不提訴理由通知書の作成の要点

すなわち、60日の経過のみでは通知の義務は生じず、株主又は対象となる役員等からの請求があって初めて義務が生じます。もっとも、実務上は、株主が訴えの提起と併せて通知を求めることが多いところです。

 誰が作成するか

監査役設置会社においては、株主が会社法第847条第1項の請求をする場合には監査役が会社を代表するものとされております(会社法第386条第2項第1号)。したがって、調査を行い、判断をし、通知を作成する主体は監査役です。代表取締役が作成した通知は、その適格性が争われ得ます。

記載すべき事項

法務省令には、不提訴の理由の通知に記載すべき事項が定められており、その内容は次のとおり整理されます。

記載事項 内容
第1 会社が行った調査の内容(当該調査に関して取締役等その他の者が影響を及ぼす行為をした場合には、その行為の内容を含みます)
第2 請求の対象となる者の責任又は義務の有無についての判断及びその理由
第3 責任又は義務があると判断した場合において責任追及等の訴えを提起しないときは、その理由

この3つの構成が、そのまま通知書の骨格となります。

第1 調査の内容の書き方

 何を書くか

調査の内容としては、次のような事項を記載することが考えられます。

  • 調査を行った主体(監査役の氏名、補助者の有無)
  • 調査の期間
  • 調査の対象とした事項
  • 収集し、確認した資料の種類
  • 聴取を行った者及びその時期
  • 外部の専門家の助言を得た場合には、その旨

 なぜ詳しく書くのか

この記載は、後に株主代表訴訟が提起された場合、会社の判断が実質的な調査に基づくものであったかを示す資料となります。「必要な調査を行った」とのみ記載された通知は、調査が形式的なものであったという主張を招きます。

他方、調査の対象とした資料の一覧を過度に詳細に記載することが、常に会社にとって有利であるとは限りません。開示の範囲については、個別の検討が必要です。

 影響を及ぼす行為があった場合

法令は、調査に関して取締役等その他の者が影響を及ぼす行為をした場合には、その行為の内容を含めることを求めております。対象となる取締役が調査に介入した、資料の提出を拒んだ、といった事情があれば、これを記載することになります。

この規律は、調査の独立性を担保する趣旨のものと理解されます。会社としては、調査の過程において、対象となる取締役の影響を排除する体制を執っていたことを示すことが望まれます。

第2 判断及びその理由の書き方

 責任の要件に沿って構成いたします

取締役の会社に対する責任は、任務を怠ったことにより会社に損害が生じた場合に認められます(会社法第423条第1項)。したがって、判断の理由も、次の要素に沿って構成することが自然です。

要素 検討の内容
任務を怠ったこと 善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)、忠実義務(会社法第355条)、法令又は定款の遵守
損害の発生 会社に生じた損害の有無及び額
因果関係 行為と損害との関係
推定の規定の適用 会社法第423条第2項及び第3項の適用の有無
経営上の判断の領域 事実の認識及び意思決定の過程の合理性
消滅時効 期間の経過の有無

 事実と評価を区別いたします

調査により確認した事実と、それに対する法的な評価とを、明確に区別して記載いたします。両者が混在した記載は、後に、事実の認定を誤ったのか評価を誤ったのかが判別できず、会社の判断の合理性を示すことが難しくなります。

 株主の主張に個別に応答いたします

請求書に複数の行為が挙げられている場合には、それぞれについて判断を示すことが望まれます。一部についてのみ言及し、他を無視した通知は、調査の網羅性を疑わせます。

 断定を避けるべき場面

調査によっても事実を確定し得なかった事項がある場合には、その旨を記載することが誠実な対応です。確認していない事実について断定的な記載をすることは、後に事実が判明した際に、会社の判断全体の信用性を損ないます。

第3 責任があるが提訴しない場合の理由

責任又は義務があると判断しながら訴えを提起しない場合には、その理由を記載することとされております。この場合に考えられる理由としては、次のようなものがあります。

  • 対象となる者に資力がなく、判決を得ても回収の見込みが乏しいこと
  • 訴訟に要する費用及び期間が、回収し得る額に見合わないこと
  • 既に任意の弁済又は補填がされていること
  • 消滅時効が完成していること
  • 訴訟を提起することにより会社の事業に重大な支障が生じること

もっとも、これらの理由は、それ自体が会社の判断の当否を問われる対象となります。責任があると判断しながら訴えを提起しないという判断は、他の取締役又は監査役の任務との関係でも検討を要する事柄です。

作成に当たっての留意点

 その後の訴訟で用いられます

通知の内容は、株主代表訴訟が提起された場合、原告である株主から提出されることが通常です。会社が作成した文書ですので、記載された事実については、会社が争いにくい立場に置かれます。

したがって、この通知は、単なる回答書ではなく、その後の訴訟における会社の立場を事実上定める文書であると理解して作成する必要があります。

 会社と対象となる取締役の立場

通知は会社が作成するものですが、その内容は、対象となる取締役の利害にも直接影響いたします。「責任はない」という判断は当該取締役に有利ですが、その理由の記載が不十分であれば、かえって当該取締役にとって不利な資料となり得ます。

