自社株式の評価方法の見直しが具体化してきました 第6回有識者会議で示された8つの検討事項の全体像

この記事の位置付け
取引相場のない株式の評価方法の見直しに関する解説のうちの一つです。本ページは、令和8年9月16日に開催された第6回の有識者会議の資料に即して、残余利益方式に関する8つの検討事項と、特定の評価会社として整理された4つの類型をご説明します。見直しの全体像は別のページをご参照ください。
令和8年9月16日、国税庁において、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の第6回が開催されました。公表された資料は、昭和39年に公表された財産評価基本通達による評価方法を残余利益方式へ改めることを前提に、その具体的な計算の方法について8つの検討事項を掲げています。
これまでの5回の会議では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかという方向、及び配当還元方式は範囲を見直したうえで存置するという方向が示されるにとどまっていました。第6回の資料は、どの帳簿の数値を用いるか、何年分の利益を加算するか、役員退職慰労金や子会社株式をどう扱うかという、実際の計算の中身に踏み込んでいます。従前の事業承継対策のうち効果を失うものが具体的に見えてきたのは、この回からです。
本ページでは、第6回の資料に即して、残余利益方式の骨格、8つの検討事項の内容、特定の評価会社として整理された4つの類型、及び試算により示された評価水準を順に整理します。あわせて、非上場会社の経営者及び株主が今の段階で確認しておくべき事項をご説明します。なお、資料に記載のない事項については、その旨を明示します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
今回の見直しは広い範囲に及びますので、次のとおり切り分けます。
- 第6回の会議で示された検討事項の全体を確認する場面……本記事
- 見直しが経営者に及ぼす影響の全体を確認する場面……非上場株式の株価評価が大幅変更可能性ー相続税以外にも経営者が知っておくべき27のリスク
- 役員退職慰労金による株価の引下げがどうなるかを確認する場面……巨額の役員退職慰労金を支給しても株価が下がらなくなる可能性
- 持株会社化による株価の引下げがどうなるかを確認する場面……持株会社化をしても株価が下がらなくなる可能性
- 従業員持株会による株価の引下げがどうなるかを確認する場面……従業員持株会を設置しても株価が下がらなくなる可能性
第6回の会議に至るまでの経緯
国税庁は、令和8年4月20日から取引相場のない株式の評価に関する有識者会議を開催しており、第6回は令和8年9月16日に開催されました。これまでに公表されている内容のうち、本ページの前提となるものは次のとおりです。
第1回の資料においては、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の26パーセントから27パーセント程度にとどまること、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6パーセントを占めること、及び評価対象会社の82.4パーセントが直前2期に配当をまったく支払っていないことが示されました。
第4回においては、配当還元方式は範囲を見直したうえで存置するという方向が示されました。第5回においては、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカム・アプローチによる評価を主軸とすべきであるという方向が示されました。
第6回は、この方向を前提として、残余利益方式による具体的な計算の方法を検討するものです。内容も時期も確定したものではありません。
残余利益方式の骨格 算式と、加算期間及び還元率の仮定
残余利益方式は、直前期末の純資産価額に、将来の各期の残余利益の現在価値を加算して企業価値を求める方法です。第6回の資料に示された算式は、次のとおりです。
評価額 = { 直前期末の純資産価額 + 第1期から第5期までの各期の残余利益を還元率で割り引いた金額の合計 } × しんしゃく率
各期の残余利益は、年利益金額から前期末の純資産価額に還元率を乗じた金額を控除して算出します。第1期の残余利益であれば、年利益金額から直前期末の純資産価額に還元率を乗じた金額を控除した金額です。第2期以降の純資産価額は、前期末の純資産価額に年利益金額を加え、年配当金額を控除して順次計算します。これをクリーン・サープラス関係といいます。
