株式買取業者から通知が届いた会社が最初に確認すべきこと

面識のない事業者から、株式を取得したという趣旨の書面が届いた。あるいは、株式を買い取りたいという申入れの書面が届いた。発行会社の代表取締役、総務の責任者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。書面を受け取った段階で最初に行うべきことは、回答の文面を考えることではありません。差出人が誰であるか、何を求めているか、期限のある手続が含まれているかという3つを、自社の資料と突き合わせて確認することです。

この確認を経ないまま回答をいたしますと、前提を誤った回答となり、後に訂正することが困難になります。逆に、確認さえ済んでおりますと、回答の内容は落ち着いて検討することができます。

本記事は、書面を受領した直後に会社が社内で行うべき確認の項目と、その順序を、実務の手順として整理するものです。通知の類型ごとの一般的な解説は既存の記事において扱っておりますので、本記事は社内における確認の作業そのものに絞ります。

なお、株式買取業者を一律に違法と断定するものではありません。具体的な業務の態様によっては、弁護士法その他の法令との関係で法的な問題が生じる場合があるという整理にとどめます。

制度の意味

 書面が届いたことのみによって義務が生じるものではありません

株式を買い取りたいという申入れ、株式を取得したという連絡が届いたとしても、そのことのみによって会社に法律上の義務が生じるわけではありません。会社に対応の義務が生じるのは、会社法上の請求としての形式と内容を備えた請求がされた場合です。

したがいまして、受け取った書面が、単なる申入れであるのか、会社法上の請求であるのかを見分けることが、最初の作業となります。書面の表題ではなく、記載されている内容によって判断してください。

 確認は自社の資料に基づいて行います

確認の作業は、差出人の説明を前提として行うものではありません。株主名簿、定款、登記事項証明書、過去の株式の譲渡の承認に関する記録という、自社の資料に基づいて行います。

差出人の説明と自社の資料とが食い違う場合、その食い違いこそが、以後の対応の出発点となります。食い違いがあること自体を、記録として残してください。

 確認の目的は、回答の可否を決めることではありません

この段階での確認の目的は、会社が置かれている状況を正確に把握することにあります。応じるか応じないかという判断は、確認が終わった後に行うものです。順序を逆にいたしますと、判断の前提が定まりません。

要件と論点

 確認すべき事項の一覧

受領した直後に確認すべき事項は、次のとおりです。いずれも、自社の資料を手元に置いて確認いたします。

表1 受領した直後に確認すべき事項

確認の対象 確認の方法 確認の目的
差出人が株主として記載されているか 株主名簿の記載と照合します 名義書換えが未了であるかどうかを判別します
株式の譲渡の経緯 過去の譲渡の承認に関する記録を確認します 会社が承認した譲渡であるかどうかを判別します
定款の譲渡制限の定め 定款を確認します 承認をする機関がどこであるかを確認します
株券を発行する旨の定めの有無 定款及び登記事項証明書を確認します 譲渡の方式に影響します
書面の法律上の性質 表題ではなく記載の内容を確認します 会社法上の請求であるかどうかを判別します
期限のある手続が含まれているか 請求の種類ごとに確認します 回答の期限を管理します
書面が届いた日 封筒及び受領の記録を確認します 期間の起算点となります
会社に求められている行為 名義書換え、買取り、資料の開示その他 会社が行うべきことを特定します

 差出人の特定

差出人が株主名簿に株主として記載されている場合と、記載されていない場合とでは、会社の対応が異なります。

株主名簿に記載がない者から連絡があった場合、その者が株式を取得したと述べていても、会社との関係では、名義書換えがされるまで株主としての権利の行使を認めないという取扱いが原則となります。株主名簿の名義書換えは、会社に対する対抗要件に関する制度でございます。

もっとも、名義書換えを不当に拒むことは相当ではありません。拒む場合には、その理由を説明することができる状態にしておく必要があります。

 請求の性質の特定

書面に記載されている内容が、次のいずれに当たるかを特定してください。株式の譲渡等の承認の請求、株式を取得した者からの承認の請求、株主名簿の名義書換えの請求、会計帳簿の閲覧謄写の請求、株主総会の招集の請求、これらのいずれにも当たらない任意の申入れ、という区分です。

会社法上の請求に当たるものについては、会社は制度に従って対応することになります。任意の申入れにとどまるものについては、応じる義務はありません。

 期限の有無の確認

株式の譲渡等の承認の請求については、定款に別段の定めがある場合を除き、会社が承認をするかどうかの決定の内容を通知すべき期間が定められております。この期間内に通知をしなかった場合、承認をしたものとみなされる扱いとなります。この点は、放置による不利益が最も大きい部分でございます。

他方で、株式を買い取りたいという任意の申入れについては、直ちに回答すべき法律上の期限はありません。まず、この区別を行ってください。

会社側の実務

 時系列の手順

確認の作業は、次の順序で進めますと、漏れが生じにくくなります。

表2 受領した後の時系列の手順

時期 行うこと 留意点
受領した日 書面を封筒とともに保全し、届いた日を記録します 原本は保管し、社内では写しを用います
受領した日 社内の窓口を1つに定めます 担当者ごとの個別の応答を防ぎます
受領した日 代表取締役及び担当の役員に共有します 共有の範囲は必要な限度にとどめます
数日以内 株主名簿、定款、登記事項証明書、過去の承認の記録と照合します 資料が整っていない場合は、その状況も記録します
数日以内 期限のある手続が含まれているかを判別します 期限のあるものから優先して進めます
数日以内 これまでの経緯を時系列で書き出します 口頭でのやり取りも記録します
回答の前 回答の名義、方法、回答する範囲を決めます 書面によることを原則といたします
回答の前 弁護士に相談します 期限の短い手続がある場合は速やかに行います