他方、会社が当該取締役をかばう趣旨で事実を歪めた記載をすることは、監査役の任務との関係で重大な問題を生じさせます。

 開示の範囲

通知に添付する資料の範囲については、慎重な検討が必要です。営業上の秘密に属する情報、取引先に関する情報については、記載の方法を工夫することが考えられます。

 送付の方法及び記録

通知は、到達を確認し得る方法で送付いたします。「遅滞なく」という要件を満たしたことを示すため、請求を受けた日と発送した日の記録を残します。

具体的な記載の分量や構成の選択は、問題とされている行為の内容、株主との従前の経緯、係属している他の紛争等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
会社による訴えの提起 請求の日から60日以内 会社法第847条第3項
不提訴の理由の通知 請求を受けたときは遅滞なく 会社法第847条第4項
訴訟告知を受けた後の公告又は通知 遅滞なく 会社法第849条第5項
和解に関する異議 通知及び催告を受けた日から2週間以内 会社法第850条第2項・第3項
取締役会の議事録の備置き 取締役会の日から10年間 会社法第371条第1項

 ご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた提訴の請求の書面及び通知を求める書面
  • 調査の記録(対象、方法、期間、収集した資料の一覧、聴取の記録)
  • 問題とされている取引に関する契約書及び関連する書面
  • 当該期間の取締役会及び株主総会の議事録
  • 会計の記録
  • 外部の専門家の意見書
  • 現に効力を有する定款及び登記事項証明書

弁護士にご相談いただく意味

不提訴の理由の通知は、形式的な回答書ではありません。法令が記載事項を定めており、その内容は、その後の訴訟において会社の判断の合理性を検証するための資料として用いられます。記載が不十分であれば、調査が形式的であったと評価され、会社及び監査役の任務が問われることにもなりかねません。

他方、記載を充実させることは、必ずしも情報を無制限に開示することを意味しません。何を、どの程度の粒度で記載するかは、その後の訴訟の展開を見通した上で判断すべき事柄です。この判断は、通知を作成する段階、すなわち調査を設計する段階から始まっております。当事務所は、会社の側のお立場で、調査の設計から通知の作成までをご一緒に行っております。

よくあるご質問

質問1 60日を過ぎたら、自動的に通知しなければなりませんか。

通知の義務は、株主又は対象となる役員等から請求を受けたときに生じます(会社法第847条第4項)。請求がない場合には、通知の義務は生じません。もっとも、実務上は、請求と併せて通知を求められることが多いところです。

質問2 「責任は認められないと判断した」とだけ書けば足りますか。

足りません。法務省令には、会社が行った調査の内容、責任又は義務の有無についての判断及びその理由等を記載することが定められております。理由を欠く通知は、その後の訴訟において会社の判断の合理性を示す資料となりません。

質問3 誰の名義で作成しますか。

監査役設置会社においては、株主による提訴の請求について監査役が会社を代表するものとされております(会社法第386条第2項第1号)。したがって、監査役の名義で作成することになります。監査役を置かない会社においては、会社を代表すべき者を確認する必要があります(会社法第353条、第364条)。

質問4 通知の内容を後から訂正できますか。

訂正すること自体は可能ですが、当初の通知と異なる内容の書面を後に作成することは、会社の判断の信用性を損ないます。当初の作成の段階で、確認した事実の範囲を正確に記載しておくことが重要です。

質問5 通知をしたことで、株主代表訴訟を防げますか。

通知は、訴えの提起を妨げるものではありません。60日の経過により、株主は会社のために責任追及等の訴えを提起することができます(会社法第847条第3項)。通知は、会社の判断とその理由を示すものであり、その後の訴訟における資料となります。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第330条(会社と役員との関係)
  • 第353条、第364条(会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表)
  • 第355条(忠実義務)
  • 第371条第1項(取締役会の議事録の備置き)
  • 第386条第2項第1号(提訴の請求における会社の代表)
  • 第423条第1項から第3項まで(役員等の会社に対する損害賠償責任及び推定)
  • 第847条第3項・第4項(60日、不提訴の理由の通知)
  • 第849条第5項(公告又は通知)
  • 第850条第2項・第3項(和解に関する通知及び異議)

民法 第644条(受任者の善管注意義務)

その他 会社法第847条第4項を受けた法務省令(不提訴の理由の通知に記載すべき事項)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、責任追及等の訴えを提起しないと判断した会社の側からのご相談をお受けしております。調査の設計と実施、記録の整備、不提訴の理由の通知の作成、その後に株主代表訴訟が提起された場合の対応まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、株主代表訴訟を提起された会社の方に向けたご案内のページ(/kabunushidaihyososho_taiou/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主から届いた提訴の請求の書面、通知を求める書面、調査の記録、問題とされている取引に関する資料、取締役会の議事録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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