株主総会検査役の選任の申立てを受けた会社側の弁護士対応

裁判所から、株主総会検査役選任申立事件についての審尋の期日を指定する書面が届いた。申立人は、持株比率が数パーセントにとどまる株主で、これまでにも会計帳簿の閲覧を求めてきた相手です。申立書には、招集の手続に不備があるおそれがあること、議事の運営が公正に行われない懸念があることが並べられ、定時株主総会の日は3週間後に迫っています。

検査役は、会社の側が選ぶ調査者ではありません。裁判所が選任し、裁判所へ報告する立場の第三者です。そのため、会社の担当者にとっては、対応の仕方が想像しにくい手続になります。しかし、この手続で問われているのは、議案の内容の当否でも、経営の巧拙でもありません。招集の手続と決議の方法という、書面と時刻で確認することができる事項に限られています。

結論から申し上げます。検査役の選任は、要件を満たす申立てがされれば、裁判所は不適法として却下する場合を除き選任しなければならないものであり、会社が阻止することを目標に据えるべき手続ではありません。会社が取り組むべきは、選任を前提として、招集から閉会までの記録を検査役の調査に耐える水準に引き上げることです。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

同じ株主総会をめぐる手続でも、申立ての種類によって条文も対応も異なりますので、次のとおり切り分けます。

検査役の選任の申立てとは、何を求めるものか

会社法第306条第1項は、株式会社又は総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができると定めています。議決権の割合は、定款でこれを下回る割合を定めた場合には、その割合によります。

ここで押さえるべきは、調査の対象が「招集の手続及び決議の方法」に限られていることです。役員の報酬が高すぎる、配当が少なすぎる、特定の取引が不当であるといった主張は、この手続の対象外です。申立書にそうした記載があっても、検査役の職務の範囲を超える部分については、調査の対象とならない旨を整理して主張することになります。

もう一つ重要なのは、申立てをすることができるのが株主だけではなく、株式会社自身も含まれている点です。紛争が激しく、総会の運営そのものが後に争われることが確実に見込まれる場合には、会社の側から申立てを行い、中立の記録を確保するという選択もあります。会社にとって、検査役は必ずしも敵ではありません。

申立ての要件と、会社が意見を述べる機会

会社法第306条第2項は、公開会社である取締役会設置会社について、同条第1項の適用に読替えを加えています。すなわち、議決権の対象は総会において決議をすることができる事項ではなく会社法第298条第1項第2号に掲げる事項、すなわち総会の目的である事項となり、株主は6か月前から引き続きこれを有する株主とされます。この6か月の期間は、定款でこれを下回る期間を定めることができます。公開会社でない取締役会設置会社については、目的事項に関する読替えのみが行われます。

会社が争うことができるのは、この要件の充足です。具体的には、申立人の持株比率が基準に達しているか、公開会社である取締役会設置会社の場合に保有の期間の要件を満たしているか、申立てが当該株主総会に先立ってされているか、といった点です。株主名簿の記載、名義書換えの日、株式の取得の経緯を示す資料を、期日までに整えます。

もっとも、会社法第306条第3項は、申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならないと定めています。要件を満たしている限り、選任は避けられません。したがって、審尋において会社が述べるべき意見の中心は、選任の可否よりも、調査の対象となる事項の範囲、検査役が立ち会う日程、資料の提出の方法といった、実際の進め方に関する事項に置くのが現実的です。

選任された場合に、総会の運営はどう変わるか

選任されたからといって、総会の運営の権限が検査役に移るわけではありません。議事を整理するのは議長であり、招集を行うのは取締役です。検査役が行うのは、招集の手続が法令及び定款に従って行われたか、決議の方法が適正であったかを、自ら見聞して確認することです。

実際には、検査役は、総会の当日に会場へ入り、受付の状況、入場者の確認の方法、議事の進行、質疑と応答、動議の処理、採決の方法と結果の宣言を観察します。当日より前の段階でも、招集の通知の発送の状況や、議決権行使書面の回収の状況について、説明を求めることがあります。会社の側は、これらの説明に応じることができるよう、担当者と資料の所在を整理しておきます。

なお、会社法第316条第1項は、株主総会においては、その決議によって、取締役等が当該総会に提出し、又は提供した資料を調査する者を選任することができると定めています。これは総会の決議によって選ばれる調査者であり、裁判所が選任する検査役とは根拠も選任の主体も異なります。当日に少数株主から資料調査者の選任の動議が出ることがありますので、議長のシナリオには、この動議の取扱いも書き込んでおきます。