 窓口を1つに定めます

書面が届いた後、差出人から電話その他の方法で連絡が入ることがあります。担当者ごとに個別に応答をいたしますと、会社としての説明が食い違い、後の交渉において不利益となります。

窓口を1つに定めたうえで、その窓口以外の者は、窓口の担当者に取り次ぐという扱いといたします。取り次ぐ際にも、その場で内容についての回答をしないことを徹底してください。

 自社の資料が整っていない場合

株主名簿が作成されていない、過去の譲渡の承認に関する記録が残っていないという事態は、少なくありません。

この場合、記録を新たに作り直すという対応は避けてください。現に存在する資料をそのまま保全し、どの資料が存在しないかを整理することが、正しい対応でございます。資料の不足は、そのこと自体を前提として方針を立てることになります。

 確認の結果を1枚に整理します

確認した事項は、1枚の書面に整理してください。差出人、届いた日、求められている行為、期限の有無、自社の資料との照合の結果、という項目を並べたものです。

この1枚があることによって、社内での説明も、弁護士への相談も、短時間で進めることができます。

関連する手続

 同封され得る請求

1通の書面に、複数の請求が含まれていることがあります。株式の譲渡等の承認の請求とあわせて、株主名簿の名義書換えの請求、会計帳簿の閲覧謄写の請求、株主総会の招集の請求が記載されている場合です。

それぞれの請求は、要件も期限も異なります。1つの回答でまとめて処理することはできませんので、請求ごとに分けて整理してください。

 会計帳簿の閲覧謄写の請求が含まれている場合

会計帳簿の閲覧謄写の請求については、請求をする理由を明らかにしてすることが求められております。会社は、法律に定められた事由に当たる場合には、請求を拒むことができます。この判断は、請求の理由の記載を前提として行うものでございます。

 株主総会の招集の請求が含まれている場合

株主総会の招集の請求については、持株の要件と保有の期間の要件が定められております。まず、差出人がこれらの要件を満たしているかを、株主名簿によって確認いたします。

弁護士に相談する意味

 確認の結果の評価

確認の作業そのものは、会社の内部で行うことができます。もっとも、確認の結果が会社にとってどのような意味を持つかという評価は、制度の理解を前提といたします。

例えば、株主名簿に記載がないという事実が、会社にとって有利な事情であるのか、単に手続が未了であるにすぎないのかは、経緯によって異なります。

 期限の管理

期限のある手続については、期限の判断を誤りますと、回復が困難な不利益が生じます。書面が届いた日から起算する場合、その起算点の判断も含めて、早い段階で確認をしておくことが望まれます。

 回答の文面

回答の文面は、後の交渉、裁判所の手続において引用されます。会社が述べた事実、示した金額、認めた事項は、後に変更することが容易ではありません。

したがいまして、確認が済んだ段階で、回答の文面についても、あらかじめ検討をしておくことをお勧めいたします。

 相談の時期

期限のある手続が含まれている場合には、書面が届いた時点で速やかにご相談ください。期限のある手続が含まれていない場合であっても、確認の結果が整理できた段階でご相談いただきますと、その後の進め方を一度に整理することができます。ご相談は事前予約制でございます。

よくある質問

質問1 書面が届きましたが、まだ何も確認しておりません。まず何をすればよいですか。

書面と封筒を保全し、届いた日を記録してください。そのうえで、株主名簿、定款、登記事項証明書をご用意ください。この3点がそろえば、確認の作業を始めることができます。

質問2 差出人が株主名簿に記載されていない場合、無視してよいのでしょうか。

無視は適当ではありません。株主名簿に記載がないという事実を確認したうえで、その事実を前提として、どのように応じるかを検討することになります。名義書換えの請求が含まれている場合には、その請求への対応も必要となります。

質問3 電話で問い合わせが来ております。その場で答えてもよいですか。

その場での回答は避けてください。窓口を1つに定め、書面によって回答するという扱いをお勧めいたします。電話での発言は、後に引用されます。

質問4 株主名簿が作成されておりません。今から作成してもよいですか。

過去にさかのぼって記録を作り直すことは避けてください。現に存在する資料を保全したうえで、どの資料が存在しないかを整理することが、正しい対応でございます。

質問5 確認に要する期間は、どの程度でしょうか。

資料が整っている場合には、数日で終えることができます。資料が整っていない場合には、その調査に時間を要しますので、期限のある手続の有無の判別を先に行ってください。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

受領した書面の原本又は写し、封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、過去の株式の譲渡の承認に関する記録、これまでのやり取りが分かる資料をご持参ください。

関連するご案内

株式買取業者から書面を受け取った会社の方は、株式買取業者から通知が来た会社へをご覧ください。受領した後の確認から、回答、その後の対応までを、発行会社の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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