M&A前に少数株主を整理する必要がある理由

買主候補との交渉を進める中で、少数株主を整理してから話を進めてほしいと言われたが、なぜそこまでする必要があるのかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。
この場面で問題となるのは、過半数の株式さえ保有していれば足りると考えがちですが、組織再編や定款の変更といった重要な事項については、より重い決議の要件が定められており、少数株主の存在が買主にとって取得後の自由度を制約する要因になるという点です。
以下では、過半数の保有では足りない理由、及びM&A前に少数株主を整理しておくべき具体的な理由を御説明します。
| 組織再編の自由 | 買収後の統合、再編を制約なく行うことを求めます |
|---|---|
| 投下資本の回収 | 将来の再譲渡の際に同じ問題が生じることを避けようとします |
| 会計上の取扱い | 連結における取扱いに影響します |
要するに、買主にとって、少数株主の存在は、取得後の自由度を制約する要因です。買主が投資判断を行う際、この制約は価格の減額の理由として、あるいは取引そのものを見送る理由として作用します。
過半数の保有では足りない理由
過半数を保有していれば、株主総会の普通決議を単独で成立させることができます。もっとも、定款の変更、組織再編といった重要な事項については、より重い決議の要件が定められています。
さらに、少数株主には、持株比率に応じて、会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会の招集の請求、株主提案、取締役の解任の請求、株主代表訴訟の提起といった権利が認められています。これらは、過半数を保有していても排除することができません。
したがって、買主から見れば、過半数の取得は「支配できる状態」ではあっても、「制約なく運営できる状態」ではありません。
会社側にとっての意味
少数株主の整理は、M&Aのためだけに行うものではありません。整理された株主構成は、事業承継、資金調達、組織再編のいずれにおいても有利に働きます。
したがって、この作業は、M&Aが具体化してから行う臨時の作業ではなく、平時に行っておくべき資本政策と位置付けるべきものです。
時間の見通し
表2 整理に要する期間の目安となる要素
| 要素 | 期間への影響 |
|---|---|
| 対象となる株主の数 | 多いほど期間を要します |
| 相手方の所在と連絡の可否 | 所在が不明な場合、相応の手続を要します |
| 対立の有無 | 対立がある場合、協議が長期化します |
| 相続の発生 | 遺産分割の帰趨を待つことがあります |
| 株主名簿の状態 | 不備がある場合、整備から始めることになります |
| 用いる手法 | 法律上の手続による場合、手続の期間を要します |
| 対価の算定 | 資料の整備の状況によります |
これらの要素が重なると、整理には年単位の期間を要することがあります。他方で、M&Aの交渉は、基本的な合意からクロージングまでの期間が限られています。
この時間の非対称が、事前の整理を必要とする最大の理由です。
会社法上の制度
整理の方法の全体像
表3 少数株式を整理する方法
| 方法 | 概要 | 相手方の同意 |
|---|---|---|
| 合意による取得 | 会社又は支配株主が合意により取得します | 必要です |
| 定款の定めに基づく取得 | 相続人等に対する売渡請求等によります | 不要ですが要件があります |
| 株式の併合による方法 | 株主総会の決議により行います | 不要ですが要件があります |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 高い比率を保有する株主が請求します | 不要ですが要件があります |
| 全部取得条項付種類株式による方法 | 定款の変更と株主総会の決議によります | 不要ですが要件があります |
| 現金を対価とする株式交換 | 組織再編の手法によります | 不要ですが要件があります |
いずれの方法によるかは、株主構成、定款の内容、対立の程度、期限、資金によって異なります。それぞれの方法については、各解説記事をご参照ください。
合意による取得を優先すべき理由
M&Aを前提とする場合、合意による取得を優先すべき理由があります。
法律上の手続による場合、対価の額について裁判所の判断を求める手続が用意されています。この手続が係属している状態は、買主にとって見通しの立たない要素となります。デューデリジェンスにおいて指摘され、価格又は取引の条件に影響し得ます。
これに対し、合意による取得は、当事者間の合意が成立していますので、後日争われる可能性が相対的に低くなります。
譲渡制限の定めとの関係
譲渡制限の定めがある会社においては、M&Aそのものについても承認の手続が必要となります。あわせて、整理の過程における株式の移転についても承認を要します。
定款の内容と承認の機関を確認しておいてください。
株主名簿の重要性
いずれの方法による場合であっても、株主名簿が現在の状態を反映していることが前提となります。名簿の不備は、通知の宛先、議決権の数、対価の交付の相手方のすべてに影響します。
M&Aにおいては、買主が株主名簿を確認します。名簿と実態が異なる場合、その解明が求められます。
