株主の権利行使に関する利益供与の禁止とは?要件や責任、具体例を解説

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会社法における利益供与の禁止は、総会屋対策を原点としています。

しかし、総会屋が関わる場面以外でも、株主の権利行使に関する利益供与の禁止が問題になることがあり、注意が必要な規定です。

そこで、この記事では、利益供与の禁止について、その要件や該当した場合の法的責任、具体例などを解説していきます。

利益供与の禁止とは

株式会社は、誰に対するものであっても、株主等の権利行使に関して財産上の利益を与えてはいけません。

これが会社法に規定されている利益供与の禁止であり、昭和56年の商法改正により導入されたものです。

利益供与禁止の直接的な目的は、上場企業の総会屋に対する利益供与を根絶するためでしたが、適用の対象は広く、総会屋が関係する場面に限られず適用されてきました。

中小企業など、上場企業のような公開会社ではない閉鎖型の会社であっても、利益供与の禁止は適用される余地があると理解されています。

利益供与に該当すると、民事・刑事の双方で重い責任を負うことになり、株主総会決議取消しの対象になるなど重大な影響が生じるので注意が必要です。

利益供与禁止の制度的沿革

利益供与の禁止規定は昭和56年の商法改正で新設されました。

この法改正では、総会屋や会社荒らしへの対策として利益供与禁止規定を設けた他に、罰則として利益供与罪・受供与罪も導入されています。

それ以前にも、商法第494条で利益供与を収受したり供与したりすることについて罰則がありましたが、「不正の請託」を受けることが要件となっていたため、適用が困難なものになっていました。

そこで、昭和56年改正では、新たに「不正の請託」を必要としない利益供与罪・受供与罪を設け、総会屋対策の実効性を高めようとしています。

しかし、その後も総会屋に対する利益供与で大企業が摘発される事件が相次ぎ、平成9年の法改正では、罰則を重くするとともに、利益供与要求罪を新設して利益供与を要求しただけで処罰できるようにしました。

この改正により、利益供与罪等は、当初の6月以下の懲役または30万円以下の罰金から、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に改められています。

さらに、平成9年改正では、利益受供与罪と利益供与要求罪につき、威迫を伴う場合には刑を加重するようにし、これらの罪については懲役刑と罰金刑の両方を科すことを可能にしました。

その後、平成12年改正では、会社の計算のみならず、子会社の計算で利益供与を行うことも禁止されました。

平成26年改正では、適格旧株主や最終完全親会社等株主による責任追求の訴えの制度が新設されたため、これらの権利の行使に関しても利益供与が禁止されるようになりました。

このように、利益供与禁止の制度は改正を繰り返しながら現在に至っています。

利益供与禁止の要件

利益供与禁止の要件は、株式会社は、何人に対しても、株主等(株主、適格旧株主、最終完全親会社等の株主)の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないというものです。

何人に対しても

利益供与が禁じられる相手は、条文に「何人に対しても」とあるので、現在の株主に限られません。

株主以外の第三者に対する利益供与も、禁止の対象になり得ます。

例えば、会社にとって好ましくない者が株式を取得することを防ぐために利益を供与することも、禁止される利益供与になる可能性があります。

株主の権利の行使に関し

株主の権利は、株主総会の議決権に限られず、株主としてのすべての権利を意味します。

株主の権利は、自益権と共益権の2種類に分けられるのが一般的です。

自益権とは、株主が会社から経済的な利益を受けられる権利です。

具体的には、剰余金の配当請求権や、残余財産の分配請求権、株式買取請求権などがあります。

共益権とは、会社経営に参与したり、会社役員の行為を監督是正したりする権利であり、株主総会の議決権が中心になっています。

その他の共益権には、株主総会での質問権や提案権、株主総会決議取消や株式発行無効等の訴えの提起権、役員の解任請求権、違法行為の差止請求権、会計帳簿等の書類閲覧請求権などがあります。

