少数株主から株式を買い取る資金が足りないとき 生命保険を用いた金庫株プランで原資を確保できます

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少数株主から株式を買い取る場面に関する解説のうちの一つです。本ページは、買取りに充てる原資をどのように手当てしておくかという資金の問題を扱います。少数株主対策の全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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少数株主との交渉が進み、いよいよ株式を買い取るという段階になって、資金が足りないことに気付く会社は少なくありません。買取りの価格について合意ができても、支払う原資がなければ、合意はそのまま宙に浮きます。
この資金の問題は、単に預金残高が足りないという話にとどまりません。自己株式の取得には会社法上の財源の制約があり、たとえ手元に現金があっても、分配可能額を超えて買い取ることはできません。資金と財源という二重の壁があるわけです。
そこで実務上よく用いられているのが、法人を契約者とする生命保険を買取りの原資として設計しておく方法です。実務では金庫株プランと呼ばれています。本ページでは、その仕組みと会社法上の位置付け、保険料の取扱い、そして限界について整理します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
買取りの資金に関する論点は複数ありますので、次のとおり切り分けます。
- 買取りの原資を、将来に備えてあらかじめ用意しておく場面……本記事
- すでに買取りを求められ、手元の資金では足りない場面……少数株主から一部だけの買取り又は分割払いによる買取りを求められた会社の判断
- 買取りの価格そのものが折り合わない場面……少数株主との株式買取交渉がまとまらない場合の選択肢
少数株主対策は、最後には株式を買い取る場面に行き着きます
少数株主に関する紛争は、帳簿の閲覧を求められる、株主総会で議事の進行を妨げられる、取締役の責任を追及される、会社の解散を求められるなど、さまざまな形で現れます。しかし、そのいずれについても、根本の原因は株式が社外に分散していることにあります。
したがって、対応の最終形は、株式を会社又は支配株主の側に戻すことになります。株式買取業者が少数株主から株式を買い集めた場合も同じです。買取業者の狙いは会社に高値で買い取らせることにありますから、会社としては、買い取るのか、買い取らないのか、いくらなら買い取るのかという判断を避けられません。
この場面で会社に資金がなければ、交渉の主導権は相手方に移ります。時間をかけて価格を下げる交渉をしようにも、支払う見込みが立たないまま引き延ばすことになり、かえって不利になることがあります。買取りの原資を用意しておくことは、それ自体が少数株主対策の一部です。
自己株式の取得には、会社法上の手続と財源の制約があります
株主との合意により取得するには株主総会の決議が必要です
会社が自己の株式を取得することができる場合は、会社法第155条に列挙されています。株主との合意により取得する場合は、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式の数、取得と引換えに交付する金銭等の内容と総額、株式を取得することができる期間を定めなければなりません(会社法第156条第1項)。
特定の株主から取得する場合は特別決議と売主追加請求への配慮が必要です
特定の株主からのみ取得する場合は、取得の通知を当該株主に対して行う旨を株主総会の決議によって定めることになり、この決議は特別決議によらなければなりません(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)。あわせて、他の株主は、自己をも売主に加えることを請求することができます(会社法第160条第3項)。この売主追加請求権があるために、特定の少数株主からだけ買い取る計画が思いどおりに進まないことがあります。
分配可能額を超えて取得することはできません
株主との合意による自己株式の取得により交付する金銭等の総額は、その効力を生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第2号、第3号)。分配可能額を超えて取得した場合、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者は、会社に対して連帯して支払義務を負います(会社法第462条第1項)。
ここが資金対策の要点です。会社に現金があっても、分配可能額が足りなければ自己株式として買い取ることはできません。逆に、分配可能額があっても現金がなければ支払えません。両方が揃っていなければならないのです。
生命保険を買取りの原資として設計しておく方法が金庫株プランです
会社が契約者となり、経営者等を被保険者とします
金庫株プランは、法律上の特別な制度ではありません。会社を契約者かつ保険金受取人とし、経営者その他の役員を被保険者とする生命保険に加入しておき、将来支払われる死亡保険金又は解約返戻金を、自己株式の取得の原資に充てるという設計を指す実務上の呼び方です。
保険金の受取りにより分配可能額が増えます
会社が受け取る死亡保険金及び解約返戻金は、資産計上額を超える部分が益金に算入されます。その結果、その事業年度の利益剰余金が増加し、分配可能額も増加します。分配可能額は、最終事業年度の末日における剰余金の額を基礎として算定されるものです(会社法第446条、第461条第2項)。
