少数株主から違法行為差止請求を受けた場合

会社が行おうとしている行為について、少数株主から、法令又は定款に違反するものであるとして差止めを求める請求を受けることがあります。差止めの対象となる行為には複数の類型があり、それぞれについて固有の要件が定められているため、まずどの類型に当たるかを確認する必要があります。
これらのうち、新株の発行、組織再編、株式の併合については、それぞれの制度に固有の差止めの仕組みが置かれています。取締役の行為一般についての差止めとは要件が異なりますので、請求の根拠がいずれであるかを確認する必要があります。
なぜこの制度が置かれているか
取締役の行為によって会社に損害が生じた場合、事後的に責任を追及する方法があります。しかし、損害が回復困難である場合には、事後の責任追及では株主の保護として十分ではありません。行為の前に止めるという仕組みは、この点を補うものです。
したがって、制度の性質上、差止めは事前かつ迅速に判断される必要があり、実務上は仮処分の手続によって争われることが多くなります。
会社側から見た意味
会社側にとって重要なのは、差止めの請求が単独で行われることは少なく、多くの場合、会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会招集請求、株主代表訴訟の提訴請求といった他の権利行使と一体で進められるという点です。
差止めを求める書面は、株主側が資料を収集し、会社の意思決定の過程を把握したうえで送られてくることが通常です。したがって、書面の記載内容から、株主側がどこまでの情報を把握しているかを読み取る作業が、会社側の初動として重要になります。
要件と論点
請求の主体
差止めを請求することができる株主については、保有する株式について要件が定められている場合があります。会社が監査役を置いているかどうかによっても、要件が異なり得ます。
会社側としては、まず、請求をしている者が株主名簿に記載された株主であるか、要件を満たしているかを確認してください。
対象となる行為
対象となるのは、法令又は定款に違反する行為です。経営判断として当否が分かれるにとどまる行為は、これに当たりません。
会社側としては、株主が主張する「違反」の内容が、具体的にどの法令又は定款のどの定めに対するものとして構成されているかを特定してください。特定されていない書面も少なくありません。
損害の要件
会社に回復することができない損害が生ずるおそれ、又は著しい損害が生ずるおそれが要件とされています。この要件は、会社が監査役を置いているかどうかによって異なる場合があります。
会社側としては、当該行為によって会社に損害が生ずるという主張に対し、そもそも損害が生じないこと、又は生じたとしても回復が可能であることを示す資料を整理することになります。
仮処分が申し立てられた場合
表2 仮処分の手続における会社側の対応
| 段階 | 会社側が行うこと |
|---|---|
| 申立ての把握 | 裁判所からの連絡又は相手方からの通知により、申立ての事実を確認します |
| 審尋 | 裁判所において、双方の主張と資料が示されます |
| 主張と疎明 | 行為の必要性、相当性、手続の適正を示す資料を提出します |
| 決定 | 認容、却下のいずれの場合も、その後の対応を検討します |
| 決定後 | 保全異議その他の手続、本案の手続への対応を検討します |
仮処分の手続は、通常の訴訟に比べて短い期間で進行します。資料の準備に要する時間が限られますので、書面を受領した段階で準備に着手する必要があります。
差止めに応じるという選択
会社側の選択肢は、争うことだけではありません。当該行為の必要性と、紛争が長期化することによる不利益とを比較して、時期を改める、方法を変更する、内容を修正するという判断があり得ます。
とりわけ、手続に不備があると評価される余地がある場合には、手続をやり直したうえで改めて行うという方法が、結果として最も無理のない方法であることがあります。
会社側の実務
表3 差止めを求める書面を受領した場合の手順
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 到達の日と、記載された期限を確認します |
| 第2 | 請求をしている者が株主名簿上の株主であるか、要件を満たすかを確認します |
| 第3 | 差止めの対象とされている行為を特定します |
| 第4 | 主張されている法令又は定款の違反の内容を特定します |
| 第5 | 当該行為に関する社内の意思決定の記録を保全します |
| 第6 | 当該行為の必要性と相当性を説明できる資料を整理します |
| 第7 | 進める、時期を改める、内容を修正するという選択肢を比較します |
| 第8 | 取引の相手方への影響を確認します |
資料の保全を最初に行ってください
意思決定の過程、稟議、取締役会の議事録、評価の資料、契約書は、いずれも保全の対象です。仮処分の手続においては、限られた時間でこれらを提出することになります。
取引の相手方への影響を確認します
差止めの対象とされている行為に取引の相手方がある場合、仮処分によって履行ができなくなる可能性があります。相手方との契約における取扱いを確認してください。
回答の窓口を一本化します
書面に対する回答は、窓口を一本化して行ってください。担当者による個別の説明は、後日、会社の認識として引用されることがあります。
並行する権利行使を一覧にします
同一の株主から他の請求が行われている場合には、それぞれの期限と対応方針を一覧にして管理してください。
記録を残します
会社としての判断の過程と理由を記録として残してください。行為を予定どおり進める場合には、この記録が特に重要となります。
関連する手続
差止めが認められなかった場合、あるいは行為が実行された後には、取締役の責任を追及する株主代表訴訟、行為の効力を争う訴えへと展開することがあります。
また、新株の発行、組織再編、株式の併合については、それぞれの制度に固有の差止め及び無効の主張の仕組みが置かれています。少数株主の排除を目的とする手続を検討している場合には、この点をあらかじめ織り込んでおく必要があります。
弁護士に相談する意味
差止めを求める書面を受領した場合、会社側にとっての要点は、応じるかどうかの結論を急ぐことではなく、主張されている違反の内容を法的に特定することです。特定ができれば、それに対する反論と資料の範囲が定まります。
また、仮処分の手続は短期間で進行します。書面を受領してから弁護士に相談するまでの時間が、そのまま準備に使える時間の減少となります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
さらに、差止めの請求は、多くの場合、より大きな紛争の一場面です。当該行為への対応と併せて、株主構成をどのように整えるかという方針の検討が必要となります。
なお、個別の事案における具体的な主張の構成、資料の提出の方法については、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 書面が届いただけで、行為を止める必要がありますか。
書面の到達によって当然に効力が生じるものではありません。もっとも、内容を法的に評価しないまま進めることは適切ではありません。早期にご相談ください。
質問2 経営判断の問題であると反論できますか。
対象となるのは法令又は定款に違反する行為です。経営判断として当否が分かれるにとどまる場合の整理は、事案の内容によります。
質問3 仮処分を申し立てられたら、当然に止まりますか。
申立てがされたことによって当然に止まるものではありません。裁判所の判断を経ることになります。
質問4 少数株主の排除の手続を進めている最中に差止めを求められました。
手続の適正が争点となることが多い場面です。手続の記録を確認したうえで、進行の方針をご相談ください。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
受領した書面の原本又は写し、封筒、対象とされている行為に関する取締役会の議事録及び稟議の記録、契約書、評価の資料、定款、登記事項証明書、株主名簿をご持参ください。
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