会社側から見た株式買取業者と少数株主本人の違い

これまでは親族が少数株主であったが、面識のない事業者が株主となったという連絡を受けた。今後の対応が今までと同じでよいのか分からない。発行会社の代表取締役、法務責任者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。株主が誰であるかによって、会社法上認められる株主の権利の内容が変わるものではありません。第三者が株主となった場合であっても、その者は株主として、持株比率に応じた権利を有します。
もっとも、会社側の対応の実際は、相当程度異なってまいります。従前の親族株主、元役員株主とは、権利行使の速度、書面の形式、交渉の進め方、期限の管理の厳格さが異なるためです。
したがって、「株主としての権利は同じである」という前提を維持しつつ、実務上の対応の体制を改める必要があります。本記事は、この違いを整理するものです。
なお、株式買取業者の実態、その業務にどのような問題が生じ得るかについては、既存の解説記事において整理しております。本記事は、会社側の対応が具体的にどう変わるかという観点に絞ります。また、株式買取業者を一律に違法と断定するものではありません。具体的な業務態様によっては、弁護士法その他の法令との関係で法的問題が生じる場合があるという整理にとどめます。
制度の意味
権利の内容は同じです
株主の権利は、保有する株式の内容と数によって定まります。株主が個人であるか法人であるか、会社との従前の関係があるかどうかによって、権利の内容が変わるものではありません。
したがって、次の点について、対応の枠組みは同じです。
議決権の行使。剰余金の配当を受ける権利。会計帳簿閲覧謄写請求。株主総会の招集の請求。株主提案。取締役の解任の請求。株主代表訴訟の提起。株式譲渡承認請求。
会社が、相手方が第三者であることを理由に、これらの権利の行使を拒むことはできません。
実務上の相違
表1 従前の株主と第三者が株主となった場合の実務上の相違
| 観点 | 親族株主、元役員株主 | 第三者が株主となった場合 |
|---|---|---|
| 権利行使の速度 | 相当の期間をおいて行われることが多くあります | 短期間で連続して行われることがあります |
| 書面の形式 | 手紙、口頭による申入れが多くあります | 制度に沿った定型的な書面が用いられます |
| 期限の管理 | 会社側の遅れが黙認されることがあります | 期限が厳格に管理されます |
| 交渉の相手 | 本人と直接やり取りをします | 担当者又は代理人とやり取りをします |
| 背景の事情 | 相続、処遇その他の事情が背景にあります | 経済的な条件が中心となります |
| 会社の内部情報 | 一定の情報を既に有していることがあります | 情報を有していないことから、請求により取得を図ります |
| 継続性 | 関係が長期にわたります | 一定の期間内での解決を志向することがあります |
これらの相違は、会社側の準備の内容を変えます。
会社側から見た意味
最も大きな違いは、期限の管理の厳格さです。従前の株主との関係においては、回答が遅れても直ちに問題とならないことがありました。第三者が株主となった場合、期限の徒過はそのまま次の手続につながります。
したがって、会社側は、期限の管理と記録の作成について、体制を改める必要があります。
要件と論点
どのような経緯で第三者が株主となるか
表2 第三者が株主となる主な経緯
| 経緯 | 会社側の関与 |
|---|---|
| 譲渡制限の定めがない会社において譲渡された | 会社の承認を要しません |
| 譲渡制限の定めがある会社において承認を経て譲渡された | 会社が承認しています |
| 譲渡制限の定めがあるが承認を経ずに譲渡された | 会社に対する効力が問題となります |
| 相続、合併その他の一般承継による | 承認を要しない場合があります |
| 競売その他の手続による | 経緯の確認が必要です |
会社に対して株主であることを主張するためには、株主名簿の名義書換が問題となります。したがって、会社としては、まず名義書換の請求がされているか、その前提となる手続が履践されているかを確認することになります。
譲渡制限の定めがある場合
譲渡制限の定めがある会社においては、株式の譲渡について会社の承認を要します。承認を経ていない譲渡について、会社に対する効力がどうなるかは、制度上の論点です。
会社としては、名義書換の請求を受けた場合、承認の有無を確認したうえで判断することになります。この点については、株式譲渡承認請求に関する記事をご参照ください。
株主として扱うかどうかの判断
名義書換が完了していない段階において、会社が第三者を株主として扱うかどうかは、慎重な判断を要します。
安易に株主として扱うと、従前の株主との関係で問題が生じます。反対に、正当な取得者を株主として扱わないことも問題となります。
権利行使への対応
第三者が株主として権利を行使する場合、会社は制度に従って対応することになります。相手方が第三者であることは、それ自体では拒む理由となりません。
もっとも、会計帳簿閲覧謄写請求については、拒絶事由が定められています。請求者の業務の内容、請求の目的に応じて、事由に当たるかどうかを個別に検討することになります。
株式買取業者の業務に関する法的問題
株式買取業者の具体的な業務態様によっては、弁護士法その他の法令との関係で法的問題が生じる場合があります。もっとも、そのような問題が指摘される場合であっても、少数株主本人の会社法上の権利がなくなるわけではありません。