加算期間を5年程度とすることが示されています
理論上は将来の無限期間の当期純利益を予測する必要がありますが、これは極めて困難です。資料は、上場企業等で策定される中期経営計画の年数が3年から5年とされていることも参考として、加算する期間を5年程度としてはどうかと述べています。将来予測利益の計算は、恣意的な予測値ではなく、課税時期前5年の法人の正常利益から算出することとしてはどうかとされています。決算期の変更等により12か月に満たない事業年度がある場合は、12か月に相当する利益金額に修正した上で算出する必要があるとされています。
ターミナル・バリューは加算しないものとされています
予測期間を5年とした場合、理論上は6年目以降の残余利益の割引現在価値の総和であるターミナル・バリューを加算する必要があります。資料は、その算定が困難であること、及び残余利益は年数とともに逓減し0に近似していくと考えられることを踏まえ、過小評価の可能性があるものの安全性を考慮して加算しないこととしてはどうかと述べています。
還元率及びしんしゃく率は第7回以降の議論に委ねられています
還元率は、株主が通常期待する収益率、すなわち株主資本コストです。資料は、還元率を上場株式を基準に算定する場合、しんしゃく率は時価の算定として適正な範囲で設定するものと考えられるが、次回以降の会議において還元率の考え方と併せて議論いただきたいと述べています。したがって、現時点で還元率及びしんしゃく率の水準は定まっていません。
利益も配当もない会社では簿価純資産を下回る評価額となります
資料は、利益も配当もない会社について、直前期末の簿価純資産を100としたときの株式評価額を示しています。還元率2パーセントのとき91、還元率5パーセントのとき78、還元率10パーセントのとき62です。株式を通じて事業用資産を保有することのコストが考慮される結果、収益力を除いた株式の評価額は簿価純資産価額以下で算定されると説明されています。
残余利益方式に関する8つの検討事項
第6回の資料は、末尾の検討事項整理表において、残余利益方式に関する8つの検討事項を掲げています。以下、資料の該当頁の順に整理します。
検討事項① どの帳簿の数値を用いるか
中小企業が適用する会計基準には、企業会計基準、中小企業の会計に関する指針、中小企業の会計に関する基本要領及び法人税法があり、適用する基準の違い又は同じ基準における会計処理の選択適用により、同一の事象についても企業間で差が生じます。資料は、本来の残余利益モデルであればこうした会計処理の違いに対して評価額は中立であるが、予測期間を有限とした場合、会計処理の差が評価額の差となるおそれがあると指摘しています。
そのうえで、企業における会計処理の選択の自由を尊重しつつ、課税の公平性の観点から、すべての企業が一定の統一基準で作成をする法人税法に基づく会計帳簿、すなわち法人税申告書に基づき株価の算定をすることとしてはどうかと述べています。法人税法上の帳簿を使用する場合は、受取配当金の益金不算入や特別償却等が反映された簿価純資産及び利益となる旨も注記されています。
検討事項② 加算期間及び時価としての妥当性
前記のとおり、加算期間を5年程度とし、ターミナル・バリューを加算しない方向が示されています。加算する期間については、期間が長いほど理論式に近似する一方で将来予測の精度にぶれが生じるおそれがあり、期間が短いほど理論式との乖離が生じる一方で将来予測の精度について一定の担保が可能であるという、トレード・オフの関係にあると説明されています。
検討事項③ 多額の含み損を抱える資産がある場合の減損
直前期末の簿価純資産を基礎とするため、保有資産に多額の減損が生じている場合、評価額が過大となるおそれがあります。資料は、次の2つの要件の下で減損を反映することとしてはどうかと述べています。第1に、一般に公正妥当と認められる会計基準に照らし減損が生じていることを、決算公告等により明らかにしていること。第2に、減損額は、当該資産の簿価が当該資産の相続税評価額を上回る部分に限ること。
ただし、減損の算定を基準もなく認めてしまえば恣意的な税負担の選択を許容することとなり課税の公平性に疑義が生じるおそれがあること、及び含み益を考慮しない一方で含み損を考慮することの妥当性については整理・検討が必要であることも併記されています。
検討事項④ オペレーティング・リース取引による利益の操作
