株式買取業者から通知が届いた会社が弁護士に依頼するとき 返答の前に確認する事項

見覚えのない社名から内容証明郵便が届き、少数株主の株式を買い取ったので株主として扱えと書かれていた、あるいは会社に対して株式を買い取るよう求めると書かれていたという会社の経営者の方から御相談をいただきます。差出人は株式買取業者であり、書面には回答の期限が指定されていることが通例です。本記事は、会社の側が株式買取業者への対応を弁護士に依頼するという場面について、返答をする前に確認しなければならない事項と、依頼の範囲を整理したものです。
この場面で最も避けるべきことは、期限に追われて内容を検討しないまま返答をしてしまうことです。返答は、それ自体が会社の意思表示となり、また事実の認否となります。もっとも、返答をしないことにも法律上の効果が生じる場面がありますので、放置してよいという話でもありません。順序が重要です。
以下では、返答の前に確認する事項を6つに分けて御説明し、そのうえで、弁護士に依頼する場合の範囲、社内で準備していただく資料、費用の考え方を申し上げます。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに大きく異なりますので、次のとおり整理しております。
- 株式買取業者から通知が届き、返答をする前という場面……本記事
- 少数株主への対応全般を依頼するという場面……少数株主対策を弁護士に依頼するとき 会社が相談すべき時期と、任せられる対応の範囲
最初に、期限を計算します。返答の内容を考えるのはその後です
届いた書面が何を求めているかによって、会社が守るべき期限はまったく異なります。まず期限を確定させ、そこから逆算して作業の順序を決めます。
株式譲渡承認請求である場合の期限
買取業者が株主から株式を買い受け、会社に対して譲渡の承認を求めてきた場合、又は株主が買取業者への譲渡について承認を求めてきた場合には、期限が明確に定まっています。令和8年9月14日に請求が到達した場合を例にとります。会社は、請求の日から2週間以内、すなわち令和8年9月28日までに、承認をするか否かの決定の内容を通知しなければなりません(会社法第139条第2項)。この通知をしなかったときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。
承認をしない場合には、さらに2つの期限が続きます
承認をしない旨の通知をしたうえで、会社自身が買い取る場合には、その通知の日から40日以内に、買い取る旨と対象株式の数を通知し、あわせて1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を供託したことを証する書面を交付しなければなりません(会社法第141条第1項及び第2項、第145条第2号)。令和8年9月28日に通知をしたのであれば、期限は令和8年11月7日です。指定買取人を指定する場合には、同じ通知の日から10日以内、すなわち令和8年10月8日までに、指定買取人が買い取る旨の通知をする必要があります(会社法第142条第1項、第145条第2号括弧書き)。
買取価格を争う期限
会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をした場合、売買価格は当事者の協議によって定めますが、協議が調わないときは、通知があった日から20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第1項及び第2項)。この期間内に申立てがされないときは、原則として1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(同条第5項)。20日という期間は、会社の側にとっても同じです。放置していれば、会社にとって不利な価格で確定することがあり得ます。
差出人が誰であるかを、書面の記載を離れて確認します
「株主です」と書かれているからといって、会社がその者を株主として取り扱わなければならないわけではありません。
株主名簿に記載又は記録があるかどうか
株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。株券発行会社においては、会社に対する関係でのみ対抗要件となります(同条第2項)。株主名簿に記載がない者からの請求については、まずこの点を確認します。
名義書換の請求がされているかどうか
株式を会社以外の者から取得した者は、会社に対し、株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができます(会社法第133条第1項)。この請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同してしなければなりません(同条第2項)。買取業者が単独で名義書換を求めている場合、この要件を満たしているかを確認します。
譲渡制限の定めとの関係
定款に株式の譲渡について会社の承認を要する旨の定めがある場合、承認を経ていない譲渡について、会社が譲受人を株主として取り扱う義務はありません。届いた書面が承認を求めるものであるのか、承認を経たことを前提とするものであるのかを、記載に即して読み分ける必要があります。
相手方の属性と、これまでの経緯を確認します
返答の方針は、相手方が何を目的としているかによって変わります。
買取りの相手方が誰であったかを確認します
