非上場株式の株価評価が大幅変更可能性ー相続税以外にも経営者が知っておくべき27のリスク

重要:2026年8月30日現在、第5回有識者会議の議事要旨は作成中であり、最終的な財産評価基本通達の改正内容・施行時期は確定していません。本稿は公表済み資料に基づく見直し方向の解説です。

国税庁では現在、非上場株式、税法上の正式な表現では「取引相場のない株式」の評価制度について、大幅な見直しが検討されています。

非上場会社の経営者にとって、「自社株式の評価制度が変わる」と聞くと、まず相続税や贈与税の問題を思い浮かべるかもしれません。しかし、今回の問題を単なる相続税対策の問題として捉えるのは十分ではありません。

自社株式の価値が高くなれば、相続税及び贈与税の負担だけでなく、後継者への株式移転、少数株主からの株式集約、自己株式取得、遺産分割、遺留分、親族間紛争、従業員持株会、持株会社、株式買取交渉、さらには会社の経営権そのものにまで影響する可能性があります。

特に注目すべきなのは、今回の見直しが、単に新しい計算式を導入するという議論ではなく、現行制度の「評価額の崖」や「評価額の恣意性・操作性」を小さくし、会社の実際の収益力・純資産・支配関係と税務上の株価との大きなずれを縮小する方向で検討されていることです。

2026年8月20日の第5回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」では、国税庁が考える見直しの方向性に加え、現行制度を利用した「租税回避スキーム(評価額圧縮スキーム)」への対応も具体的に整理されました。会社規模の操作、利益等の恣意的な操作、完全支配関係にあるグループ法人を利用した評価額圧縮、株主構成等を操作した配当還元方式の濫用などが検討対象として明示されています。

本稿では、現行制度と有識者会議で示されている見直しの方向性を整理した上で、国税庁がどのような株価圧縮型の対策を問題視しているのかを具体的に解説し、さらに経営者が認識しておくべき27のリスクを検討します。なお、2026年8月30日現在、第5回有識者会議の議事要旨は作成中であり、最終的な財産評価基本通達の改正内容、施行時期及び経過措置は確定していません。本稿で述べる将来の制度は、あくまで公表資料から読み取れる「見直しの方向性」です。

この記事が扱う場面

非上場株式の価格をめぐる問題は、評価の制度そのものを論ずる場面と、個別の取引の価格を定める場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

Contents
  1. なぜ今、非上場株式の評価制度が見直されているのか
  2. 国税庁は何を問題視して非上場株式評価を見直そうとしているのか
  3. 現行の評価体系そのものが大きく変わる可能性
    1. 「大会社・中会社・小会社」という区分がなくなる可能性
    2. 類似業種比準方式を存置すること自体が再検討されている
    3. 新しい評価方法の候補として検討される「残余利益方式」
    4. 純資産価額方式の位置付けも変わる可能性
    5. 配当還元方式は「例外」として適用範囲を絞る方向
  4. 国税庁が問題視する「評価額圧縮スキーム」4類型
    1. 会社規模等を操作して評価額を圧縮する方法
    2. 利益等を恣意的に操作して評価額を圧縮する方法
    3. グループ法人税制を利用して親会社から子会社へ利益・資産を移す方法
    4. 株主構成等を操作して配当還元方式を利用する方法
  5. 国税庁が示した四つの類型を実務上さらに分解すると、どのような対策が影響を受けるのか
    1. 会社規模を動かして類似業種比準方式の適用割合を高める対策
    2. 配当金額・利益金額を意図的に下げる対策
    3. 無配・低配当を利用して配当還元価額を低く維持する対策
    4. 無議決権株式・種類株式を使って配当還元方式を利用できる株主を作る対策
    5. 株主区分の境界を利用して評価方式を切り替える対策
    6. 持株会社化・株式交換・会社分割等を株価圧縮目的で利用する対策
    7. 相続・贈与の直前だけ行う一時的な株価対策
    8. 税務評価額とM&A・第三者取引価額との大きな乖離を前提とする設計
  6. 「持株会社化すれば節税になる」という発想は今後どうなるのか
  7. 今回の見直しで「節税対策が直ちに違法になる」わけではない
  8. 経営者が知っておくべき27のリスク
    1. 相続税・承継資金への影響
    2. 少数株主・株式集約への影響
    3. 相続紛争・会社資金・従業員持株会への影響
    4. 従来の事業承継・株価対策への影響
    5. 株主分散・紛争・株式価格への影響
    6. 経営者個人と今後の対応への影響
  9. 会社・支配株主・少数株主に生じる実務上の影響
    1. 会社・支配株主側
    2. 少数株主・非後継者側
  10. 今回の見直しの本当の意味―税務上の株価が企業価値に近づく方向
  11. ただし「税務上の株価=会社法上の株価」ではない
  12. 優良企業ほど「自社株式」が経営上のリスクになる可能性
  13. 問題は「税金」から「株式集約」、そして「経営権」へ進む
  14. 経営者が今確認しておくべきこと
  15. いま確認していただきたいこと
  16. よくある御質問
    1. 非上場株式の評価方法の変更は、もう決定したのでしょうか。
    2. 見直しが行われると、自社株式の相続税評価額は必ず上がりますか。
    3. 持株会社を使った事業承継対策は今後できなくなるのでしょうか。
    4. 配当還元方式は廃止されるのでしょうか。
    5. 相続税評価額が変われば、少数株主からの買取価格も自動的に変わりますか。
  17. まとめ―自社株式を「節税テクニック」ではなく「企業価値と経営権承継」の問題として考える
  18. 出典・参考資料

