M&Aで少数株主が残っていると何が問題になるか

会社の売却を検討し始めたところ、以前から株主名簿に記載されたままになっている少数株主が何名か残っており、この状態のままM&Aを進めてよいものかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、買主にとって、少数株主の存在が取得後の会社運営の自由度を制約する要因となり、価格の減額や取引そのものの見送りの理由として作用しかねないという点です。

以下では、少数株主が保有する議決権の割合に応じてどのような制約が生じるのか、及び保有割合を確認する際の留意点を御説明します。

6 買主の要求 全部の取得を求めているか、条件の設定を許容するか
7 日程 基本的な合意の時期、クロージングの予定
8 少数株主への情報の伝達の状況 譲渡の予定を知っているか

 保有割合を正確に確認します

残っている少数株主の合計の保有割合によって、買主の要求と、採り得る対応が異なります。株主名簿により正確に確認してください。

 株主名簿と実態の一致を確認します

株主名簿の記載と実態が異なる場合、その解明が求められます。名義株式とされる株式がある場合、株主権の帰属そのものが問題となります。

 日程を確認します

基本的な合意からクロージングまでの期間と、少数株式の取得に要する期間とを比較してください。期間が不足する場合、条件の設定によって対応することになります。

 情報の伝達の状況を確認します

少数株主が譲渡の予定を知っているかどうかは、その後の協議に大きく影響します。既に知られている場合、条件の交渉が難しくなることがあります。

会社側の法的な立場

 取引の条件に反映される4つの局面

表2 少数株主の存在が取引の条件に反映される局面

局面 具体的な内容
表明すべき事項 株式に関する事項について、売主が事実を表明することになります
価格の調整 少数株式の取得に要する費用が価格に反映されることがあります
クロージングの条件 少数株式の取得を実行の条件とすることがあります
補償に関する定め 少数株主に関する紛争が生じた場合の負担に関する定めが置かれます

以下、それぞれについて整理します。

 表明すべき事項への影響

株式の譲渡の契約においては、売主が、株式に関する事項について事実を表明することが一般的です。

表明の対象となるのは、発行済株式の総数、株主名簿の記載の正確性、株式に第三者の権利が付いていないこと、株式の発行及び移転の手続が適法に行われたことといった事項です。

少数株主が残っている場合、これらの事項について、売主が表明できる範囲が限られます。とりわけ、株主名簿の記載の正確性、過去の株式の移転の適法性については、売主が把握していない事情がある可能性があります。

表明できない事項がある場合、その部分について例外を設けるか、補償の対象とするかを交渉することになります。

 価格への影響

少数株式が残っている場合、買主は、これを取得するために将来要する費用を見込むことになります。この見込みは、価格の減額として反映されることがあります。

また、少数株主との紛争が生じるおそれがあると評価される場合、そのリスクも価格に反映され得ます。

さらに、買主が全部の株式の取得を強く求める場合、売主が自ら少数株式を取得したうえで譲渡することが求められます。この場合、取得に要する費用は売主の負担となります。

 クロージングの条件への影響

株式の譲渡の契約においては、実行の前提となる条件が定められます。少数株主が残っている場合、次のような条件が置かれることがあります。

発行済株式の全部について売主が権利を有していること。譲渡について会社の承認を得ていること。少数株主から株式を取得していること。少数株主との間で紛争が存在しないこと。

これらの条件が満たされない場合、買主は実行を拒むことができることになります。したがって、条件の設定は、取引が実行されるかどうかに直結します。

 補償に関する定めへの影響

クロージングの後に少数株主に関する紛争が生じた場合の負担について、定めが置かれます。

株主権の帰属が争われた場合、過去の株式の移転の効力が争われた場合、少数株主が権利を行使した場合の負担を、いずれが負うのかという問題です。

売主にとっては、譲渡の後も一定期間、負担を負い続けることを意味します。

会社側が検討し得る選択肢

表3 交渉が進んでいる段階での選択肢

選択肢 内容 検討事項
クロージングまでに取得する 売主が少数株式を取得したうえで譲渡します 期間、費用、相手方の意向
クロージングの条件としない 少数株主が残ることを前提に条件を設定します 価格、補償への影響
買主に取得を委ねる クロージングの後に買主が取得します 価格への影響が大きくなります
法律上の手続を用いる 株式の併合その他の手法により整理します 期間、要件、争われた場合の備え
日程を延期する 整理を完了させてからクロージングとします 買主の意向