オペレーティング・リース取引を行っている場合、契約の初期においては減価償却費が収入を上回るため、利益及び純資産がともに減少し、評価額が大幅に圧縮されます。資料は、企業価値評価の方法も参考に、課税時期現在で存在するオペレーティング・リースがなかったものとした状態に引き直して評価することとしてはどうかと述べています。利益のほか、純資産についてもオペレーティング・リースがなかったものとして修正するとされています。
あわせて、オペレーティング・リースのほかに短期的に損益の調整が可能な商品等があれば同様の対応が必要と考えられるが、どのようなものがあるかという問いも掲げられています。
検討事項⑤ 過大な役員報酬等による利益の操作
資料は、親族に対する役員報酬について、経営の対価を上回る部分として一定の割合を会社の本来の利益を構成するものとみなし、正常利益の計算に際し損金から控除して評価することとしてはどうかと述べる一方、法人税法の損金不算入規定により既に調整済であることと整合しないこと、及び適正な役員報酬はいくらかと一律に決めることが妥当といえるのかという点から慎重な検討が必要であるとしています。
また、株式評価の直前期に多額の役員退職慰労金等を支払うことで法人の利益を操作し、株式評価を圧縮しているケースが見受けられるとして、役員退職金等のような非経常的損失がある場合は正常利益の計算に際し損金から控除して評価することとしてはどうかと述べています。純資産については、支払済の退職金等は会社に戻ることがなく個人資産として相続財産にもなることを踏まえ、修正は行うべきではないと考えられるとされています。詳細は巨額の役員退職慰労金を支給しても株価が下がらなくなる可能性に記載しています。
検討事項⑥ 子会社株式を有する場合の修正範囲
資料は、現行の評価方式において完全支配関係法人間でグループ法人税制を活用し、税負担なく親会社の資産を子会社へ移転し、評価額を圧縮するスキームが存在すると指摘しています。対象範囲については、完全支配関係にある子会社株式、連結財務諸表作成対象の子会社株式、及び持分法適用会社の子会社株式という3つの案が比較され、グループ法人税制により何ら税負担がなく資産移転が可能なグループ法人の完全支配株式に限り、簿価によらず適正な価額に修正の上、親会社の評価額へ反映させることとしてはどうかとされています。詳細は持株会社化をしても株価が下がらなくなる可能性に記載しています。
検討事項⑦ 従業員持株会を有する場合の持株会株式の評価方法
資料は、固定価格の従業員持株会の株式は一定の要件を満たす場合に当該固定価格により評価すること、及びその場合の従業員持株会の株式以外の株式の評価は、企業価値の総額から固定価格に従業員持株会株式の数を乗じた金額を控除し、発行済株式数から従業員持株会株式の数を差し引いた株数で除すことにより行うことを示しています。詳細は従業員持株会を設置しても株価が下がらなくなる可能性に記載しています。
検討事項⑧ 純資産価額方式の選択適用、すなわち実質の頭打ち
現行の評価体系においては、原則的評価方式による評価額が純資産価額による評価額を上回る場合に、納税義務者の選択により純資産価額方式により評価することができ、実質的に純資産価額が上限となっています。資料は、この取扱いを存置すべきかを検討するにあたり、純資産価額方式の位置付けから整理が必要であるとしています。
純資産価額の位置付けとして、個人事業者の財産評価との均衡を図るものとしての純資産価額方式、株式が会社財産に対する持分としての性格を有することによる純資産価額方式、及び清算価値としての純資産価額という3つが並べられ、それぞれについて退職給付引当金等の控除の可否及び含み益に対する法人税額等相当額の控除の可否が異なることが示されています。清算価値としての整理については、清算価値を継続企業の価値評価として選択を可能とし上限と整理することは困難ではないかという指摘が付されています。なお、見直しにより原則的評価方式ではなくなる純資産価額方式の選択を認める妥当性をどのように説明できるかは、要検討とされています。
特定の評価会社として整理された4つの類型
資料は、残余利益方式によらず純資産価額方式で評価することが相当と認められる会社を特定の評価会社と整理し、次の4類型を掲げています。
4つの類型と、その会社例
