競業関係にある株主から会計帳簿閲覧謄写請求を受けた場合

株主の一人が、退任後に同業の会社を設立していることが判明した。株主である法人の関連会社が、自社と同じ分野で事業を行っている。その株主から、会計帳簿の閲覧謄写を請求された。発行会社の代表取締役、法務責任者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。会社法は、会計帳簿閲覧謄写請求について、一定の事由がある場合に会社が請求を拒むことができる旨を定めており、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであることは、その事由の一つとされています。
もっとも、「同業である」というだけで当然に拒むことができるわけではありません。競争関係の存在をどのように認定するか、その認定を裏付ける資料をどのように整えるかが、実務上の課題となります。会社側が根拠なく競業を主張して拒んだ場合、後の手続において不利に働きます。
本記事は、競業関係の認定という一点に絞って整理いたします。その他の拒絶することができる事由、請求を受けた場合の初動については、それぞれ別の記事をご参照ください。
制度の意味
なぜ競業関係が問題となるのか
会計帳簿及びこれに関する資料には、取引先、仕入の条件、原価、利益率、顧客の情報といった、事業の中核に関わる情報が含まれます。これらが競争関係にある者に渡ることは、会社の事業に直接の影響を及ぼし得ます。
会社法が、この事情を拒むことができる事由の一つとしているのは、株主の権利の行使が、会社の事業を害する手段として用いられることを防ぐためです。
主観的な意図は要件とされていません
この事由については、請求者が会社を害する意図を有していることまでは要件とされていないと理解されています。すなわち、請求者が実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事しているという客観的な状況があれば足りるという整理です。
もっとも、この点は、競争関係の存在をどのように認定するかという問題に置き換わります。認定が緩やかに行われるわけではありません。
要件と論点
「実質的に競争関係にある」とは
問題となるのは、「実質的に」という部分の評価です。会社側としては、次の観点から整理することになります。
表1 競争関係の認定において検討する要素
| 要素 | 検討する内容 |
|---|---|
| 事業の内容 | 取り扱う商品又は役務が同一又は類似のものであるか |
| 市場の重なり | 対象とする顧客層、地域が重なっているか |
| 取引先の重複 | 現に同一の取引先と取引しているか |
| 事業の規模と段階 | 相手方の事業が現に稼働しているか、準備の段階にとどまるか |
| 将来の可能性 | 近い将来に競争関係が生じることが具体的に見込まれるか |
| 請求者と事業者との関係 | 請求者本人が営んでいるか、従事しているか、関連する法人を通じているか |
請求者と事業者とが一致しない場合
実務上多いのは、請求者本人ではなく、請求者が支配する法人、請求者が役員を務める法人が競争関係にあるという場合です。この場合、請求者が当該事業に「従事する」といえるかどうかが検討されます。
表2 請求者と競業する事業との関係の類型
| 類型 | 検討の観点 |
|---|---|
| 請求者本人が営んでいます | 事業の内容と重なりの程度を検討します |
| 請求者が代表者を務める法人が営んでいます | 請求者の関与の程度を検討します |
| 請求者が株主にすぎない法人が営んでいます | 支配の程度、経営への関与の程度を検討します |
| 請求者の親族が営んでいます | 請求者自身の関与の有無を検討します |
| 請求者が従業員として勤務しています | 職務の内容と情報へのアクセスの可能性を検討します |
資料による裏付けが必要です
競争関係を主張するためには、資料による裏付けが必要です。噂や推測に基づく主張は、後の手続において維持することができません。
表3 裏付けとなり得る資料
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 相手方の法人の目的、役員の構成、設立の時期 |
| 公表されている情報 | 相手方の事業の内容が分かる公表資料 |
| 取引先からの情報 | 現に競合している状況が分かる資料。取得の方法に留意が必要です |
| 従前の経緯 | 退任時の状況、その後の事業の開始の経緯が分かる資料 |
| 契約書 | 退任時に取り交わした書面がある場合 |
拒む範囲の検討
競争関係が認められる場合であっても、請求の全部について当然に拒むことができるとは限りません。請求された資料の内容、請求の理由との関係を踏まえた検討が必要となる場合があります。
会社側の実務
