少数株主対策を弁護士に依頼するとき 会社が相談すべき時期と、任せられる対応の範囲

会計帳簿の閲覧謄写請求書が届いた、株主総会の招集を請求された、株式を買い取れと繰り返し求められているという会社の経営者の方から御相談をいただきます。相手方の少数株主には代理人弁護士が就いており、会社の側は総務の担当者が独りで書面を受け取っているという状態です。本記事は、会社の側が少数株主への対応を弁護士に依頼するという場面について、どの時点で相談すべきか、そして何をどこまで任せることができるのかを整理したものです。
「少数株主対策」という言葉は、制度の名称ではありません。会社が置かれた状況によって、必要な対応はまったく異なります。請求への回答を期限内に行うことが最優先の場面もあれば、株主総会の運営を組み立て直すことが先の場面もあり、株式の集約そのものに着手すべき場面もあります。弁護士に依頼する際に最初に決めなければならないのは、どの範囲を任せるかです。
以下では、相談すべき時期、任せることができる対応の範囲、社内で用意していただきたい資料、そして費用の考え方の順に御説明します。制度の一般的な解説ではなく、依頼という場面に絞って申し上げます。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに大きく異なりますので、次のとおり整理しております。
- 少数株主への対応全般を弁護士に依頼するという場面……本記事
- 株式買取業者から通知が届いたという場面……株式買取業者から通知が届いた会社が弁護士に依頼するとき 返答の前に確認する事項
「まだ弁護士に頼むほどではない」と考えているうちに、選べる手が減ります
少数株主との関係は、ある日突然に悪化するものではありません。しかし、法律上の期限は、関係が悪化した後になって始まるのではなく、書面が届いた日から進行します。
相談が遅れることによって失われるもの
第1に、期限の徒過です。譲渡等承認請求に対する通知には2週間という期限があり、これを徒過すると承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。第2に、回答の内容による拘束です。担当者が善意で書いた1通の回答書が、後の交渉や裁判所の手続における会社の主張を狭めます。第3に、資料の散逸です。過去の株主総会議事録や払込みの記録は、時間の経過とともに探し出すことが難しくなります。
相談すべき時点は4つあります
第1は、少数株主から会社に対して何らかの書面が届いた時点です。第2は、株主から口頭で買取りの申入れがあり、会社がこれに応じるかどうかを決めなければならない時点です。第3は、株主に相続が発生し、株主が交代した時点です。第4は、M&Aや事業承継を検討し始めた時点です。第4の時点で相談をいただければ、選択できる手段は最も多く残されています。
相手方に代理人が就いた場合
相手方に代理人弁護士が就いた場合、会社の側が担当者名で回答を続けることは避けたほうがよい場面が多いといえます。代理人からの書面は、後に裁判所に提出されることを想定して作成されています。これに対して個別に回答を重ねますと、会社にとって不利な事実の認否が積み上がります。
弁護士に任せられるのは、書面の作成だけではありません
御依頼をいただいた場合に会社に代わって行う業務は、次の4つに整理することができます。
第1 窓口の一本化と、連絡の受領
受任の通知を発することにより、以後の連絡はすべて弁護士が受けることになります。株主本人から代表取締役や従業員に対して直接に連絡が入る状態を止めることは、それ自体が業務上の効果を持ちます。訪問や電話が繰り返されている場合には、この点が最も急を要します。
第2 閲覧謄写請求に対する可否の判断と、開示の範囲の設計
株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条第2項)と会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)とでは、要件も拒絶事由も異なります。会計帳簿については、総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有することが必要であり、請求の理由を明らかにしてしなければなりません。拒絶事由は会社法第433条第2項各号に限定して定められており、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営む者であるときも含まれます(同項第3号)。他方、株主名簿については、平成26年の改正により競争関係を理由とする拒絶事由が削除されていますので、同じ判断枠組みで処理することはできません。
第3 株主総会の運営と、議事の設計
敵対的な株主が出席する株主総会では、招集通知の記載、議決権の集計、動議への対応、議事録の作成のいずれもが後の紛争の材料となります。想定される質問と動議を事前に洗い出し、議長の対応を定めておく作業は、弁護士に任せることができます。当日の出席についても御相談に応じます。
第4 価格に関する交渉と、裁判所の手続
買取りの価格について協議が調わない場合、裁判所の手続に移行します。株式売買価格決定の申立てへの対応、価格の主張を裏付ける資料の準備、鑑定人に対する説明は、いずれも弁護士の業務です。なお、株式の価値の算定そのものは公認会計士等の評価の専門家が行いますので、弁護士はその選定と、算定の前提となる事実の整理を担当します。
弁護士以外の者に交渉を任せることはできません
御相談の中で、「知人のコンサルタントに間に入ってもらっている」と伺うことがあります。この点には注意が必要です。