会社側が検討し得る選択肢
いつ着手するか
表4 着手の時期による違い
| 時期 | 利点 | 制約 |
|---|---|---|
| M&Aの予定がない段階 | 時間の制約がなく、方法を選べます | 動機が乏しく、着手が遅れがちです |
| M&Aを検討し始めた段階 | 目的が明確で、方針を立てやすくなります | なお時間の余裕があります |
| 候補先との交渉が始まった段階 | 買主の要求が明確になります | 時間の制約が生じます |
| 基本的な合意の後 | 期限が明確です | 期間が不足することがあります |
| デューデリジェンスの中で指摘された段階 | 問題が顕在化しています | 価格及び条件に影響します |
最も望ましいのは、M&Aの予定がない段階、あるいは検討を始めた段階での着手です。この段階であれば、相手方に対して交渉の緊急性を悟られることなく、落ち着いて協議を行うことができます。
反対に、M&Aが具体化した後の整理は、相手方に対する会社側の立場を弱めます。急いでいることが明らかである場合、条件の交渉は難しくなります。
どの株主から着手するか
表5 対象となる株主の類型と検討事項
| 類型 | 検討事項 |
|---|---|
| 高齢の親族株主 | 相続の発生により対象が増えます。優先度が高い類型です |
| 相続により株主となった者 | 会社との関係が薄く、協議が進みやすい場合があります |
| 元役員、元従業員 | 在職中の経緯が前提となります |
| 現に対立している株主 | 時間を要します。早期の着手が必要です |
| 所在の分からない株主 | 合意によることができません。別の手続を要します |
| 名義株式とされる株主 | 株主権の帰属の整理が先行します |
| 従業員持株会 | 規約と運営の実態の確認が必要です |
対象とする順序については、株主構成、相続の見通し、対立の程度によって異なります。
どこまで整理するか
発行済株式の全部を集約することが理想ですが、現実には困難な場合があります。所在の分からない株主、応じない株主が残る場合には、法律上の手続による整理を検討することになります。
また、買主との交渉において、一定の少数株主が残ることを前提とした条件を設定するという方法もあり得ます。もっとも、この場合、価格又は条件に影響します。
整理の費用
整理には費用を要します。株式の取得の対価、専門家に対する費用、手続に要する費用です。
もっとも、整理を行わないことによって取引の価格が減額される場合、その減額の幅が整理の費用を上回ることがあります。この比較を行ったうえで判断することになります。
株価と手続
整理の際の対価と譲渡の際の価格
少数株式を整理する際の対価と、M&Aにおいて買主に譲渡する際の価格とは、同一ではありません。
対象となる株式の性質、取得の時期、当事者の関係が異なるためです。もっとも、両者に大きな差がある場合、少数株主から問題とされることがあります。
とりわけ、M&Aが具体化した後に少数株式を取得する場合、譲渡の予定を知らせずに低い価額で取得したという主張がされる余地があります。この点も、事前の整理が望ましい理由の1つです。
対価の算定の根拠
いずれの時点で整理する場合であっても、対価の算定の根拠を整えておくことが必要です。この点については、非上場株式の株価に関する各記事をご参照ください。
手続の順序
表6 M&Aを見据えた整理の順序
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 株主名簿を現在の状態に整備します |
| 第2 | 定款と登記の内容を確認します |
| 第3 | 株式の移転の経緯を確認し、名義株式の有無を検討します |
| 第4 | 株主ごとに、類型と対応の方針を整理します |
| 第5 | 目標とする株主構成と期限を設定します |
| 第6 | 対価の算定の根拠を整えます |
| 第7 | 合意による取得を進めます |
| 第8 | 残る株主について、法律上の手続を検討します |
| 第9 | 整理の過程の記録を保存します |
記録の保存
整理の過程の記録は、M&Aにおけるデューデリジェンスにおいて確認されます。株式の移転の経緯、対価の算定の根拠、手続の記録を保存してください。
税務上の取扱い
株式の取得及び譲渡に関する税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。当事務所は、必要に応じて税務の専門家と連携して対応いたします。
有事化した場合の進行
整理の過程で対立が生じた場合
整理の働きかけを機に、それまで問題のなかった株主が権利を行使し始めることがあります。会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会をめぐる権利行使が行われることがあります。
このため、整理は、対立が生じた場合の対応も想定したうえで進める必要があります。M&Aが具体化した後に対立が生じると、取引そのものに影響します。
譲渡の予定が知られた場合
少数株主がM&Aの予定を知った場合、株式の売却の条件について強い要求がされることがあります。
情報の管理は重要ですが、隠したまま取得を進めることには問題があります。この点の取扱いについては、事案ごとの検討を要します。
