少数株主から株主名簿の閲覧及び謄写の請求を受けた会社側の弁護士対応
内容証明郵便で、株主名簿の閲覧及び謄写を求める請求書が届いた。差出人は、10年以上前に退職した元従業員の相続人であったり、面識のない法人であったりします。請求の理由の欄には「株主としての権利を確保するための調査」とだけ書かれ、それ以上の説明はありません。社内では、応じてよいのか、いつまでに返答すべきなのかが決まらないまま、日が過ぎていきます。
株主名簿は、株式会社が本店に備え置くことを義務付けられた法定の帳簿です。そのため、会計帳簿と異なり、請求をする側に持株比率の要件がありません。議決権を1個しか持たない株主でも、また株主ではない債権者でも、請求そのものは可能です。株式が相続により分散した会社、従業員持株制度を廃止した後に株式が残っている会社では、この請求が突然届くことが増えています。
結論から申し上げます。株主名簿の閲覧及び謄写の請求を拒むことができるのは、会社法第125条第3項が掲げる4つの事由のいずれかに当たる場合に限られ、その事由に当たる事実は、拒む会社の側が示さなければなりません。届いた日に行うべきことは、応じるか拒むかを決めることではなく、拒絶事由に当たる事実を集めることができるかどうかを、期限を区切って見極めることです。以下、順に御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
閲覧及び謄写の請求は、対象となる帳簿ごとに要件も拒絶事由も異なりますので、場面を分けて御説明します。
- 株主名簿の閲覧及び謄写の請求を受けた場面……本記事
- 会計帳簿及びその資料の場合……会計帳簿の閲覧謄写を請求されたときの会社の初動
- 取締役会の議事録の場合……取締役会の議事録の閲覧謄写を請求されたときの会社の判断
- 請求を受ける前の平時の備え……株式買取業者が現れる前に会社が備えておくべき少数株主対策
請求書が届いた日から、対応の期限が動き始めます
会社法第125条第2項は、株主及び債権者は「株式会社の営業時間内は、いつでも」閲覧又は謄写の請求をすることができると定めています。この条文に、何日以内に回答せよという定めはありません。しかし、営業時間内であればいつでも応じなければならない建て付けである以上、合理的な期間を超えて回答をしない状態は、実質的に拒絶したものとして扱われます。
拒絶が正当な理由に基づかないと判断された場合、会社法第976条第4号により、取締役等は100万円以下の過料に処せられることがあります。同号は、この法律の規定に違反して、正当な理由がないのに書類の閲覧若しくは謄写又は謄本若しくは抄本の交付を拒んだときを、過料の対象として掲げています。回答をしないという不作為も、この評価を受け得ます。
実務上は、請求書が到達した日を起算点として、2週間程度を目安に書面で回答する運用が通常です。株主総会の招集の通知の発送日や基準日が近接している場合には、この目安を前倒しします。到達日は、封筒、配達証明、社内の受付記録によって特定し、誰が最初に開封したかまで残してください。
請求の形式が整っているかを最初に確認します
最初に確認するのは、請求者が誰であるかです。会社法第125条第2項が請求権者として掲げているのは、株主及び債権者です。株式を譲り受けたと主張する者や、相続により取得したと主張する者であっても、名義書換えが未了であれば、株主として請求することはできません。この場合、会社は、名義書換えの手続を先に案内することになります。
次に、請求の理由が明らかにされているかを確認します。同項の後段は、請求をする場合においては「当該請求の理由を明らかにしてしなければならない」と定めています。理由の記載は、会社が拒絶事由の有無を判断することができる程度に具体的である必要があります。もっとも、その具体性の程度は会計帳簿の場合より緩やかに解されており、形式の不備を理由とする門前払いは避けるべきです。
このほか、請求の対象が書面としての株主名簿か、電磁的記録として作成された株主名簿かを確かめます。同項第1号と第2号は、この2つを書き分けています。代理人による請求であれば委任状の原本を、法人による請求であれば代表者の資格を証する書面を求めます。なお、会計帳簿について会社法第433条第1項が議決権又は株式数の100分の3以上という要件を課しているのに対し、株主名簿にはこの種の持株要件がありません。持株の少なさを理由に拒むことはできません。
拒絶することができる事由は法律に限定されています
会社法第125条第3項は、請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができないと定めています。第1号は、請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。第2号は、会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。第3号は、閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。第4号は、過去2年以内に、そのような通報をしたことがある者であるときです。
ここで会社の側が誤りやすいのが、競業関係を理由とする拒絶です。会計帳簿については、会社法第433条第2項第3号が、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるときを拒絶事由としています。ところが、株主名簿に関する会社法第125条第3項には、これに対応する号がありません。同業他社が株式を保有しているという事情だけでは、拒む根拠になりません。