報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことは禁じられています
弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることは、禁じられています(弁護士法第72条)。株主との買取交渉の代行は、この規定に触れるおそれがあります。
権利を譲り受けて実行することを業とすることも禁じられています
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすることはできません(弁護士法第73条)。株式を買い集めたうえで会社に対する請求を反復する行為については、この規定との関係が問題となり得ます。相手方の属性を確認しておくことは、会社の側の対応方針を決めるうえで意味があります。
登記と税務は、それぞれの専門家の業務です
自己株式の取得や株式の併合に伴う登記の申請は司法書士の、課税関係の検討は税理士の業務です。株式に関する紛争は、これらが同時に進行します。誰が何を担当するかを最初に決めておかないと、手続の途中で滞ります。
依頼の前に、社内で用意していただきたい資料
初回の相談の際に次の資料をお持ちいただければ、その日のうちに方針の骨格を申し上げることができます。
| 区分 | 資料 | 確認する事項 |
| 株主 | 株主名簿、法人税の確定申告書別表2 | 持株比率、名簿と実態の一致 |
| 機関 | 定款、登記事項証明書 | 譲渡制限、取締役会の有無、種類株式 |
| 経緯 | 株主総会議事録、取締役会議事録 | 過去の決議、招集手続の履践 |
| 計算 | 直近3期の計算書類、勘定科目内訳明細書 | 分配可能額、価格の水準 |
| 相手方 | 届いた書面、封筒、これまでの回答の控え | 到達日、請求の趣旨、既にした回答 |
封筒を捨てないでください
到達の日が期間の起算点となる場面が多くあります。配達の記録が残る方法で送付されている場合、封筒又は追跡の記録が到達日を証明する資料となります。
これまでの回答の控えを隠さないでください
担当者が既に何らかの回答をしてしまっている場合、その内容を前提として方針を立てます。後から判明するほうが、はるかに不利益が大きくなります。
期限のある論点は、日付を書き出してから判断します
相談の冒頭で必ず行うのは、期限の確認です。具体的な日付で御説明します。
株式譲渡承認請求に対する通知
令和8年9月14日に株式譲渡承認請求書が会社に到達した場合を考えます。会社は、請求の日から2週間以内、すなわち令和8年9月28日までに、承認をするか否かの決定の内容を請求者に通知しなければなりません(会社法第139条第2項)。この通知をしなかったときは、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。2週間という期間は、取締役会の日程を調整しているうちに経過します。
株主総会の招集の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項。公開会社でない株式会社においては6か月の保有期間の要件はありません(同条第2項))。請求の後に遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間以内の日を会日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は裁判所の許可を得て自ら招集することができます(同条第4項)。令和8年9月14日に請求があった場合、8週間後は令和8年11月9日です。この日までを会日とする招集通知を発するかどうかを、会社は先に決めなければなりません。
役員の解任の訴え
役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、一定の要件を満たす株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。株主総会で議案を否決すれば終わりではありません。総会の日から30日間は、次の局面に備える期間です。
なぜ少数株主は、いまになって権利を行使するのか
相手方の行動には、たいてい引き金があります。3つに整理します。
第1 会社の業績が回復し、株式の価値が上がったため
長く配当もなく放置されていた株式について、決算の内容が伝わった時点で権利の行使が始まることがあります。会計帳簿の閲覧謄写請求は、その入口として用いられます。この場合、相手方が求めているのは会社の支配ではなく、換価です。
第2 相続によって株主が交代したため
創業者と縁のあった株主が亡くなり、その相続人が株主となった場合、会社との人的な関係は失われています。相続人にとって、換価も配当もできない株式は、相続税の負担だけを伴う資産に見えます。会社に対する要求は、その延長線上に出てきます。
第3 買取りを持ちかける第三者が接触しているため
株式買取業者が株主に接触し、売却を勧めている場合があります。株主自身は当初その気がなくとも、手続を代行するという申出を受けて態度が変わることがあります。書面の文体が急に変わった、内容証明郵便が用いられるようになったという場合には、背後に第三者がいることを想定します。
依頼の範囲と費用は、どのように定めるのか
費用について曖昧なまま着手することはありません。範囲を区切り、それに応じた費用を定めます。
範囲を区切って依頼することができます
すべてをまとめて依頼する必要はありません。届いた書面への回答だけ、株主総会の1回分だけ、価格の交渉だけ、という区切り方が可能です。まず期限が迫っている部分だけを依頼し、その後の対応は改めて決めるという進め方が実務的です。
