配偶者であった方が株主となった後の会社の対応

経営者の離婚が成立し、財産分与により配偶者であった方が自社株式を保有することになりました。名義書換の請求が届き、株主名簿に記載いたしました。以後、株主総会の招集の通知を送らなければならないのでしょうか。決算書の開示を求められたら応じなければならないのでしょうか。将来的に、この株式を会社に戻すことはできるのでしょうか。
先に結論を申し上げます。名義書換が完了した以上、その方は会社に対する関係で株主です。感情的な経緯がどのようなものであれ、会社は株主として取り扱う必要があります。招集の通知を送らずに株主総会を開けば決議の効力を争われ、法令に基づく閲覧の請求を拒めば裁判上の手続を招きます。他方、株式を集約するための手段は複数存在し、いずれも会社法上の手続に従って進めることができます。会社に求められるのは、株主としての取扱いを正確に行いつつ、集約の方針を並行して検討することです。本記事では、その両面を整理いたします。
株主としての取扱いを正確に行います
株主名簿の整理
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。会社は、株主名簿を作成し、株主の氏名又は名称及び住所、有する株式の数、取得の日等を記載又は記録することとされております(会社法第121条)。
離婚に伴い姓が変更されている場合には、氏名の記載を正確に改める必要があります。また、住所の変更についても、株主から通知があれば記載を改めます。招集の通知は株主名簿に記載された住所に宛てて発すれば足りるとされておりますので(会社法第126条第1項)、住所の記載の正確性は実務上重要です。
招集の通知
株主総会を招集するには、招集の通知を発しなければなりません(会社法第299条第1項)。公開会社にあっては株主総会の日の2週間前まで、公開会社でない株式会社にあっては1週間前までとされ、取締役会を設置していない会社においては定款でこれを下回る期間を定めることができます。
一部の株主に招集の通知を発しないまま行われた決議は、招集の手続が法令に違反するものとして、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。「出席しないだろう」「反対するだけだから」といった理由で通知を省略することは、お勧めできません。理由は、決議そのものが覆され、その決議を前提として行われた登記や取引にまで影響が及ぶからです。
議決権の取扱い
議決権の行使については、代理人によることも認められております(会社法第310条第1項)。会社は、定款により、代理人を株主に限る旨を定めることがあります。この定めの有効性については、実務上、一定の場合に代理人の出席を認めるべき場面があると議論されておりますので、当日の対応をあらかじめ検討しておく必要があります。
情報の開示
株主が請求し得る事項は、次のとおり整理されます。
| 対象 | 要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 定款 | 営業時間内はいつでも | 会社法第31条第2項 |
| 株主名簿 | 請求の理由を明らかにして。拒絶事由があります | 会社法第125条第2項・第3項 |
| 株主総会の議事録 | 営業時間内はいつでも | 会社法第318条第4項 |
| 計算書類等 | 営業時間内はいつでも | 会社法第442条第3項 |
| 取締役会の議事録 | 権利の行使のため必要があるとき。監査役設置会社等では裁判所の許可 | 会社法第371条第2項・第3項 |
| 会計帳簿等 | 100分の3以上。理由を明らかにして。拒絶事由があります | 会社法第433条第1項・第2項 |
法令に定めのある請求について、正当な理由なくこれを拒むことは、会社にとって利益となりません。開示の範囲を争うべき場面と、速やかに応じるべき場面とを区別することが要点です。
想定される少数株主権の行使への備え
保有する議決権の割合に応じて、行使し得る権利が異なります。
| 割合 | 主な権利 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 1株(単元)以上 | 議決権、株主総会の議事録及び計算書類等の閲覧等、取締役の行為の差止めの請求、責任追及等の訴えの提起の請求 | 会社法第308条、第318条、第442条、第360条、第847条 |
| 100分の1以上 | 議題の提案(取締役会設置会社)、総会検査役の選任の申立て | 会社法第303条第2項、第306条第1項 |
| 100分の3以上 | 株主総会の招集の請求、会計帳簿の閲覧等の請求、業務の執行に関する検査役の選任の申立て、取締役の解任の訴えの提起 | 会社法第297条第1項、第433条第1項、第358条第1項、第854条第1項 |
| 3分の1超 | 特別決議を単独で否決し得ます | 会社法第309条第2項 |
| 過半数 | 普通決議を単独で可決し得ます | 会社法第309条第1項 |
公開会社でない株式会社においては、これらの権利について6か月の保有期間の要件は適用されません(会社法第297条第2項、第303条第3項、第360条第2項、第847条第2項、第854条第2項等)。したがって、株式を取得した直後から権利を行使し得ます。
会社としては、移転した株式の数がどの区分に該当するかを確認し、想定される請求に備えることになります。
株式を集約するための方法
任意の買取交渉
