従業員持株会を設置しても株価が下がらなくなる可能性|固定価格による評価と他の株式のプロラタ計算

この記事の位置付け

従業員持株会を設置した場合の株式の評価に関するページです。本ページは、令和8年9月16日開催の第6回有識者会議の資料を踏まえ、固定価格による持株会株式の評価と、持株会の株式以外の株式についてのプロラタ計算による評価の内容をご説明します。見直しの全体像は別のページをご参照ください。

従業員持株会は、従業員の福利厚生及び経営への参加意識の向上を目的として設置されるものですが、事業承継の場面では、オーナーの持株数を減らし、相続税又は贈与税の負担を軽減する方法としても用いられてきました。従業員持株会が取得する株式は、同族株主以外の株主が取得した株式として配当還元方式によって評価されることが多く、低い価額で株式を移転することができるためです。

令和8年9月16日に開催された取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の第6回において、従業員持株会を有する場合の持株会株式の評価方法が検討事項として示されました。示された方向は、一定の要件を満たす場合には持株会の株式を固定価格によって評価する一方、持株会の株式以外の株式については、企業価値の総額から固定価格による持株会株式の総額を控除した金額を、持株会株式数を除いた発行済株式数で除して評価するというものです。

この方法によった場合、持株会に低い固定価格で株式を保有させても、その分の価値は持株会以外の株主の保有する株式に配分されることになります。本ページでは、その仕組みと算式、一定の要件として挙げられている事項、固定価格による譲渡ルールの有効性に関する最高裁判所の判断、及び会社として今の段階で確認しておくべき事項をご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

本ページは、相続税又は贈与税の課税価格の計算における評価を扱います。第6回の資料は財産評価基本通達に基づく評価方法の見直しを検討するものですので、次のとおり切り分けます。

Contents
  1. 従業員持株会によって株価が下がるとされてきた仕組み
    1. 持株会が取得する株式が配当還元方式によって評価されること
    2. オーナーの持株数が減少すること
  2. 第6回の会議で示された問題意識
  3. 示された見直しの方向
    1. 固定価格による持株会株式の評価
    2. 持株会の株式以外の株式のプロラタ計算による評価
    3. 算式
  4. 一定の要件として挙げられている事項
  5. 見直しが実現した場合に生じる変化
    1. 設例
    2. プロラタ計算による結果
    3. 持株会を設置しなかった場合との比較
    4. 現行の取扱いとの相違
  6. 固定価格による譲渡ルールの有効性に関する最高裁判所の判断
  7. 見直しが実現した場合に効果が薄れる対策と、なお意味のある対応
    1. 効果が薄れると考えられるもの
    2. なお意味があると考えられる対応
  8. 従業員持株会をめぐって実際に生じる紛争
    1. 退職時の買取価格をめぐる紛争
    2. 持株会を脱退させないまま退職した場合の株式の帰属
    3. 持株会の運営そのものをめぐる紛争
  9. 放置した場合に失われるもの
  10. いま確認していただきたいこと
  11. してはいけない対応
  12. よくあるご質問
    1. 従業員持株会を用いた対策は、今後は意味がなくなるのですか
    2. 固定価格はどのように定めればよいのですか
    3. 既に設置している従業員持株会の規約を今から改める必要がありますか
    4. 持株会の株式以外の株式とは、オーナーの株式のみを指すのですか
    5. 役員が加入している持株会の場合はどうなるのですか
    6. 持株会の会員である従業員が死亡した場合、その持分はどのように評価されるのですか
    7. 見直しはいつから適用されるのですか
  13. 関連するご案内
  14. おわりに
  15. 出典

従業員持株会によって株価が下がるとされてきた仕組み

従業員持株会が事業承継の場面で用いられてきた理由は、大きく2つに分けられます。

持株会が取得する株式が配当還元方式によって評価されること

1つ目は、従業員持株会が取得する株式の評価です。財産評価基本通達においては、同族株主以外の株主等が取得した株式については、原則として配当還元方式によって評価することとされています。配当還元方式による評価額は、類似業種比準方式又は純資産価額方式による評価額よりも大幅に低くなることが一般的です。したがって、オーナーが保有する株式の一部を従業員持株会へ移転する場合、低い価額によって移転することができます。

