M&A又は事業承継の前に少数株主を整理して株式を集約する方法

基本合意書を締結し、デュー・ディリジェンスの日程が決まった段階で、買主側の弁護士から株主名簿の提出を求められた。提出した名簿には、創業者の兄弟、40年前に退職した元専務、その相続人と思われる氏名が並び、合計で発行済株式の12パーセントを占めています。買主からは、取引実行の前提として全ての株式を取得することを求める旨の連絡が入り、実行の予定日は4か月後に設定されています。

事業承継の場面でも同じことが起きます。後継者へ株式を集めようとして株主名簿を確認したところ、議決権の3分の2に届かないことが判明する。金融機関から、代表者の交代に当たり株主構成の整理を求められる。いずれの場合も、期限が先に決まっていて、そこから逆算して手続を組む必要があります。

結論から申し上げます。取引の期限が決まった後に使える集約の手段は、会社が現に保有している議決権の比率と、定款に置かれている定めによって、あらかじめ絞り込まれています。手段を選ぶ前に、どの制度の入口に立っているのかを確定させることが先決です。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

株式の集約は、期限があるかどうかによって、採るべき手段も費やすことができる時間も全く異なります。

買主は100パーセントの取得を前提に価格を出します

買主が提示する株式の価格は、対象会社を単独で支配することができることを前提に組み立てられています。少数株主が残るという条件が加われば、買主は、将来の配当の要求、帳簿の閲覧の請求、決議の取消しの訴えといった負担を織り込むことになり、その分だけ提示額は下がります。

実務上、株式譲渡契約には、実行の前提条件として、対象となる株式の全部について適法な取得が完了していることが定められるのが通常です。この条件を満たすことができなければ、実行の日が延期され、あるいは取引そのものが白紙に戻ります。残った少数株主の持分に相当する金額を留保する、いわゆる価格の一部保留の取扱いを求められることもあります。

したがって、売主側にとって、集約の完了時期を示すことができるかどうかが、そのまま価格の交渉力になります。

まず、株主名簿と登記と実態を突き合わせます

最初の作業は、三つの資料を並べることです。第一に、現に会社が備え置いている株主名簿。第二に、登記事項証明書に記載された発行済株式の総数、株式の譲渡制限に関する定め、株券を発行する旨の定めの有無。第三に、実際に払込みを行い、配当を受領してきた者の記録です。

この三つは、しばしば一致しません。設立時に名義を借りた者が名簿に残っている、増資の際の払込みの記録が欠けている、株主が死亡しているのに名義書換えがされていない、株券発行会社であるのに株券を交付した記録がない、といった状態が見つかります。

突合の結果は、株主ごとに、氏名、住所、持株数、取得の原因、連絡の可否、想定される態度の6項目で一覧にします。この一覧が、以下に述べる手段の選択の土台になります。持株数の合計が発行済株式の総数と一致しない場合には、その差の原因を先に突き止めてください。

任意の買取りで進める場合の順序と価格の決め方

任意の買取りには、買い手として三つの選択肢があります。会社が自己株式として取得する方法、支配株主である現在の経営者が個人として買い取る方法、そして買主となる者が直接に買い取る方法です。

会社が取得する場合には、会社法第155条の制約を受けます。同条は、株式会社は同条各号に掲げる場合に限り自己の株式を取得することができると定めており、例えば同条第1号は、会社法第107条第2項第3号イの事由が生じた場合、すなわち取得条項付株式について定款に定めた事由が生じた場合を掲げています。合意により買い取る場合は同条第3号の株主総会の決議による取得に当たります。いずれの場合も、分配可能額による財源の規制がかかり、資金を用意すれば足りるというものではありません。

順序としては、応じる見込みが高い株主から接触し、単価の水準を先に固めます。最初に接触した株主に高い単価を提示すると、その水準が以後の交渉の下限になります。逆に、最も強硬な株主から始めて交渉が長期化すると、他の株主が様子見に転じます。

応じない株主に対して用いることができる制度の一覧

任意の交渉に応じない株主が残った場合に用いることができる制度は、限られています。実務で用いられるのは、特別支配株主の株式等売渡請求、株式の併合、相続人等に対する売渡しの請求、所在不明株主の株式の売却の4つです。

このうち、相続人等に対する売渡しの請求は、会社法第174条により、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めている場合に限って用いることができます。定款に定めがないまま相続が生じている会社では、この局面で定款を変更しても、既に生じた相続に遡って用いることはできません。定款の設計そのものについては、平時の備えを扱う記事を御覧ください。