会社側としては、この点を混同しないことが重要です。相手方の業務に問題があるという主張と、株主としての権利行使に応じるかどうかという判断は、別の事項です。
この点については、株式買取業者に関する既存の記事、及び株式買取業者の業務の法的評価に関する記事をご参照ください。
会社側の実務
表3 第三者が株主となった場合に会社が整えるべきこと
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 名義書換の請求の有無と、その前提となる手続を確認します |
| 第2 | 譲渡制限の定めと承認の経緯を確認します |
| 第3 | 従前の株主との間の経緯を整理します |
| 第4 | 期限の管理の体制を整えます |
| 第5 | 窓口を一本化します |
| 第6 | 記録の作成の方法を定めます |
| 第7 | 他の少数株主の状況を確認します |
| 第8 | 株主構成の整理の方針を検討します |
期限の管理の体制を整えます
到達した書面の日付、回答すべき時期、実施すべき手続を一覧にして管理してください。従前の運用のままでは、期限の徒過が生じます。
窓口を一本化します
担当者ごとに個別に対応すると、会社としての説明が食い違います。窓口を一本化し、やり取りの内容を記録してください。
記録の作成を徹底します
書面のやり取りだけでなく、電話、面談の内容についても記録を残してください。
他の少数株主の状況を確認します
1名の株主が第三者に譲渡した場合、他の少数株主も同様の行動を検討することがあります。他の株主の状況を確認し、方針を検討してください。
株主構成の整理を並行して検討します
第三者が株主となった状態が続くことの影響を踏まえ、株主構成をどのように整えるかという方針を検討してください。個別の請求への対応だけでは、状況は変わりません。
関連する手続
第三者から通知を受領した直後の対応については、通知が届いた会社の対応に関する記事をご参照ください。
少数株主が第三者に売却する意向を示している段階については、その場面に関する記事をご参照ください。
譲渡制限の定めがある会社において承認を求められた場合については、株式譲渡承認請求に関する記事をご参照ください。
株式の買取りを求められた場合、価格が争われた場合については、それぞれの記事をご参照ください。
弁護士に相談する意味
第三者が株主となった場合、会社側が誤りやすいのは、相手方の属性に着目して対応を決めようとする点です。相手方が誰であるかによって、株主としての権利の内容は変わりません。
会社側が改めるべきなのは、対応の体制です。期限の管理、記録の作成、窓口の一本化といった実務上の体制を整えることが、実際の帰趨を左右します。
また、この局面においては、個別の請求への対応と、株主構成の整理という中期的な方針とを、並行して進める必要があります。請求への対応のみを繰り返しても、状況は変わりません。
さらに、他の少数株主が同様の行動を検討する可能性があります。1名への対応にとどめず、株主構成の全体を見た方針が必要です。
なお、対応の具体的な組立て、交渉の進め方については、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 相手方が業者であることを理由に、請求を拒めますか。
株主としての権利の行使に対しては、制度に従って判断することになります。相手方の属性は、それ自体では拒む理由となりません。
質問2 業者の業務に問題があると聞きました。
具体的な業務態様によっては、法令との関係で法的問題が生じる場合があります。もっとも、そのことによって株主としての権利がなくなるわけではありません。
質問3 名義書換に応じなければ株主ではないのですか。
会社に対して株主であることを主張するためには名義書換が問題となります。もっとも、応じないという判断には慎重な検討を要します。
質問4 従前の株主に戻ってもらうことはできますか。
既に行われた譲渡の効力の問題となります。譲渡制限の定めと承認の経緯を確認したうえで検討することになります。
質問5 他の少数株主も同じことをしそうです。
そのおそれがある場合には、株主構成の全体について方針を検討することをお勧めいたします。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
受領した書面の原本又は写し、封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、従前の株主とのやり取りが分かる資料、直近3期分の計算書類をご持参ください。
関連するご案内
面識のない事業者が株主となった会社の方は、株式買取業者から通知が来た会社へをご覧ください。通知の受領直後の確認から、権利行使への対応、株主構成の整理までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
- 知らない会社から株主になったと連絡が来た場合の対応
- 株式買取業者の業務は違法なのか|会社側が知るべき裁判例の考え方
- 少数株主が株式買取業者に株式を売ると言っている場合
- 株式買取業者への株式譲渡を会社は止められるか
- 株式譲渡承認請求を受けた会社の対応
- 株式買取業者とはどういう会社か、その問題点
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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