少数株主問題を放置するとM&Aにどう影響するか

将来的にM&Aによる株式譲渡や事業承継を見据えている非上場会社の経営者の方から、少数株主が長年にわたり存在したままになっているが、このまま何もせずに放置していてよいものか、という御相談をいただくことがあります。株主の中には、創業当初からの縁故者やその相続人が含まれ、連絡先すら定かでない場合も少なくありません。
この場面で問題となるのは、少数株主の存在をそのままにしておくことが、単なる先送りにとどまらず、時の経過とともに解決を一層困難にしていくという点です。とりわけ、買主候補が現れてM&Aの話が具体化した段階になって初めて、株式に関する整理の不備が明らかになると、限られた期間の中で対応を迫られ、交渉上不利な立場に置かれることになります。
以下では、少数株主問題を放置した場合に生じる変化の内容、及びM&Aのデューデリジェンスにおいて具体的にどのような事項が確認され、放置がどのような影響を及ぼすのかを、時間の経過に即して御説明します。
| 数年 | 株主との関係が疎遠になります |
|---|---|
| 10年程度 | 相続が発生し、対象が増えます |
| 20年程度 | 相続が重なり、会社との関係を知らない株主が生じます |
| 30年以上 | 資料が失われ、経緯を知る者がいなくなります |
この変化は、いずれも不可逆です。失われた資料は戻らず、亡くなった関係者から事情を聴くことはできません。
会社側から見た意味
放置は、何もしないという選択ではありません。時間の経過とともに解決の困難さが増すという意味で、状況を悪化させる選択です。
とりわけ、M&Aという期限のある局面において問題が顕在化すると、時間の制約の中で対応することになり、条件が不利になります。
要件と論点
デューデリジェンスにおいて確認される事項
表2 株式に関して確認される主な事項と、放置による影響
| 確認される事項 | 放置により生じる問題 |
|---|---|
| 発行済株式の総数 | 登記と株主名簿の合計が一致しないことがあります |
| 株主名簿の記載の正確性 | 亡くなった株主の名前が残っている等の不備が判明します |
| 株主の特定 | 現在の権利者を特定できないことがあります |
| 過去の株式の発行の適法性 | 増資の手続の記録が失われていることがあります |
| 過去の株式の移転の適法性 | 譲渡の承認の記録、名義書換の記録が失われていることがあります |
| 株券の取扱い | 定款の定めと実際の運用が一致していないことがあります |
| 名義株式の有無 | 実質の株主が名簿上の株主と異なる可能性が指摘されます |
| 株式に関する契約 | 株主間の合意の有無が確認されます |
| 少数株主との紛争 | 係属中の手続、過去のやり取りが確認されます |
これらのうち、1つでも解明されない事項が残ると、買主は、その部分についてのリスクを見込むことになります。
問題が現れる典型的な場面
表3 デューデリジェンスにおいて問題が現れる典型的な場面
| 場面 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 株主名簿の提出を求められる | 最後の更新が数十年前であることが判明します |
| 登記と名簿の突合を求められる | 発行済株式の総数と名簿上の合計が一致しません |
| 増資の経緯の説明を求められる | 当時の議事録、払込みの記録が見当たりません |
| 設立時の株主について質問される | 名義を借りた経緯が判明します |
| 株主の現況について質問される | 亡くなっている、所在が分からないことが判明します |
| 株券の提示を求められる | 定款の定めがあるのに発行していないことが判明します |
| 少数株主とのやり取りについて質問される | 過去に買取りを拒んだ経緯が判明します |
これらは、いずれも会社側が「特に問題はない」と考えていた事項について、外部の目で確認された結果として現れます。
問題が残った場合の帰結
表4 解明されない事項が残った場合の帰結
| 帰結 | 内容 |
|---|---|
| 価格の減額 | 将来の取得に要する費用、紛争のおそれが価格に反映されます |
| 条件の追加 | クロージングの条件として、解明又は取得が求められます |
| 補償の拡大 | 売主が負う補償の範囲と期間が拡大します |
| 日程の延期 | 解明のために期間を要します |
| 取引の見送り | 解明の見込みが立たない場合、取引が成立しないことがあります |
このうち、売主にとって最も影響が大きいのは、補償の拡大です。譲渡の後も、株式に関する紛争が生じた場合の負担を負い続けることになります。
解明に要する時間
問題が判明した後に解明を試みる場合、次の作業が必要となります。
過去の資料の探索。関係者への事情の確認。相続の経緯の調査。株主の所在の調査。株主権の帰属についての法的な検討。必要に応じた手続。
これらには、いずれも時間を要します。デューデリジェンスの期間内に完了させることは、多くの場合困難です。
会社側の実務
表5 M&Aの予定がない段階で行っておくべきこと