第1の類型は、株式の価値の大半を保有資産の価値が占めると考えられる会社です。会社例として資産管理会社、すなわち資産保有特定会社が挙げられています。単に資産の保有及び管理をすることを主たる目的とすると認められる会社については、その資産増殖能力を考慮することなく純資産価額により評価することが最も適当であり、個人で資産を保有する場合の評価との均衡を図る必要があるとされています。
第2の類型は、評価通達における残余利益方式での評価が技術上困難と認められる会社です。会社例として、組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社、及び開業前の会社が挙げられています。いずれも将来予測に必要な実績値が確認できないことが理由です。ただし、組織再編直後の会社について、一定の合理的な予測が可能な場合は残余利益方式により評価することが妥当であるとされています。
第3の類型は、残余利益方式の前提である継続企業の前提に疑義がある会社です。会社例として休業中の会社が挙げられています。
第4の類型は、残余利益方式の前提である継続企業の前提を欠いている会社です。会社例として清算中の会社が挙げられ、清算分配見込額により評価することが実態にかなうとされています。
資産管理会社に該当するかどうかの判定方法
資料は、判定の方法について次の3点を示しています。第1に、現行制度のように土地及び株式ごとの保有割合によりそれぞれ行うのではなく、投資目的等の特定資産の合計額の総資産に対する保有割合により行うこと。第2に、該当の基準については、事業承継税制の対象から除かれる資産保有型会社及び資産運用型会社を参考に形式基準を設定すること。第3に、割合の判定は時価に洗い替えをした上で行うのではなく、簿価のままで行うことです。
特定資産の範囲は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第1条第17項第2号に定める特定資産を基準として整理するとされ、有価証券等、現に自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権等、現金及び預貯金その他これに類する資産、並びに絵画及び貴金属等が挙げられています。該当基準は、特定資産の帳簿価額の合計額等が資産の帳簿価額の総額等の70パーセント以上である資産保有型会社、又は特定資産の運用収入が総収入金額の75パーセント以上である資産運用型会社のいずれかに該当する場合とされています。
あわせて、現金及び預貯金その他これに類する資産のうち事業活動に必要な部分、いわゆる運転資金等については対象外とすることとしてはどうか、賃貸不動産に加えリース取引により保有する資産等も対象とすることとしてはどうかという点、及び資産比率が特定資産に偏る不動産賃貸業などの業種をどのような基準で区別すべきかという点が、検討課題として掲げられています。
類型に応じて適用する純資産価額方式を使い分ける案
資料は、特定の評価会社の区分に応じ、最も実態と整合する評価方式として適用する純資産価額方式を使い分けることも考えられるとしています。資産の保有及び管理を主たる目的とする会社には個人での財産所有との均衡を図るための純資産価額方式を、残余利益方式での評価が技術上困難な会社には会社財産に対する持分としての純資産価額方式を、継続企業の前提に疑義又は前提を欠いている会社には清算価値に準ずる評価としての純資産価額方式を、それぞれ適用するという整理です。
この整理により、退職給付引当金等の控除の可否、含み益に対する法人税額等相当額の控除の可否、及び出資の払戻時のみなし配当に係る源泉徴収税額の控除の可否が、類型ごとに異なることになります。
試算により示された評価水準
資料は、令和2年分から5年分の相続税及び贈与税の申告のうち、取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から無作為に抽出した1378社について、加算期間5年、還元率8パーセントと仮定した残余利益方式による評価額を試算し、現行の評価額と比較しています。
純資産価額を100とした場合の評価額の水準
全体では、現行の評価額が58.2であるのに対し、しんしゃく率1.0の場合71.6、0.9の場合64.4、0.8の場合57.3、0.7の場合50.1です。
大会社では、現行の評価額が38.2であるのに対し、しんしゃく率1.0の場合79.8、0.9の場合71.8、0.8の場合63.8、0.7の場合55.8です。現行の申告評価額の中央値を100とした場合の増減で申しますと、しんしゃく率1.0の場合は114.7パーセントの増加、0.7の場合でも50.3パーセントの増加となります。