オーナーの持株数が減少すること

2つ目は、オーナーの保有する株式の数そのものが減ることです。相続財産を構成するのはオーナーが保有する株式ですので、その数が減れば、相続税の課税価格も減少します。他方、従業員持株会には議決権制限株式を交付し、又は規約によって議決権の行使を理事長に一任させることにより、支配権への影響を抑える設計が採られることが多くあります。

すなわち、支配権を維持したまま、低い価額で株式を外部へ移転し、課税価格を減少させることができる点に、従業員持株会を用いる利点があるとされてきました。

第6回の会議で示された問題意識

第6回の資料は、検討事項⑦として「従業員持株会を有する場合の持株会株式の評価方法」を掲げ、次のとおり指摘しています。

まず、非上場の中小企業において、従業員への福利厚生を目的に従業員持株会を設置するケースも一定数存在すること。次に、従業員持株会による株式の取得及び精算は固定価格、すなわち1株当たり一定の金額によって行われるケースが多いが、固定価格が評価通達上の評価額と異なる場合、この差を巡ってトラブルとなるおそれがあること、の2点です。

そのうえで、資料は具体的な弊害として、固定価格が評価額より著しく低い場合には従業員の取得時に給与課税の可能性があること、及び固定価格が評価額より高い場合には従業員の不利益となることの2つを挙げています。

これを受けて、資料は、固定価格制による従業員持株会の株式の評価と、財産評価通達上の評価額との関係性を整理してはどうかとの問題提起を行っています。

示された見直しの方向

第6回の資料が示す見直しの方向は、次の2点です。

固定価格による持株会株式の評価

第1に、固定価格の従業員持株会の株式は、一定の要件を満たす場合、当該固定価格により評価するというものです。従業員持株会を通じて保有する株式については、退会時に固定価格による買取りが行われ、それを超える金額を実現することができない以上、固定価格をもって評価することに合理性があるという整理です。

持株会の株式以外の株式のプロラタ計算による評価

第2に、固定価格により従業員持株会の株式を評価する場合、従業員持株会の株式以外の株式の評価は、プロラタ価値の考え方から、次の2つの調整を行うというものです。

1つ目は、算定した企業価値の総額から、固定価格に従業員持株会株式の数を乗じた金額を控除することです。2つ目は、株式保有割合の計算において、発行済株式数から従業員持株会株式の数を差し引いた株数を分母とすることです。資料は、これにより企業価値総額に対するバランスをとることとしてはどうか、と述べています。

算式

資料に示された算式は、次のとおりです。

1株当たりの評価額 = (企業価値総額(残余利益又は純資産) - 固定価格 × 従業員持株会株式数) ÷ (発行済株式数 - 従業員持株会株式数等)

分子においては企業価値の総額から持株会株式の総額が控除され、分母においては発行済株式数から持株会株式数が控除されます。すなわち、持株会に配分されなかった企業価値の全額が、持株会以外の株主が保有する株式に配分されることになります。

一定の要件として挙げられている事項

資料は、持株会株式について固定価格で評価することが合理的であるというためには一定の要件が必要であるとして、次の事項を挙げています。

第1に、従業員持株会を通じて保有する株式であること。第2に、従業員持株会の規約又は約款等において、持株会株式の価額等が定められていること。第3に、従業員持株会からの退会時は、固定価格での買取りにより、株式の持出しはできないこと。資料には、これらに続けて「など」との記載がありますので、要件はこれらに限られません。

これらの要件は、いずれも規約又は約款の定め方に関わるものです。したがって、従業員持株会を設置している会社においては、規約又は約款の内容がこれらの要件を満たしているかを確認しておく必要があります。取得価格及び退会時の買取価格が固定価格として明記されていない持株会、あるいは退会時に株式の持出しを認めている持株会については、固定価格による評価が認められない可能性があります。