 クロージングまでに取得するという選択

最も望ましい選択ですが、期間の制約があります。相手方が応じる見込みがあるか、期間内に完了できるかを見極める必要があります。

なお、譲渡の予定を知らせずに取得を進めることについては、後日、少数株主から問題とされる余地があります。この点の取扱いについては、事案ごとの検討を要します。

 少数株主が残ることを前提とする選択

買主が許容する場合、少数株主が残ることを前提に条件を設定するという方法があります。この場合、価格の調整、補償に関する定めについて交渉することになります。

売主にとっては、譲渡の後も負担が残ることを意味します。負担の範囲と期間について、明確に定めておく必要があります。

 法律上の手続を用いる選択

合意による取得ができない場合、法律上の手続によることになります。もっとも、対価の額について裁判所の判断を求める手続が用意されており、この手続が係属している状態は買主にとって見通しの立たない要素となります。

日程との関係で、この方法を選択できるかどうかを検討する必要があります。

 日程を延期するという選択

整理を完了させてからクロージングとするという方法があります。買主の意向によりますが、見通しの立ちやすさという観点からは望ましい選択です。

してはいけない対応

表4 避けるべき対応

避けるべき対応 理由
少数株主の存在を買主に開示しない 表明すべき事項に反することになり、補償の問題を生じます
株主名簿と実態の相違を放置する デューデリジェンスにおいて問題となります
譲渡の予定を秘したまま著しく低い価額で取得する 後日、少数株主から問題とされる余地があります
期限に追われて法律上の手続を圧縮する 手続の要件を欠く原因となります
少数株主に対して急いでいることを露わにする 条件の交渉が難しくなります
補償の範囲を曖昧にしたまま契約する 譲渡の後に予期しない負担が生じます
過去の株式の移転の記録を確認しないまま進める 株主権の帰属が争われる原因となります

とりわけ、少数株主の存在を買主に開示しないという対応は避けてください。デューデリジェンスにおいて明らかになった場合、取引そのものへの信頼が損なわれます。

案件として確認すべき事項

表5 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
株主構成 株主名簿、各株主の関係、株式数と割合
移転の経緯 各株主が株式を取得した経緯と資料
名義株式 実質の株主と名簿上の株主が異なる可能性
交渉の段階 基本的な合意の有無、デューデリジェンスの状況
買主の要求 全部の取得を求めているか
契約書の案 表明すべき事項、条件、補償に関する条項
日程 クロージングの予定
定款 譲渡制限、種類株式に関する定め
少数株主の状況 所在、連絡の可否、対立の有無
資金 取得に充てることができる資金

弁護士に相談する意味

M&Aの交渉が進んでいる段階で少数株主の問題が明らかになった場合、対応には期限があります。クロージングの日程から逆算して、実行可能な方法を絞り込む必要があります。

また、契約書における表明すべき事項、クロージングの条件、補償に関する定めは、いずれも売主の負担に直結します。少数株主に関する条項をどのように設けるかは、譲渡の後の負担を左右します。

さらに、少数株式の取得を進めるにあたっては、譲渡の予定との関係、対価の水準、情報の管理について検討を要します。取得の方法を誤ると、譲渡の後に少数株主から問題とされ、補償の対象となる事態が生じ得ます。

M&Aの助言を受けている専門家がいる場合であっても、少数株主との関係については、会社法上の紛争を扱う立場からの検討が有用です。当事務所は、この局面についてご相談をお受けしております。

なお、取得の進め方、情報の管理の方法、買主との交渉における整理の仕方については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 数パーセントの少数株主でも問題になりますか。

割合の多寡にかかわらず、表明すべき事項、クロージングの条件、補償に関する定めに影響します。

質問2 買主に伝えなくてもよいのではありませんか。

デューデリジェンスにおいて明らかになります。開示しないことは、表明すべき事項に反することになり、補償の問題を生じます。

質問3 譲渡の予定を伝えずに買い取ってよいですか。

後日、少数株主から問題とされる余地があります。取扱いについては事案ごとの検討を要しますので、ご相談ください。

質問4 クロージングまでに間に合いません。

条件の設定、価格の調整、日程の延期といった選択肢があります。契約書の案を拝見したうえでご説明いたします。

質問5 補償の範囲はどう決めればよいですか。

対象となる事項、期間、上限について定めることになります。少数株主に関する事項については、特に明確にしておく必要があります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、株式の移転の経緯が分かる資料、契約書の案、デューデリジェンスにおける指摘事項、直近3期分の計算書類をご持参ください。

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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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