離婚を見据えた自社株式の分散の防止策

自身の離婚を見据え、あるいは後継者となる子の離婚の可能性も考慮に入れて、自社株式が財産分与により社外に流出することを防ぎたいという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、何も対策を講じないまま離婚に至ると、株式そのものが財産分与の対象とされ、配偶者が株主として会社に関わり続ける事態や、株式以外の財産で清算することができない事態に陥りかねないという点です。

以下では、株式以外の財産で清算し得る状態にする方策、及び定款による方策を御説明します。

株式ではなく別の財産で清算し得る状態にする 持株会社の活用、資産の配置
争いの種を減らす 名義株の整理、株主名簿の整備

定款による方策

 譲渡制限の定め

株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該会社の承認を要する旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第1号)。また、種類株式発行会社においては、種類ごとに同様の定めを置くことができます(会社法第108条第1項第4号)。

承認の機関は、取締役会設置会社にあっては取締役会、それ以外の会社にあっては株主総会とされておりますが、定款に別段の定めを置くことができます(会社法第139条第1項)。

譲渡制限は、財産分与による移転に及ぶかについて議論があるものの、その後の第三者への譲渡には確実に及びます。したがって、株式が元配偶者に移転した後、さらに第三者に転売されることを防ぐという意味で、なお有効です。

 取得条項付株式

株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、当該会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第3号)。種類株式としても設けることができます(会社法第108条第1項第6号)。

一定の事由の内容は定款で定めることとなりますが、その定め方には慎重な検討を要します。また、取得と引換えに金銭等を交付する場合には、分配可能額による制限があります(会社法第461条第1項第4号)。

なお、株式の発行後に取得条項に関する定款の定めを設け、又は変更する場合には、当該株式を有する株主全員の同意を要するとされております(会社法第110条、第111条第1項)。すなわち、事後的に導入することは容易ではありません。

 種類株式の活用

議決権制限株式(会社法第108条第1項第3号)を用い、経営に関与しない者が保有する株式を無議決権とする設計が考えられます。これにより、株式が移転しても議決権の分散を避けることができます。

もっとも、既に発行されている株式の内容を変更するには、定款の変更に加え、当該種類の株式を有する株主による種類株主総会の決議を要する場合があります(会社法第322条第1項)。

拒否権付種類株式(会社法第108条第1項第8号)を後継者に保有させ、重要な事項について当該種類株主総会の決議を要するものとする設計も、支配の安定に資します。

 属人的な定め

公開会社でない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利及び株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法第109条第2項)。

この定めは、株式ではなく株主に着目したものですので、株式が他人に移転した場合には、当該定めは移転先の株主には及びません。したがって、「経営者が保有する株式には1株につき複数の議決権を認める」といった設計をしておけば、株式が移転した場合、その株式の議決権は原則に戻ることになります。

この定款の変更には、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行う株主総会の決議を要するものとされております(会社法第309条第4項)。要件が厳格ですので、株主構成が単純なうちに検討することが現実的です。

株式の保有の構造に関する方策

 持株会社の活用

経営者が事業会社の株式を直接保有するのではなく、持株会社を通じて保有するという構造があります。この場合、財産分与の対象となるのは持株会社の株式です。持株会社の株式にも譲渡制限を設けることができますし、持株会社の定款により柔軟な設計を行うことも可能です。

もっとも、持株会社の設立及び株式の移転には、税務上の取扱いを含めた検討が必要です。この点は税理士にご確認ください。

 資産管理会社と個人資産の配置

自社株式以外の資産をどのように配置しているかによって、財産分与において自社株式そのものを移転する必要があるかどうかが変わり得ます。金融資産、不動産等により清算することができれば、株式の移転を避け得る場合があります。これは会社の問題というより経営者個人の資産の設計の問題ですが、会社の支配の安定という観点からは無関係ではありません。