買取業者が誰から株式を取得したのか、いつ取得したのか、いくらで取得したのかは、その後の交渉に影響します。株主に相続が発生した後に接触が始まっている例、株主総会の招集通知が返送されるようになった時期と前後している例があります。社内に残る記録から時系列を作ります。
権利の実行を業とすることの禁止に触れないかどうか
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすることはできません(弁護士法第73条)。株式を買い集めたうえで会社に対する請求を反復する行為については、この規定との関係が問題となり得ます。また、弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることも禁じられています(弁護士法第72条)。相手方が株主本人の代理人として交渉している場合には、この点の確認が必要です。
他の株主にも同時に接触していないかどうか
買取業者は、1名の株主だけに接触しているとは限りません。他の少数株主に対しても同様の申入れをしていることがあります。会社が最初の1名に対してとった対応は、他の株主に対する先例となります。1件の返答であっても、全体の方針の一部として考える必要があります。
返答の前に、社内でしてはならないことがあります
御相談をいただく前に、既に対応が始まっていることがあります。次の3点は避けていただきたい事項です。
担当者の判断で株主名簿を書き換えないこと
名義書換の要件を満たしているかを確認しないまま株主名簿を書き換えますと、会社は相手方を株主として取り扱う立場に自ら立つことになります。書換えの前に要件の確認を行ってください。
価格の水準に触れないこと
「その金額では無理だ」「その半分なら考える」といった発言は、後の価格の交渉における出発点として引用されます。価格については、算定の根拠を整えるまで具体的な数字に触れないことが原則です。
資料を先に渡さないこと
計算書類や勘定科目内訳明細書を求められることがあります。株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条第2項)と会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)とでは、請求権者の要件も拒絶事由も異なります。会計帳簿については、請求の理由を明らかにしてしなければならず、拒絶事由は会社法第433条第2項各号に限定されています。任意に応じるのか、法律上の請求として処理するのかを区別してください。
弁護士に依頼した場合に、何が変わるのか
御依頼をいただいた場合、次の順序で進めます。
| 段階 | 行うこと | 目安の期間 |
| 第1 | 期限の確定と、受任の通知による窓口の一本化 | 1日から3日 |
| 第2 | 株主名簿、定款、登記の突合と、請求の性質の確定 | 1週間程度 |
| 第3 | 機関決定(取締役会又は株主総会)の準備 | 1週間から2週間 |
| 第4 | 通知書の発送、供託、価格に関する主張の準備 | 期限に応じて |
窓口を一本化します
受任の通知により、以後の連絡はすべて弁護士が受けます。会社に対する電話や訪問が繰り返されている場合、これだけで業務への支障が止まります。
機関決定の設計を行います
会社が自ら買い取る場合には、株主総会の特別決議が必要です(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)。譲渡等承認請求者は、この株主総会において議決権を行使することができません(会社法第140条第3項)。他方、指定買取人を指定する場合には、取締役会設置会社においては取締役会の決議によることができます(会社法第140条第5項)。どちらを選ぶかによって、要する期間も、必要となる資金の出所も変わります。
価格に関する主張の準備を行います
裁判所は、売買価格の決定に当たり、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(会社法第144条第3項)。会社の側が「一切の事情」として何を提出するかは、あらかじめ整理しておく必要があります。なお、譲渡制限株式の売買価格の決定において、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる旨を判示した最高裁判所令和5年5月24日第三小法廷決定があります。ただし、算定の過程で市場性のないことが既に考慮されている場合に重ねて減価を行うことは相当でないとされています。
なぜ株式買取業者は、会社に対して直接に働きかけるのか
相手方の行動の理由を理解しておくと、返答の方針が定まります。3つに整理します。
第1 換価の相手方が会社しかいないため
譲渡制限のある非上場会社の少数株式には市場がありません。買い受けた側にとって、換価の相手方は会社又は支配株主に事実上限られます。したがって、会社に対する働きかけは目的ではなく手段です。
第2 法律上の請求権を用いることで、会社を交渉の席に着かせられるため
会計帳簿の閲覧謄写請求、株主総会の招集の請求、取締役の責任を追及する主張は、いずれも会社に対応の負担を生じさせます。この負担が、買取りの交渉を進める材料として用いられます。請求の一つひとつに個別に反応するのではなく、全体を一つの交渉として捉える必要があります。
第3 早期の決着に価値があるため
買い受けた側にとって、資金の回収までの期間は費用そのものです。会社が期限を守り、法律上の手続に沿って淡々と対応すれば、相手方にとっての時間的な利益は失われます。会社の側が慌てる理由はありません。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次の事項を御確認ください。
