少数株主が複数の取締役に同時に責任を追及してきた場合の会社の立場と進め方

この記事の位置付け

複数の取締役が同時に責任を追及される場面は、会社自身が請求の当事者となる場面と、株主が会社に代わって訴えを提起する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

少数株主からの提訴の請求が、代表取締役1名だけでなく、複数の取締役を対象として行われることがあります。取締役会の決議に賛成した全員、あるいは在任中の取締役の全員が名宛人とされる例も見られます。この場合、会社が置かれる立場は1名のみが対象である場合と異なり、社内の関係も複雑になります。

本記事では、発行会社の側の立場から、複数の取締役が同時に責任を追及された場合の会社の立場、対応の体制、代理人の選任、費用の負担、そして和解による解決の進め方を御説明します。

会社が置かれる立場を確定します

 誰が判断の主体となるか

提訴の請求を受けた会社は、請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起するかどうかを判断し、提起しない場合において請求をした株主等から請求を受けたときは、その理由を書面により通知しなければなりません(会社法第847条第4項)。この判断を行う主体は、監査役設置会社においては監査役、監査等委員会設置会社においては監査等委員、それ以外の会社においては取締役です。

複数の取締役が対象とされている場合、判断の主体となるべき者自身が対象に含まれていることがあります。この場合には、対象とされていない者により判断を行う必要があり、判断できる者が存在しないときは、体制そのものを整える必要が生じます。まず、誰が判断の主体となるかを確定してください。

 会社と取締役の利害

責任の追及は、形式上は会社の権利の行使です。したがって、会社は被告となる取締役と利害を異にする立場に立ちます。もっとも、実際には、対象とされた取締役が現に会社の業務を執行しており、会社としての判断を行う者と重なることがあります。この状態を放置しますと、後に判断の公正が争われます。対象とされた取締役を判断の過程から外し、その旨を議事録に記録してください。

被告となる取締役の間の関係

 責任の性質

取締役が会社に対して負う損害賠償の責任は、複数の者が負う場合には連帯債務となります(会社法第430条)。すなわち、株主は、いずれの取締役に対しても全額を請求することができます。もっとも、各取締役の関与の程度は同一ではありません。議案を提案した者、決議に賛成した者、反対した者、そもそも出席していなかった者では、責任の有無及び程度が異なります。

 関与の程度の整理

会社としては、対象とされた取締役ごとに、次の事項を整理してください。

  • 当該取引又は行為に関する役割(提案、決裁、実行、承認)。
  • 取締役会の議事録における賛否の記載。議事録に異議をとどめない取締役は決議に賛成したものと推定されます(会社法第369条第5項)。
  • 在任の期間。当該行為の時点で取締役であったかどうか。
  • 監視義務の観点からの関与。担当外の取締役についても、他の取締役の業務執行を監視する義務が問題となります。

 利害が一致しない場合

関与の程度が異なる場合、被告となる取締役の間で主張が食い違うことがあります。ある取締役が「自分は反対していた」と主張すれば、他の取締役の責任を基礎付ける方向に働きます。会社としては、この対立を前提として、社内の資料の提供、事情の聴取の進め方を設計する必要があります。

代理人の選任

複数の取締役が被告となる場合、代理人の選任は次の3つの組合せが考えられます。

組合せ 用いることができる場面 留意点
被告の全員が同一の代理人を選任します 関与の程度がほぼ同一であり、主張が一致する場合 主張が食い違った段階で、代理人は一部について辞任を要します
被告ごとに別の代理人を選任します 関与の程度が異なり、主張が分かれる見込みがある場合 費用の負担が増加します。主張の調整に手間を要します
会社は別の代理人を選任します 会社が補助参加をする場合、又は判断の主体として意見を述べる場合 会社と取締役の利害が異なる以上、原則としてこの形が相当です

当初は主張が一致していても、審理が進むにつれて分かれることがあります。着手の段階で、主張が分かれた場合の取扱いを、あらかじめ協議しておいてください。

会社が補助参加をする場合

株式会社は、株主が提起した責任追及等の訴えについて、取締役を補助するため補助参加をすることができます。監査役設置会社においては、監査役の全員の同意を得なければなりません(会社法第849条第3項)。

補助参加をするかどうかは、会社にとって重要な判断です。取締役の行為が会社の業務執行として適法かつ相当であったと会社が考える場合には、補助参加により会社の資料と主張を訴訟に反映させることができます。他方、会社が補助参加をすることは、対象とされた取締役の側に立つことを意味しますので、判断の理由を明確に記録しておく必要があります。同意を得る手続を欠いた場合には、参加そのものが争われます。