残る3つは、いずれも要件が明確です。特別支配株主の株式等売渡請求は議決権の10分の9以上を、株式の併合は株主総会の特別決議を、所在不明株主の株式の売却は5年間という期間の経過を、それぞれ入口の条件としています。手段を比較する前に、この入口を満たしているかどうかを確認してください。

特別支配株主の株式等売渡請求を用いるための前提

会社法第179条第1項は、株式会社の特別支配株主は、当該株式会社の株主の全員に対し、その有する株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができると定めています。特別支配株主とは、総株主の議決権の10分の9以上を、その者及びその者が発行済株式の全部を有する法人等が有している場合における当該者をいいます。この割合は、定款でこれを上回る割合を定めることができます。

会社法第179条の2第1項は、この請求をするに当たって定めなければならない事項を掲げています。売渡株主に対して交付する金銭の額又はその算定方法、金銭の割当てに関する事項、特別支配株主が売渡株式を取得する日である取得日、その他法務省令で定める事項です。同条第3項により、割当ては、売渡株主の有する株式の数に応じて金銭を交付する内容でなければなりません。

この制度の利点は、株主総会の決議を要しない点にあります。対象会社の承認は必要ですが、招集の通知の期間を確保する必要がないため、期限が迫っている場面では最も短い日程で完了します。裏を返せば、議決権の10分の9に届いていない会社は、この制度を使うことができません。任意の買取りを、この10分の9という水準を意識して進めるかどうかで、その後の選択肢の幅が変わります。

株式の併合による方法と、その手続に要する期間

会社法第180条第1項は、株式会社は株式の併合をすることができると定め、同条第2項は、その都度、株主総会の決議によって、併合の割合、効力を生ずる日、種類株式発行会社である場合の併合する株式の種類、効力発生日における発行可能株式総数を定めなければならないとしています。この決議は、会社法第309条第2項第4号により、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う特別決議です。同条第4項により、取締役は、株式の併合を必要とする理由を総会において説明しなければなりません。

併合の割合を調整することにより、少数株主の持株を1株に満たない端数とし、端数を金銭に換えて交付することができます。端数の処理は、会社法第235条第1項により競売の方法によるのが原則ですが、同条第2項が会社法第234条第2項から第5項までを準用しており、市場価格のない株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができます。この許可の申立ては、取締役が2人以上あるときは、その全員の同意によってしなければなりません。

反対株主の買取請求への備え

会社法第182条の4第1項は、株式の併合により1株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、端数となる株式の全部を公正な価格で買い取ることを請求することができると定めています。同条第4項により、この請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間にしなければなりません。同条第3項により、会社法第181条第1項の株主に対する通知の期間は、2週間ではなく20日となります。

逆算した日程の目安

特別決議のための株主総会の招集の決定、招集の通知の発送、総会の開催、効力発生日の20日前までの通知、買取請求の期間、効力発生、端数の売却の許可の申立てという順序をたどりますので、着手から端数の処理の完了までには、通常、数か月を要します。価格に争いが生じ、価格の決定の申立てがされた場合には、さらに時間がかかります。

所在の分からない株主がいる場合の手続

会社法第197条第1項は、会社は、株主に対して行う通知及び催告を要しないものであり、かつ、その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった株式を、競売し、その代金を株主に交付することができると定めています。通知及び催告を要しないものというのは、会社法第196条第1項により、通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合を指します。

同条第2項は、市場価格のない株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができるとし、その許可の申立ては、取締役が2人以上あるときは全員の同意によってしなければならないとしています。同条第3項は、会社が、売却する株式の全部又は一部を買い取ることができるとし、この場合には買い取る株式の数と、これと引換えに交付する金銭の総額を定めなければならないとしています。取締役会設置会社では、これらの決定は取締役会の決議によります。

注意すべきは、5年という期間です。通知が到達しない状態と配当を受領しない状態が5年間続いていることが要件ですので、取引が決まってから通知を送り始めても、要件は満たされません。通知の返戻の記録と、配当金の未受領の記録を、日付とともに保存してきたかどうかが結論を分けます。

なぜ「M&Aが決まってから」では間に合わないのか

ここまで述べた制度は、いずれも時間を要件としています。所在不明株主の株式の売却は5年間の経過を要します。相続人等に対する売渡しの請求は定款の定めがあることが前提であり、その定めを置くには株主総会の特別決議を経なければなりません。株式の併合は、招集から端数の処理の完了まで数か月を要します。

これに対し、取引の実行日は、買主の側の事情で決まります。決算期、資金調達の実行日、許認可の承継の日程に左右され、売主の都合で動かすことはできません。集約に要する期間が実行日を超えると、価格の減額か、取引そのものの中止という形で不利益が現れます。