なぜ今、非上場株式の評価制度が見直されているのか

現在の非上場株式の相続税及び贈与税上の評価では、会社を大会社、中会社及び小会社に区分した上で、類似業種比準方式や純資産価額方式等によって株価を算定します。また、同族株主等以外の一定の少数株主については、配当還元方式という特例的な評価方式が認められています。

ところが、現行制度では、会社規模や株主属性などの形式的な区分によって評価方法が大きく変わるため、会社の経済的価値そのものが大きく変化していないにもかかわらず、税務上の評価額が大きく変動する場合があります。

会計検査院の調査では、類似業種比準価額と純資産価額の双方が算定されていた会社について、類似業種比準価額の中央値が1万1,622円であったのに対し、純資産価額の中央値は4万2,648円であり、類似業種比準価額は純資産価額の約27.2パーセントにとどまっていました。また、純資産価額に対する申告評価額の割合にも会社規模による差が見られました。

こうした問題等を背景として、国税庁は2026年4月に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を設置しました。第1回資料では、見直しの基本的な観点として、①評価額の「崖」の解消、②評価額の「恣意性・操作性」の排除、③実務・学術上の進展を踏まえた「今日的観点」からの見直し、④第三者への事業承継等の動向も踏まえた評価、という4つの方向が示されています。

このうち経営者・オーナー家にとって特に重要なのが、「評価額の恣意性・操作性の排除」です。国税庁は、配当、利益、会社規模等を操作して株価を圧縮するスキームや、配当還元方式を利用できる株主を人為的に作り出すスキームを問題として明示しています。

国税庁は何を問題視して非上場株式評価を見直そうとしているのか

今回の見直しを理解するうえで重要なのは、国税庁が単に「計算式を新しくする」ことだけを目的としているわけではないという点です。現在の評価方式には、会社規模の境界、利益・配当の計上時期、株主区分、議決権割合などを調整することで、企業の実質的な価値を大きく変えずに税務上の評価額だけを引き下げられる余地があると指摘されています。

第1回有識者会議の議事要旨でも、会社規模等の外形基準が評価額圧縮スキームに利用されているとの指摘や、できる限り幅広い企業に統一的に適用できる評価方式を検討すべきとの意見が示されています。

したがって今回の見直しは、「どの方式がより精緻か」という技術論だけではなく、「形式的な区分を少し動かすだけで株価が急激に変わる制度を改める」という政策的な意味を持っています。

もっとも、節税目的を含む組織再編、生前贈与、種類株式、持株会社化、役員退職金、従業員持株会等が一律に否定されるわけではありません。これらには、経営権の集中、後継者への権限移譲、グループ経営、従業員インセンティブ、資本政策その他の正当な目的があり得ます。問題となるのは、企業の実態をほとんど変えず、評価制度の境界だけを利用して一時的・形式的に株価を大幅圧縮する仕組みです。

現行の評価体系そのものが大きく変わる可能性

「大会社・中会社・小会社」という区分がなくなる可能性

現在の制度では、総資産価額、従業員数、取引金額等によって会社を大会社、中会社、小会社に区分し、その規模に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式の適用関係が変わります。一般に、会社規模が大きいほど類似業種比準方式の適用割合が高くなります。

第5回有識者会議では、評価方式間の乖離が会社規模の異なる企業間の不公平や評価額圧縮スキームを生じさせているとの問題意識の下、規模別区分を廃止し、広範な企業を共通の評価方式で評価することが検討されています。制度化された場合、これまで事業承継対策の重要な前提となっていた会社規模区分自体がなくなる可能性があります。

類似業種比準方式を存置すること自体が再検討されている

類似業種比準方式は、類似業種の上場会社の株価等を基礎として、評価会社の配当、利益、簿価純資産等を比較して株価を算定する方法です。

第5回有識者会議資料では、類似業種比準方式について、理論的・実証的根拠や、他の企業価値評価で一般的に用いられていないことなどが問題として示され、「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」という方向性まで提示されています。これは計算式を若干修正するという話ではなく、現在の非上場株式評価の中心的な方式そのものを再構成する可能性があるということです。

新しい評価方法の候補として検討される「残余利益方式」

類似業種比準方式に代わる候補として具体的に検討されているのが、インカム・アプローチの一つである残余利益方式です。第5回資料では、仮に導入する場合のイメージとして、「簿価純資産」に「数年分の超過収益」を加算又は減算する考え方が示されています。

非常に簡略化すれば、会社が通常期待される収益率を上回る利益を継続的に上げている場合には簿価純資産を上回る評価となり、反対に、低収益又は赤字の場合には簿価純資産を下回る評価となり得る仕組みです。つまり、会社が今持っている資産だけではなく、その会社が利益を生み出す力を税務上の株価に反映させようとする考え方です。

もっとも、残余利益方式の採用は確定していません。何年分の超過収益を反映するか、期待収益率をどのように設定するか、正常利益をどう算定するかなど、重要な制度設計は今後の検討事項です。