表4 対応の手順
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 請求書の到達日を記録し、原本と封筒を保管します |
| 第2 | 請求者の属性と、競業が疑われる事業の内容を整理します |
| 第3 | 登記事項証明書その他の公表資料を取得します |
| 第4 | 自社の事業との重なりを、商品、役務、顧客層、地域の観点から整理します |
| 第5 | 請求者と当該事業との関係を整理します |
| 第6 | 拒む場合の理由と、その裏付けとなる資料を整理します |
| 第7 | 回答の方針を定めます。方針の決定の前に弁護士へご相談ください |
| 第8 | 期限を確認します。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします |
推測による主張を避けます
「同業らしい」「競合していると聞いている」という水準の情報に基づいて拒むことは、適切ではありません。裏付けを整えたうえで、根拠を示して回答してください。
資料の取得の方法に留意します
競争関係を裏付ける資料を収集するにあたり、その取得の方法が適切であることが必要です。取得の方法自体が問題とされることのないよう、注意してください。
他の事由との関係
競争関係のほかにも、会社が請求を拒むことができる事由が定められています。競争関係のみに依拠するのではなく、事案に応じて併せて検討することが適切です。他の事由については、別の記事において整理しております。
記録の整備
検討の経緯、収集した資料、回答の内容と方法は、記録として保存してください。裁判所の手続に進んだ場合に、これらの記録が会社側の主張の土台となります。
関連する手続
会社が請求を拒んだ場合、株主が裁判所に対して手続を求めることがあります。この手続においては、競争関係の存在について、会社側が主張立証を行うことになります。仮の地位を定める手続が申し立てられる場合には、短い期間での対応が求められます。
したがって、回答の段階における検討と資料の整備が、その後の手続の帰趨に影響します。
弁護士に相談する意味
第一に、競争関係の認定は、事案ごとの評価を要する領域です。会社が独自に判断して拒むことには危険が伴います。
第二に、裏付けとなる資料の整備です。何をどこまで収集すべきか、収集の方法として適切かという判断が必要となります。
第三に、拒む範囲の検討です。全部を拒むのか、一部について応じるのかという判断は、その後の手続を見通して行う必要があります。
第四に、手続への備えです。仮の地位を定める手続が申し立てられた場合には、短い期間での対応が求められます。あらかじめ体制を整えておく必要があります。
なお、具体的な回答の組立てと進め方は、株主構成、請求の経緯、会社の実情等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 株主が同業の会社の株式を保有しているだけの場合はどうなりますか。
保有しているという事実のみでは足りず、請求者が当該事業を営み、又はこれに従事しているといえるかどうかが検討されます。支配の程度、経営への関与の程度が問題となります。
質問2 相手方の事業がまだ始まっていない場合はどうなりますか。
現に稼働していない場合、競争関係の認定は容易ではありません。もっとも、準備の状況によっては検討の対象となり得ます。資料の整備が重要となります。
質問3 競業に当たると考えて拒みましたが、後で争われた場合はどうなりますか。
裁判所の手続において、競争関係の存在について会社側が主張立証を行うことになります。裏付けを欠く場合、会社側の主張が認められないことがあります。
質問4 退任時に競業を行わない旨の約束をしていました。
その書面の存在は、事情の一つとして意味を持ち得ます。もっとも、書面があることと、会計帳簿閲覧謄写請求を拒むことができるかどうかとは、別の問題です。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
株主から受領した請求書の原本又は写しと封筒、定款、株主名簿、直近3期分の計算書類、相手方の事業に関して把握している資料、退任時の書面がある場合はその写し、従前の経緯が分かる資料をご持参ください。
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株主から会計帳簿の閲覧謄写を請求された会社の方は、会計帳簿閲覧謄写請求を受けた会社へをご覧ください。請求を受けた会社の初動、要件の検討、対象となる資料の範囲、裁判手続への備えを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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