株式売買価格決定申立で鑑定が始まる前に会社がすべきこと

株式売買価格決定の申立てがされ、これから裁判所による鑑定の手続が始まろうとしているが、その前に会社として何を準備しておけばよいのかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。
この場面で問題となるのは、価格の算定の基準となる時点が確定していないまま資料を集めてしまうと、必要のない期の資料を揃え、必要な期の資料を欠くという事態が生じ、また、これまでの協議の段階で会社が述べた内容と、これから示す内容とが矛盾していると、その一貫性が問われてしまうという点です。
以下では、基準となる時点の確定の方法、及び鑑定が始まる前に会社が点検しておくべき事項を御説明します。
| 8 | 社内の対応体制 | 経理、事業、法務の担当 |
|---|
基準となる時点を確定します
価格の算定の基準となる時点は、制度の場面によって定まります。この時点が確定していないまま資料を集めると、必要のない期の資料を揃え、必要な期の資料を欠くという事態が生じます。
これまでの主張の一貫性を点検します
協議の段階、手続の初期に会社が述べた内容と、これから示す内容とが矛盾していないかを点検してください。矛盾がある場合には、その理由を説明できるようにしておく必要があります。
相手方の主張の前提を読み取ります
相手方が、どの評価の手法を前提とし、どの数値を用いているかを読み取ってください。会社側が示すべき事項は、この前提のどこに異なる理解があるかによって定まります。
資料の整合性を確認します
計算書類、勘定科目内訳明細書、税務の申告に用いた資料、社内の管理資料の間で数値が整合しているかを確認してください。整合しない点は、鑑定の過程において問題となります。
会社側の法的な立場
鑑定は判断の材料の1つです
鑑定の結果は、裁判所の判断の重要な材料となりますが、それによって価格が自動的に決まるものではありません。鑑定の前提に問題があると考える場合には、その点について意見を述べることになります。
もっとも、鑑定の結果が出た後に前提の誤りを指摘する場合、指摘の内容が限定的なものにならざるを得ません。前提について会社側の考え方を示すのであれば、鑑定の開始前が適切な時期です。
資料を提出する立場にあります
非上場会社においては、評価に必要な資料の多くを会社が保有しています。鑑定人は、提出された資料に基づいて評価を行います。
したがって、会社側が資料を提出しない、あるいは整理されていない状態で提出することは、会社側にとって不利益となり得ます。資料が不足する場合、鑑定人は一般的な前提を置いて評価を行うことになり、その前提が会社の実情と異なる可能性があります。
説明する立場にあります
数値の背後にある事情は、資料だけでは伝わりません。なぜその期に利益が大きく変動したのか、なぜその資産を保有しているのか、なぜその取引条件となっているのかといった事情は、会社が説明しなければ理解されません。
会社側が検討し得る選択肢
表2 鑑定の開始前における会社側の対応
| 対応 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 資料を整えて提出する | 計算書類、資産の一覧、契約書等を整理して提出します | 鑑定の前提が会社の実態に即したものとなります |
| 前提について意見を述べる | 評価の手法、基準となる時点、用いるべき数値について会社側の考え方を示します | 前提の設定に会社側の理解が反映され得ます |
| 説明の機会を活用する | 鑑定人からの質問、資料の追加の求めに丁寧に対応します | 会社の実情が正確に伝わります |
| 何もしない | 提出を求められた資料のみを出します | 一般的な前提により評価が行われ得ます |
会社側として費用と手間をかけずに済ませたいという判断はあり得ます。もっとも、その場合には、結論が会社の実情と離れる可能性があることを織り込む必要があります。
資料の整理の方針
資料は、揃えることと、整理することとが別です。段ボール1箱の資料を提出しても、必要な情報が取り出せなければ意味がありません。
項目ごとに一覧を作成し、各資料がどの項目に対応するかを示す形で整理してください。
特殊事情の説明の方針
会社の実態に関する特殊な事情は、書面によって説明することになります。事情ごとに、事実、その理由、これを裏付ける資料を対応させて記載してください。
整理すべき資料の類型
表3 鑑定の前に整えておくべき資料の類型
| 類型 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 財務に関する資料 | 計算書類、その附属明細書、勘定科目内訳明細書 |
| 資産に関する資料 | 不動産の登記事項証明書、賃貸借契約書、有価証券及び保険の明細 |
| 負債に関する資料 | 借入れの明細、保証の状況、退職金に関する規程 |
| 収益に関する資料 | 部門別又は事業別の状況、一時的な損益の内訳 |
| 事業に関する資料 | 主要な取引先との契約書、許認可、従業員の構成 |
| 同族関係者に関する資料 | 役員報酬の決定に関する議事録、同族関係者との取引の明細 |