実務上の目安として、基本合意の前の段階で突合を終え、少数株主の一覧を作り終えていることが望ましい状態です。10分の9に届いていないことが判明したのであれば、任意の買取りをどの水準まで進めれば特別支配株主の株式等売渡請求の入口に立てるのかを、数字で示すことができます。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士に委ねることができるのは、株主名簿と登記と実態の突合、名義株に関する事実関係の整理、任意の買取りの順序と条件の設計、買取りの契約書の作成、用いる制度の選択と日程の逆算、株主総会の招集及び決議に関する書類の整備、特別支配株主の株式等売渡請求に係る書面の作成、端数の売却の許可の申立て、価格の決定の申立てがされた場合の対応です。

依頼の時期は、M&Aの検討を始めた時点、事業承継であれば後継者を決めた時点です。買主候補との交渉が始まってからでは、集約に要する期間を交渉の条件に織り込むことができません。基本合意を締結する前に着手していれば、実行日そのものを現実的な日程に設定することができます。

いま確認していただきたいこと

第一に、現在の議決権の比率が、3分の2を超えているか、10分の9に達しているかを、自己株式を除いて計算してください。第二に、定款に、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対する売渡しの請求の定めがあるかを確認してください。第三に、株券を発行する旨の定めが登記に残っているかを確認してください。

第四に、返戻された通知の記録と、未受領の配当金の記録が、何年分残っているかを確認してください。第五に、取引の実行の予定日から逆算して、株主総会を開くことができる最終の期日を算出してください。第六に、連絡が取れない株主について、住民票の除票や戸籍の附票による調査の着手日を決めてください。

よくあるご質問

議決権の3分の2に届いていない場合、どの手段を採ることができますか

株式の併合には会社法第309条第2項第4号の特別決議が必要ですので、この段階では用いることができません。任意の買取りにより議決権を積み上げることが先決です。相続が生じている株主がいる場合には、定款に会社法第174条の定めがあるかどうかを確認してください。

特別支配株主の株式等売渡請求は、会社が行うものですか

請求を行うのは特別支配株主であり、会社ではありません。会社は、対象会社として承認をする立場です。したがって、経営者個人又は持株会社が議決権の10分の9以上を有している状態を作ることが前提になります。

買主に直接、少数株主から買い取ってもらうことはできますか

可能ですが、譲渡制限株式であれば、会社の承認の手続が必要です。また、買主が少数株主と個別に交渉することを避けるのが通常であり、実務上は売主側で集約を完了させることを求められます。

端数となる株主に交付する金額は、誰が決めますか

まず会社が売却の方法により定めますが、市場価格のない株式については、会社法第234条第2項に基づく裁判所の許可の手続を経ます。金額に不服のある株主は、会社法第182条の4第1項の買取請求により公正な価格を求めることができます。

集約に要する期間を短くする方法はありますか

制度上の期間を短縮することはできません。短縮できるのは、任意の買取りに要する期間だけです。接触の順序を設計し、提示の水準を先に固め、書面の準備を並行して進めることで、全体の日程を圧縮します。

おわりに

株式の集約は、法律の知識よりも、日程の管理が結果を左右する作業です。どの制度を使うかは、議決権の比率と定款の定めによってほぼ決まっており、選択の余地はそれほど大きくありません。決まっていないのは、いつ着手するかだけです。取引の実行日から逆算し、最も時間を要する手続を起点に工程を組んでください。

買主候補との交渉が始まった、後継者への承継を決めた、株主名簿と実態の食い違いが見つかったという段階であれば、まだ選択の余地があります。株主名簿、登記事項証明書、現に効力を有する定款、直近の配当の支払の記録をお手元に御用意のうえ、御連絡ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

M&A又は事業承継の前の株式の集約に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

法令

会社法第155条(自己の株式を取得することができる場合)及び同条第1号(第107条第2項第3号イの事由が生じた場合)、第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)、第179条第1項(特別支配株主の株式等売渡請求及び議決権の10分の9の要件)、第179条の2第1項及び第3項(株式等売渡請求において定めるべき事項及び割当ての内容)、第180条第1項、第2項及び第4項(株式の併合の決議事項及び理由の説明)、第181条第1項(株主に対する通知)、第182条の4第1項、第3項及び第4項(反対株主の株式買取請求、通知の期間の読替え及び請求の期間)、第196条第1項(通知又は催告を要しない場合)、第197条第1項、第2項及び第3項(所在不明株主の株式の競売、裁判所の許可による売却及び会社による買取り)、第234条第2項(1株に満たない端数の売却に関する裁判所の許可)、第235条第1項及び第2項(株式の併合により生じた端数の処理及び準用)、第309条第2項第4号(株式の併合に係る株主総会の特別決議)

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