見直しが実現した場合に生じる変化

プロラタ計算による評価がどのような結果をもたらすかを、数値を用いて整理します。以下の数値は説明のための仮設例であり、資料に記載されたものではありません。

設例

企業価値の総額を10億円、発行済株式数を1万株とします。従業員持株会が保有する株式を1000株、固定価格を1株当たり1万円とします。オーナーは残りの9000株を保有しているものとします。

プロラタ計算による結果

従業員持株会の株式の評価額は、固定価格によりますので、1株当たり1万円、合計1000万円となります。

持株会の株式以外の株式の1株当たりの評価額は、10億円から1000万円を控除した9億9000万円を、1万株から1000株を控除した9000株で除した金額、すなわち1株当たり11万円となります。オーナーが保有する9000株の評価額の合計は9億9000万円となります。

持株会を設置しなかった場合との比較

従業員持株会を設置せず、オーナーが1万株すべてを保有していた場合の1株当たりの評価額は、10億円を1万株で除した10万円であり、保有株式の評価額の合計は10億円となります。

他方、1000株を1株当たり1万円で従業員持株会へ譲渡した場合、オーナーの手元には株式9億9000万円と譲渡代金1000万円とが残ります。合計は10億円であり、譲渡の前後で財産の総額は変わりません。

すなわち、プロラタ計算による評価がされる場合、低い固定価格によって従業員持株会へ株式を移転しても、その分の価値は残りの株式の1株当たりの評価額の上昇として反映されますので、課税価格を減少させる効果は生じません。第6回の資料が述べる、企業価値総額に対するバランスをとるという趣旨は、この点にあると考えられます。

現行の取扱いとの相違

現行の財産評価基本通達の下では、同族株主以外の株主等が取得した株式は配当還元方式によって評価される一方、オーナーが保有する株式は類似業種比準方式又は純資産価額方式によって評価されます。この場合、オーナーの1株当たりの評価額は、持株会へ株式を移転しても上昇しません。したがって、上記の設例においては、オーナーの保有株式の評価額の合計は9億円となり、譲渡代金1000万円を加えても9億1000万円にとどまります。この差が、従業員持株会を用いた対策の効果であったということができます。

なお、現行の取扱いに関する上記の整理は、第6回の資料に記載されたものではなく、当方において財産評価基本通達の規定に基づいて整理したものです。

固定価格による譲渡ルールの有効性に関する最高裁判所の判断

第6回の資料には、参考として、固定価格による従業員持株会の取扱いが争われた裁判例が掲げられています。平成21年2月17日最高裁判所判決です。

事案は、固定価格による従業員持株会を通じて取得した株式について、固定価格による譲渡ルールの合意は会社法第107条及び第127条の規定に反するとして無効であるとし、固定価格によらず適正な評価額による会社の買取りを求めて提訴されたものです。

最高裁判所は、次の諸点を指摘したうえで、本件株式譲渡ルールに従う旨の合意は、会社法第107条及び第127条の規定に反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効である旨を判示しました。

第1に、会社が日刊新聞の発行を目的とする株式会社であって、定款で株式の譲渡制限を規定するとともに、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限に関する法律第1条に基づき、株式の譲受人を同社の事業に関係ある者に限ると規定し、株式の保有資格を原則として現役の従業員等に限定する社員株主制度を採用していたこと。

第2に、株式譲渡ルールは、社員株主制度を維持することを前提に、譲渡制限を受ける株式を持株会を通じて円滑に現役の従業員等に承継させるため、株主が個人的理由により株式を売却する必要が生じたときなどには持株会が額面額でこれを買い戻すこととしたものであって、その内容に合理性がないとはいえないこと。

第3に、会社が非公開会社であるから、もともと株式には市場性がなく、株式譲渡ルールは、従業員等が持株会に株式を譲渡する際の価格のみならず、従業員等が持株会から株式を取得する際の価格も額面額とするものであったから、将来の譲渡価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面、およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかったといえること。

第4に、上告人は、株式譲渡ルールの内容を認識した上、自由意思により額面額で株式を買い受け、株式譲渡ルールに従う旨の合意をしたものであって、従業員等が株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれないこと。

