相続人に対する株式売渡請求権(スクイーズアウト)の内容とメリット・デメリット!
この記事では、そんな株式等売渡請求(スクイーズアウト)のうち相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)の制度について、その内容と、メリット・デメリットや手続きの内容などの情報についてM&A弁護士が徹底解説していきます。
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)
相続人に対する株式等売渡請求は、会社が、相続人からの個別の承諾なく金銭を対価として円滑に株式を取得することを目的で制定された制度です。
各相続人に売渡請求を行えば、半ば強制的に後継者に株式を集中させることが可能であるため、円滑に事業承継を実施するために株式等売渡請求(スクイーズアウト)は欠かせない手続きであるといえます。
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)の条件とは?
相続人に対し株式等売渡請求を行う場合、以下のような条件をクリアする必要があります。
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)の条件
①相続の事実を知ってから1年以内に株式等売渡請求(スクイーズアウト)を行使する
②分配可能利益の範囲内で株式買取を実行する(分配可能利益は、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計となる)
③株式等売渡請求(スクイーズアウト)の対象が譲渡制限株式である(譲渡制限が付随していない場合は、請求を行うことは不可能)
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)の手続きとは?
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)には、以下のような必要な手続きがあります。
①定款に相続人への売渡請求(スクイーズアウト)を実行できる旨を定める
②株式等売渡請求を行う株式数と対象者の氏名(名称)について、特別決議を実施する
③特別決議で可決された場合、対象者に売渡請求の通知を行い、対象者と会社側で売買価格を決定する
また、対象者と会社側で売買価格の協議が整わない場合は、裁判所に売買価格を決定してもらうことが可能である(ただし、裁判所に売買を決定してもらう場合、株式等売渡請求(スクイーズアウト)から20日以内に申し立てを行う必要がある)
売買価格が決定すれば、株式の売渡を実行することが可能となります。
株主総会の特別決議が必要!
①の定款の変更については、予めしておくこともできますし、相続人に対する株式等売渡請求権(スクイーズアウト)を行使するときに行うこともできますが、定款の変更には株主総会の特別決議が必要です。②株式等売渡請求(スクイーズアウト)を発動するためにも株主総会の特別決議が必要ですので、要するに、相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)を行うためには、株主総会の特別決議が必要です。
株主総会の特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければなりませんので、株主の3分の2以上が賛成しないと、相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)を発動することができないのです。
株式等売渡請求(スクイーズアウト)のメリット・デメリット
株式等売渡請求(スクイーズアウト)は、非常にメリットの多い権利です。
しかし、その反面少なからずデメリットも存在するため、ここでは株式売渡請求権(スクイーズアウト)のメリット・デメリットの双方を徹底解説していきます。
株式売渡請求権(スクイーズアウト)のメリット
経営権を集中させることができる
会社の歴史が長くなってくると、親族間などで株式が分散してしまっていることがあります。
事業を継承する場合、後継者に経営権を集中させるために、できるだけ分散している株式を集約しておきたいと考えるのが通常です。
株式等売渡請求(スクイーズアウト)を行使すれば、半ば強制的に経営権を集中させることが可能となっています。
節税効果に期待できる
株式等売渡請求(スクイーズアウト)による自社株の買収は、節税効果にも期待できます。
通常、非上場企業が自社株を取得する際には、「みなし配当課税」が生じてくるのが一般的です。
みなし配当課税は、配当所得は他の所得と総合して課税され、最高で「50%(所得税率45%・住民税率5%)」もの税金が課せられてしまうのです。
しかし、株式等売渡請求(スクイーズアウト)により相続人から株式を取得した場合、それは「譲渡所得」とみなされるため、課税額も一律で「20.315%」で済ませることができます。
事業継承時において、いかに節税するかは悩みの種でしょう。
よって、軽い税負担で自社株を取得できるというのは、非上場企業の事業承継において大変魅力的なメリットとなっているのです。
株式等売渡請求(スクイーズアウト)のデメリット
株式売買価格が交渉により決着しない場合、裁判になる可能性がある!
売買価格は、まずは、相続人との協議によって定めますが、協議が整わないときには、会社または相続人は、売渡請求があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条1項、2項)。
この場合、最終的には、裁判所が、公正な価格を決定いたしますので、会社としては、相続人から、安く株式を買い取ってしまうということはできません。
相続人に対する株式等売渡請求(スクイーズアウト)の場合は、会社都合による株式の買取ですので、相続人から少数株主であることを前提としたディスカウントされた株価(配当還元法など)に基づく株式売買価格の決定が行われるのではなく、組織再編に伴う株式買取請求権(スクイーズアウト)のようにディスカウントの無い株価(時価純資産法や収益還元法)に基づく株式売買価格の決定が行われるものと思われ、会社としては、株式売買価格が想定外に高騰する可能性もあります。
まとめ
『株式等売渡請求(スクイーズアウト)』を活用することにより、以前よりも容易に100%子会社化などが実施できるようになったのは間違いありません。
ただし、株式等売渡請求(スクイーズアウト)を用いることができる場面や条件は限定されており、複雑なプロセスも存在していることから、成功させるためにはどうしても専門的な知識が必要となります。
よって、株式等売渡請求(スクイーズアウト)を行使する場合は、株式等売渡請求(スクイーズアウト)はもとより、M&Aや事業継承に特化した弁護士のアドバイスを受けることをご検討下さい。