純資産価額方式の位置付けも変わる可能性

純資産価額方式についても、継続企業を清算価値に近い発想で評価することの妥当性が検討されています。第5回資料では、純資産価額方式を一般的な原則方式として広く使うのではなく、一定の「特定の評価会社」に用いる方式として位置付け直す方向が示されています。

今後は、営業権の反映、退職給付引当金等の負債の取扱い、土地を一筆ごとに評価する実務負担、貸付用不動産、法人税額等相当額の控除などが検討対象となる見込みです。

配当還元方式は「例外」として適用範囲を絞る方向

配当還元方式は、会社を支配しない少数株主について、株式から期待できる経済的利益が主として配当であるという考え方から設けられた特例的評価方式です。

第5回資料では、配当還元方式について「特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用」があるとの問題意識が示され、直ちに全面廃止するのではなく、本来の趣旨に合う株主へ適用対象を絞り込む方向で検討されています。最低配当額、従業員持株会の固定価格株式、適用株主の範囲なども論点になっています。

国税庁が問題視する「評価額圧縮スキーム」4類型

第5回有識者会議資料は、「租税回避スキーム(評価額圧縮スキーム)への対応の方向性」を大きく4類型に整理しています。以下の4類型は、国税庁がどのような株価対策を制度上成立しにくくしようとしているのかを理解するうえで重要です。

会社規模等を操作して評価額を圧縮する方法

第1の類型は、会社規模等の操作です。現行制度では、会社規模が大きくなるほど類似業種比準方式の適用割合が高くなるため、類似業種比準価額が純資産価額より低い会社では、大会社寄りの区分へ移ることで評価額を引き下げられる場合があります。

しかし、事業の実質的価値が変わっていないのに、総資産、従業員数、取引金額等の外形基準の境界をまたぐだけで評価額が大きく変わることは、「評価額の崖」として問題視されています。

国税庁が示している対応の方向性は、会社規模ごとに異なる方式を適用する現在の仕組みを改め、規模にかかわらず共通する評価方式を広範な会社に適用するというものです。この方向で制度が改められれば、「大会社に近づければ株価が下がる」という発想を前提とした対策は、従来より効果が限定される可能性があります。

利益等を恣意的に操作して評価額を圧縮する方法

第2の類型は、利益等を一時的又は恣意的に減少させることによる評価額圧縮です。第5回資料では、具体例として、オペレーティング・リース、多額の役員報酬、一時的な役員退職金等が明示されています。

これらに共通するのは、会社の本来的な収益力を恒常的に低下させるのではなく、株式評価に影響する期間に費用又は損失を計上して、計算上の利益を一時的に低くする点です。第3回資料でも、固定資産売却損や役員退職慰労金を意図的に計上することで利益要素を圧縮できるという「操作性」の問題が示されています。

そこで国税庁は、企業価値評価実務も参考にしながら、非経常的な利益・損失を修正又は除外して「企業の正常利益」を把握する方向を検討しています。制度化されれば、「法人税法上損金になること」と「非上場株式の相続税評価額を下げること」が必ずしも一致しない場面が増える可能性があります。

これは役員退職金や役員報酬が問題であるという意味ではありません。実際の退任、長年の功労への対価、合理的な報酬政策等に基づく支給には当然それぞれの経営上・税務上の意味があります。重要なのは、その支出が企業の継続的な収益力を反映したものなのか、評価時点の数字だけを下げる一時的な処理なのかという点です。

グループ法人税制を利用して親会社から子会社へ利益・資産を移す方法

第3の類型は、完全支配関係にある法人グループ内で、税負担を抑えながら親会社の利益又は資産を子会社へ移転し、親会社単体の株式評価を下げる方法です。

親会社単体だけを見れば資産又は利益が減少していても、100パーセント子会社へ移した価値は企業グループ全体から消滅したわけではありません。親会社が子会社株式を100パーセント保有しているのであれば、その価値は本来、親会社の株式価値にも反映されるべきだという考え方です。

第5回資料では、完全支配関係にある企業集団について、グループ全体として評価し、傘下法人の利益・資産等を親会社株式の評価へ適切に反映させる方向が示されています。これが制度化されれば、グループ内の資産配置だけを動かすことで親会社株式の評価を下げる効果は限定される可能性があります。

株主構成等を操作して配当還元方式を利用する方法

第4の類型は、株主構成、持株割合又は議決権割合等を操作して、特例的評価方式である配当還元方式を適用させる方法です。

配当還元方式は、本来、会社を支配せず、株式から期待できる経済的利益が主として配当に限定される株主のための例外的評価方式です。ところが、形式的な株主区分や議決権割合を調整することで、実質的な経済的持分を大きく変えずに配当還元方式を適用できる株主を作り出せる場合があります。

有識者会議資料では、株主構成の操作、無議決権株式を用いた世代間譲渡、一時的な第三者への株式譲渡などが例として挙げられています。また、従業員持株会等の固定価格株式の存在によって支配株主側の評価額が低くなる問題も検討対象です。資料上、株主構成等の操作によって評価額が最大で約98パーセント圧縮される例も示されています。

今後は、議決権割合だけでなく持株割合も考慮する、配当還元方式を適用できる株主を本来の趣旨に沿って限定するなど、「境界線を一歩またぐだけで株価が急落する」構造を縮小する方向が考えられます。