第5に、会社が、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらないこと。

この判断は、固定価格による譲渡ルールが常に有効であることを意味するものではありません。判決が挙げた事情のうち、従業員が制度の趣旨及び内容を理解した上で自発的に合意したこと、取得価格と譲渡価格とがいずれも固定価格であること、及び利益を計上しながら無配を継続しているような事情がないことは、いずれも有効性を基礎付ける具体的な事情です。これらを欠く持株会においては、同様の結論とならない可能性があります。

見直しが実現した場合に効果が薄れる対策と、なお意味のある対応

見直しが実現した場合であっても、従業員持株会の制度そのものが無意味になるわけではありません。効果が薄れるものと、そうでないものとを区別して整理する必要があります。

効果が薄れると考えられるもの

第1に、低い固定価格によって従業員持株会へ株式を移転し、オーナーの課税価格を減少させる方法です。プロラタ計算により、持株会に配分されなかった価値は残りの株式へ配分されますので、課税価格を減少させる効果は生じません。

第2に、持株会の保有割合を大きくすることによって、この効果を拡大する方法です。保有割合を大きくしても、分子と分母の双方が同じように調整されますので、結果は変わりません。

なお意味があると考えられる対応

第1に、従業員持株会の本来の目的である福利厚生及び経営への参加意識の向上です。配当を通じた従業員への利益の還元、及び定着率の向上といった効果は、評価方法の見直しによって失われるものではありません。

第2に、固定価格制による紛争の予防です。第6回の資料が指摘するとおり、固定価格が評価通達上の評価額と異なる場合、その差を巡ってトラブルとなるおそれがあります。規約又は約款において取得価格及び退会時の買取価格を明確に定め、従業員に十分に説明したうえで加入させることは、退職時の買取りをめぐる紛争を防ぐうえで意味があります。

第3に、株式の分散の防止です。従業員が直接に株式を保有する形ではなく、持株会を通じて保有し、退会時には必ず固定価格で買い取る仕組みを採ることにより、退職した従業員の手元に株式が残り、その相続人へ承継されて株主が分散する事態を防ぐことができます。

従業員持株会をめぐって実際に生じる紛争

当事務所が取り扱う事案においては、従業員持株会に関して次のような紛争が生じています。

退職時の買取価格をめぐる紛争

退職した従業員が、固定価格による買取りは低廉に過ぎるとして、時価による買取りを求める例です。前記の平成21年2月17日最高裁判所判決の事案がこれに当たります。規約又は約款の定めが不明確である場合、加入時の説明が不十分である場合、又は会社が多額の利益を計上しながら配当を行っていない場合には、固定価格による買取りの合意の効力が争われる余地があります。

持株会を脱退させないまま退職した場合の株式の帰属

退職時に脱退の手続が履践されず、株式が元従業員の手元に残る例です。この場合、元従業員は少数株主として、株主総会における議決権の行使、会計帳簿閲覧謄写請求、株主代表訴訟といった権利を行使することができます。さらに、その株式が相続によって承継され、又は株式買取業者へ譲渡されることにより、紛争が拡大することがあります。

持株会の運営そのものをめぐる紛争

従業員持株会は民法上の組合又は人格のない社団として運営されることが一般的です。理事長が議決権を一括して行使する仕組みが採られている場合、その行使の適否、持株会の会計の内容、配当金の分配方法などが争われることがあります。

放置した場合に失われるもの

退職者の脱退手続を履践しないまま放置した場合、株式は元従業員の手元に残ります。株主名簿の名義書換えが未了であっても、当事者間の譲渡の効力は生じますので、後日、元従業員又はその相続人から株主としての権利を主張されることになります。会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)、株主総会の招集手続の瑕疵を理由とする決議取消しの訴え(会社法第831条第1項)、株主代表訴訟(会社法第847条)はいずれも株主の権利であり、持株数の多寡にかかわらず行使される場合があります。

また、元従業員が死亡すれば、株式は相続人に承継されます。相続人は会社と何の関係もありませんので、固定価格による買取りに応じる理由を持ちません。相続人が複数である場合には、株式は準共有となり、権利を行使する者の指定及び通知(会社法第106条)を経なければ権利行使ができない一方、会社の側からも交渉の相手方が定まらなくなります。相続人に対する売渡しの請求(会社法第174条)は、定款にその定めがある場合に限り、相続があったことを知った日から1年以内に限って行うことができます。定款に定めがなければ、この手段は使えません。