これらの自益権と共益権のすべてについて、利益供与禁止の規制対象になります。

なお、条文上は「権利の行使に関し」となっていますが、株主の権利を行使しないことについて利益を与えることも禁止の対象になります。

財産上の利益の供与

禁止される利益供与は、財産上の利益を供与した場合に限られます。

また、会社に損害が発生することは要件とされていないので、合理的な対価を受けていても該当する可能性があります。

例えば、総会屋が関係している企業との合理的な対価での取引も、利益供与になるおそれがあります。

なお、禁止されるのは、会社または子会社の計算で財産上の利益を供与した場合です。

したがって、取締役等が個人の財産を供与する場合は、原則として規制の対象外になります。

しかし、取締役等が個人で負担する形式であっても、その金額が役員報酬等に上乗せされている場合など、実質的に会社が負担しているのと同様なときは、この要件を満たすと考えられています。

適格旧株主等に対する利益供与

利益供与の禁止の対象は、現在の株主に限られず、適格旧株主や最終完全親会社等の株主の権利の行使に及びます。

適格旧株主とは、株式交換・株式移転、または三角合併型の吸収合併により完全親会社の株式を取得し、引き続きその株式を有している株主をいいます。

これらの場合は、効力発生前に原因が生じた、完全子会社や消滅会社の取締役の責任追及等の訴えの提起を請求することができます。

次に、最終完全親会社等とは、完全親会社等のうちで、自己に対する完全親会社等を持たない最上位の会社をいいます。

完全親会社等とは、完全親会社の他に、子会社の株式の全部を、完全子会社と共同して、もしくは、完全子会社を通じて保有している会社をいいます。

最終完全親会社等の、議決権または発行済株式数の100分の1以上を有している株主は、子会社の役員に対して特定責任追求の訴えを提起することができます。

これらの適格旧株主や最終完全親会社等の株主の権利の行使についても、利益供与をすることが禁じられています。

利益供与の推定

会社が、特定の株主に対して、無償で財産上の利益を供与した場合、または、対価があっても供与した利益に比べて受けた利益が著しく少ない場合は、株主の権利の行使に関して利益供与がなされたと推定されます。

したがって、特定の株主に無償で利益供与した場合だけでなく、総会屋が発行するほとんど価値のない雑誌や新聞に広告を掲載する見返りとして利益を供与する場合にも、株主の権利の行使に関する利益供与が推定されます。

株主の権利の行使に関して利益供与がなされたことは立証困難な場合が多いので、このような推定規定が用意されています。

利益供与をした場合の責任

利益供与があった場合は、供与側と受けた側の双方に、民事・刑事の両面で重い責任が生じます。

民事責任

利益供与をした側と受けた側の双方に、民事上の責任があります。

利益供与に関与した取締役・執行役は、供与額に相当する額を、連帯して会社に返還しなければなりません。

利益供与をした取締役等を除き、利益供与に関与した取締役等は、注意を怠らなかったことを証明した場合は責任を免れます。

利益供与をした取締役等は、無過失責任を負うので責任を免れません。

なお、総株主の同意がある場合は、取締役等はこの責任を免除されます。

利益供与を受けた者は、受けた利益を会社に返還する義務があります。

刑事責任

利益供与があった場合は、懲役または罰金の刑事責任が生じます。

利益供与をした取締役等は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されます。

事情を知りながら利益供与を受けた者、または、第三者に対して利益を供与させた者も、3年以下の懲役または300万円以下の罰金となります。

また、取締役等に対し、自己または第三者に利益を供与するように要求した者も、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を受けます。

さらに、威迫により利益供与を受けたり要求したりした者は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。