最も基本的な方法は、当該株主との間で任意に売買の条件を協議することです。買主は、会社(自己株式の取得)、経営者本人、他の株主、後継者、持株会社等が考えられます。
任意の交渉においては、価格の根拠をどのように示すか、支払の方法をどうするかといった点が問題となります。具体的な交渉の方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
合意による自己株式の取得
会社が株主との合意により自己株式を取得するには、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式の数、取得と引換えに交付する金銭等の内容及び総額、取得することができる期間(1年を超えることができません)を定めなければなりません(会社法第156条第1項)。
特定の株主から取得する場合には、その旨を併せて定めることができますが(会社法第160条第1項)、この場合の株主総会の決議は特別決議となります(会社法第309条第2項第2号)。また、他の株主には、自己をも当該特定の株主に加えたものを議案とすることを請求する権利が生じます(会社法第160条第3項)。この売主追加請求権については、定款によりこれを適用しない旨を定めることができますが、株式の発行後に当該定めを設ける定款の変更には、当該株式を有する株主全員の同意を要します(会社法第164条)。
さらに、取得の対価として交付する金銭等の総額は、効力を生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第2号及び第3号)。
株式の併合による整理
株式の併合により、少数株主の保有する株式を1株に満たない端数とし、その端数について競売等の手続を経て金銭を交付するという方法があります。株式の併合には株主総会の特別決議を要します(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号)。
もっとも、この方法については、反対株主は端数となる株式について公正な価格での買取りを請求することができ(会社法第182条の4)、価格について協議が調わない場合には、効力発生日から30日以内に裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第182条の5第2項)。また、法令又は定款に違反する場合等には、株式の併合の差止めの請求がされることがあります(会社法第182条の3)。
特別支配株主の株式等売渡請求
会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上を有する株主は、他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができます(会社法第179条第1項)。この請求には会社の承認が必要であり(会社法第179条の3第1項)、売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。
方法の比較
| 方法 | 要する手続 | 会社の資金の要否 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 任意の買取交渉 | 当事者間の合意 | 買主によります | 合意が調わない場合には進みません |
| 合意による自己株式の取得 | 株主総会の特別決議 | 必要です | 売主追加請求権、分配可能額の制限 |
| 株式の併合 | 株主総会の特別決議 | 端数の代金が必要です | 株式買取請求、株式売買価格決定の申立て、差止め |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 10分の9以上の保有、会社の承認 | 必要です | 売買価格の決定の申立て、差止め |
行ってはならないこと
株主としての取扱いを怠ること
招集の通知を発しない、閲覧の請求に応じない、剰余金の配当を他の株主と異なる取扱いとするといった対応は、いずれも法令に違反し得ます。株主平等の原則については、会社法第109条第1項が、株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない旨を定めております。
感情的な経緯を会社の判断に持ち込むこと
離婚の経緯に関する感情は、当事者にとって重いものです。しかし、会社の意思決定にこれを持ち込みますと、他の株主に対する説明が困難となり、また、取締役の善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)との関係でも問題を生じ得ます。
根拠のない情報の遮断
株主でない親族に情報を伝え、株主である元配偶者には伝えないという取扱いは、後に不公平な取扱いとして主張されることがあります。開示の範囲は、株主としての地位に基づいて定めることが基本です。
確認すべき期限と資料
期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 招集の通知の発送 | 公開会社は2週間前、公開会社でない会社は1週間前 | 会社法第299条第1項 |
| 自己株式の取得に係る取得の期間 | 決議から1年以内 | 会社法第156条第1項第3号 |
| 株式の併合に係る株式買取請求 | 効力発生日の20日前の日から前日まで | 会社法第182条の4第4項 |
