取締役の解任の訴えにおける正当な理由を会社の側からどのように主張するか

株主総会において取締役の解任議案が否決されたところ、少数株主から解任の訴えを提起されてしまったという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、会社が「正当な理由がある」と主張する場面と、少数株主の主張する「重大な事実」の存否を争う場面とでは、同じ事実関係を扱う場合であっても立証の方向が逆になることがあり、この点を混同すると、一方の場面で有利になる主張が他方の場面でかえって不利になりかねないという点です。

以下では、解任の訴えにおける要件と効果の整理、及び正当な理由として主張され得る事情を御説明します。

要件 解任について正当な理由があること 不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったこと
効果 損害賠償の請求を免れます 判決により役員が解任されます
判断の対象となる時点 解任の決議の時点 訴えの前提となる事実の存否
会社の立場 主張する側 被告として争う側であることが多い

同じ事実関係を扱う場合であっても、会社が「正当な理由がある」と主張する場面と、少数株主の主張する「重大な事実」の存否を争う場面とでは、立証の方向が逆になることがあります。この点を混同いたしますと、一方の場面で有利になる主張が他方の場面で不利に働くという事態が生じ得ます。

正当な理由として主張され得る事情

会社法第339条第2項にいう正当な理由について、条文はその内容を定めておりません。裁判実務においては、取締役としての職務を遂行することが客観的に期待し得ない状況が生じていたかという観点から判断されてきたものと理解されております。一般に、次のような事情が主張されることがあります。

 法令又は定款に違反する行為

会社の計算に関する規律への違反、競業の制限(会社法第356条第1項第1号、第365条第1項)に違反する取引、利益が相反する取引(会社法第356条第1項第2号及び第3号)についての承認を欠く行為等です。これらは、記録により立証しやすい類型です。

 経営上の判断とは評価し難い行為

会社の資金を私的に用いた、会社の事業の機会を自己又は第三者に流用した、といった行為です。取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければならないとされております(会社法第355条)。また、取締役と会社との関係は委任に関する規定に従いますので(会社法第330条)、善良な管理者の注意をもって職務を処理する義務を負います(民法第644条)。

 健康上の理由その他の職務の遂行が困難な事情

長期にわたり職務を遂行することができない状態が継続している場合には、正当な理由があると判断されることがあります。もっとも、期間の長短、回復の見込み、他の役員による補完の可否等が個別に検討されることになります。

 経営能力の著しい欠如

この類型は、判断が分かれやすいところです。業績が不振であるという結果のみをもって直ちに正当な理由があるとされるわけではなく、具体的にどのような職務上の懈怠があったかを積み上げる必要があります。

 株主又は取引先との信頼関係の破壊

事実の裏付けを欠いたまま「信頼関係が失われた」と主張しても、正当な理由の立証としては足りないことが多いところです。具体的な言動、これに対する会社の対応、取引先からの申入れ等の客観的な資料を伴うことが求められます。

会社の側の立証の組立て

 解任の決議の時点に存在した事情であること

会社法第339条第2項の正当な理由は、解任の決議の時点において存在していた事情によって判断されるのが原則です。解任の後に判明した事情をどこまで考慮し得るかについては議論がありますので、会社としては、決議の時点で把握していた事実を明確にしておくことが重要です。取締役会の議事録、調査の報告書、社内の稟議の記録等が、その時点での認識を示す資料となります。

 事実を「評価」ではなく「記録」で示すこと

「独断専行であった」「協調性を欠いていた」といった評価的な表現のみでは、立証としては弱いところです。いつ、どのような場面で、どのような行為があり、会社がこれに対してどのように対応したかという時系列の事実を、書面、電子メール、議事録、会計の記録により示すことになります。

 解任に至るまでの手続の適正

解任の決議に至る過程で、当該取締役に弁明の機会が与えられていたか、取締役会において審議が行われたか、といった事情も、紛争の全体の評価に影響し得ます。会社法上、解任の決議の要件として弁明の機会を与えることが求められているわけではありませんが、手続の記録が残されていることは、会社の主張の信用性を支えます。

 報酬に関する資料

損害賠償が問題となる場面では、損害の額の算定が争点となります。役員報酬の額及びその決定の経緯(会社法第361条第1項)、任期の残存期間、退職慰労金に関する定めの有無等の資料を整理しておく必要があります。

少数株主の主張に対する会社の側の反論

取締役の解任の訴えが提起された場合、会社は被告となります(会社法第855条)。この場面で会社が検討する反論としては、次のようなものが考えられます。

反論の類型 内容 根拠
訴訟要件を欠くこと 提訴期間(株主総会の日から30日)の経過、持株要件の不充足 会社法第854条第1項
前提となる決議の不存在 解任の議案が株主総会において否決された事実がないこと 会社法第854条第1項
「不正の行為」に当たらないこと 指摘された行為が職務の執行に関するものでないこと、又は不正といえないこと 会社法第854条第1項
「重大な事実」に当たらないこと 法令又は定款に違反する事実はあるが重大とはいえないこと 会社法第854条第1項
是正が完了していること 指摘された事実について既に是正の措置が執られていること 事実に基づく主張