さらに、加入時の説明の記録を残していない場合、退職時の買取価格をめぐる紛争において、従業員が制度の趣旨及び内容を理解した上で自発的に合意したことを立証することができません。平成21年2月17日最高裁判所判決が合意の有効性を基礎付ける事情として挙げたのは、まさにこの点です。記録は、時が経てば失われます。

いま確認していただきたいこと

見直しの内容は確定しておらず、適用の時期も示されていません。もっとも、いずれの評価方法が採用される場合であっても必要となる事項は、本日から着手することができます。

  1. 従業員持株会の規約又は約款の内容を確認してください。取得価格及び退会時の買取価格が固定価格として明記されているか、退会時に株式の持出しができない旨が定められているかを点検します。これらは、第6回の資料が一定の要件として挙げている事項です。
  2. 持株会の保有株式数及び会員の名簿を確認してください。会社の株主名簿上の記載と、持株会の会員名簿上の持分の記載とが一致しているかを点検します。
  3. 退職者の脱退手続の履践状況を確認してください。過去に退職した従業員について、脱退及び買取りの手続が完了しているかを確認します。手続が履践されていない場合には、早期に整理する必要があります。
  4. 加入時の説明資料を整備してください。制度の趣旨、固定価格の内容、退会時の取扱いについて、書面によって説明し、同意を得た記録を残しておきます。
  5. 配当の方針を確認してください。多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行っていない状況は、前記の最高裁判所判決が有効性を基礎付ける事情として挙げた点の裏返しとなりますので、注意を要します。

してはいけない対応

まず、見直しが実現する前に駆け込みで従業員持株会へ大量の株式を移転することは避けてください。従業員の福利厚生という本来の目的を伴わない移転については、その経済的合理性を説明することが困難であり、財産評価基本通達第6項による個別の評価が問題となる余地があります。

次に、固定価格を著しく低く設定することも適当ではありません。第6回の資料は、固定価格が評価額より著しく低い場合には従業員の取得時に給与課税の可能性がある旨を明記しています。また、退職時の買取りをめぐる紛争の原因ともなります。

また、従業員に対し、持株会への加入を事実上強制することも避けてください。前記の最高裁判所判決は、従業員等が株式を取得することを事実上強制されていたというような事情がうかがわれないことを、合意の有効性を基礎付ける事情として挙げています。

さらに、確定していない見直しの内容を前提として、従業員持株会を解散することも適当ではありません。解散に伴う株式の買取り及び分配については、課税関係が生じるほか、従業員との間の紛争の原因となります。

よくあるご質問

従業員持株会を用いた対策は、今後は意味がなくなるのですか

相続税又は贈与税の課税価格を減少させる効果については、第6回の資料が示すプロラタ計算による評価がそのまま採用された場合、効果は生じないことになります。他方、福利厚生、経営への参加意識の向上、退職者への株式の分散の防止といった目的については、効果は失われません。従業員持株会の設置の当否は、これらの目的に照らして判断すべきものです。

固定価格はどのように定めればよいのですか

第6回の資料には、固定価格の水準についての基準は示されていません。示されているのは、固定価格が評価額より著しく低い場合には従業員の取得時に給与課税の可能性があること、及び固定価格が評価額より高い場合には従業員の不利益となることの2点です。したがって、額面額又は設定時の評価額を基礎とし、その根拠を残しておくことが現実的な対応と考えられます。なお、この点は資料に明記されておりませんので、当方の整理です。

既に設置している従業員持株会の規約を今から改める必要がありますか

第6回の資料が挙げる一定の要件、すなわち持株会を通じて保有する株式であること、規約又は約款において持株会株式の価額等が定められていること、及び退会時は固定価格での買取りにより株式の持出しができないことは、いずれも規約又は約款の定め方に関わるものです。これらが定められていない場合、見直しが実現した際に固定価格による評価が認められない可能性があります。ただし、規約の変更は既存の会員の権利に影響しますので、変更の手続及び会員への説明を適切に行う必要があります。