 名義株の整理

同族会社では、設立時の発起人の員数の要件を満たすため、親族や従業員の名義を借りて株式が引き受けられた例があります。このような名義株は、実質的な権利の帰属が争われる原因となり、離婚や相続の場面で表面化いたします。

名義株の整理は、株主名簿の記載、株式の取得の経緯に関する資料、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等を確認した上で行うことになります。関係者の協力が得られるうちに進めることが現実的です。

 株主名簿の整備

株主名簿は、会社が作成し、備え置くべきものです(会社法第121条、第125条第1項)。記載の内容が実態と異なっている、過去の異動の経緯が記録されていないという状態は、紛争が生じた際に会社の主張を困難にいたします。

株主間の合意の位置付けと限界

株主の間で、株式の譲渡について制限を設ける、一定の事由が生じた場合には他の株主に売り渡す、といった合意をすることがあります。これらの合意は、当事者間においては効力を有し得ます。

もっとも、次の限界があります。

  • 合意の当事者でない者には効力が及びません。財産分与により株式を取得した元配偶者は、合意の当事者ではありません。
  • 合意に違反して譲渡が行われた場合、株式の移転そのものの効力が否定されるとは限らず、債務不履行に基づく責任の問題にとどまることがあります。
  • 会社が合意の当事者となる場合には、株主平等の原則(会社法第109条第1項)との関係を検討する必要があります。

したがって、株主間の合意は、定款の整備と組み合わせて用いるべきものであり、単独で分散の防止を図る手段としては十分でありません。

方策の比較

方策 導入の要件 離婚の場面での効果 留意点
譲渡制限 定款の変更(特別決議等) 財産分与への適用には議論があります。転売の防止には有効です 承認をしない場合の買取りの負担
取得条項付株式 株主全員の同意(事後の導入) 一定の事由が生じた場合の取得が可能です 導入の要件が厳格です。分配可能額の制限
議決権制限株式 定款の変更、種類株主総会の決議 議決権の分散を避け得ます 既発行株式の内容の変更には手続を要します
属人的な定め 会社法第309条第4項の決議 移転先には及びませんので支配が安定します 公開会社でない株式会社に限られます
持株会社の活用 組織再編又は株式の移転 対象となる財産の性質が変わります 税務上の取扱いの検討が必要です
名義株の整理 関係者との協議 争いの種を減らします 関係者の協力が必要です
株主間の合意 当事者間の合意 当事者以外には及びません 定款の整備との組合せが必要です

いずれの方策を選ぶかは、株主構成、会社の規模、後継者の有無、財務の状況、経営者個人の資産の構成等により異なります。具体的な進め方は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

行ってはならないこと

 離婚の話が具体化した後の駆け込みの手続

離婚の協議が始まった後に、株式の価値を減少させる目的で会社の財産を移転する、経営者が保有する株式を他の親族に無償で譲渡するといった行為は、財産分与の手続において問題とされることがあります。また、会社の行為として行われる場合には、取締役の善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)及び忠実義務(会社法第355条)との関係も問題となります。

 他の株主の権利を害する定款の変更

分散の防止を目的とする定款の変更であっても、特定の株主の権利を不当に制限する内容であれば、決議の効力を争われる可能性があります(会社法第831条第1項第3号)。

 記録を残さない手続

定款の変更、種類株式の導入、名義株の整理のいずれについても、株主総会の議事録、同意書、株主名簿の改訂の履歴を正確に残す必要があります。手続の記録がなければ、後に効力を争われた際に会社が立証できません。

確認すべき期限と資料

 主な手続の要件

手続 要件 根拠条文
定款の変更 株主総会の特別決議 会社法第466条、第309条第2項第11号
属人的な定めの導入 総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上 会社法第309条第4項
取得条項に関する定めの導入 当該株式を有する株主全員の同意 会社法第110条、第111条第1項
種類株式の内容の変更 定款の変更及び種類株主総会の決議 会社法第322条第1項
変更の登記 変更の生じた日から2週間以内 会社法第915条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 現に効力を有する定款
  • 株主名簿及びその改訂の履歴
  • 登記事項証明書
  • 設立時の定款及び株式の引受けに関する資料
  • 過去の株主総会の議事録
  • 株主間の合意に関する書面
  • 直近3期分の計算書類