国税庁が示した四つの類型を実務上さらに分解すると、どのような対策が影響を受けるのか

国税庁の第5回資料は大きく4類型に整理していますが、実務上は次のような対策に分けて考えると影響が分かりやすくなります。以下は「国税庁が8類型を公式に列挙した」という意味ではなく、公表資料の4類型とこれまでの会議資料を、実務上の行為類型に分解したものです。

会社規模を動かして類似業種比準方式の適用割合を高める対策

売上高、従業員数、総資産等の会社規模判定要素を意識し、類似業種比準方式の比率が高い区分へ移すことを主目的とする対策は、会社規模区分そのものが見直されれば効果が薄れる可能性があります。

配当金額・利益金額を意図的に下げる対策

類似業種比準方式では、配当、利益及び簿価純資産が比準要素となります。そのため、評価前の一定期間だけ配当を抑えたり、利益を一時的に圧縮したりする発想がありました。今後、正常利益を重視する評価へ移行すれば、一時点の数値だけを落とす効果は弱くなる可能性があります。

無配・低配当を利用して配当還元価額を低く維持する対策

無配又は低配当の会社では、会社に多額の内部留保、不動産、有価証券、現預金、事業価値があっても、配当還元方式による税務評価額が極めて低くなる場合があります。今回の見直しでは、配当還元方式の適用範囲、還元率、最低配当額等が検討対象となっているため、「配当をしなければ少数株式の評価を低く維持できる」という前提で長期計画を組むことは慎重に考える必要があります。

無議決権株式・種類株式を使って配当還元方式を利用できる株主を作る対策

無議決権株式その他の種類株式には、後継者への議決権集中、経営権の安定、資本政策等の正当な機能があります。その制度自体が問題なのではありません。

しかし、実質的な経済的持分を大きく変えないまま議決権だけを移動させ、税務上の株主区分を変えることを主眼とする設計は、今回の見直しの影響を受けやすい類型です。

株主区分の境界を利用して評価方式を切り替える対策

同族株主等に該当するか、特例的評価の対象となる少数株主に該当するかによって評価額が大きく変わる現行制度では、わずかな持株割合・議決権割合の差が大きな評価差につながる場合があります。今後、境界を連続的にする制度設計が採用されれば、この「崖」を利用する対策は成立しにくくなります。

持株会社化・株式交換・会社分割等を株価圧縮目的で利用する対策

持株会社化や組織再編は、グループ経営、複数事業の整理、後継者への経営権移転、M&A後の統合などに有用です。ただし、「この形に変えれば株価が下がる」という税務評価上の効果だけを前提に設計された再編は、会社規模区分、グループ評価、株主区分等の見直しによって期待した効果が変わる可能性があります。

相続・贈与の直前だけ行う一時的な株価対策

配当政策、役員報酬、退職金、資産売却、オペレーティング・リース、組織再編等について、通常の経営判断として行う場合と、評価時点だけ株価を低くするために行う場合とでは実質が異なります。継続企業の正常な収益力を評価する考え方が強まれば、相続又は贈与の直前だけ数値を変える対策の有効性は低下する方向です。

税務評価額とM&A・第三者取引価額との大きな乖離を前提とする設計

今回の見直しの背景には、第三者への事業承継、すなわちM&Aの増加もあります。M&Aでは、将来収益力、事業計画、顧客基盤、技術、人材、ブランド等を含めて企業価値が評価されます。

税務評価額が非常に低い一方、近い時期に第三者から高額な買収提案を受けているような場合には、「税務評価だけが極端に低い」ことの合理性が意識されやすくなります。もっとも、第三者の買収提案価格が直ちに相続税評価額になるわけではありません。ここでも、それぞれの評価目的を区別する必要があります。

「持株会社化すれば節税になる」という発想は今後どうなるのか

経営者から特に質問が多いのが、「持株会社化しておけば自社株式の相続税評価を下げられるのではないか」という点です。ここは、今回の有識者会議を踏まえて慎重に整理する必要があります。

第一に、持株会社化そのものが否定されているわけではありません。持株会社には、グループ経営の統括、複数事業の整理、後継者への経営権移転、M&A後の統合、資本政策等の実務上の機能があります。

第二に、完全支配関係にあるグループについては、グループ全体として評価する方向が検討されています。そのため、親会社から100パーセント子会社へ利益や資産を移し、親会社単体の株価だけを下げることを狙う設計は、従来と同じ効果を期待できなくなる可能性があります。

第三に、既に持株会社化を実行した会社についても、「節税に失敗した」と直ちに結論付けるべきではありません。経営権の集中、グループ管理、後継者への権限移譲、将来のM&A対応など、税務以外の目的があることも多いためです。

ただし、従来の財産評価基本通達を前提とした株価シミュレーションだけで持株会社スキームを放置するのは危険です。現在の株主構成、グループ内資産、利益構造、相続人、納税資金、将来の事業計画を前提に、制度改正前後の複数シナリオを再点検することが重要です。

今回の見直しで「節税対策が直ちに違法になる」わけではない

今回の議論で注意すべきなのは、「国税庁が節税対策をつぶす」という表現を、既存の対策が直ちに違法になる、又は直ちに租税回避行為として否認されるという意味で理解しないことです。

現時点では、有識者会議で方向性が示された段階であり、最終的な財産評価基本通達の改正内容も施行時期も確定していません。また、配当政策、役員報酬、組織再編、種類株式、持株会社化、生前贈与等は、それぞれ会社法、税法、経営政策上の正当な目的を持ち得ます。