持株会の株式以外の株式とは、オーナーの株式のみを指すのですか

資料の記載は「従業員持株会の株式以外の株式」ですので、オーナー及びその親族が保有する株式のほか、従業員持株会以外の少数株主が保有する株式も含まれると読むことができます。もっとも、同族株主以外の株主等が取得した株式の評価に関する現行の取扱いとの関係は資料に示されておりませんので、この点は現段階では不明です。

役員が加入している持株会の場合はどうなるのですか

第6回の資料は「従業員持株会」を対象としており、役員持株会についての記載はありません。役員持株会に同様の取扱いが及ぶかどうかは、資料からは判断することができません。

持株会の会員である従業員が死亡した場合、その持分はどのように評価されるのですか

見直しが実現した場合、持株会を通じて保有する株式は固定価格により評価されることになりますので、会員の相続においても固定価格が基礎となると考えられます。もっとも、持分の承継についての具体的な取扱いは資料に示されておりませんので、現段階では推定にとどまります。実務上は、規約において会員の死亡を退会事由と定め、固定価格による買取りを行う設計が多く採られています。

見直しはいつから適用されるのですか

適用の時期は示されておりません。第6回の会議において示されているのは検討事項であり、残余利益方式の加算期間、還元率及びしんしゃく率のいずれも、第7回以降の議論に委ねられています。したがって、現時点では、適用時期を前提として意思決定を行うことはできません。

関連するご案内

非上場株式の評価方法の見直しに関する有識者会議の議論の全体像については、非上場株式の評価方法の見直しに関する有識者会議の議論をご覧ください。持株会社化による株価の引下げについては持株会社化をしても株価が下がらなくなる可能性に、役員退職慰労金による株価の引下げについては巨額の役員退職慰労金を支給しても株価が下がらなくなる可能性に記載しています。

退職した元従業員が保有する株式の回収については、退職した元従業員が保有する株式の回収をご覧ください。株式の評価方法そのものについては株式価値の算定方法に、事業承継又は企業買収に先立って少数株主を整理する場面については事業承継及び企業買収に先立つ少数株主の整理に記載しています。

おわりに

令和8年9月16日に開催された取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の第6回において、従業員持株会を有する場合の持株会株式の評価方法が検討事項として示されました。示された方向は、一定の要件を満たす場合には持株会の株式を固定価格により評価する一方、持株会の株式以外の株式については、企業価値の総額から固定価格に持株会株式数を乗じた金額を控除し、発行済株式数から持株会株式数を差し引いた株数で除して評価するというものです。

このプロラタ計算によった場合、低い固定価格によって従業員持株会へ株式を移転しても、その分の価値は残りの株式の1株当たりの評価額の上昇として反映されますので、課税価格を減少させる効果は生じません。資料が述べる、企業価値総額に対するバランスをとるという趣旨は、この点にあると考えられます。

他方、従業員持株会の本来の目的である福利厚生、経営への参加意識の向上、及び退職者への株式の分散の防止といった効果は失われません。一定の要件として挙げられている事項は、いずれも規約又は約款の定め方に関わるものですので、既に持株会を設置している会社においては、規約又は約款の内容、退職者の脱退手続の履践状況、加入時の説明資料を点検しておくことが合理的です。固定価格による譲渡ルールの有効性については、平成21年2月17日最高裁判所判決が、従業員が制度の趣旨及び内容を理解した上で自発的に合意したことなどを踏まえて有効と判断していますが、これらの事情を欠く持株会においては、同様の結論とならない可能性があります。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

従業員持株会の株式の評価と退職者との紛争に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)」資料(令和8年9月16日)16頁及び28頁
  • 最高裁判所平成21年2月17日判決
  • 会社法第106条、第107条、第127条、第174条、第433条第1項、第831条第1項、第847条
  • 財産評価基本通達第178項から第188項の2まで
  • 国家行政組織法第14条第2項

具体的なご相談をお考えの会社の皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。