費用の考え方
交渉や裁判所の手続を伴う事件では、着手時にお支払いいただく費用と、結果に応じてお支払いいただく費用とに分けるのが通例です。書面の確認や助言が中心となる場合には、要した時間に応じた費用の定め方もあります。いずれの場合も、鑑定に要する費用、申立ての手数料、登記に要する費用などの実費は別に必要となります。委任契約書に範囲と金額を明記したうえで着手します。
会社の代理人は、代表取締役個人の代理人ではありません
少数株主が代表取締役の責任を追及している場面では、会社の利益と代表取締役個人の利益とが一致しないことがあります。この場合、同一の弁護士が双方を代理することはできません。依頼者が会社であるのか個人であるのかを最初に確定させることは、後の手続の適法性に関わります。相談の際に、この点を必ず確認いたします。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次の事項を御確認ください。
第1に、少数株主から届いている書面を全部集め、それぞれの到達日を書き出してください。封筒が残っていれば併せて保管してください。
第2に、その書面に対して、社内の誰かが既に回答をしているかどうかを確認してください。口頭での返答も含みます。
第3に、定款を開き、株式の譲渡について会社の承認を要する旨の定めがあるか、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対する売渡しの請求に関する定めがあるかを御確認ください。
第4に、株主名簿と法人税の確定申告書別表2とを突き合わせ、記載が一致しているかを御確認ください。一致していない場合は、その理由を関係者に確認してください。
第5に、相手方の株主の持株比率を計算し、100分の3、3分の1、過半数のいずれの水準を超えているかを確認してください。行使できる権利の範囲が変わります。
よくあるご質問
少数株主からの請求を、無視することはできませんか
できません。期限の定めのある請求を放置すれば、会社に不利な効果が法律上生じます。譲渡等承認請求について通知をしなかった場合に承認をしたものとみなされるのが、その典型です(会社法第145条第1号)。また、閲覧謄写請求を正当な理由なく拒んだ場合には、裁判所の手続に移行し、会社は応訴の負担を負います。無視という選択肢はありません。
相手方の要求する価格が高額です。応じなければならないのですか
応じる義務はありません。会社が株主から自己株式を取得することは、法律上定められた場合に限られており(会社法第155条)、株主が求めたからといって会社に買取りの義務が生じるわけではありません。また、取得の対価として交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法第461条第1項)。応じるかどうかは、義務ではなく経営判断の問題です。
顧問税理士に相談していますが、それでは足りませんか
課税関係の検討については税理士の助言が不可欠です。他方、株主に対する回答書の作成、閲覧謄写請求の可否の判断、株主総会の運営、裁判所に対する手続は、弁護士の業務です。両者は代替の関係にありません。相手方に代理人弁護士が就いている場面では、会社の側も弁護士を立てることが対等な前提となります。
依頼したことが株主に知られると、関係が悪化しませんか
弁護士が窓口となることで、やり取りが感情の応酬から法律上の論点に戻ります。かえって早期に収束する例が少なくありません。また、受任の通知を発する時期は、事案に応じて選ぶことができます。まず助言のみを受け、表に出る時期は後に決めるという進め方も可能です。
おわりに
少数株主への対応は、最初の1通の回答書で流れが決まります。期限を徒過した後に取り戻すことはできませんし、いったん書いてしまった回答を後から撤回することも容易ではありません。逆に、期限と資料を押さえたうえで着手すれば、会社の側が主導権を持って進めることができる場面は多くあります。
書面が届いた、株主から呼び出しを受けている、株主総会が近いという段階であれば、まだ選択の余地があります。届いた書面と定款、株主名簿をお手元に御用意のうえ、お電話をいただければ、その日のうちに期限と方針の骨格を申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
少数株主対策に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第125条第1項、第2項及び第3項(株主名簿の備置き及び閲覧等)、第139条第1項及び第2項(譲渡等の承認の決定等)、第145条第1号(株式会社が承認をしたとみなされる場合)、第155条(自己株式の取得ができる場合)、第297条第1項、第2項及び第4項(株主による招集の請求)、第433条第1項及び第2項第3号(会計帳簿の閲覧等の請求)、第461条第1項(配当等の制限)、第854条第1項(株式会社の役員の解任の訴え)
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
公表資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
なお、同会議において検討されている財産評価基本通達の見直しは、内容も実施の時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。
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