経営者の離婚で自社株式が財産分与の対象となる場合に会社が備えること

経営者自身が離婚に直面し、婚姻期間中に会社の価値が大きく増加したことから、自社株式が財産分与の対象となるのではないかと心配しているという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、財産分与は当事者間の問題であり会社が当事者となる事柄ではないものの、配偶者が名義上の株主となっている株式については実質的な権利の帰属が争われる可能性があり、会社としても無関係ではいられないという点です。

以下では、財産分与の対象となる場合の考え方、及び分与の方法を御説明します。

婚姻中に会社の価値が増加した場合 増加分に対する寄与の評価が問題となります
配偶者が名義上の株主となっている株式 実質的な権利の帰属が問題となります

同族会社の株式は、婚姻前から保有していたものであっても、婚姻期間中に企業の価値が大きく増加している場合には、その増加に対する配偶者の寄与が主張されることがあります。もっとも、これは当事者間の財産の分与の問題であり、会社が当事者となる事柄ではありません。

 分与の方法

財産分与の方法としては、金銭の支払によることも、現物を移転することもあり得ます。自社株式そのものを移転するのではなく、その評価額を前提として金銭により清算するという方法も、実務上、広く用いられております。会社の支配の構造に対する影響という観点からは、金銭による清算のほうが影響が小さいということができます。

会社にとって何が問題となるか

 議決権の分散

株式が配偶者に移転した場合、その者は株主として議決権を有することになります。移転する株式の数によっては、特別決議の要件(会社法第309条第2項)を単独で否決し得る割合に達することがあります。議決権の3分の1を超える株式が移転すれば、定款の変更、事業の譲渡、組織の再編等について、当該株主の同意なしには進められない状態が生じます。

 少数株主権の行使

100分の3以上の議決権又は株式を保有する株主は、株主総会の招集の請求(会社法第297条第1項)、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)、業務の執行に関する検査役の選任の申立て(会社法第358条第1項)、取締役の解任の訴えの提起(会社法第854条第1項)をすることができます。

 株式の再度の移転

配偶者に移転した株式が、さらに第三者に譲渡される可能性があります。譲渡制限株式であれば会社の承認が必要となりますが、承認をしない場合には、会社又は指定買取人が買い取ることになります(会社法第140条)。この場合、会社は買取りのための資金を用意する必要があります。

 情報の流出

株主となった者は、計算書類等の閲覧謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)、株主総会の議事録の閲覧謄写の請求(会社法第318条第4項)をすることができます。会社の内部の情報が、経営に関与しない者に開示されることになります。

相続の場合との違い

 相続人等に対する売渡しの請求は使えません

株式会社は、相続その他の一般承継により当該会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。この制度は「相続その他の一般承継」を対象とするものです。

財産分与は、当事者間の協議又は家庭裁判所の審判に基づく個別の財産の移転であり、包括的に権利義務を承継する一般承継ではありません。したがって、定款に会社法第174条の定めがあっても、財産分与により株式を取得した者に対して売渡しの請求をすることはできないと考えられます。

この点は、会社の側から見て重要な違いです。相続の場面では定款の定めによる対応が可能であるのに対し、離婚の場面では同じ手段を用いることができません。

 譲渡制限の適用については議論があります

財産分与による株式の移転が、定款の譲渡制限にいう「譲渡による取得」に当たるかについては、議論があります。譲渡制限の趣旨が、会社にとって好ましくない者が株主となることを防ぐ点にあることからすれば、財産分与による移転についても承認を要すると解する見解が有力です。他方、当事者の意思に基づく通常の譲渡とは性質が異なるという見方もあり得ます。確立した最高裁の判断があるわけではありませんので、会社としては、この点が争われ得ることを前提に対応を検討することになります。

 名義書換の請求への対応

財産分与により株式を取得したとする者から名義書換の請求があった場合、会社は、取得の原因、譲渡制限の適用の有無、必要な書面が備わっているかを確認することになります。株式の譲渡は株主名簿に記載又は記録をしなければ会社に対抗することができません(会社法第130条第1項)ので、名義書換の前後で会社の対応は異なります。

会社が事前に確認すべき事項

確認事項 内容
現在の株主構成 誰が何株を保有し、議決権の割合はどうなっているか
定款の譲渡制限の定め 承認の機関はどこか(会社法第139条第1項)
定款の売渡しの請求の定め 会社法第174条の定めの有無(相続の場面での備え)
種類株式の有無 議決権に関する定め、拒否権に関する定め
属人的な定めの有無 公開会社でない株式会社における会社法第109条第2項の定め
株主間の合意の有無 譲渡の制限、先買権等に関する合意
名義株の有無 実質的な権利の帰属が争われ得る株式
分配可能額 自己株式の取得を行う場合の財源(会社法第461条第1項)

これらは、離婚の話が具体化してから確認するのでは遅いことが多く、平時に整理しておくべき事項です。

会社が採り得る対応

 当事者間の協議への関与の限界

財産分与は、離婚をする当事者間の問題です。会社が当事者となるものではありませんし、会社が当事者の一方に肩入れすることは、他の株主との関係で問題を生じ得ます。会社としてできることは、株式の評価に必要な資料の取扱いを整理すること、株式が移転した場合の会社の運営に備えることです。