重要なのは、企業経営・事業承継の実態に沿った取引なのか、それとも評価制度の境界だけを利用して評価時点の株価を一時的に下げることが中心目的なのかを区別することです。したがって、現在進行中の事業承継対策を慌てて停止する必要はありませんが、「従来この方法なら株価が下がった」という過去の経験則だけで新たな対策を実行することも適切ではありません。

経営者が知っておくべき27のリスク

ここまでの見直しが制度化された場合、影響は相続税・贈与税だけにとどまりません。以下では、既存の経営実務、株主整理、少数株主対応、事業承継、M&Aまで含めて、経営者が考えておくべき27のリスクを整理します。

相続税・承継資金への影響

相続税及び贈与税の負担が増加する

最も直接的な問題は、相続税及び贈与税です。自社株式の評価額が上昇すれば、それを相続又は贈与によって取得する後継者の税負担も増加する可能性があります。非上場株式は上場株式と異なり、容易に市場で換金できません。会社には大きな価値があっても、後継者の手元に納税資金がないという問題が深刻化する可能性があります。

後継者が自社株式を取得できなくなる

事業承継では、現経営者から後継者へ株式を売却することもあります。株価が上昇すれば、後継者が株式を取得するために必要な資金も増えます。後継者は決まっているのに、株式を移転できないという事態が起こり得ます。

少数株主・株式集約への影響

少数株主から要求される株式買取価格が高くなる

税務評価に会社の収益力が従来以上に反映されるようになれば、少数株主との株式買取交渉で「国税庁の評価方法でもこれだけの株価になる」と主張される可能性があります。もちろん、税務上の株価と会社法上の公正な価格は同一ではありませんが、交渉材料の一つとして利用される可能性はあります。

少数株主の株式を集約する費用が増加する

非上場会社では、創業者の兄弟姉妹、叔父叔母、元役員、従業員等が少数株式を持っていることがあります。経営の安定化のためにこれらの株式を後継者又は会社へ集約しようとしても、株価が高くなれば集約に必要な資金も増加します。

株式集約を後回しにするほど問題が大きくなる

少数株主問題には株価だけでなく「人数」の問題があります。少数株主が死亡すると、その株式は相続人に承継されます。現在5人の株主が、次世代では10人、その次では20人になることもあります。株価上昇と株主数増加が同時に進めば、株式集約は急速に難しくなります。

配当還元方式を前提とした低額の株式整理が難しくなる

現在、一定の少数株主については配当還元方式による低い税務評価額が認められています。しかし、国税庁は配当還元方式を本来の特例趣旨に沿って適用範囲を整理する方向を検討しています。適用対象や計算方法が変われば、従来低額に評価されていた少数株式の税務評価額が上昇する可能性があります。

相続紛争・会社資金・従業員持株会への影響

親族間の相続争いが激化する

自社株式の価値が高くなれば、遺産全体に占める自社株式の割合も大きくなります。後継者が高額な自社株式を取得し、他の相続人が少額の現預金や不動産しか取得しない場合、相続人間の不公平感が強くなり、遺産分割紛争につながる可能性があります。

遺留分侵害額請求の負担が増加する

後継者一人に自社株式を集中させても、他の相続人の遺留分問題は残ります。自社株式の民法上の評価額が高ければ、遺留分侵害額請求の金額も大きくなる可能性があります。税務評価額と遺留分算定上の株式価値は同一ではありませんが、株式価値が高額化する局面では資金負担を総合的に検討する必要があります。

会社による自己株式取得の資金負担が増える

少数株主から会社自身が株式を買い取る自己株式取得も重要な株式集約方法です。しかし、株価が高くなれば会社が用意すべき取得資金も増えます。また、自己株式取得には会社法上の分配可能額による財源規制があり、現預金があるからといって無制限に取得できるわけではありません。

役員や従業員から株式を買い戻せなくなる

過去に役員や従業員へ株式を保有させている会社では、退職時の株式処理が問題となります。当初は少額だった株式でも、会社が成長すれば価値が大きくなり、退職時に会社又は経営者が想定していた価格で買い戻せなくなる可能性があります。

従業員持株会の制度設計を見直す必要が生じる

今回の有識者会議では、従業員持株会や固定価格株式の取扱いも検討対象となっています。長期間運用している持株会では、現在の税務評価制度を前提に取得価格、退会時の売却価格、株式の買戻し方法等を設計している場合があります。評価制度の変更に応じて規約・運用を再確認する必要が生じる可能性があります。

従来の事業承継・株価対策への影響

持株会社を利用した従来の事業承継対策の前提が変わる

完全支配関係にある企業集団をグループ全体で評価する考え方が導入されれば、親会社から子会社へ資産や利益を移転することで親会社株式の評価を低くする方法について、従来と同じ効果を期待できなくなる可能性があります。持株会社化自体が否定されるわけではありませんが、税務評価上の前提は再点検が必要です。

利益を一時的に圧縮する株価対策が効きにくくなる

今回の見直しでは、企業の「正常利益」を把握する方向が示されています。オペレーティング・リース、多額の役員報酬、一時的な役員退職金等によって評価直前の利益を減少させても、非経常的損益として修正される仕組みになれば、株価を十分に下げられない可能性があります。