中会社では、現行の評価額が53.4であるのに対し、しんしゃく率1.0の場合74.0、0.9の場合66.5、0.8の場合59.2、0.7の場合51.7です。小会社では、現行の評価額が63.8であるのに対し、しんしゃく率1.0の場合63.2、0.9の場合56.8、0.8の場合50.5、0.7の場合44.2であり、いずれのしんしゃく率でも現行より低い水準となります。
評価額が下がる会社の割合
現行の申告評価額以下となる会社の割合は、全体でしんしゃく率1.0の場合33.1パーセント、0.9の場合40.2パーセント、0.8の場合48.6パーセント、0.7の場合57.3パーセントです。
大会社では、しんしゃく率0.8の場合24.2パーセント、0.7の場合28.1パーセントにとどまります。他方、小会社では、しんしゃく率0.8の場合67.9パーセント、0.7の場合78.4パーセントとなります。すなわち、現時点の試算に基づく限り、大会社ほど評価額が上がり、小会社ほど評価額が下がる傾向が示されています。
もっとも、還元率8パーセント及びしんしゃく率はいずれも仮定であり、確定したものではありません。また、算定に当たっては完全子会社株式の修正等の個別調整事項は考慮されていない旨が注記されています。
見直しの理由として資料が示している説明
資料は、令和元年10月10日大阪高等裁判所判決を引用し、非上場株式は容易に時価を把握できないからといって公認会計士等による評価を義務付けるのは納税者に過度な負担がかかるため、評価通達で割り切った運用を容認せざるを得ないものである旨を述べています。非上場株式の税務上の評価については、公認会計士等による企業価値評価のように厳密な方法を求めることはできず、一定の割り切った評価となるのであって、それは現行の評価方法についても同様であるとされています。
そのうえで、今回の見直しについて、次の2点が挙げられています。第1に、現行は規模の大きな企業ほど相対的に評価額が安く評価される評価体系であり相対的不公平が生じているところ、規模別の評価方式を廃止することにより、異なる規模区分の評価会社が発行した非上場株式を取得した者の間の相対的不公平が一定程度解消されること。第2に、類似業種比準方式には理論的な根拠や実証的な裏付けがなく他分野でも徐々に使われなくなってきたところ、理論的根拠を持つ残余利益モデルに税務上の評価としての画一性及び簡便性等から一定の修正を加えた評価方法へ見直すものであることです。
第7回以降に予定されている論点
資料は、第7回会議以降での想定論点として、次の3つの区分を掲げています。
第1に、純資産価額方式についてです。計算方法の簡便化、法人が3年以内に取得した不動産の取扱い、退職給付引当金等の取扱い、法人税額等相当額の控除とその対象範囲、中会社及び小会社における同族株主グループの議決権の保有割合が50パーセント以下である場合の評価減、並びに特定の評価会社の区分により異なる評価方法が挙げられています。
第2に、還元率についてです。還元率の算出方法等について、一律とすることの是非、及び上場と非上場の差、すなわち所有と経営の一致の考慮を含む点が挙げられています。
第3に、配当還元方式、すなわち少数株主に適用される評価方法についてです。配当還元方式の意義及び存置について、適用される株主の範囲及び判定について、評価手続の簡便性すなわち事務負担を考慮した算式の見直し、並びに原則的評価方式と配当還元方式の評価額の乖離への対応が挙げられています。
少数株主が保有する株式の評価に直接に関わるのは第3の区分です。当事務所が取り扱う敵対的少数株主及び株式買取業者との紛争の場面では、配当還元方式による評価額と原則的評価方式による評価額との差が交渉の出発点となることが多く、第7回以降の議論は実務に直接の影響を及ぼします。
放置した場合に失われるもの
第1に、株式の集約の機会です。試算によれば、大会社に区分される会社ではしんしゃく率0.7の場合でも現行の申告評価額より50.3パーセント高い水準となります。評価額が上がれば、分散した株式を買い集めるために必要となる資金も、贈与又は相続に係る税額も増加します。現に少数株主が存在する会社において株式の集約を先送りすることは、将来の負担を確実に増やす選択となります。
第2に、過去の資料です。残余利益方式は課税時期前5年の正常利益を基礎とします。どの期にどのような非経常的な損益があったかを説明するための資料は、時が経てば散逸します。オペレーティング・リース取引、役員退職慰労金の支給、グループ法人間の資産の移転はいずれも検討事項に挙げられており、後日その内容を説明する必要が生じます。
