名義株主の整理を弁護士に依頼するとき 真の株主を確定させる手順と、M&Aの前に済ませるべきこと

買主から株主名簿の記載と実態が一致していないと指摘された、あるいは創業の際に名義を借りた親族の相続人から株主として扱えと言われたという会社の経営者の方から御相談をいただきます。株主名簿には名前があるものの、出資をしたのは先代であり、配当も受け取っていないという株式です。本記事は、会社の側が名義株主の整理を弁護士に依頼するという場面について、真の株主を確定させる手順と、M&Aの前に済ませておくべきことを整理したものです。
名義株主の問題は、社内では長く「暗黙の了解」として処理されてきたことが少なくありません。ところが、相続が発生した時点、あるいは買主のデュー・ディリジェンスが始まった時点で、その了解は通用しなくなります。名義人が権利を主張し始めてからでは、集められる証拠が限られます。順序としては、争いになる前に事実を固めておくほかありません。
以下では、名義株主の類型、真の株主が誰であるかの判断の枠組み、弁護士に任せられる手順、名義人が争う場合の対応、そして依頼の時期と費用の考え方を御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに大きく異なりますので、次のとおり整理しております。
- 名義株主の整理を弁護士に依頼するという場面……本記事
- 株主総会の決議によって排除するという場面……スクイーズアウトによる少数株主の排除を弁護士に依頼するとき 手法の選択と価格紛争への備え
名義株主の問題は、M&Aの直前に必ず表に出ます
会社の内部では問題が生じていなくとも、外部の当事者が入った瞬間に、株主が誰であるかは正面から問われます。
買主は、株主名簿の記載を出発点として確認します
買主は、対象会社の株式の全部を取得することを前提として、株主名簿に記載された者から順に権利の所在を確認します。名簿上の株主が実際には出資をしていないという説明は、それだけでは通りません。買主が求めるのは、名義人が権利を有しないことを裏付ける資料です。
表明保証の交渉に直結します
株式譲渡契約書では、売主が対象株式の完全な権利を有していること、対象会社の発行済株式の総数と株主が正確であることを表明し保証するのが通例です。名義株主の整理が未了であれば、この表明保証に例外を設けるか、補償の額を積み増すか、クロージングの前提条件とするかという交渉になります。いずれも売主にとって不利な方向に働きます。
放置した場合に起きること
名義人又はその相続人が権利を主張し始めた場合、会社は株主名簿の記載に基づく扱いを求められます。株主総会の招集通知の送付、議決権の行使、剰余金の配当、閲覧謄写請求への対応が現実の問題となります。過去の株主総会の決議の効力が争われる余地も生じます。
「名義株主」といっても、3つの類型があります
類型によって、集めるべき証拠も、とるべき手続も異なります。まず分類から始めます。
| 類型 | 生じた経緯 | 中心となる証拠 |
| 員数合わせ型 | 設立時の発起人の人数をそろえるため名義を借りた | 払込みの原資、設立時の記録 |
| 親族名義型 | 増資の際に親族の名義を用いた | 振込みの記録、配当の受領者 |
| 名義書換未了型 | 譲渡又は相続の後に名簿が更新されていない | 譲渡の契約書、戸籍、遺産分割協議書 |
名義書換未了型は、名義株主とは別の問題です
過去の譲渡や相続について株主名簿が更新されていないだけであれば、真の株主が誰であるかについて争いはありません。株式を会社以外の者から取得した者は、会社に対し、株主名簿記載事項を記載し、又は記録することを請求することができます(会社法第133条第1項)。この請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同してしなければなりません(同条第2項)。共同での請求ができる状態にあるかどうかが、作業量を分けます。
類型が混在している会社が最も手間を要します
設立から数十年を経た会社では、3つの類型が混在していることが通例です。株主ごとに分類し、それぞれに必要な手続を割り当てるという作業から始めます。この分類の作業自体を、弁護士に任せていただくことができます。
誰が真の株主かは、どのような基準で判断されるのか
名義人と実質的な出資者とが異なる場合、いずれを株主として扱うべきかについては、確立した判断の枠組みがあります。
他人の名義を用いて引き受けた場合の取扱い
他人の承諾を得てその名義を用いて株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者が株主となると解するのが相当であるとした最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決(民集21巻9号2448頁)があります。名義の記載のみによって形式的に判断するのではなく、実質に即して判断するという立場です。
実質を判断する際に見られる事情
実際の判断においては、払込みの原資を誰が拠出したか、株券が発行されている場合に誰が占有していたか、剰余金の配当を誰が受領していたか、株主総会において誰が議決権を行使してきたか、名義人が名義の使用を承諾していたか、名義人が株主として扱われることを求めた事実があるかといった事情が総合的に考慮されます。1つの事情で決まるものではありませんので、資料を積み上げる作業が必要です。
株主名簿の記載が持つ意味
株式の譲渡は、取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。株券発行会社においては、会社に対する関係でのみ対抗要件となります(同条第2項)。名簿の記載は会社の事務処理の基準として機能しますので、実質を主張する側には、これを覆すだけの資料が求められます。会社が自ら整理に着手する意味は、この点にあります。