高収益企業ほど事業承継が困難になる

残余利益方式は、会社の収益力を株価に反映する考え方です。利益を増やし会社を成長させるほど株価が高くなる方向に作用するため、「会社は非常に順調だが、高くなり過ぎた株式を子どもへ承継できない」という問題が生じる可能性があります。

内部留保が厚く、かつ高収益な会社は二重に影響を受ける

長年利益を蓄積してきた会社は既に簿価純資産が大きくなっています。さらに超過収益力まで評価に反映される仕組みになれば、純資産が厚く、かつ高収益な会社については株価が高く算定される要素が重なる可能性があります。

「会社を売らないから株価は関係ない」が通用しない

自社株式の価値は会社売却時だけに問題となるものではありません。相続、贈与、遺産分割、遺留分、少数株主からの株式買取り、自己株式取得、役員退職、離婚、強制執行など、多数の場面で問題となります。会社を一生売却しなくても、自社株価の問題から逃れることはできません。

経営者死亡時に巨額の資金需要が同時発生する

経営者が突然死亡した場合には、相続税の納税資金、遺留分への対応、少数株主対策、役員退職慰労金、経営者保証への対応、会社運転資金等、複数の資金需要が同時に発生する場合があります。株価が高くなれば、その負担がさらに大きくなる可能性があります。

株主分散・紛争・株式価格への影響

節税のために株式を分散させたことが将来の経営権紛争につながる

税務上のメリット等を考えて親族、役員、従業員等に株式を分散させている会社があります。しかし、株式には議決権その他の株主権があります。現在は協力的な株主でも、その死亡後に相続人が株主となれば、株主総会、取締役選任、帳簿閲覧請求、役員責任追及その他の株主紛争につながる可能性があります。

経営者の知らない株主が増えていく

非上場株式も相続財産です。少数株主が死亡すれば配偶者や子どもが株式を相続し、さらに次世代へ分散します。数十年後には、現在の経営者や後継者が一度も会ったことのない株主が存在することもあります。その段階で株式を集約しようとしても交渉は難しくなります。

敵対的少数株主との交渉が厳しくなる

経営方針に反対する親族株主、退職した元役員、経営者と関係が悪化した株主等が存在する場合があります。税務評価が企業の収益力をより反映するようになれば、こうした株主が高額な株式価値を主張する材料として新しい税務評価を利用する可能性があります。

株式買取業者との交渉が厳しくなる

近年、非上場会社の少数株式を取得する株式買取業者も存在します。少数株主から株式を取得した第三者が会社に株主権を行使し、会社又は経営者へ株式買取りを求めることがあります。税務評価が企業価値に接近する方向に変化すれば、高い価格を要求する際の交渉材料の一つとなる可能性があります。もっとも、税務評価額がそのまま法的な株式買取価格になるわけではありません。

会社法上の株式価格決定事件が複雑になる

非上場株式の価格は、会社法上の株式買取請求や譲渡制限株式の売買価格決定等でも問題となります。税務評価に収益力を反映する方式が導入されれば、「新しい税務評価ではこの価格になる」という主張が裁判や交渉で提出される可能性があります。税務評価と会社法上の公正な価格は異なりますが、両者の関係が新たな争点となる可能性があります。

M&A価格と税務評価額との乖離が縮小する可能性

M&Aでは、将来キャッシュ・フロー、収益力、純資産等を考慮して企業価値を評価します。残余利益方式も、収益力を株価へ反映するという点では従来の税務評価より企業価値評価に近い発想です。そのため、税務上の評価額とM&A等で算定される企業価値との大きな乖離が縮小する可能性があります。ただし、両者は目的も手法も異なり、同一価格になるわけではありません。

会社と経営者・親族間の株式売買における税務リスクが高まる

非上場会社では、経営者、親族、会社との間で株式を売買することがあります。取引価格が税務上の時価と著しく乖離すれば、所得税、法人税又は贈与税等の問題が生じる可能性があります。評価方法が収益力をより反映するものになれば、低額での株式移転について従来以上に慎重な検討が必要となる可能性があります。

経営者個人と今後の対応への影響

離婚・財産分与でも自社株価が重大問題となる

経営者が離婚する場合、自社株式が財産分与の対象となるか、その価値をいくらと評価するかが問題になることがあります。税務評価と財産分与における株式評価は別の問題ですが、会社の価値に関する客観資料として税務評価が交渉上参照される可能性はあります。

経営者個人の債権者による株式差押えの問題が大きくなる

自社株式は経営者個人の財産です。経営者個人に債務問題が生じた場合、自社株式が強制執行の対象となる可能性があります。株式価値が高いと認識されれば、債権者にとって差し押さえる経済的意味も大きくなり、第三者の株式取得が経営権・少数株主問題へ発展する可能性があります。

「まだ制度が決まっていないから何もしない」こと自体がリスクになる

現在議論されている制度はまだ確定していません。報道だけを見て株式を急いで贈与したり、組織再編を実行したりすることは適切ではありません。一方で、株主構成の整理、少数株主との交渉、自己株式取得、種類株式の設計、遺言、遺留分対策、後継者への株式移転等は短期間で完了するものではありません。制度が確定してから初めて対策を考えるのでは遅い場合もあるため、現状把握と複数シナリオの検討は早めに進める必要があります。

