少数株主から取締役の解任を請求されたときに会社が最初に確認すること

書面の標題が「解任請求書」となっていても、その内容が株主総会の招集の請求であることもあれば、単に会社に対して自発的な辞任を促す事実上の申入れにとどまることもあります。標題ではなく、記載された根拠条文と求めている行為の内容によって判断いたします。

 株主総会の招集の請求の要件

株主総会の招集の請求をすることができるのは、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を有する株主です(会社法第297条第1項)。公開会社においては6か月前から引き続き有していることが必要ですが、公開会社でない株式会社においては、この保有期間の要件は適用されません(同条第2項)。多くの同族会社は公開会社ではありませんので、株式を取得した直後の株主であっても請求をすることができます。

請求に当たっては、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示さなければならないとされております(同条第1項)。したがって、目的である事項の記載を欠く書面、あるいは招集の理由の記載を欠く書面については、請求としての要件を満たしているかが問題となり得ます。

 議題の提案の要件

取締役会設置会社においては、議題の提案をすることができるのは、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主です(会社法第303条第2項)。公開会社でない取締役会設置会社においては、6か月の保有期間の要件は適用されません(同条第3項)。また、この請求は株主総会の日の8週間前までにしなければならないとされております。取締役会を設置していない会社においては、株主は議決権を有していれば議題の提案をすることができます(同条第1項)。

会社の側が最初に確認すべき事項

 請求をした者が本当に株主であるか

最初に確認いたしますのは、請求をした者が株主名簿に記載又は記録された株主であるかという点です。株式の譲渡は、株主名簿に記載又は記録をしなければ会社に対抗することができません(会社法第130条第1項)。相続その他の一般承継により株式を取得した者が名義書換を了していない場合、あるいは、譲渡制限株式について会社の承認を経ないまま譲渡が行われた場合には、会社に対する関係で株主としての権利を行使し得るかが問題となります。

もっとも、株主名簿の記載を形式的に理由として権利の行使を拒む取扱いは、後に決議の効力を争われる原因ともなりますので、事実関係の確認を先行させることが穏当です。

 議決権の数と割合

100分の3という要件は、総株主の議決権を分母といたします。自己株式には議決権がありません(会社法第308条第2項)ので、自己株式を保有している会社では、分母の計算を誤りやすいところです。また、相互保有株式に関する議決権の制限(会社法第308条第1項括弧書)や、単元株式数の定めがある場合の取扱いも、あわせて確認いたします。

 定款に軽減の定めがないか

会社法第297条第1項及び第303条第2項の持株要件は、いずれも定款でこれを下回る割合を定めることができます。設立から長期間が経過した会社では、現行の定款の内容を役員が正確に把握していないことがあります。登記事項証明書ではなく、現に効力を有する定款の原本を確認いたします。

 解任の理由として主張されている事実

書面に記載された「招集の理由」又は「提案の理由」には、解任を求める根拠となる事実が記載されているのが通常です。この記載は、後に取締役の解任の訴えが提起された場合の主張と連続することが多く、また、会社の側で事実関係を調査するための出発点ともなります。記載された事実について、会社の内部に資料が存在するか、当該取締役に確認すべき事項は何かを、この段階で整理しておくことになります。

 同時に行われている他の請求の有無

実務上、取締役の解任の請求は、単独で行われるよりも、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)、株主総会の議事録及び取締役会の議事録の閲覧謄写の請求(会社法第318条第4項、第371条)、取締役の責任を追及する訴えの提起の請求(会社法第847条第1項)等と併せて行われることが少なくありません。それぞれ期限が異なりますので、届いた書面の全体を一覧にして管理することが有用です。

放置した場合に生じる帰結

 裁判所の許可を得た株主による招集

株主が株主総会の招集の請求をしたにもかかわらず、請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)以内の日を会日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができます(会社法第297条第4項)。

この場合、会社の側は、株主が定めた日時及び場所において、株主が定めた議題について総会が開かれるという状況に置かれます。招集の主導権を失うことの実務上の影響は小さくありません。したがって、請求に理由がないと考える場合であっても、その旨を書面により回答し、対応の経過を記録しておくことが、後の紛争において意味を持ちます。

 解任の訴えの前提が整うこと

取締役の解任の訴えは、役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき等に提起することができるものです(会社法第854条第1項)。すなわち、株主総会において議案が否決されるという事実が、訴えの前提となります。