第3に、手続の期限です。少数株主との間で株式の買取りの交渉が調わない場合、会社法上の手続には期間の制限があります。例えば、株式の併合により1株に満たない端数となる株主の株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに行う必要があります(会社法第182条の4第4項)。相続人に対する売渡しの請求は、定款に定めがある場合に限り、相続があったことを知った日から1年以内に限って行うことができます(会社法第176条第1項)。評価方法の見直しを待っている間に、これらの期限が経過することがあります。
いま確認していただきたいこと
見直しの内容は確定しておらず、適用の時期も示されていません。もっとも、いずれの評価方法が採用される場合であっても必要となる事項は、本日から着手することができます。
- 直近5期分の法人税申告書、特に別表四及び別表五(一)を手元に揃えてください。残余利益方式が法人税申告書を基礎とする方向が示されている以上、これが評価の出発点になります。
- 過去5年間の利益に含まれる非経常的な損益を区別して整理してください。オペレーティング・リース取引、役員退職慰労金、固定資産の売却損益、保険の解約返戻金などが該当します。
- グループ内の資本関係を確認してください。完全支配関係にある子会社の有無、及び子会社株式の帳簿価額と子会社の純資産の額との差を把握します。
- 従業員持株会の規約又は約款を確認してください。取得価格及び退会時の買取価格が固定価格として明記されているか、退会時に株式の持出しができない旨が定められているかを点検します。
- 株主名簿の現況を確認してください。株主名簿の記載と履歴事項全部証明書の記載が一致しているか、退職した従業員や相続によって株主となった者が残っていないかを確認します。
よくあるご質問
見直しはいつから適用されるのですか
適用の時期は示されておりません。第6回の資料は検討事項を掲げるものであり、還元率及びしんしゃく率のいずれも第7回以降の議論に委ねられています。純資産価額方式及び配当還元方式についても、第7回以降に検討される予定です。したがって、現時点では適用時期を前提として意思決定を行うことはできません。
結局、自社株式の評価額は上がるのですか、下がるのですか
資料の試算によれば、現行の申告評価額以下となる会社の割合は、しんしゃく率0.8の場合、大会社で24.2パーセント、中会社で42.2パーセント、小会社で67.9パーセントです。すなわち、大会社に区分される会社では上がる可能性が高く、小会社に区分される会社では下がる可能性が高いという傾向が示されています。ただし、これは還元率8パーセントを仮定した試算であり、個社の資産及び収益の状況によって結果は異なります。
類似業種比準方式は廃止されるのですか
第5回の会議において、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカム・アプローチによる評価を主軸とすべきであるという方向が示されています。第6回の資料も、規模別の評価方式を廃止することを前提として記載されています。もっとも、確定したものではありません。
配当還元方式はどうなるのですか
第4回の会議において、範囲を見直したうえで存置するという方向が示されています。第6回の資料は、配当還元方式を第7回以降の想定論点として掲げ、意義及び存置について、適用される株主の範囲及び判定について、算式の見直し、並びに原則的評価方式との評価額の乖離への対応を検討事項としています。少数株主が保有する株式の評価に最も直接に関わる論点です。
資産管理会社を持っていますが、どうなりますか
資産管理会社は、特定の評価会社の第1の類型として、残余利益方式によらず純資産価額方式により評価する方向が示されています。判定は、土地及び株式ごとの保有割合ではなく特定資産の合計額の総資産に対する保有割合により行い、時価に洗い替えず簿価のままで行うこととしてはどうかとされています。判定の方法が変わりますので、現行では特定会社に該当しない会社が該当することになる場合も、その逆もあり得ます。
この見直しは、少数株主との株式の売買価格にも影響しますか