会社・支配株主・少数株主に生じる実務上の影響

会社・支配株主側

会社・支配株主側では、相続・事業承継時の納税負担だけでなく、少数株主からの株式買取要求への対応も変わる可能性があります。従来、「税務上の株価は低い」という説明を交渉材料の一つとしていた案件でも、税務評価が収益力をより反映するようになれば、低額な税務評価を前提とする説明の説得力が弱まる可能性があります。

一方で、会社にとっては、相続が発生して株式がさらに分散する前に、株主構成、議決権、買取資金、定款、種類株式、自己株式取得の可否等を整理する必要性が高まります。

少数株主・非後継者側

少数株主側にとって、税務上の株価が上昇することは必ずしも有利又は不利の一方向ではありません。相続税負担が増える可能性がある一方、会社又は支配株主との買取交渉で「配当還元価額だから非常に低い価格でしか買えない」という説明の説得力が弱まる可能性があります。

もっとも、相続税評価額と会社法上の公正な価格、譲渡制限株式の売買価格決定申立てにおける価格、M&Aにおける企業価値評価は同一ではありません。税務上の評価額が上がったからといって、その価格で会社に買い取ってもらえる権利が生じるわけではありません。

今回の見直しの本当の意味―税務上の株価が企業価値に近づく方向

今回の見直しについて重要なのは、税務上の株価が、従来より企業の実際の経済的価値に接近する方向が検討されているという点です。

従来の財産評価基本通達では、会社規模、株主属性、配当等の形式的要素によって、同じ会社の株式であっても税務評価額が大きく変化する場合がありました。特に配当還元方式が適用される少数株主の株式については、会社全体として大きな企業価値があっても非常に低い税務評価額となることがあります。

これに対し、残余利益方式は、簿価純資産だけでなく会社の収益力を株価に反映させる発想です。これはM&Aや会社法上の株価算定と同じ評価方法ではありませんが、「会社が継続的にどれだけ利益を生み出せるか」を株式価値に反映するという点で、従来の税務評価より企業価値評価に近い考え方です。会社法上の株価紛争における適正価格の問題は、税務上の評価とは別の論点であり、末尾の関連ページに整理しています。

ただし「税務上の株価=会社法上の株価」ではない

ここは厳密に区別する必要があります。相続税・贈与税における株式評価は、租税負担を算定するための評価です。

これに対し、会社法上の株式買取請求、譲渡制限株式の売買価格決定、少数株主との任意の株式買取交渉等では、それぞれの法的場面に応じて株式価値を検討します。また、M&Aではディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法、類似会社比較法その他の企業価値評価手法が用いられる場合があります。

したがって、「税務評価額が1株1万円だから会社が1株1万円で買い取らなければならない」ということにはなりません。反対に、「税務評価額が1株1,000円だから1株1,000円で買い取れば適正である」ということにもなりません。

ただし、税務評価が収益力をより反映するようになれば、従来大きく乖離していた税務評価と企業価値との関係が、少数株主との交渉や株式価格を巡る裁判で意識される場面は増える可能性があります。

優良企業ほど「自社株式」が経営上のリスクになる可能性

今回の問題は、経営不振企業だけの問題ではありません。むしろ、利益を継続的に上げている、内部留保が厚い、純資産が大きい、創業から長期間経過している、将来も安定的な収益が期待できる、といった優良な非上場会社ほど、自社株式の価値が高くなる可能性があります。

会社を成長させ、利益を上げ、借入金を返済し、内部留保を積み上げることは企業経営として望ましいことです。しかし、その結果として株式価値も高くなり、「会社経営には何の問題もないのに、株式が高くなり過ぎて次世代へ承継できない」という逆説的な問題が生じます。

オーナー企業にとって、自社株式は単なる投資資産ではなく経営権そのものです。高く売れることだけを考えれば価値上昇は良いことですが、承継、少数株主整理、相続、遺留分、自己株式取得まで含めると、高い株価それ自体が経営上の資金リスクになることがあります。

問題は「税金」から「株式集約」、そして「経営権」へ進む

今回の問題は三段階で考えると分かりやすいでしょう。

第一段階は「税金が増える」という問題です。自社株式の評価額が上昇すれば、相続税及び贈与税の負担が増加する可能性があります。

第二段階は「株式を集められなくなる」という問題です。後継者への株式移転、少数株主からの株式買取り、自己株式取得、親族株主の整理等に必要な資金が増加します。

第三段階が「経営権を守れなくなる」という問題です。株式を集約できなければ、相続のたびに株主が増え、親族間で対立が生じ、少数株主が第三者へ株式を譲渡する可能性も生じます。最終的には、後継者が安定した経営権を確保できなくなる可能性があります。

したがって、今回の非上場株式評価制度の見直しは、単なる「相続税の改正」ではなく、「オーナー企業の経営権承継に関する問題」として捉える必要があります。

経営者が今確認しておくべきこと

制度が確定していない以上、直ちに特定の節税対策を実行すべきということではありません。まず必要なのは、自社の現状を把握し、どの制度変更に弱い構造なのかを確認することです。