 株式の評価に関する資料の取扱い

配偶者の側から、会社に対して直接、資料の提出が求められることがあります。当該配偶者が株主でない場合、会社が任意に応じる義務はありません。もっとも、家庭裁判所の手続において調査嘱託等が行われる場合には、その取扱いを個別に検討することになります。

 自己株式の取得

株式が移転した後に、会社が当該株主から合意により自己株式を取得するという方法があります。特定の株主から取得する場合には、株主総会の特別決議を要し(会社法第156条第1項、第160条第1項、第309条第2項第2号)、他の株主には自己をも売主に加えることを請求する権利が生じます(会社法第160条第3項)。また、取得の対価の総額は分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第2号及び第3号)。

 他の株主又は後継者による買取り

会社が取得するのではなく、他の株主又は後継者が買い取るという方法もあります。譲渡制限株式であれば、譲渡等承認請求の手続(会社法第136条以下)を経ることになります。

具体的な進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
財産分与に関する家庭裁判所への請求 離婚の時から2年 民法第768条第2項ただし書
譲渡等承認請求に対する会社の通知 請求の日から2週間以内 会社法第145条第1号
会社が買い取る場合の売買価格の決定の申立て 通知の日から20日以内 会社法第144条第2項
自己株式の取得の決議に係る取得の期間 1年を超えることができません 会社法第156条第1項第3号

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 現に効力を有する定款
  • 株主名簿及び議決権の数の一覧
  • 登記事項証明書
  • 直近3期分の計算書類
  • 株主間の合意に関する書面
  • 株式の取得の経緯が分かる資料

弁護士にご相談いただく意味

離婚に伴う自社株式の分散は、相続の場面に比べて備えが手薄になりやすい領域です。相続については定款による売渡しの請求や生前の贈与といった手段が広く知られているのに対し、離婚については、そもそも会社が関与し得る場面が限られているためです。

しかし、株式が移転した後に会社が直面する問題は、相続の場合と変わりません。むしろ、相続人等に対する売渡しの請求が使えない分、事後の対応の選択肢は限られます。だからこそ、平時における株主構成の整理と定款の見直しが意味を持ちます。当事務所は、会社の側のお立場で、この整理をご一緒に行っております。

よくあるご質問

質問1 定款に売渡しの請求の定めがあります。離婚の場合にも使えますか。

会社法第174条の定めは「相続その他の一般承継」を対象とするものです。財産分与は一般承継ではありませんので、この定めに基づいて売渡しの請求をすることはできないと考えられます。

質問2 財産分与による株式の移転にも、会社の承認が必要ですか。

財産分与による移転が定款の譲渡制限にいう「譲渡による取得」に当たるかについては、議論があります。承認を要すると解する見解が有力ですが、確立した最高裁の判断があるわけではありません。個別の事情を踏まえた検討が必要です。

質問3 配偶者の代理人から決算書の提出を求められました。応じる義務はありますか。

当該配偶者が株主でない場合、会社が任意に応じる法令上の義務はありません。株主及び債権者は計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができますが(会社法第442条第3項)、これは株主又は債権者の権利です。家庭裁判所の手続における調査嘱託等が行われる場合には、別途の検討が必要です。

質問4 株式ではなく金銭で解決してもらうことはできますか。

財産分与の方法は、当事者間の協議又は家庭裁判所の判断によって定まります。会社が決めることはできません。もっとも、当事者において金銭による清算を選択する場合には、その原資をどのように確保するかという問題が生じ、会社からの借入れや役員報酬の取扱いが検討されることがあります。これらは会社法上の規律に服しますので、慎重な検討が必要です。

質問5 離婚が成立してから相当の期間が経過しております。今から株式の移転を求められることはありますか。

財産分与に関する家庭裁判所への請求は、離婚の時から2年を経過したときはすることができません(民法第768条第2項ただし書)。もっとも、当事者間の協議による移転は、この期間の経過後も可能です。また、離婚前に既に配偶者が株式を保有している場合には、別の問題として整理されます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第109条第2項(公開会社でない株式会社における属人的な定め)
  • 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
  • 第136条以下(譲渡等承認請求)、第139条第1項(承認の機関)、第140条(会社又は指定買取人による買取り)、第144条第2項(売買価格の決定の申立て)、第145条第1号(みなし承認)
  • 第156条第1項(自己株式の取得に係る株主総会の決議)
  • 第160条第1項・第3項(特定の株主からの取得、売主追加請求権)
  • 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
  • 第297条第1項(株主総会の招集の請求)
  • 第309条第2項(特別決議)
  • 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
  • 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
  • 第461条第1項(剰余金の配当等に関する財源規制)
  • 第854条第1項(役員の解任の訴え)

民法 第762条第1項・第2項(夫婦の財産の帰属)、第768条第1項から第3項まで(財産分与)、第771条(裁判上の離婚への準用)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、経営者の離婚に伴い自社株式が分散するおそれのある会社の側からのご相談をお受けしております。現在の株主構成と定款の整理、株式が移転した場合の会社の運営への影響の検討、移転後の集約の方法の検討まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、経営者の離婚により自社株式が分散しお困りの会社の方に向けたご案内のページ(/rikon_jishakabu/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

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ご相談の際に、現に効力を有する定款、株主名簿、登記事項証明書、直近3期分の計算書類、株主間の合意に関する書面をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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