会社の側から見ますと、多数決により議案を否決すること自体は当然に採り得る対応ですが、それによって株主の側に訴えの提起という次の段階が開かれるという構造を理解しておく必要があります。

 提訴期間は株主総会の日から30日です

解任の訴えは、当該株主総会の日から30日以内に提起しなければならないとされております(会社法第854条第1項)。この期間は短く、会社の側にとっては、株主総会の後の30日間が一つの区切りとなります。

 被告は会社と当該役員の双方です

解任の訴えについては、当該株式会社及び当該役員を被告といたします(会社法第855条)。すなわち、会社も当事者として応訴することになります。会社と当該取締役とで主張の方向が一致するとは限りませんので、代理人の選任に当たっては、利益が相反しないかを検討する必要があります。訴えは、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属いたします(会社法第856条)。

会社が採り得る対応の選択肢

選択肢 内容 留意点
請求に応じて株主総会を招集する 会社が主導して日時、場所、議事の進行を定めます 招集の通知の期間(会社法第299条第1項)を確保する必要があります
請求の要件を欠くとして応じない 持株要件、目的である事項及び理由の記載等を検討いたします 裁判所の許可による招集(会社法第297条第4項)の可能性を織り込みます
補正を求める 記載の不備について、期間を定めて補正を求めます やり取りは書面で残します
事実関係の調査を先行させる 指摘された事実について社内調査を行います 調査の主体と範囲をあらかじめ定めておきます
当該取締役の側の対応を整理する 解任の訴えに備え、事実経過と資料を確保いたします 会社と当該取締役の利害が一致するとは限りません
任期の満了時期を確認する 任期の満了により退任する場合、解任の訴えの実益が失われることがあります 権利義務役員(会社法第346条第1項)の問題が残ります

いずれを選ぶかは、株主構成、指摘されている事実の内容、当該取締役の職務の状況、他の株主の意向、従前の経緯等により異なります。具体的な進め方は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
招集の請求に対して招集の通知を発する期間 請求があった日から8週間以内の日を会日とする通知 会社法第297条第4項第2号
議題の提案の期限 株主総会の日の8週間前まで 会社法第303条第2項
株主総会の招集の通知 公開会社は2週間前、公開会社でない会社は1週間前(取締役会非設置会社は定款で短縮可) 会社法第299条第1項
取締役の解任の訴えの提起 株主総会の日から30日以内 会社法第854条第1項
株主総会の決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた書面及びその封筒(消印の日付が分かるもの)
  • 現に効力を有する定款
  • 株主名簿及び議決権の数の一覧
  • 直近の株主総会及び取締役会の招集の通知並びに議事録
  • 指摘されている事実に関する社内の資料
  • 登記事項証明書(役員の就任の年月日及び任期を確認いたします)

弁護士にご相談いただく意味

この類型で会社の側が不利益を被る原因は、指摘された事実の内容そのものよりも、手続の管理にあることが少なくありません。招集の請求に回答しないまま8週間が経過したために裁判所の許可による招集を許すことになった、株主総会の運営に瑕疵があったために決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)を招いた、といった事態は、いずれも事前の検討により避け得たものです。

また、解任の訴えにおいては会社と当該取締役の双方が被告となります(会社法第855条)。会社としての主張と、当該取締役個人としての主張は、必ずしも同じではありません。どの段階で誰の代理人として関与するかという点は、初期に整理しておくべき事項です。当事務所は、敵対的な少数株主への対応について、会社の側のお立場でご相談をお受けしております。

よくあるご質問

質問1 株主から届いた書面を無視した場合、どうなりますか。

株主総会の招集の請求である場合、請求の後遅滞なく招集の手続が行われないとき、又は請求があった日から8週間以内の日を会日とする招集の通知が発せられないときは、請求をした株主は裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(会社法第297条第4項)。招集の主導権が株主の側に移ることになりますので、応じない場合であってもその旨を書面で回答しておくことが穏当です。

質問2 株主総会で否決すれば、それで終わりますか。

終わるとは限りません。役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず解任の議案が否決されたときは、要件を満たす株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。否決は、この訴えの前提となる事実でもあります。