利益供与が問題になった具体例

利益供与の禁止が問題になった裁判例を、簡単に解説していきます。

Quoカードの交付を利益供与とした例

モリテックス事件判決(東京地裁平成19年12月6日判決)では、議決権を行使した株主に対して500円分のQuoカードを贈呈したことが利益供与に当たるとされました。

この事件は、株主総会における役員の選任に関し、会社提案の議案と株主の提案にかかる議案が対立している状況下で、双方の委任状の勧誘が行われている事案でした。

このような状態で、会社が議決権を行使した株主に対して商品券の贈呈を行ったことについて、株主総会決議の取消請求訴訟が提起されました。

裁判所は、株主の権利行使に関して財産上の利益供与を行うことは、原則としてすべて禁止されるとしたうえで、①正当な目的、②個々の金額の相当性、③総額の相当性の3つの要件をすべて満たした場合は、例外的に許容される場合があるとしています。

結論として、本件では、個々の金額と総額については許容されるとしながらも、商品券の贈呈は、会社提案議案に賛成する議決権行使の獲得を目的としたものと推認することができ、正当な目的とはいえないので利益供与に当たると判断して、総会決議の取消しを認めました。

好ましくない株主の権利行使を回避するために利益供与した例

蛇の目ミシン工業事件判決(最高裁平成18年4月10日判決)は、会社にとって好ましくない株主による権利行使を回避する目的で、その株主から株式を譲り受けるための対価を第三者に供与する行為が、禁止される利益供与に当たるとした判例です。

この事件は、ある仕手集団の代表Kが蛇の目ミシン工業の大株主になり、蛇の目ミシン側に対し、持ち株の買取りと債務の肩代わりを求めている状況でした。

会社側は、当初はこの要求に応じないでいましたが、Kはすでに持ち株を暴力団関係者に譲渡したと会社に誤信させて脅し、株式の譲渡を取り消すためとして300億円を要求しました。

結局、蛇の目ミシン側は、Kの要求に応じて300億円を迂回融資したうえで、Kの966億円の債務も関連会社を通して肩代わりし、最終的に巨額の損害を被ることになりました。

裁判所は、300億円の迂回融資について、株式の譲渡それ自体は株主の権利行使とはいえないとしながらも、会社から見て好ましくない株主が権利を行使するのを回避する目的で、その株主から株式を買い取るための対価を供与する行為は、禁止される利益供与に当たるとしました。

また、債務の肩代わりについても、利益供与の禁止に該当するとしています。

従業員持株会への奨励金について否定した例

福井地裁昭和60年3月29日判決は、従業員持株会に対して会社が支給していた奨励金を、利益供与の禁止に触れないとした判例です。

裁判所は、特定の株主である従業員持株会の会員に対して、会社が無償で奨励金を供与したことについては、株主の権利の行使に関して利益が供与されたとの推定がはたらくとしました。

そのうえで、奨励金の支給は、従業員に対する福利厚生等の一環等の目的でしたものと認め、株主の権利の行使に関してしたとの推定を覆しました。

最終的に、従業員持株会への奨励金支出は違法なものではないとしています。

優待乗車券の交付について否定した例

土佐電気鉄道事件判決(高松高裁平成2年4月11日判決)は、優待乗車券の交付を有利に受けようとした株主に会社が便宜を図ったことについて、利益供与の禁止の適用を否定した例です。

この事件の会社では、最低500株で1冊の優待乗車券を取得できたので、1,000株以上の場合は、複数人で株式を保有する方が全体としてより多くの優待乗車券を得ることができました。

一部の株主は、優待乗車券の交付を有利にするために架空の人物に対する株式譲渡の形式を整え、会社側も優待乗車券の交付のみについてはそのような株式譲渡を認めるという便宜を図っていました。

裁判所は、優待乗車券の超過交付について、特定の株主に対して無償で財産上の利益を供与したものと認めました。

しかし、会社は株主の権利の行使に関して超過交付をする意図はなかったとして、利益供与禁止の規定に違反しないと判断しています。

まとめ

この記事では、会社法に規定されている利益供与の禁止について解説してきました。

どのような場合が、株主の権利行使に関して禁止される利益供与に該当するのかは、具体的な事情によって異なります。

その一方で、利益供与に該当した場合の責任は、民事・刑事の両面において非常に重いものがありました。

利益供与の禁止について不安がある場合は、専門の弁護士にまず相談することをおすすめします。