弁護士にご相談いただく意味

分散の防止策は、株主構成が単純で、関係者の間に対立がない時期にしか実行できないものが少なくありません。取得条項に関する定めの導入には株主全員の同意を要し、属人的な定めの導入には総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上という厳格な要件が課されております。対立が生じてからでは、これらの要件を満たすことは困難です。

また、いずれの方策も、単独で完結するものではありません。定款の整備、株式の設計、保有の構造、株主名簿の整理を組み合わせて、初めて実効性を持ちます。当事務所は、会社の側のお立場で、この設計をご一緒に行っております。

よくあるご質問

質問1 定款を変更すれば、離婚による株式の移転を防げますか。

防ぐことはできません。財産分与は夫婦間の財産の清算の問題であり、会社の定款によってこれを禁じることはできません。定款による方策は、移転しにくい構造を作ること、移転しても支配に影響しにくい設計にすることを目的とするものです。

質問2 既に発行されている株式を無議決権株式に変更できますか。

株式の内容を変更するには、定款の変更が必要であり、種類株式発行会社においては、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主総会の決議を要するとされております(会社法第322条第1項)。個別の事情に応じた検討が必要です。

質問3 株主間の合意だけでは足りませんか。

株主間の合意は、当事者間においては効力を有し得ますが、当事者でない者には及びません。財産分与により株式を取得した元配偶者は当事者ではありませんので、合意によって拘束することはできません。定款の整備と組み合わせて用いることになります。

質問4 持株会社を作れば安全ですか。

財産分与の対象となる財産の性質は変わりますが、持株会社の株式そのものが分与の対象となる可能性は残ります。また、持株会社の設立及び株式の移転には、税務上の取扱いを含めた検討が必要です。税務については税理士にご確認ください。

質問5 いつから検討を始めるべきですか。

株主構成が単純で、関係者の間に対立がない時期です。取得条項に関する定めの導入には株主全員の同意を要し(会社法第110条、第111条第1項)、属人的な定めの導入には厳格な決議の要件が課されております(会社法第309条第4項)。対立が生じた後では、これらの手続を執ることが困難となります。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第107条第1項第1号・第3号(譲渡制限株式、取得条項付株式)
  • 第108条第1項第3号・第4号・第6号・第8号(議決権制限株式、譲渡制限種類株式、取得条項付種類株式、拒否権付種類株式)
  • 第109条第1項・第2項(株主平等の原則、公開会社でない株式会社における属人的な定め)
  • 第110条、第111条第1項(取得条項に関する定款の定めの設定及び変更)
  • 第121条、第125条第1項(株主名簿)
  • 第139条第1項(譲渡等承認請求の承認の機関)
  • 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
  • 第309条第2項第11号・第4項(特別決議、属人的な定めに係る決議)
  • 第322条第1項(種類株主総会の決議を要する場合)
  • 第330条、第355条(善管注意義務及び忠実義務)
  • 第461条第1項第4号(取得条項付株式の取得に係る財源規制)
  • 第466条(定款の変更)
  • 第831条第1項第3号(著しく不当な決議)
  • 第915条第1項(変更の登記)

民法 第644条(受任者の善管注意義務)、第768条第1項(財産分与)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、自社株式の分散を防ぐための平時の整備について、会社の側からのご相談をお受けしております。現在の定款及び株主構成の点検、種類株式及び属人的な定めの設計、名義株の整理、株主名簿の整備まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、経営者の離婚により自社株式が分散しお困りの会社の方に向けたご案内のページ(/rikon_jishakabu/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、現に効力を有する定款、株主名簿、登記事項証明書、設立時の資料、過去の株主総会の議事録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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