定款の変更それ自体は可能ですが、既に生じた相続について適用することの当否には慎重な検討を要します。相続の発生を認識してから急いで定款を変更するという進め方には危険が伴いますので、あらかじめ弁護士にご相談いただく必要があります。

1年という期間の制限を見落としてはなりません

この制度において最も多い失敗は、期間の徒過です。会社法第176条第1項但書により、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、売渡しの請求をすることができません。

起算点は相続の発生の日ではありません

起算点は、相続が生じた日ではなく、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日です。したがって、遠縁の株主に相続が生じ、会社がそれを知らないまま数年が経過した場合であっても、知った日から1年以内であれば請求をすることができます。逆に、会社が早期に相続の事実を把握していた場合には、その時点から1年の期間が進行いたします。誰がいつ相続の事実を知ったのかを社内で確認し、記録として残しておく必要があります。

1年の間に済ませなければならない作業

1年の間に、相続人の特定、株式の評価、株主総会の招集及び特別決議、そして請求の通知までを完了させる必要があります。相続人が複数にわたり、遺産分割が長期化している場合には、この1年は決して長い期間ではありません。相続の事実を把握した段階で、直ちに日程表を作成していただくことをお勧めいたします。

相続クーデターの危険を必ず併せて検討いたします

会社法第174条の定めは、会社にとって有益な道具である一方で、使い方を誤れば経営権そのものを失わせる刃ともなります。この点を理解しないまま定款に定めを置くことは、極めて危険です。

会社法第175条第2項の議決権の排除

売渡しの請求をしようとするときは、会社法第175条第1項により、その都度、株主総会の決議によって、売渡しの請求をする株式の数と、その株式を有する者の氏名又は名称とを定めなければなりません。この決議は会社法第309条第2項第3号の特別決議です。そして同条第2項により、売渡しの請求の相手方となる者は、当該株主総会において議決権を行使することができません。ただし、その者以外の株主の全部が議決権を行使することができない場合は、この限りではありません。

支配株主の相続において何が起きるか

この議決権の排除の規定は、支配株主に相続が生じた場面において、深刻な事態を招きます。仮に、株式の80%を保有していた創業者が死亡し、その相続人が株式を承継したとします。会社が相続人に対して売渡しの請求をしようとする場合、その相続人は議決権を行使することができません。すると、残る20%の株式を保有する少数株主のみで株主総会が構成され、その少数株主の議決権の3分の2以上の賛成によって、承継した80%の株式を会社に売り渡させる決議が成立してしまいます。これがいわゆる相続クーデターです。

回避のために採り得る方策

この危険を避けるためには、定款の定めを置く前に、支配株主の相続が生じた場合の想定を行っておく必要があります。具体的には、支配株主の保有する株式の一部を資産管理会社に移しておく、種類株式を活用して議決権の設計を変えておく、遺言によって承継の道筋を明確にしておくといった方策が考えられます。定款に第174条の定めを置くこと自体は有益ですが、それは支配株主の側の備えが整っていることを前提といたします。定めを置くかどうかの判断は、株主構成の全体を見たうえで行っていただく必要があります。

売買価格の決定と、20日の期間

売渡しの請求をしたとしても、価格が定まらなければ手続は完結いたしません。会社法第177条は、価格の決定について、極めて短い期間の定めを置いています。

まず協議によります

会社法第177条第1項により、株式の売買価格は、会社と相続人その他の一般承継人との協議によって定めます。協議が調えば、その価格によって売買が成立いたします。

協議が調わないときは20日以内に裁判所へ申し立てます

会社法第177条第2項により、会社又は請求を受けた者は、売渡しの請求があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます。そして同条第5項により、この20日の期間内に申立てがないとき、かつ協議も調わないときは、売渡しの請求はその効力を失います。すなわち、20日を徒過しますと、それまでの手続がすべて無に帰します。請求の通知を発した日を起算日として、直ちに日程を管理していただく必要があります。

会社の側から申し立てることもできます

この申立ては、相続人の側からのみならず、会社の側からもすることができます。相続人が協議に応じないまま時を稼ごうとする場面では、会社の側から積極的に申し立てることが有効です。相手方の対応を待っているうちに20日が経過してしまう例が現にありますので、協議の見込みが立たない場合には早期に申立ての準備に入っていただく必要があります。

請求の撤回という安全弁

売渡しの請求をした後になって、会社にとって不都合な事情が判明することがあります。会社法は、この場合に会社が引き返すことのできる道を用意しています。

会社法第176条第3項の撤回

会社は、いつでも、売渡しの請求を撤回することができます。裁判所における価格の決定の手続が進み、想定を大きく超える価格が示される見込みとなった場合には、撤回によって取得そのものを断念するという選択があり得ます。この撤回の自由は会社の側にのみ認められたものであり、実務の上では重要な安全弁として機能いたします。