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 株主名簿の現状を確認します |
| 第2 | 登記事項証明書と株主名簿を突合します |
| 第3 | 定款の内容と実際の運用の一致を確認します |
| 第4 | 設立及び増資に関する資料の所在を確認します |
| 第5 | 過去の株式の移転に関する資料の所在を確認します |
| 第6 | 各株主の現況を確認します |
| 第7 | 名義株式の可能性を検討します |
| 第8 | 解決すべき事項を一覧にし、優先順位を付けます |
| 第9 | 順次、解決に着手します |
まず現状を把握してください
解決に着手する前に、何が問題であるかを把握することが必要です。この把握そのものに時間を要することがあります。
関係者が存命のうちに事情を確認します
設立、増資、株式の移転の経緯を知る関係者が存命であるうちに、事情を確認し、記録として残してください。この作業は、後から行うことができません。
資料の保存を徹底します
株主に関する資料は、他の資料と区別して保存してください。税理士事務所、金融機関、関係者の手元にある資料についても、所在を確認しておいてください。
優先順位を付けます
すべてを同時に解決することはできません。高齢の株主に関する事項、名義株式の可能性がある事項から着手することが一般的です。
記録を整えます
解決の過程は、記録として残してください。デューデリジェンスにおいて、この記録が説明の基礎となります。
関連する手続
株主名簿の整備については、株主名簿が古い会社の対応に関する記事をご参照ください。
株券の問題については、株券が見つからない場合の対応に関する記事をご参照ください。
名義株式については、株主権の帰属に関する既存の記事をご参照ください。
M&Aにおける取引の条件への影響については、残存株主に関する記事をご参照ください。
事業承継への影響については、事業承継に伴う少数株主対策に関する既存の記事をご参照ください。
弁護士に相談する意味
少数株主の問題を放置してきた会社にとって、最も難しいのは、着手のきっかけがないことです。日々の事業に支障がない以上、優先順位が上がりません。
もっとも、M&A、事業承継といった局面は、いずれ訪れます。そのときに、時間の制約の中で対応することになるか、それとも既に整った状態で臨むことができるかによって、結果が大きく異なります。
弁護士が関与する意味は、現状の把握と、解決すべき事項の特定にあります。何が問題であるかが分かれば、優先順位を付けて順次解決することができます。この作業は、日程の制約がない段階で行うことが最も効率的です。
また、名義株式、株主権の帰属、過去の株式の移転の効力といった事項については、法律上の判断を要します。この判断を経ないまま資料を整えても、デューデリジェンスにおいて再び問題とされます。
なお、解決の順序、関係者への確認の方法については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 今のところ問題は起きていません。急ぐ必要がありますか。
問題が起きていない段階が、最も効率的に解決できる時期です。時間の経過とともに解決は困難になります。
質問2 M&Aの予定はまだありません。
予定がない段階での整備が最も望ましいといえます。日程の制約がないためです。
質問3 資料が既に失われています。
現存する資料から確認できる範囲を特定することから始めます。関係者が存命であれば、事情の確認を急いでください。
質問4 デューデリジェンスで指摘されてしまいました。
その段階でも、対応の方法はあります。買主への説明の仕方を含め、早期にご相談ください。
質問5 どこまで整えれば十分ですか。
目的によります。M&Aを前提とする場合には、より高い水準が求められます。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、設立及び増資に関する資料、過去の株式の移転に関する資料、株主総会の議事録、法人税の申告書の別表をご持参ください。
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将来のM&Aに備えて株主構成を整えたい会社の方は、M&A・事業承継前の株主構成クリーンアップをご覧ください。現状の把握から、株主名簿の整備、少数株式の取得までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
- M&A前に少数株主を整理する必要がある理由
- M&Aで少数株主が残っていると何が問題になるか
- 株主名簿が古い会社がまず確認すべきこと
- 株券発行会社で株券が見つからない場合の株主整理
- 株主権帰属の問題と株主権確認訴訟
- 事業承継に伴う少数株主対策
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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