費用の負担

被告となる取締役の弁護士費用を会社が負担するかどうかは、慎重な検討を要します。次の3点を確認してください。

第1に、会社と取締役との間に費用の負担に関する契約があるかどうかを確認します。補償契約(会社法第430条の2)が締結されている場合には、その定めに従います。補償契約の締結には、取締役会設置会社においては取締役会の決議が必要であり、補償することができる範囲にも制限があります。

第2に、役員等賠償責任保険(会社法第430条の3)の有無を確認します。契約の内容、填補の対象となる範囲、通知の期限を、保険証券により確認してください。通知が遅れると填補を受けられない場合があります。

第3に、契約も保険もない場合に、会社が事実上費用を負担することの当否を検討します。会社が責任を追及される側の費用を負担することは、株主から新たな責任の追及を受ける原因ともなります。負担する場合には、根拠と理由を取締役会の議事録に記録してください。

和解による解決の進め方

被告が複数である場合、和解は全員について同時に成立するとは限りません。一部の被告についてのみ和解が成立し、他の被告について審理が続くことがあります。会社としては、次の点を確認してください。

第1に、株主代表訴訟の和解については、会社が当事者でない場合には、裁判所からの通知及び催告を受け、2週間以内に異議を述べるかどうかを判断します(会社法第850条第2項及び第3項)。被告ごとに通知がされますので、期間の管理を被告の数だけ行う必要があります。

第2に、責任の免除に関する規定は、責任追及等の訴えに係る訴訟における和解には適用されません(会社法第850条第4項)。したがって、総株主の同意を得ることなく、和解により解決することができます。

第3に、連帯債務である以上、一部の被告との和解が他の被告に及ぼす影響を検討します。和解により支払われた額は、他の被告が負う責任の額にも影響しますので、和解書において、他の被告との関係をどのように扱うかを明記してください。

第4に、和解の内容が、残る被告の主張と矛盾しないよう調整します。一部の被告が事実を認める内容の和解をしますと、他の被告の防御に影響します。

してはいけない対応

  • 対象とされた取締役自身が、会社としての判断に加わること。
  • 監査役の全員の同意を得ないまま補助参加をすること。
  • 関与の程度を確認しないまま、被告の全員に同一の代理人を選任すること。
  • 役員等賠償責任保険の通知の期限を確認しないまま、対応を進めること。
  • 被告となる取締役から、社内の資料を無制限に持ち出させること。
  • 一部の被告とのみ会社が協議し、その内容を他の被告に伝えないまま手続を進めること。

弁護士に相談する意味

被告が複数である事案の難しさは、法律上の争点よりも、立場の整理にあります。会社としての判断の主体、被告の間の利害、代理人の選任、費用の負担のいずれについても、当初の設計が後の展開を決めます。

また、60日という期間の中で、対象とされた取締役ごとの関与の程度を整理し、提訴するかどうかの判断を行う必要があります。この作業は、提訴の請求を受けてから着手したのでは間に合いません。書面を受領した段階で直ちに着手してください。

なお、不提訴理由の通知の内容、被告ごとの主張の調整、和解の順序については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 取締役の全員が対象とされています。誰が会社の判断をしますか。

監査役設置会社においては監査役が判断の主体となります。判断できる者が存在しない場合には、体制を整える必要があります。

質問2 被告の全員で同じ弁護士に依頼してよいですか。

関与の程度が同一であり、主張が一致する場合には可能です。主張が分かれた場合の取扱いを、着手の段階で協議しておいてください。

質問3 会社が弁護士費用を負担できますか。

補償契約及び役員等賠償責任保険の有無を確認してください。いずれもない場合には、負担の当否を慎重に検討し、理由を記録します。

質問4 一部の取締役だけ先に和解できますか。

可能です。連帯債務であることを踏まえ、残る被告との関係を和解書に明記してください。

質問5 取締役会に出席していなかった取締役も責任を負いますか。

担当外の取締役についても監視義務が問題となります。関与の程度を個別に整理する必要があります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

提訴の請求の書面、定款、登記事項証明書、指摘された行為に関する取締役会の議事録及び契約書、補償契約書、役員等賠償責任保険の保険証券を御持参ください。

まとめ

複数の取締役が同時に責任を追及された場合、会社が確認すべき事項は次の6点に整理されます。

  • 会社としての判断の主体が誰であるかを確定し、対象とされた取締役を判断の過程から外します。
  • 取締役ごとに、関与の程度、賛否の記載、在任の期間、監視義務の観点からの関与を整理します。
  • 代理人の選任について、被告の間の利害と主張の一致の見込みを踏まえて設計します。
  • 補助参加をする場合には、監査役の全員の同意を得ます。
  • 補償契約及び役員等賠償責任保険の有無と、通知の期限を確認します。
  • 和解については、被告ごとの通知に対する2週間の期間を管理し、連帯債務であることを踏まえて設計します。

60日の期間の中で行う作業ですので、提訴の請求を受けた段階で直ちにご相談ください。

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