第三者への譲渡が示唆された場合
整理の過程で、少数株主が第三者に譲渡すると述べる場合があります。譲渡制限の定めがある会社においては承認の手続が問題となります。第三者が株主となった場合、従前の親族株主、元役員株主とは異なる対応が必要となることがあります。
整理の途中で候補先との交渉が始まった場合
整理を進めている途中で、候補先との交渉が始まることがあります。この場合、次の点に注意が必要です。
まず、整理の進行状況を候補先にどのように説明するかという問題です。整理が完了していない状態であっても、進行中であることと、完了の見込みを説明できるようにしておく必要があります。
次に、少数株主に対する情報の管理です。交渉が始まったことが少数株主に伝わると、条件の要求が変わることがあります。他方で、譲渡の予定を秘したまま著しく低い価額で取得することには、後日問題とされる余地があります。この両者の均衡をどう取るかは、事案ごとの検討を要します。
さらに、整理の対価と譲渡の価格との関係です。両者に大きな差がある場合、その理由を説明できるようにしておく必要があります。
整理が間に合わない場合
M&Aの日程に整理が間に合わない場合、買主との間で、クロージングの後に整理を行うことを前提とした条件を設定するという方法があり得ます。もっとも、この場合、価格の調整、表明すべき事項、補償に関する定めに影響します。
平時に整えておくこと
株主名簿の整備
株主名簿が現在の状態を反映していることを確認してください。これがすべての前提です。
株式の移転の記録の保存
過去の売買、贈与、相続、増資の記録を保存してください。名義株式の有無を判断する際の資料となります。
定款の点検
譲渡制限、種類株式、相続人等に対する売渡請求に関する定めを確認してください。将来の整理を見据えた定款の設計が有用な場合があります。
高齢の株主への対応
高齢の株主については、相続の発生により対象が増えます。優先して対応すべき類型です。
資料の整備
計算書類、勘定科目内訳明細書、契約書、許認可に関する書類は、対価の算定とデューデリジェンスの双方において必要となります。
案件として確認すべき事項
表7 ご相談の際に整理していただく事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 株主構成 | 株主名簿、各株主の続柄又は関係、株式数と割合 |
| 取得の経緯 | 各株主がどのようにして株式を取得したか |
| M&Aの状況 | 予定の有無、候補先との交渉の段階 |
| 期限 | 目標とする時期 |
| 定款 | 譲渡制限、種類株式、株式等売渡請求に関する定め |
| 財務 | 直近3期分の計算書類 |
| 資金 | 整理に充てることができる資金 |
| 対立の状況 | 対立している株主の有無 |
| 相続の見通し | 高齢の株主の有無 |
| 名義株式 | 実質の株主と名簿上の株主が異なる可能性 |
弁護士に相談する意味
M&Aを見据えた株主構成の整理において、会社側が最も損をしやすいのは、着手が遅れる場合です。交渉が具体化してから整理を始めると、時間の制約により選択できる方法が限られ、また相手方に対する立場も弱くなります。
したがって、M&Aの予定が具体化する前の段階でご相談をいただくことが、最も効果的です。この段階であれば、方法を選び、順序を組み立て、落ち着いて協議を行うことができます。
また、整理の方法の選択には、会社法上の要件の検討が必要です。定款の内容、持株比率、相手方の状況によって、用いることができる方法が異なります。
さらに、整理の過程で対立が生じた場合の対応、譲渡の予定が知られた場合の対応についても、事前の想定が必要です。
なお、対象とする株主の順序、協議の進め方、情報の管理の方法については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 過半数を持っていれば売却できるのではありませんか。
買主は原則として発行済株式の全部の取得を求めます。過半数の保有では、取引の前提を満たさないことが多いといえます。
質問2 少数株主が数パーセントだけです。それでも問題ですか。
割合の多寡にかかわらず、少数株主が存在すること自体が、買主にとって制約となります。割合が小さい場合の取扱いについては、事案ごとの検討を要します。
質問3 いつから準備すればよいですか。
M&Aの予定が具体化する前の段階が最も望ましいといえます。整理には年単位の期間を要することがあります。
質問4 M&Aの予定を少数株主に伝えるべきですか。
情報の管理と、取得の条件の公正の双方に関わる問題です。事案ごとの検討を要しますので、ご相談ください。
質問5 所在の分からない株主がいます。
合意による取得ができません。別の手続を検討することになります。相応の期間を要しますので、早期の着手が必要です。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、株式の移転の経緯が分かる資料、直近3期分の計算書類、M&Aに関する資料がある場合はその資料をご持参ください。
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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