検査役から提出を求められる資料

提出を求められる資料は、おおむね決まっています。現に効力を有する定款、株主名簿、基準日の設定に関する公告又は定款の定め、招集を決定した取締役会の議事録、招集の通知の写しと発送の記録、株主総会参考書類、議決権行使書面の様式と回収したもの、提出された委任状、受付簿、議決権の集計表、会場の座席の配置図、議事の進行のシナリオです。

提出に当たっては、二つの点に注意します。第一に、資料の版が複数ある場合には、実際に使用したものを特定し、草案との区別を明示することです。差し替えの経緯が説明できないと、記録全体の信用性が下がります。第二に、営業上の秘密や、株主以外の個人の情報が含まれる資料については、調査の目的との関係で必要な範囲に絞ることを、あらかじめ協議しておくことです。

提出を渋ることの不利益

資料の提出に応じない態度は、それ自体が報告書に記載され得ます。招集の手続に瑕疵がなかったことを裏付ける資料であれば、会社にとって有利に働くものです。提出を渋る理由がないかを、資料ごとに確認してください。

報告書が裁判所へ提出された後に起こること

会社法第306条第5項は、検査役は、必要な調査を行い、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を裁判所に提供して報告をしなければならないと定めています。同条第6項は、裁判所が、報告の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、検査役に対し更に報告を求めることができるとしています。同条第7項により、検査役は、報告をしたときは、会社に対し、書面の写しを交付し、又は記録された事項を提供しなければなりません。

報告があった後の裁判所の措置は、会社法第307条第1項が定めています。裁判所は、必要があると認めるときは、取締役に対し、一定の期間内に株主総会を招集すること、及び調査の結果を株主に通知することの全部又は一部を命じなければならないとされています。同条第2項は、総会の招集が命じられた場合には、取締役は報告の内容をその総会において開示しなければならないとし、同条第3項は、取締役、監査役設置会社にあっては取締役及び監査役が、報告の内容を調査し、その結果をその総会に報告しなければならないと定めています。

すなわち、報告書の内容次第では、会社は、もう一度株主総会を開くことを命じられます。会社の側から見れば、当日の運営の適正を確保することは、この二度手間を避けるための投資でもあります。

総会の準備において、特に記録を残すべき場面

記録の水準は、平常時の総会と同じでは足りません。特に、次の場面については、時刻と担当者を付した記録を残します。招集を決定した取締役会において、日時、場所、目的である事項をどのように決議したか。招集の通知を、いつ、どの方法で、何通発送したか。返送された通知がある場合に、どのように処理したか。

当日については、開場の時刻、受付の開始と終了の時刻、入場した株主の数と議決権の数、代理人の出席の有無、動議が提出された時刻とその内容、議長がこれをどのように処理したか、採決の方法、賛成及び反対の議決権の数、可決を宣した時刻を記録します。休憩を挟んだ場合には、その開始と再開の時刻も残します。

これらの記録は、検査役の観察と突き合わせられます。会社の記録と検査役の見聞が食い違えば、報告書には食い違いが記載されます。逆に、両者が一致していれば、その部分については後の訴訟で争う余地がほとんどなくなります。記録を残すことは、会社の側の防御そのものです。

費用の負担は誰がするのか

会社法第306条第4項は、裁判所は、検査役を選任した場合には、株式会社が当該検査役に対して支払う報酬の額を定めることができると定めています。すなわち、検査役の報酬は、申立人が株主であっても、会社が支払うことになります。この点は、申立てを受けた会社が最初に驚く事項です。

報酬の額は、調査の対象の広さ、総会の規模、期日の回数によって異なります。会社としては、調査の範囲を必要な事項に絞る主張を行うことが、結果として費用の抑制につながります。範囲を争わずに漫然と応じると、費用も膨らみます。

このほか、会社が自ら依頼する弁護士の費用は、会社の負担です。申立人が自ら依頼した代理人の費用は、申立人の負担です。会社が申立人の費用を負担することはありません。

なぜ少数株主は検査役の選任を求めるのか

目的は、証拠を作ることにあります。会社法第831条第1項は、招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき等に、決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができると定めています。この訴えにおいて、原告となる株主が最も苦労するのが、総会の場で何が起きたかの立証です。

会社の側の議事録は、会社が作成するものです。株主が当日に録音を試みても、会場での撮影や録音を制限されれば、記録は残りません。ところが、裁判所が選任した検査役の報告書であれば、中立の立場から作成された記録として、そのまま証拠になります。少数株主にとって、検査役の選任は、後の訴訟のための資料収集の手段です。