なお、会社と当該取締役の双方が被告となりますので、会社としての主張と取締役個人としての主張が食い違う場合があります。誰の立場でどの主張を行うかを、初期の段階で整理しておく必要があります。

具体的な主張の順序や資料の出し方は、株主構成、指摘されている事実の内容、他の紛争との関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
取締役の解任の訴えの提起 株主総会の日から30日以内 会社法第854条第1項
株主総会の決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項
解任された取締役による損害賠償の請求 一般の消滅時効の規律によります 民法第166条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 解任の議案を付議した株主総会の招集の通知及び議事録
  • 解任に至る経緯を審議した取締役会の議事録
  • 指摘されている行為に関する社内の調査の記録及び関係する書面
  • 役員報酬の額及びその決定に関する株主総会の決議又は定款の定め
  • 当該取締役の就任の年月日及び任期が分かる登記事項証明書
  • 当該取締役との間で取り交わした書面(就任の承諾書、誓約書等)

弁護士にご相談いただく意味

この類型では、事実そのものよりも、事実をどのように整理して示すかによって結論が左右されます。会社の内部では周知の事情であっても、外部の第三者である裁判所に対しては、記録によって示さなければ存在しないものとして扱われます。解任を検討する段階から、どの資料をどのように残すかを設計しておくことには、大きな意味があります。

また、解任という一つの行為をめぐって、損害賠償の請求、解任の訴え、決議の取消しの訴え、取締役の責任を追及する訴えといった複数の手続が並行することがあります。これらは相互に影響いたしますので、個別に対応するのではなく、全体を見通した方針が必要です。当事務所は、会社の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っております。

よくあるご質問

質問1 業績が悪化したことは、正当な理由になりますか。

業績の悪化という結果のみをもって正当な理由があると判断されるとは限りません。当該取締役の職務の執行にどのような懈怠があり、それが業績にどのように結び付いたかという具体的な事実を示すことが求められます。

質問2 解任した後に不正が判明いたしました。これを正当な理由として主張できますか。

会社法第339条第2項の正当な理由は、解任の決議の時点において存在した事情によって判断されるのが原則です。解任の後に判明した事情の取扱いについては議論がありますので、個別の事情に応じた検討が必要です。なお、判明した不正については、別途、取締役の責任を追及することが考えられます(会社法第423条第1項)。

質問3 少数株主が主張する事実は認めますが、重大とまではいえないと考えております。

会社法第854条第1項は、「法令若しくは定款に違反する重大な事実」を要件としております。事実の存在を認めた上で重大性を争うことは、会社の側の反論として成り立ち得ます。ただし、事実を認める陳述は他の手続にも影響いたしますので、全体を見通した上で判断する必要があります。

質問4 辞任を求めることと解任することとで、違いはありますか。

辞任は当該取締役の意思による退任ですので、会社法第339条第2項の損害賠償の問題は生じないのが通常です。もっとも、辞任に至る経緯によっては、実質的に解任であると主張されることがあります。また、辞任により役員が欠けることとなる場合には、なお役員としての権利義務を有することがあります(会社法第346条第1項)。

質問5 役員報酬を減額することで対応できませんか。

役員報酬は、定款に定めがない場合には株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。いったん具体的に定まった報酬について、当該取締役の同意なく一方的に減額することは、原則として認められないと解されております。減額を検討する場合には、根拠と手続を慎重に確認する必要があります。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第330条(会社と役員との関係は委任に関する規定に従う)
  • 第339条第1項・第2項(役員の解任、正当な理由がない場合の損害賠償)
  • 第341条(役員の選任及び解任の決議の定足数)
  • 第346条第1項(役員の権利義務を有する者)
  • 第355条(忠実義務)
  • 第356条第1項、第365条第1項(競業及び利益相反取引の制限)
  • 第361条第1項(取締役の報酬等)
  • 第423条第1項(役員等の任務を怠ったことによる損害賠償責任)
  • 第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え)
  • 第854条第1項(役員の解任の訴え)
  • 第855条(被告)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第644条(受任者の善管注意義務)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、取締役の解任をめぐる紛争について、会社の側からのご相談をお受けしております。解任の決議に先立つ事実の整理と記録の設計、解任された取締役からの損害賠償の請求への対応、少数株主が提起した取締役の解任の訴えへの応訴まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、少数株主から役員の解任を請求された会社の方に向けたご案内のページ(/kainin_seikyu_taiou/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主総会及び取締役会の議事録、役員報酬に関する決議の記録、指摘されている行為に関する社内の資料、登記事項証明書をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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