  • 現在、自社株式が大会社・中会社・小会社のどの区分で評価されているか。
  • 類似業種比準価額と純資産価額にどの程度の差があるか。
  • 過去数年間の利益水準と、通常時の収益力はどの程度か。
  • 配当還元方式の対象となっている株主が誰か、その判定が持株割合・議決権割合のどの要素に依存しているか。
  • 無議決権株式その他の種類株式を利用している場合、その導入目的と経営上の必要性を説明できるか。
  • 従業員持株会がある場合、取得価格、退会時価格、買戻し条件がどの評価方式を前提としているか。
  • 持株会社化、株式交換、会社分割その他の組織再編を行っている場合、節税以外の事業目的が明確か。
  • 相続又は贈与の直前だけ行う予定の配当・利益・資本政策がないか。
  • 後継者は誰で、どの程度の議決権を取得させる必要があるか。
  • 少数株主は何人いて、年齢・相続人・関係性はどうなっているか。
  • 後継者以外の相続人の遺留分をどのように処理するか。
  • 相続税、遺留分、自己株式取得、少数株式集約に必要な資金を確保できるか。
  • M&Aによる第三者売却を検討している場合、税務評価額と想定売却価額にどの程度の差があるか。
  • 制度改正前後の複数シナリオで、納税資金と株式集約コストを試算しているか。

いま確認していただきたいこと

  • 現在の会社規模区分と、類似業種比準価額・純資産価額の差を確認してください。
  • 配当還元方式が適用されている株主が誰か、その理由が議決権・株主構成のどこにあるか確認してください。
  • 持株会社化、株式交換、会社分割、種類株式等を実施している場合は、税務以外の事業目的・承継目的を資料で確認してください。
  • 相続又は贈与の直前だけ利益・配当・資本政策を変える計画がある場合は、その必要性と継続性を確認してください。
  • 税務評価額、会社法上の株式価値、M&Aで想定する企業価値を同じ数値として扱っていないか確認してください。

よくある御質問

非上場株式の評価方法の変更は、もう決定したのでしょうか。

2026年8月30日現在、国税庁の有識者会議で見直し方向が議論されている段階であり、最終的な財産評価基本通達の改正内容や施行時期が確定したわけではありません。公表資料を前提に、複数のシナリオで影響を確認することが重要です。

見直しが行われると、自社株式の相続税評価額は必ず上がりますか。

必ず上がるとは限りません。検討されている評価方法や会社の収益・純資産・株主構成によって影響は異なり、低収益会社等では現在と異なる方向の評価となる可能性もあります。具体的な税務影響は制度確定後に税理士と確認する必要があります。

持株会社を使った事業承継対策は今後できなくなるのでしょうか。

持株会社化や組織再編そのものが一律に否定されるという公表内容ではありません。問題となっているのは、経済的実態や事業上の目的と乖離した評価額圧縮が制度上可能となる場面です。持株会社化に事業上・ガバナンス上の目的がある場合もあるため、目的と効果を分けて確認します。

配当還元方式は廃止されるのでしょうか。

第5回有識者会議資料では、特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用への対応や適用対象の見直しが検討されていますが、2026年8月30日時点で一律廃止が決まったわけではありません。今後の公表資料を確認する必要があります。

相続税評価額が変われば、少数株主からの買取価格も自動的に変わりますか。

自動的には決まりません。相続税評価額は課税目的の評価です。任意売買、会社法上の株式買取価格・売買価格決定、M&Aにおける企業価値では目的と評価の考え方が異なります。税務評価の見直しは交渉上の一資料となり得ますが、会社法上の価格と同一ではありません。

まとめ―自社株式を「節税テクニック」ではなく「企業価値と経営権承継」の問題として考える

非上場株式の評価制度は、現在、大きな転換点を迎えています。現時点で最終的な制度は確定していませんが、国税庁の有識者会議では、会社規模区分の見直し、類似業種比準方式の存廃、残余利益方式を含むインカム・アプローチ、純資産価額方式の位置付け、配当還元方式の適用範囲、企業集団の一体評価、利益操作等による評価額圧縮への対応など、現行制度の根幹に関わる議論が行われています。

特に第5回有識者会議では、①会社規模等の操作、②利益等の恣意的な操作、③グループ法人税制を活用した評価額圧縮、④株主構成等の操作による配当還元方式の濫用という、評価額圧縮スキームへの対応方向が具体的に示されました。

今後の事業承継では、「この比率を動かせば評価額が下がる」「この種類株式を使えば配当還元方式になる」「この組織再編をすれば会社規模区分が変わる」といった単発の株価圧縮策だけに依存することは難しくなる可能性があります。

重要なのは、経営権を誰に渡すのか、非後継者にどの財産を渡すのか、相続税をどう納めるのか、会社が少数株式を買い取るのか、M&Aで第三者承継する可能性があるのかまで一体的に設計することです。

特に、既に持株会社化、種類株式、生前贈与、従業員持株会、株式分散等の対策を実行している会社は、従来の評価方法を前提としたシミュレーションを一度見直すことが重要です。

自社株式は、「相続が発生したときに税理士へ相談する問題」ではなく、経営者が元気なうちから、税務、会社法、株主構成、資金繰り、事業承継及びM&Aを横断して検討しておくべき経営問題です。

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出典・参考資料

※本稿は2026年8月30日現在の公表資料に基づいています。実際に相続、贈与、組織再編、持株会社化、役員退職金の支給、従業員持株会の設計等を行う場合には、その時点の法令、財産評価基本通達及び国税庁公表資料を確認する必要があります。

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