第1に、届いた書面の到達日を確定させてください。封筒、配達の記録、受領印のいずれかを保管してください。
第2に、書面が何を求めているかを読み分けてください。株式譲渡承認請求であるのか、会社に対する買取りの申入れであるのか、株主としての権利の行使であるのかで、期限が異なります。
第3に、株主名簿を開き、差出人又はその前の株主が記載されているかを御確認ください。記載がある場合は、いつ、どのような書類に基づいて記載されたのかを確認してください。
第4に、定款を開き、株式の譲渡について会社の承認を要する旨の定めの有無と、承認機関がどこと定められているかを御確認ください。
第5に、社内の誰かが既に電話や面談で応答していないかを確認してください。応答があった場合は、日時と内容を書き出してください。
よくあるご質問
返答をしないまま放置するとどうなりますか
請求の性質によります。株式譲渡承認請求について2週間以内に通知をしなかった場合には、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。また、買い取る旨の通知をした後に価格の決定の申立てを行わないまま20日が経過した場合には、原則として1株当たり純資産額を基準とする額が売買価格となります(会社法第144条第5項)。放置は、選択をしないことではなく、不利な選択をすることになります。
会社が買い取る資金がありません。それでも承認しないという判断はできますか
指定買取人を指定する方法があります(会社法第140条第4項)。指定買取人は、会社以外の者であり、既存の株主や代表取締役個人を指定することも考えられます。また、会社が自ら買い取る場合には、交付する金銭等の帳簿価額の総額が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないという制限があります(会社法第461条第1項)。資金と分配可能額の両面から、どの方法をとるかを検討します。
相手方の提示する価格の根拠が示されていません。開示を求められますか
協議の場において根拠の説明を求めることは可能です。もっとも、相手方が応じる義務はありません。会社の側としては、相手方の根拠を待つのではなく、自らの主張する価格の根拠を先に整えることが実務的です。裁判所の手続に移行した場合、判断の材料となるのは提出された資料です。
依頼する範囲を、返答の1通だけに限ることはできますか
できます。期限が迫っている書面への対応だけを先に依頼し、その後の交渉や裁判所の手続については改めて御判断いただくという進め方が可能です。費用は、範囲に応じて委任契約書に明記します。裁判所の手続に移行した場合の申立ての手数料や、株式の価値の算定に要する費用は、実費として別に必要となります。
おわりに
株式買取業者からの通知は、期限が短く、記載の分量が多く、法律上の請求と交渉上の要求とが混ざっていることが通例です。返答の内容を考える前に、まず期限を確定させ、請求の性質を分け、株主名簿との整合を確認するという順序を守れば、会社の側が不利になる場面は限られます。
通知が届いた、返答の期限が近い、既に一度返答をしてしまったという段階であっても、まだ手立てはあります。届いた書面と封筒、定款、株主名簿をお手元に御用意のうえ、お電話をいただければ、その日のうちに期限と返答の方針を申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株式買取業者からの通知への対応に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第125条第2項(株主名簿の閲覧等の請求)、第130条第1項及び第2項(株式の譲渡の対抗要件)、第133条第1項及び第2項(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)、第139条第2項(譲渡等の承認の決定の通知)、第140条第2項、第3項、第4項及び第5項(株式会社又は指定買取人による買取り)、第141条第1項及び第2項(株式会社による買取りの通知及び供託)、第142条第1項(指定買取人による買取りの通知)、第144条第1項、第2項、第3項及び第5項(売買価格の決定)、第145条第1号及び第2号(株式会社が承認をしたとみなされる場合)、第309条第2項第1号(株主総会の特別決議)、第433条第1項及び第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第461条第1項(配当等の制限)
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
裁判例
最高裁判所令和5年5月24日第三小法廷決定(会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定において、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとされた事例)
公表資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
なお、同会議において検討されている財産評価基本通達の見直しは、内容も実施の時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。
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