弁護士に任せられる手順は、4つの段階に分かれます
御依頼をいただいた場合、次の順序で進めます。
第1 事実の調査と、証拠の収集
設立時の定款、登記事項証明書、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、株主総会議事録、配当の支払調書、預金の取引記録を収集し、株式ごとに払込みの原資と配当の受領者を追跡します。古い資料が残っていない場合には、関係者からの聴取によって補います。この段階を省くと、後の交渉で押し切られます。
第2 名義人との交渉と、確認書の取得
名義人に対し、当該株式について権利を有しないことを確認する書面への署名を求めます。書面の文案には、対象となる株式の特定、名義を貸したという経緯、今後権利を主張しないという条項を盛り込みます。名義人が高齢である場合や既に相続が発生している場合には、相続人の全員から取得する必要があります。交渉と文案の作成は、弁護士の業務です。
第3 株主名簿の整備
確認書を取得したうえで、株主名簿を実態に合わせて整えます。名義人から真の株主への名義書換という形をとるのか、いったん会社が取得するのかは、事案によって異なります。整備の経緯を記録として残すことが、後に買主へ説明する際の資料となります。
第4 争いになった場合の対応
名義人が権利を主張して譲らない場合には、株主の地位の確認を求める訴訟によって決着させることになります。この場合、第1段階で収集した資料がそのまま証拠となります。訴訟に至る前に、会社が株式を買い取ることで解決する例も多くあります。
名義人が死亡している場合と、会社が買い取る場合の手続
実務上、最も多く御相談をいただくのがこの2つの場面です。
名義人が死亡している場合
名義人が死亡している場合、確認書を取得すべき相手は相続人の全員となります。相続人の調査には戸籍の収集が必要であり、人数が多い場合には数か月を要します。遺産分割が未了である場合、株式は相続人の共有となりますので、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。
会社が買い取る場合の日程
会社が特定の株主から自己株式を取得する場合、株主総会の決議によって取得する株式の数などを定め(会社法第156条第1項)、あわせて通知を特定の株主に対して行う旨を定めます(会社法第160条第1項)。この決議は特別決議によります(会社法第309条第2項第2号)。会社は、他の株主に対し、自己をも売主に加えることを請求することができる旨を通知しなければならず(会社法第160条第2項)、その時期は原則として株主総会の日の2週間前です(会社法施行規則第28条)。他の株主からの請求は、原則として株主総会の日の5日前までにされます(会社法施行規則第29条)。株主総会の日を令和8年11月20日と定めた場合、通知の期限は令和8年11月6日、他の株主からの請求の期限は令和8年11月15日となります。
相続人等からの取得については特則があります
公開会社でない株式会社が、相続その他の一般承継により株式を取得した者からその株式を取得する場合には、売主追加請求に関する規定は適用されません(会社法第162条本文)。ただし、当該相続人等が株主総会又は種類株主総会において当該株式について議決権を行使した場合は、この限りではありません(同条第2号)。相続の発生後に相続人を株主総会に出席させて議決権を行使させてしまうと、この特則を使えなくなります。順序を誤らないでください。なお、株式の発行後に定款を変更して売主追加請求に関する規定を適用しない旨の定めを設けるには、当該株式を有する株主全員の同意が必要です(会社法第164条第2項)。
財源の制限
会社が自己株式を取得する場合、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項)。名義株主の整理を自己株式の取得によって行う場合には、この点を先に確認します。
なぜ名義人は、確認書に応じないのか
名義人が署名を拒む場合、そこには相応の理由があります。3つに整理します。
第1 経緯を知らされていないため
名義を貸したのは先代であり、現在の名義人は相続によって株主となった方であることが少なくありません。この場合、名義人は自らが真の株主であると認識しています。経緯を示す資料を提示しないまま署名だけを求めれば、拒まれるのは当然です。
第2 会社の状況が伝えられていないため
M&Aを検討していることを伏せたまま整理を進めようとすると、後にその事実を知った名義人との間で信頼関係が失われます。開示の範囲と時期は、秘密保持の要請と併せてあらかじめ設計しておく必要があります。
第3 何らかの対価を期待しているため
権利がないことを理解していても、無償での署名には応じないという場合があります。この場合は、解決金を支払って確認書を取得するのか、権利の不存在を前提として押し切るのかという判断になります。証拠の厚みが、この判断を左右します。
依頼の時期と範囲、そしてM&Aの前に済ませるべきこと
名義株主の整理は、M&Aの日程表の中で最も早い時期に着手すべき作業です。
買主を探し始める前に着手してください
整理が完了していれば、株主構成は買主に提示できる材料となります。逆に、交渉に入ってから着手しますと、期限に追われて名義人に対する交渉力を失います。相手方も、会社が急いでいることを察知します。
相続が発生する前に着手してください
名義人が存命であるうちに確認書を取得できれば、作業は1名との交渉で終わります。相続が発生すれば、相続人の全員を相手とすることになり、期間も費用も増えます。名義人の年齢は、着手の時期を決める要素の一つです。