また、第1号から第4号までのいずれについても、その事実を主張し、資料によって裏付ける負担は、拒む会社の側にあります。条文が「次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない」という書き方をしているためです。請求者の目的が疑わしいという印象や社内での評判は、資料になりません。
拒絶する場合の回答書の書き方
拒絶する旨の回答書には、会社法第125条第3項のどの号に該当すると考えるのかを特定して記載します。号を特定せず、目的が不明である、権利の濫用に当たるといった抽象的な理由だけを述べた回答書は、後の審理において会社の主張を弱めます。号を特定したうえで、そう判断した根拠となる事実を、日付と出所を付して摘示します。
根拠となる事実の例としては、請求者が他社の名簿の記載を第三者に提供して対価を得たことをうかがわせる書面、請求者から会社に届いた過去の書面のうち株式の高額での買取りを求める記載があるもの、請求者と株式買取業者との関係を示す登記事項証明書が挙げられます。これらは請求書が届いてから集め始めたのでは間に合わず、平時からの保存が効いてきます。
回答書は、配達の記録が残る方法で送付し、控えを保存します。一部について応じる場合には、応じる範囲と応じない範囲を明確に区分します。理由の記載が不十分であると考える場合には、直ちに拒絶せず、理由の補充を求める書面を先に送る方法もあります。この場合は、補充を求める趣旨であって拒絶ではないことを明記し、回答の期限を示します。
応ずる場合に、どこまでを開示するのか
応じる場合の対象は、会社法第125条第1項が本店に備え置くことを義務付けている株主名簿そのものです。法定の記載事項は、株主の氏名又は名称及び住所、その株主の有する株式の数、株式を取得した日、株券発行会社であれば株券の番号です。開示は、この範囲で足ります。
これに対し、会社が株主管理のために別に作成している資料は、株主名簿ではありません。取得の経緯を記載した社内のメモ、配当金の振込先の口座番号、電話番号や電子メールの宛先、相続の際に提出を受けた戸籍の写しが、これに当たります。これらを同じ台帳に混在させている会社では、必要のない情報まで渡してしまう事故が起きます。
閲覧の方法は、日時、場所、立会いの有無、謄写の方法及び費用の負担を、あらかじめ書面で示して合意しておきます。本店の会議室において担当者の立会いのもとで行い、謄写は会社が用意する複写機によるものに限るといった条件を定めることは、閲覧に応じる態度と両立します。なお、個人情報の保護を理由として開示を拒むことはできません。会社法第125条による開示は、法令に基づく提供に当たるためです。
仮処分を申し立てられた場合の見通し
拒絶した場合、請求者は、閲覧及び謄写を求める仮処分を申し立てることがあります。これは、民事保全法第23条第2項の、仮の地位を定める仮処分に当たります。同項は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができると定めています。閲覧を認めれば目的が達成されてしまう類型ですので、審理は本案に近い密度で行われます。
もっとも、同条第4項は、この仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができないと定めています。ただし書による例外はあるものの、会社に主張の機会が与えられないまま命令が出ることは通常ありません。会社としては、審尋の期日までに、第125条第3項の各号に該当する事実と、その裏付けとなる資料を整えることになります。
審理において陥りやすいのは、拒絶の理由を後から追加することです。回答書に記載していなかった事由を審尋の段階で持ち出すと、理由の後付けであるとの指摘を受け、主張全体の信用性が下がります。回答書を作成する段階で、主張し得る事由を洗い出しておく必要があるのは、このためです。
請求の背後にある目的を読む
この請求は、それ自体で完結することがまれです。請求者が名簿を入手した後に行うことは、おおむね決まっています。他の少数株主に接触して株式を買い集めること、委任状の勧誘を行って議決権を集めること、名簿の情報を株式買取業者に提供して対価を得ること、集めた議決権を背景として株主総会の招集を請求することです。
したがって、会社が確認すべきは、請求者の属性と、請求者が過去に接触した相手です。請求者が株式買取業者である場合、その業者が他社で行った活動の記録、業者と特定の株主との資本関係、請求書の連絡先が過去の別の書面と一致するかどうかは、第125条第3項第3号及び第4号の判断に直結します。
あわせて、社内で株主名簿の情報がどの範囲に共有されているかを、誰が、いつ、何のために持ち出したかまで点検します。過去に会社の側から株主の一覧を第三者に提供した経緯があれば、拒絶の主張は説得力を失います。
なぜ請求は、株主総会の前に集中するのか
この請求が定時株主総会の前に集中するのには、条文上の理由があります。会社法第124条第1項は、会社が一定の日を基準日と定め、その日に株主名簿に記載され、又は記録されている株主を、権利を行使することができる者と定めることができるとしています。議決権を行使することができる者は、基準日における名簿の記載によって固定されます。
また、会社法第126条第1項は、会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した株主の住所にあてて発すれば足りると定めています。会社法第299条第1項が定める招集の通知も、この住所にあてて発することになります。名簿の記載が実態とずれていれば、招集の手続に瑕疵が生じ、決議の取消しの原因となり得ます。