撤回を前提とした交渉の組み立て

撤回することができるという構造は、価格の交渉においても意味を持ちます。相続人の側が過大な価格を主張する場合、会社としては、その価格では取得しないという選択が現に可能です。もっとも、撤回をすれば株式は相続人の手元に残りますので、株式の分散という当初の問題は解決されないまま残ります。撤回はあくまで最後の退避の手段であり、これを前提とした交渉の進め方には限界があることも申し添えます。

よくあるご質問

相続人に対する売渡しの請求について、会社の側から寄せられることの多いご質問と、その考え方を整理いたします。個別の事情により結論が変わり得るものが含まれますので、実際のご判断にあたっては個別にご相談ください。

遺産分割が未了でも請求することができますか

できます。相続により株式が相続人の準共有となっている段階であっても、相続その他の一般承継により株式を取得した者に当たりますので、請求の対象となります。むしろ、遺産分割が確定するのを待っているうちに1年の期間が経過してしまう危険がありますので、分割の完了を待つべきではありません。

相続人が複数いる場合はどのように定めますか

会社法第175条第1項第2号により、株主総会の決議において対象となる者の氏名又は名称を定めますので、複数の相続人のうち特定の者のみを対象とすることも、全員を対象とすることも可能です。もっとも、一部の相続人のみを対象とする場合には、その選別の理由が争われることがありますので、判断の理由を記録に残しておいていただく必要があります。

相続人が買取りを拒んだ場合はどうなりますか

売渡しの請求は形成権であり、相続人の承諾を要しません。請求により売買が成立し、価格のみが未定という状態となります。したがって、相続人が拒むことによって手続が止まることはありません。争いは価格の一点に集約されます。

株式の評価はどのように行いますか

非上場の株式には市場価格がありませんので、純資産の額を基礎とする方法、収益力を基礎とする方法、類似する会社の指標を用いる方法等により算定いたします。相続税の申告において用いられる財産評価基本通達による評価額と、裁判所が定める売買価格とは、必ずしも一致いたしません。相続税の評価額のみを根拠として交渉に臨むことは避けるべきものと考えます。

特別支配株主の株式等売渡請求とは何が違いますか

会社法第179条の特別支配株主の株式等売渡請求は、総株主の議決権の10分の9以上を有する株主が、他の株主の全部から株式を取得する制度であり、取得する主体は会社ではなく特別支配株主です。これに対し、相続人に対する売渡しの請求は、会社が自己株式として取得する制度であり、対象は相続その他の一般承継により株式を取得した者に限られます。要件も効果も別の制度ですので、混同しないよう注意を要します。

まとめ

相続人に対する株式の売渡しの請求は、株式の分散を未然に防ぐうえで極めて有効な制度です。もっとも、その効力を発揮させるためには、第1に会社法第174条の定款の定めが現に置かれていること、第2に相続を知った日から1年以内に株主総会の特別決議と請求の通知を完了させること、第3に請求の日から20日以内に価格の協議を調えるか裁判所に申し立てること、第4に分配可能額の範囲内で取得し得ることという4つの条件が、いずれも満たされる必要があります。

そして、この制度を導入する際には、会社法第175条第2項の議決権の排除に由来する相続クーデターの危険を必ず併せて検討しなければなりません。支配株主の側の備えが整わないまま定款に定めのみを置くことは、かえって経営権を失う契機を作ることになります。

相続が生じた、あるいは相続に備えて定款を整備したいという段階であれば、まだ十分に打つ手があります。現に効力を有する定款、株主名簿、直近の計算書類、及び相続の状況が分かる資料をお手元にご用意のうえ、ご相談いただければと存じます。

相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の方法

株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができ(会社法第174条)、株式会社はこれに基づき、当該株主に対して、株式売渡請求権(スクイーズアウト)を行使することができます。

⇒少数株主の排除(スクイーズアウト)の方法を見る!

相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の実務上のポイント

なお、相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の流れ(フロー)において、特に注意すべき実務上のポイントは、以下のとおりです。

① 株式会社は、相続を知ったときから1年間しか、株式売渡請求権(スクイーズアウト)を行使することができません。
② 相続人は株式売買価格の決定を裁判所に申し立てることができ、その場合、会社は支配株主価格での株式の買取が必要になるものと思われ、株式買取価格が高くなる可能性があります。

相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使の流れ(フロー)

相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の流れ(フロー)は、以下のとおりです。

1【会社法第175条・176条】
株式売渡請求は、株主総会の決議に基づき、相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使をしなければならない。
なお、当該相続人は、この株主総会において議決権を行使することができない。
ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない。

 

2【会社法第177条】
相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使があった場合には、株式の売買価格は、株式会社と相続人との協議によって定める。

 

3【会社法第177条】
相続人は、相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の行使があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

 

4【会社法第177条】
裁判所は、売買価格の決定に際しては、相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。

 

5【会社法第177条】
売渡価格決定申立があったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって、株式の売買価格とする。
上記の期間内に同項の申立てがないとき(協議が調った場合を除く)は、相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の請求は、その効力を失う。

⇒少数株主の排除(スクイーズアウト)の方法を見る!

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。