すなわち、この設計には現金を用意する効果と、分配可能額を確保する効果の双方があることになります。前記の二重の壁を同時に越えるための手立てとして用いられているのは、この点に理由があります。
相続が生じた場面と、生前に買い取る場面の双方で用いられます
経営者に相続が生じた場面では、死亡保険金が会社に入ります。これを原資として、相続人が取得した株式を会社が買い取るという流れになります。他方、経営者が存命のうちに株式を集約する場面では、解約返戻金を原資とすることになります。いずれの場面を主として想定するかによって、選ぶべき保険の種類と保険期間が変わります。
保険料の取扱いは令和元年の通達改正により定められています
保険料の全額をそのまま損金に算入できるという説明は、現在の取扱いとは異なります。令和元年6月28日付け課法2-13ほかによる法人税基本通達の改正により、定期保険及び第三分野保険の保険料のうち相当多額の前払部分が含まれるものについては、最高解約返戻率の区分に応じて一定割合を資産に計上することとされています(法人税基本通達9-3-5の2)。令和元年7月8日以後に契約したものに適用されます。
| 最高解約返戻率 | 資産に計上する期間 | 資産に計上する額 |
|---|---|---|
| 50パーセント以下 | 資産計上を要しません | - |
| 50パーセント超70パーセント以下 | 保険期間の開始から40パーセントに相当する期間まで | 支払保険料の40パーセント |
| 70パーセント超85パーセント以下 | 同じ | 支払保険料の60パーセント |
| 85パーセント超 | 保険期間の開始から最高解約返戻率となる期間の終わりまで | 開始から10年を経過する日までは最高解約返戻率の90パーセント、その後は70パーセント |
なお、最高解約返戻率が70パーセント以下であり、かつ、1人の被保険者につき年換算保険料相当額の合計が30万円以下である保険については、通常の定期保険と同じ取扱いによることができます。資産に計上した額は、所定の期間の経過後に取り崩すことになります。
したがって、保険料の取扱いは加入する保険の設計によって大きく異なります。会社の税負担がどうなるかは、契約ごとに確かめなければ分かりません。加入を検討する際には、この点を保険会社又は税理士に確認していただく必要があります。
相続により株式が分散した場面での使い方
相続人等から取得する場合には手続の特則があります
公開会社でない株式会社が、相続その他の一般承継により株式を取得した者からその株式を取得する場合には、他の株主の売主追加請求権に関する規定は適用されません(会社法第162条)。ただし、当該相続人等が株主総会において当該株式について議決権を行使したときは、この特則は適用されません。
この特則があるため、相続の直後は、他の株主を巻き込まずに相続人から買い取ることができます。死亡保険金が会社に入る時期と、この特則を用いることができる時期は重なりますから、両者を組み合わせる設計に実務上の意味があります。
定款に売渡請求の定めを置いておく方法もあります
定款に定めを置いておけば、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。請求は株主総会の決議によることとされ(会社法第175条第1項)、相続があったことを知った日から1年以内に行う必要があります(会社法第176条第1項)。この場合も分配可能額による制約を受けます(会社法第461条第1項第5号)。
定款の定めは、相続が生じてから置くことはできません。あらかじめ定款を変更しておく必要があります。保険の設計と定款の整備は、同じ時期にあわせて行うことをお勧めします。
金庫株プランの限界と、あらかじめ確かめておくべきこと
保険金の受取りにより株式の評価額が上がることがあります
死亡保険金が会社に入れば、会社の純資産は増加します。株式の評価に純資産の価額が反映される場合には、株式の評価額も上がることになります。買い取る株式の価格が上がるという意味では、原資が増える効果の一部が相殺されることがあります。どの程度相殺されるかは会社の財務の状況によって異なりますので、加入の前に試算しておく必要があります。
保険料の支払は長期にわたりますので、資金繰りへの影響を見る必要があります
金庫株プランは、保険料を長期にわたって支払い続けることを前提とします。途中で支払を続けられなくなれば、想定していた返戻金を受け取ることができません。買取りの時期を何年後と見込むのか、その間の資金繰りに無理がないかを、契約の前に確かめていただく必要があります。
保険は、買取価格の争いそのものを解決するものではありません
原資が用意できても、少数株主が求める価格と会社が妥当と考える価格が離れていれば、交渉は続きます。価格の争いは、最終的には裁判所における株式の価格の決定の手続に移ることもあります。保険は資金の手当てであって、価格の争いに対する備えとは別のものです。両者を混同しないようにしてください。
特定の保険商品を当事務所が推奨するものではありません
本ページは、会社法上の制約と資金の手当てとの関係を整理したものです。個別の保険商品の適否については、保険会社又は保険募集を行う資格を有する者にお確かめください。当事務所は、保険の募集を行う立場にはありません。
当事務所は交渉により解決いたしますので、財源の制約や理論上の株価に縛られる必要はありません
ここまで、分配可能額による財源の制約と、株式の評価額の考え方を整理してまいりました。もっとも、これらは交渉の出発点にすぎません。