| 株式の併合に係る価格の決定の申立て | 効力発生日から30日以内 | 会社法第182条の5第2項 |
| 特別支配株主の株式等売渡請求に係る売買価格の決定の申立て | 取得日の20日前の日から前日まで | 会社法第179条の8第1項 |
| 決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
会社の側でご準備いただきたい資料
- 現に効力を有する定款
- 株主名簿(名義書換の経緯が分かるもの)
- 名義書換の請求に係る書面及び添付された資料
- 登記事項証明書
- 直近3期分の計算書類
- 株主から届いている請求の書面
弁護士にご相談いただく意味
この場面では、「株主として正確に取り扱うこと」と「株式を集約すること」とを、同時に進める必要があります。前者を怠れば決議の効力を争われ、後者を進めなければ問題が固定化いたします。両者は矛盾するものではありませんが、進め方を誤ると、集約のための手続そのものが争いの対象となります。
また、株式の集約の方法は複数あり、それぞれ手続、費用、所要の期間、争われ得る点が異なります。どの方法を選ぶかは、保有の割合、会社の財務の状況、当事者の関係、時間的な制約によって決まります。当事務所は、会社の側のお立場で、方法の選択から手続の実行までをご一緒に行っております。
よくあるご質問
質問1 株主総会の招集の通知を送らないという扱いはできますか。
できません。招集の通知を欠いた決議は、招集の手続の法令違反として決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。株主全員の同意があるときは招集の手続を省略できますが(会社法第300条本文)、紛争がある場面では現実的でないことが多いところです。
質問2 決算書の開示を求められました。拒めますか。
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求について拒絶の事由は定められておりません。会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条)とは制度が異なります。
質問3 会社が買い取る場合、価格はどのように決めますか。
合意による自己株式の取得は、当事者間の合意によって条件を定めるものです。価格に関する法定の算定方法はありません。株式の評価の方法は複数あり、事案に応じた検討が必要です。なお、取得の対価の総額は分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項)。
質問4 他の株主にも売主に加わるよう請求されました。
特定の株主から自己株式を取得する場合、他の株主は、自己をも当該特定の株主に加えたものを議案とすることを請求することができます(会社法第160条第3項)。定款により、この規定を適用しない旨を定めることができますが、株式の発行後にこの定めを設けるには、当該株式を有する株主全員の同意を要します(会社法第164条)。
質問5 議決権の割合が小さければ、放置しても差し支えありませんか。
1株であっても、株主総会の議事録及び計算書類等の閲覧謄写の請求、取締役の行為の差止めの請求(会社法第360条)、責任追及等の訴えの提起の請求(会社法第847条)が可能です。また、将来において当該株式が第三者に譲渡される可能性もあります。割合の大小のみで判断することは適当でありません。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第109条第1項(株主平等の原則)
- 第121条、第125条第2項・第3項、第126条第1項、第130条第1項(株主名簿及び通知)
- 第156条第1項、第160条第1項・第3項、第164条(自己株式の取得、売主追加請求権及びその排除)
- 第179条第1項、第179条の3第1項、第179条の8第1項(特別支配株主の株式等売渡請求)
- 第180条第2項、第182条の3、第182条の4、第182条の5第2項(株式の併合)
- 第297条第1項・第2項、第299条第1項、第300条、第303条第2項・第3項、第306条第1項、第308条、第310条第1項、第318条第4項(株主総会に関する規律)
- 第309条第1項・第2項(決議の要件)
- 第330条(委任に関する規定の準用)
- 第358条第1項、第360条、第371条第2項・第3項、第433条第1項・第2項、第442条第3項、第847条、第854条(少数株主権)
- 第461条第1項(財源規制)
- 第831条第1項第1号(決議の取消しの訴え)
民法 第644条(受任者の善管注意義務)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、離婚により配偶者であった方が株主となった会社の側からのご相談をお受けしております。株主としての取扱いの整理、閲覧の請求への対応、株式の集約の方法の選択と手続の実行まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。
詳しくは、経営者の離婚により自社株式が分散しお困りの会社の方に向けたご案内のページ(/rikon_jishakabu/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。
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