質問3 解任の決議は特別決議でなければできませんか。

取締役の解任の決議は、株主総会の決議によって行うことができます(会社法第339条第1項)。定足数については、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席することを要します(会社法第341条)。もっとも、累積投票により選任された取締役を解任する場合、監査等委員である取締役を解任する場合及び監査役を解任する場合には、特別決議によることとされております(会社法第309条第2項第7号)。

質問4 請求をした株主が、株式を取得したばかりです。それでも請求できますか。

公開会社でない株式会社においては、株主総会の招集の請求及び議題の提案について、6か月の保有期間の要件は適用されません(会社法第297条第2項、第303条第3項)。取締役の解任の訴えについても同様です(会社法第854条第2項)。したがって、株式を取得した直後の株主であっても請求をすることができます。

質問5 当該取締役の任期がまもなく満了いたします。それでも対応が必要ですか。

任期の満了により退任する場合であっても、後任者が就任するまでの間は、なお役員としての権利義務を有することがあります(会社法第346条第1項)。また、在任中の職務の執行について、別途、責任を追及される可能性も残ります。任期の満了のみをもって問題が解消するとは限りません。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
  • 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求、裁判所の許可を得た招集)
  • 第299条第1項(株主総会の招集の通知)
  • 第303条第1項から第3項まで(株主提案権のうち議題の提案)
  • 第308条第1項・第2項(議決権の数、自己株式の議決権)
  • 第309条第2項第7号(監査役等の解任に係る特別決議)
  • 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
  • 第339条第1項・第2項(役員の解任、正当な理由がない場合の損害賠償)
  • 第341条(役員の選任及び解任の決議の定足数)
  • 第346条第1項(役員の権利義務を有する者)
  • 第371条(取締役会の議事録の閲覧等)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第847条第1項(責任追及等の訴えの提起の請求)
  • 第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え。提訴期間は決議の日から3か月)
  • 第854条第1項・第2項(役員の解任の訴え。提訴期間は株主総会の日から30日)
  • 第855条(被告)
  • 第856条(訴えの管轄)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、少数株主から取締役の解任を請求された会社の側からのご相談をお受けしております。届いた書面がどの制度に基づくものかの特定、持株要件及び記載事項の検討、回答書の作成、株主総会の招集及び運営、解任の訴えが提起された場合の応訴まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、少数株主から役員の解任を請求された会社の方に向けたご案内のページ(/kainin_seikyu_taiou/)をご覧ください。同ページでは、書面が届いた時点から株主総会を経て30日の提訴期間が満了するまでの間に当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

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  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
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ご相談の際に、株主から届いた書面とその封筒、現に効力を有する定款、株主名簿、直近の株主総会及び取締役会の議事録、登記事項証明書をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

会社と当該役員との利害の整理

役員の解任が求められている局面では、会社の利益と当該役員個人の利益とが一致するとは限りません。解任の理由として主張されている事実が、当該役員の善管注意義務違反に関わる場合には、会社が当該役員の責任を追及すべき立場に立つ可能性があるためです。

場面 会社の立場 当該役員の立場 受任の体制
解任の理由が事実に基づかない場合 解任に反対する立場を採り得ます 解任に反対いたします 利害は概ね一致いたします
解任の理由に一定の根拠がある場合 事実関係の調査を先行させる立場に立ちます 解任に反対いたします 利害が分かれる可能性があります
役員の責任が問題となり得る場合 責任を追及すべき立場に立ち得ます 責任を否定いたします 会社と役員とで代理人を分ける必要が生じます

初期の段階でこの整理をしておかないまま同一の代理人が双方の対応を進めますと、後に責任の追及が問題となった局面で、代理人を交替せざるを得なくなり、それまでの検討の一部が使えなくなることがございます。ご相談の初回において、受任の体制を確認させていただくのはこのためです。

株主総会での否決と、解任の訴えとの区別

株主総会において解任の議案が否決された場合であっても、それで手続が終わるわけではありません。会社法第854条は、役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず解任の議案が否決された場合に、一定の要件を満たす株主が解任の訴えを提起することができる旨を定めております。提訴の期間は株主総会の日から30日以内であり、被告は会社と当該役員の双方です。

したがって、株主総会において議案を否決することは、紛争の終結ではなく、次の局面への移行を意味する場合がございます。否決という結果を得ることそれ自体を目的とせず、否決の後に生じ得る手続まで見通したうえで、議事の運営と議事録の記載を設計する必要があります。

このページの位置付けと、関連するページ

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