直接には影響しません。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。株式買取請求に伴う価格決定の申立て、株式売買価格決定の申立て、及びスクイーズアウトにおける取得価格の決定において、裁判所は収益還元法、配当還元法、時価純資産法などを事案に応じて用いて判断します。もっとも、税務上の評価額は交渉の出発点として用いられることが多く、その水準が変われば交渉の実際には影響が及びます。
今のうちに贈与を済ませたほうがよいのですか
一律には申し上げられません。試算によれば小会社に区分される会社では評価額が下がる可能性が高く、その場合、急いで贈与することが不利益となることもあります。他方、大会社に区分される会社では評価額が上がる可能性が高いといえます。自社がどの区分に当たるか、直近の利益及び純資産の水準がどうかを確認したうえで、税理士と協議して判断する必要があります。確定していない見直しの内容を前提として意思決定を行うことは適当ではありません。
関連するご案内
見直しが経営者に及ぼす影響の全体については、非上場株式の評価方法の見直しに関する有識者会議の議論をご覧ください。第6回の資料のうち、従来の事業承継対策に直接の影響を与える3つの論点については、巨額の役員退職慰労金を支給しても株価が下がらなくなる可能性、持株会社化をしても株価が下がらなくなる可能性及び従業員持株会を設置しても株価が下がらなくなる可能性に記載しています。
株式の評価方法そのものについては株式価値の算定方法及び時価純資産法による株式の評価を、相続税の評価額と実際の売買価格との関係については相続税評価額と株式の売買価格との相違をご覧ください。事業承継又は企業買収に先立って少数株主を整理する場面については事業承継及び企業買収に先立つ少数株主の整理に記載しています。
おわりに
令和8年9月16日に開催された取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の第6回において、残余利益方式による具体的な計算の方法について8つの検討事項が示されました。どの帳簿の数値を用いるか、何年分の利益を加算するか、含み損の減損、オペレーティング・リース取引、過大な役員報酬等、子会社株式の修正範囲、従業員持株会の株式の評価、及び純資産価額方式の選択適用がその内容です。あわせて、残余利益方式によらず純資産価額方式により評価する特定の評価会社として、4つの類型が整理されました。
試算によれば、しんしゃく率0.8の場合、現行の申告評価額以下となる会社の割合は大会社で24.2パーセント、小会社で67.9パーセントです。規模の大きな会社ほど評価額が上がり、小さな会社ほど下がる傾向が示されています。もっとも、還元率及びしんしゃく率はいずれも仮定であり、適用の時期も示されておりません。確定していない見直しの内容を前提として意思決定を行うことは適当ではありません。
他方、直近5期分の法人税申告書の整理、非経常的な損益の区別、グループ内の資本関係の確認、従業員持株会の規約の点検、及び株主名簿の現況の確認は、いずれの評価方法が採用される場合であっても必要となる作業です。これらは本日から着手することができます。とりわけ、株式が分散している会社においては、評価額が上がる方向の見直しが実現する前に集約を進めるかどうかが、実際上の分かれ目となります。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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出典
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)」資料(令和8年9月16日)1頁から23頁まで
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)」資料(令和8年7月3日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
- 大阪高等裁判所令和元年10月10日判決
- 法人税法第2条第12号の7の6、法人税法施行令第4条
- 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第1条第17項第2号
- 会社法第176条第1項、第182条の4第4項
- 財産評価基本通達第178項から第189項の7まで
- 国家行政組織法第14条第2項
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