この構造を理解すれば、会社の対応方針は明確になります。報告書に不利な事実が記載されないようにするための唯一の方法は、不利な事実を作らないことです。招集の通知の発送日を1日でも早める、議決権行使書面の記載を明確にする、動議の処理の手順を事前に決めておくといった、地味な準備の積み重ねが結論を左右します。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士に委ねることができるのは、申立ての要件の充足に関する検討と審尋における意見の陳述、調査の対象となる事項の範囲に関する協議、検査役に提出する資料の選別と整序、総会の準備における記録の設計、当日の議長の補助と動議への対応、報告書の内容の検討、会社法第307条第1項の措置が命じられた場合の再度の総会の準備です。

依頼の時期は、申立てがあったことを知った日、遅くとも審尋の期日の1週間前です。総会の日程が迫っている場合、資料の整序と記録の設計を同時に進める必要があり、着手が遅れると当日の運営に手が回りません。株主から株主名簿又は会計帳簿の閲覧の請求を受けている段階であれば、申立てを見越して準備を始めることもできます。

いま確認していただきたいこと

第一に、申立人の議決権の数と、株主名簿上の名義書換えの日を確認してください。第二に、会社が公開会社である取締役会設置会社に当たるかどうかを、定款の株式の譲渡制限に関する定めから確認してください。第三に、審尋の期日と、株主総会の日との間隔を確認してください。

第四に、招集を決定した取締役会の議事録に、日時、場所、目的である事項が漏れなく記載されているかを点検してください。第五に、招集の通知の発送の日を証する記録が残っているかを確認してください。第六に、当日の受付、動議、採決の各場面について、誰が時刻を記録するのかを担当者ごとに割り付けてください。

よくあるご質問

検査役の選任を阻止することはできますか

会社法第306条第3項により、裁判所は、不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならないとされています。したがって、争うことができるのは、持株比率、保有の期間、申立ての時期といった要件の充足に限られます。要件を満たしている申立てを、内容の不当を理由に退けることはできません。

検査役に対し、営業上の秘密を含む資料も提出しなければなりませんか

調査の対象は招集の手続及び決議の方法ですので、これと関係のない営業上の秘密まで当然に提出の対象となるものではありません。もっとも、関係の有無は個別に判断されますので、提出を拒む場合には、その資料が調査の対象と関係しない理由を書面で説明してください。

総会の当日、検査役はどこに座りますか

検査役が受付と議場の双方を見ることができる位置を確保します。座席の位置、入退場の経路、資料の閲覧のための机の有無は、事前に検査役と協議して決めておきます。当日にその場で調整すると、開会が遅れる原因になります。

報告書の内容に誤りがあった場合はどうなりますか

会社法第306条第7項により、会社は報告書の写しの交付を受けます。内容に事実の誤りがあると考える場合には、根拠となる資料を添えて裁判所に意見を提出します。会社法第306条第6項により、裁判所が検査役に更に報告を求めることもあります。

検査役の報酬はいくらになりますか

会社法第306条第4項により、裁判所が額を定めます。調査の対象の広さ、総会の規模、期日の回数によって幅がありますので、あらかじめ一律の金額を申し上げることはできません。調査の範囲を必要な事項に絞る主張を行うことが、額を抑える方向に働きます。

おわりに

検査役の選任の申立てを受けた会社が最初に考えるのは、どうすれば止められるかということです。しかし、条文の構造上、要件を満たす申立てを止めることはできません。むしろ、中立の立場の第三者が総会を見届けるという状況を、会社の運営が適正であったことを裏付ける機会として使うほうが、実益があります。準備の質がそのまま報告書に表れる手続です。

申立書が届いた、審尋の期日が指定された、総会の日程が迫っているという段階であれば、まだ間に合います。申立書、現に効力を有する定款、株主名簿、招集を決定した取締役会の議事録をお手元に御用意のうえ、御連絡ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

株主総会検査役の選任の申立てに関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
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出典

法令

会社法第306条第1項(株主総会の招集手続等に関する検査役の選任の申立て)、第306条第2項(公開会社である取締役会設置会社等における読替え)、第306条第3項(不適法として却下する場合を除く選任の義務)、第306条第4項(検査役の報酬の額の決定)、第306条第5項(裁判所への報告)、第306条第6項(更なる報告の求め)、第306条第7項(会社に対する報告書の写しの交付)、第307条第1項から第3項まで(裁判所による株主総会の招集等の命令、報告の内容の開示及び調査)、第298条第1項第2号(株主総会の目的である事項)、第316条第1項(株主総会に提出された資料等を調査する者の選任)、第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え及び3か月の出訴期間)

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