依頼の範囲と費用の考え方
まず調査のみを依頼し、その結果を見て交渉を依頼するという段階的な進め方が可能です。費用は、株主の人数と、交渉又は訴訟に至るかどうかによって変わります。戸籍の収集に要する費用、訴訟に至った場合の申立ての手数料、登記に要する費用は、実費として別に必要となります。委任契約書に範囲と金額を明記したうえで着手します。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次の事項を御確認ください。
第1に、株主名簿と、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書を並べ、記載が一致しているかを御確認ください。一致していない場合は、いつから食い違っているかを確認してください。
第2に、株主名簿に記載された株主のうち、実際には出資をしていないと思われる者を書き出してください。あわせて、その方が存命であるかどうかを確認してください。
第3に、設立時の資料、増資の際の払込みの記録、配当の支払調書が社内又は顧問税理士のもとに残っているかを御確認ください。
第4に、名義人又はその相続人に対して、これまでに株主総会の招集通知を送付していたかどうかを御確認ください。送付の有無は、後の主張に影響します。
第5に、定款を開き、株式の譲渡について会社の承認を要する旨の定めと、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対する売渡しの請求に関する定めの有無を御確認ください。
よくあるご質問
名義人が「自分が株主だ」と言い張っています。会社はどう扱えばよいですか
確定するまでの間、会社としては株主名簿の記載に従って事務を処理せざるを得ない場面があります。もっとも、その取扱いを続けること自体が、名義人の主張を補強する事情となり得ます。招集通知の送付、議決権の行使、配当の支払について、どのように処理するかを早い段階で決めておく必要があります。処理の方針は、収集した資料の内容によって変わりますので、御相談ください。
先代が名義を借りた相手が誰か分かりません
設立時の定款、登記事項証明書、株主名簿、確定申告書の添付書類から追跡します。これらが残っていない場合でも、預金の取引記録や当時の関係者からの聴取によって事実を組み立てられることがあります。資料が乏しいという理由だけで整理を諦める必要はありません。
名義人に金銭を支払って解決することは問題ありませんか
権利を有しない者に対する支払として整理するのか、株式の買取りの対価として整理するのかによって、必要な手続が異なります。株式の買取りとして整理する場合には、自己株式の取得の手続と財源の制限(会社法第461条第1項)が関わります。書面の作り方によって後の扱いが変わりますので、支払の前に御相談ください。
司法書士に株主名簿を作り直してもらえば足りませんか
株主名簿の様式を整えることと、誰が株主であるかを確定させることは別の作業です。名義人との交渉、確認書の文案の作成、争いになった場合の訴訟は、弁護士の業務です。他方、登記の申請は司法書士が、課税関係の検討は税理士が担当します。役割を最初に分けたうえで進めてください。
おわりに
名義株主の整理は、時間の経過とともに難しくなる作業です。経緯を知る方が存命であるうちに事実を固め、書面として残しておけば、後から争われても対応できます。逆に、相続が重なるほど当事者は増え、資料は失われます。
買主から株主構成について指摘を受けている、名義人の相続人から連絡があった、あるいは事業承継を考え始めたという段階であれば、まだ間に合います。株主名簿と定款、確定申告書の添付書類をお手元に御用意のうえ、お電話をいただければ、その日のうちに手順と見通しを申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
名義株主の整理に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第106条(共有者による権利の行使)、第130条第1項及び第2項(株式の譲渡の対抗要件)、第133条第1項及び第2項(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)、第156条第1項(自己株式の取得に関する事項の決定)、第160条第1項、第2項及び第3項(特定の株主からの取得)、第162条(相続人等からの取得の特則)、第164条第2項(特定の株主からの取得に関する定款の定め)、第309条第2項第2号(株主総会の特別決議)、第461条第1項(配当等の制限)
会社法施行規則第28条(株主に対する通知の時期)、第29条(議案の追加の請求の時期)
国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
裁判例
最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決(民集21巻9号2448頁。他人の承諾を得てその名義を用いて株式を引き受けた場合において、実質上の引受人が株主となるとされた事例)
公表資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
なお、同会議において検討されている財産評価基本通達の見直しは、内容も実施の時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。
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