当事務所は、裁判によらず交渉により解決することを基本としております。交渉の場では、買取りの主体を会社とするか支配株主とするか持株会社とするか、買取りの時期を分けるか、支払を分割するか、対価の一部を別の形にするかといった組み替えができます。分配可能額が足りないという一事をもって、買取りそのものを諦める必要はありません。
株式の価格についても同じです。理論上の株価の算定は、当事者の双方が主張の根拠として用いるものにすぎず、実際に合意される価格は、双方の事情と交渉の経過によって定まります。算定書の数字に縛られて交渉の余地を狭めることは、かえって不利な結果を招きます。
したがって、本ページに記した制約は、あらかじめ把握しておくべき枠組みとしてご理解いただければ足ります。金庫株プランは、その枠組みの中で選択肢を増やすための手立てです。当事務所は、最高裁判所において株式買取請求権に関する裁判で結論を覆した経験を有しており、交渉の場面でその知見を用いております。
放置した場合に失われるもの
買取りの原資を用意しないまま時間が経過すると、次のものが失われます。
- 相続人等から買い取る場合の手続の特則を用いることができる時期です。相続人が株主総会で議決権を行使してしまえば、売主追加請求権に関する特則は使えなくなります(会社法第162条)。
- 定款に売渡請求の定めを置く機会です。相続が生じた後に定款を変更しても、その相続について請求することはできません。
- 相続があったことを知った日から1年という売渡請求の期間です(会社法第176条第1項)。
- 交渉における主導権です。支払う見込みが立たないまま交渉を続けることは、相手方に時間を与えることになります。
いま確認していただきたいこと
- 直近の決算に基づく分配可能額がいくらあるかを確かめてください。自己株式として買い取ることができる上限がここで決まります。
- 買い取るべき株式の数と、想定される1株当たりの価格を試算してください。必要な原資の総額が分かります。
- 定款に、相続人等に対する売渡請求の定めがあるかを確かめてください。なければ、株主総会を開いて定款を変更しておく必要があります。
- 既に加入している生命保険について、契約者と保険金受取人が会社になっているか、解約返戻金がいくらになるかを確かめてください。
- 株主名簿を最新の状態に更新し、誰が何株を持っているかを確定させてください。買取りの計画はここから始まります。
よくあるご質問
分配可能額が足りない場合、どのような方法がありますか。
会社が自己株式として買い取る方法のほかに、支配株主が個人として買い取る方法、持株会社を設けて買い取る方法があります。いずれも分配可能額の制約を受けませんが、買い取る側の資金と税負担の問題が生じます。会社の状況に応じて選ぶことになります。
すでに加入している保険を金庫株プランとして使うことはできますか。
契約者と保険金受取人が会社であれば、受け取る保険金を原資に充てることは可能です。ただし、保険金受取人が経営者の遺族となっている場合には、保険金は会社には入りません。契約の内容を確かめる必要があります。
保険料は損金に算入されますか。
保険の設計によって異なります。最高解約返戻率が50パーセント以下であれば資産計上を要しませんが、これを超える場合には一定割合を資産に計上することとされています(法人税基本通達9-3-5の2)。契約ごとに取扱いが変わりますので、加入の前に確かめていただく必要があります。
株式買取業者から買い取る場合にも使えますか。
原資としては同じように用いることができます。もっとも、買取業者との交渉は価格の争いが中心となりますので、原資を用意したうえで、価格についての方針を別に立てる必要があります。
相続人が複数いる場合、誰から買い取ることになりますか。
遺産分割が終わるまで、株式は相続人の準共有となります。権利行使者の指定がなされていない間は、会社としてどの相続人と交渉するかが問題となります。遺産分割の進み方を見ながら、買取りの相手方と時期を決めることになります。
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おわりに
少数株主対策は、最後は必ず資金の問題に行き着きます。価格の交渉に力を注ぐ一方で、支払う原資の手当てが後回しになっている会社を、当事務所は数多く見てまいりました。原資の手当ては、相続が生じてから始めるものではなく、平時のうちに整えておくものです。
定款の整備と保険の設計は、いずれも時間のかかる作業です。しかし、いま着手しておけば、いざ買取りを求められたときに、落ち着いて価格の交渉に臨むことができます。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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出典
- 会社法第155条、第156条第1項、第160条第1項及び第3項、第162条、第174条、第175条第1項、第176条第1項、第309条第2項第2号、第446条、第461条第1項第2号、第3号及び第5号、第461条第2項、第462条第1項
- 法人税基本通達9-3-5の2(令和元年6月28日付け課法2-13ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」による新設。令和元年7月8日以後の契約に適用)
- 国税庁タックスアンサーNo.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」
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