| 株式に関する資料 | 株主名簿、定款、過去の株式の移転の記録 |
これらは、いずれも既に存在しているはずの資料です。この段階で新たに作成するのではなく、存在するものを集めて整理するという作業になります。
営業上の秘密への配慮
取引の条件、原価の構造、主要な取引先との契約の内容には、営業上の秘密が含まれることがあります。これらの取扱いについては、手続の中で検討することになります。提出を一律に拒むという対応は、会社側の主張の裏付けを欠くことにつながります。
してはいけない対応
表4 避けるべき対応
| 避けるべき対応 | 理由 |
|---|---|
| 鑑定人に委ねるとして何も準備しない | 一般的な前提により評価が行われ、会社の実情が反映されない可能性があります |
| 会社に不利な資料を提出しない | 後から明らかになった場合、主張全体の信頼性が損なわれます |
| 整合しない資料をそのまま提出する | 説明を求められ、対応に時間を要します |
| 担当者ごとに異なる説明をする | 会社としての説明が一貫しないことになります |
| 資料の作成をこの段階で始める | 事後に作成された資料は、評価が難しくなります |
| 相手方の主張の批判のみを行う | 会社側の価格の像が示されません |
とりわけ注意を要するのは、この段階で新たに資料を作成することです。従前存在しなかった資料を手続の中で作成すると、その作成の経緯が問われます。既存の資料を整理することと、新たに作成することは、明確に区別してください。
案件として確認すべき事項
表5 ご相談の際に整理していただく事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続の経過 | 申立ての時期、これまでの期日、争点の整理の状況 |
| 基準となる時点 | 制度の場面と先行する手続の日付 |
| 提出済みの資料 | 会社側、相手方それぞれの提出書類 |
| 計算書類 | 基準となる時点を含む複数期のもの |
| 附属する資料 | 勘定科目内訳明細書、附属明細書 |
| 資産 | 不動産、有価証券、保険、事業に用いていない資産の一覧 |
| 負債 | 借入れ、保証、退職金の見込み、係争 |
| 同族関係者との取引 | 賃貸借、貸付け、役員報酬 |
| 収益の変動 | 一時的な要因があった期とその内容 |
| 事業の実態 | 主要な取引先、代表者の役割、許認可 |
弁護士に相談する意味
鑑定が視野に入った段階でご相談をいただく意味は、資料の整理と主張の構成を、鑑定の開始前に間に合わせることにあります。この作業には相応の時間を要しますので、手続の期日が近づいてから着手すると間に合いません。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
また、どの事項について意見を述べるべきかの選別が必要です。すべての点について意見を述べることは、かえって主要な争点を埋没させます。当該事案において価格への影響が大きい事項を特定する作業が必要です。
さらに、会社の実態に関する事情は、社内では当然のこととして認識されているため、説明すべき事項として意識されないことがあります。外部の目で整理する作業が必要です。
なお、鑑定の過程における対応の具体的な方法、意見を述べる時期と内容の選択は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 鑑定の結果には従わなければなりませんか。
鑑定の結果は判断の材料であり、それによって価格が自動的に決まるものではありません。もっとも、結果が出た後に前提を争うことは容易ではありません。
質問2 鑑定人を会社側で選ぶことはできますか。
鑑定人の選任は手続の中で行われます。会社側が意見を述べる余地については、事案の進行によります。
質問3 資料が古く、整理されていません。
まず、存在する資料の範囲を確認することから始めます。この段階で新たに資料を作成することは避けてください。
質問4 鑑定の費用が心配です。
費用の見込みと負担の取扱いについては、ご相談の際にご説明いたします。あわせて、費用に関する記事もご参照ください。
質問5 既に鑑定が始まってしまいました。
その段階でも、できることはあります。資料の追加、質問への対応、鑑定の結果に対する意見という形で関与することになります。早期にご相談ください。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
裁判所から届いた書類の一式、これまでに提出した書面と資料、相手方の書面、直近3期分の計算書類及び勘定科目内訳明細書、不動産の登記事項証明書、主要な契約書、同族関係者との取引が分かる資料をご持参ください。
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鑑定が視野に入った段階の会社の方は、株式売買価格決定申立の会社側対応をご覧ください。書類の受領から主張の準備、鑑定への対応、価格の決定後の手続までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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