請求者の側から見れば、基準日の直後に名簿を得ることができれば、議決権を行使することができる株主の全員を把握したうえで、委任状の勧誘に着手することができます。この時期の請求は、総会の運営に直結する動きの前触れです。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士に委ねることができるのは、請求書の形式の審査、拒絶事由に該当する事実の洗い出しと資料化、回答書の起案と発送、閲覧に応じる場合の条件の設計と立会い、仮処分の申立てを受けた場合の答弁と審尋への対応です。窓口を一本化すれば、担当者が請求者から直接に連絡を受け、その場で不用意な回答をしてしまう事態を避けられます。
依頼の時期は、請求書が到達した日から数日以内が適切です。回答の目安が2週間程度であることを踏まえると、事実を集め資料を揃えるための時間は、実際にはほとんど残っていません。特に、請求者の過去の活動に関する資料は外部から取り寄せる必要があるため、着手が遅れるほど選択肢が狭まります。
いま確認していただきたいこと
第一に、請求書の到達日と、社内で最初にこれを受領した者を特定してください。第二に、請求者が現に株主名簿に記載された株主であるか、又は債権者であるかを確認してください。第三に、請求の理由の記載が、会社法第125条第3項の各号の判断をすることができる程度のものであるかを検討してください。
第四に、株主名簿として備え置いている台帳に、法定の記載事項以外の情報が混在していないかを点検してください。第五に、次の定時株主総会の日、基準日、招集の通知の発送予定日を一覧にし、回答の期限との前後関係を確認してください。第六に、請求者と株式買取業者との関係をうかがわせる資料が社内にないかを、過去の郵便物と面談の記録にさかのぼって探してください。
よくあるご質問
請求を無視した場合、どのような不利益がありますか
正当な理由なく拒んだものとして扱われれば、会社法第976条第4号により、取締役等が100万円以下の過料に処せられることがあります。加えて、仮処分の手続において、会社が誠実に対応していないという心証を与えます。応じないという判断をするのであれば、必ず理由を付した書面で回答してください。
1株しか保有していない株主からの請求も拒めませんか
拒めません。会社法第125条第2項は、株主であることのほかに持株数の要件を定めていません。会計帳簿の閲覧等について会社法第433条第1項が100分の3以上という要件を課しているのとは、条文の作りが異なります。
請求者が同業の会社である場合はどうなりますか
競業関係にあることは、株主名簿については拒絶事由ではありません。会社法第433条第2項第3号に相当する定めが、会社法第125条第3項には置かれていないためです。競業関係を同項第2号の目的の裏付けとして位置付けることはあり得ますが、それだけでは足りません。
記載事項の一部を伏せた写しを渡すことはできますか
法定の記載事項の一部を削除したものを提示すれば、拒絶の一部と評価されます。削除する場合は、削除した項目とその理由を回答書に明記してください。備え置いている名簿の記載事項をそのまま示すのであれば、様式を整えて謄写に応じることは差し支えありません。
閲覧に要する費用を請求者に負担させることはできますか
謄写に実際に要する費用の実費を負担していただくことは可能です。もっとも、実費を大きく超える金額を提示することは、実質的に閲覧を妨げるものとして拒絶と同視されるおそれがあります。金額の根拠を示すことができる水準にとどめてください。
おわりに
この請求は、会社にとって不意打ちのように見えますが、条文の構造は明確です。拒むことができる場合が4つに限られ、その事実を示す負担が会社の側にあるという一点を押さえておけば、判断が感情に流れることはありません。拒絶事由に当たる事実を集められるかを冷静に見極め、集められないのであれば条件を整えて応じ、その先の展開に備えることが現実的です。
請求書が届いた、株主総会が近い、株式買取業者からの接触があるという段階であれば、まだ打つ手があります。届いた書面、現に効力を有する定款、株主名簿、直近の株主総会の招集の通知をお手元に御用意のうえ、御連絡ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株主名簿の閲覧及び謄写の請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
法令
会社法第125条第1項(株主名簿の備置き)、第125条第2項(株主及び債権者による閲覧又は謄写の請求並びに理由の明示)、第125条第3項第1号から第4号まで(拒むことができる場合の限定列挙)、第126条第1項(株主に対する通知又は催告の宛先)、第124条第1項(基準日)、第299条第1項(株主総会の招集の通知)、第433条第1項及び第2項第3号(会計帳簿の閲覧等の請求の要件及び競争関係を理由とする拒絶)、第976条第4号(正当な理由なく閲覧又は謄写を拒んだ場合の過料)
民事保全法第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令の必要性)、第23条第4項(口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日)
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