元取締役の株主から役員退職慰労金と株式の高額な買取りを求められた会社が和解により株式を集約した事例

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元取締役の株主から役員退職慰労金と株式の高額な買取りを求められた会社の解決事例に関するメインのページです。本ページは、発行会社の側から、要求を受けてから和解により株式を集約するまでの経過をご説明します。元役員の株主への対応の一般論は別のページをご参照ください。

▶ 元役員が株式を持ったまま退任した場合の会社側対応

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本ページでは、当事務所が会社の側の代理人として対応した事案のうち、退任した元取締役の株主から、役員退職慰労金の支払と保有株式の高額な買取りを同時に求められた会社が、訴訟に至ることなく和解により紛争を終結させ、株式の集約まで実現した事例をご紹介します。

事案の概要

依頼者は、東北地方で業務用の包装資材の卸売を営む、設立から約50年の非上場会社です。従業員は約80名で、先代社長から事業を承継した2代目の社長が経営にあたっていました。発行済株式の約85%を社長とその母が保有し、残りの約15%を、元専務取締役が保有していました。

元専務取締役は、社長の姉の夫にあたる方です。約20年前に他社から転じて入社し、先代社長の時代に行われた増資の際に株式を引き受け、その後、専務取締役として営業部門を統括していました。

しかし、社長の就任後、通信販売への参入や不採算の取引先の整理をめぐって、社長と元専務取締役の経営方針は大きく食い違うようになりました。取締役会でも対立が続いた結果、会社は、元専務取締役の任期満了に際し、定時株主総会に再任の議案を提出せず、元専務取締役は退任しました。

退任から約3か月後、元専務取締役の代理人から会社に内容証明郵便が届きました。その内容は、次のとおりです。

  • 役員退職慰労金規程に従い、最も高い功績倍率を用いて算定した約9,000万円の役員退職慰労金を支払うこと。
  • 保有株式の全部を、会社の純資産価額を基礎とする1株あたりの価格により、総額約3億円で買い取ること。
  • これに応じない場合には、保有株式を第三者に売却して株式の譲渡承認を請求するほか、会計帳簿の閲覧謄写を請求し、在任中の取締役の責任の追及も検討すること。

社長は、親族間の問題であることから、当初はご自身で話合いを試みましたが、感情的な対立が深まるばかりでした。そこで、取引先や金融機関への影響を懸念した社長が、当事務所にご相談されました。

紛争・主張論点

  • 株主総会の決議を経ていない役員退職慰労金について、元取締役に具体的な請求権があるといえるか(会社法第361条)。また、請求権がないとしても、規程と過去の支給の実績がある中で不支給を続けることが妥当か。
  • 譲渡制限株式について、会社に株主の株式を買い取る義務があるか。
  • 保有株式が第三者に譲渡されることとなり、譲渡承認請求がされた場合に、会社又は指定買取人が買い取ることとなるときの価格の見通し(会社法第140条、第144条)。
  • 元専務取締役が主張する純資産価額による株価が、少数株式の価格として相当か。
  • 会社が自己株式として取得する場合の分配可能額の範囲及び手続(会社法第156条、第160条、第461条)。

当事務所の対応の流れ

  1. 事実関係と資料の確認
    当事務所は、まず定款、株主名簿、役員退職慰労金規程、過去の役員退任時の支給の実績、直近の計算書類及び分配可能額を確認しました。その結果、規程上の功績倍率には幅があり、過去に退任した役員には中間の倍率を用いて支給されてきたこと、及び会社は譲渡制限会社であるものの、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めはないことがわかりました。
  2. 法的な整理と基本方針の決定
    役員退職慰労金は、株主総会の決議がない限り、元取締役に具体的な請求権は生じないと考えられます。また、会社には、譲渡制限株式を株主から買い取る義務もありません。もっとも、要求をすべて拒絶した場合には、株式が株式買取業者等の第三者に渡り、譲渡承認請求、会計帳簿の閲覧謄写請求及び責任追及の請求が続くことで、紛争が長期化するおそれがありました。当事務所は、社長と協議のうえ、法的な立場を明確に示しつつ、役員退職慰労金と株式の買取りを一括して任意に解決することを基本方針としました。
  3. 株価の検討
    会社の顧問税理士と連携し、外部の公認会計士に株式の評価を依頼しました。そのうえで、元専務取締役の主張する純資産価額による価格は、含み益に対する税金相当額を考慮していないこと、事業に用いていない資産の評価が過大であること、及び約15%という少数株式であることによる減価を考慮していないことを具体的に指摘し、交渉の際の価格の幅を定めました。
  4. 代理人間の交渉
    当事務所は、会社の代理人として、元専務取締役の代理人と交渉しました。役員退職慰労金については、過去の支給の実績と同じ功績倍率により算定した額を、臨時株主総会に付議することを提案しました。会計帳簿の閲覧謄写の請求については、拒絶事由の有無を確認したうえで、対象を限定して開示に応じ、交渉の土台となる情報を共有しました。また、社長には、親族や従業員に対して紛争の内容を話さないようお願いし、感情的な対立が再燃しないように努めました。
  5. 和解の成立と株式の集約
    交渉の開始から約8か月後、双方の合意が成立し、和解契約書を締結しました。会社は、臨時株主総会において、役員退職慰労金の支給と、特定の株主からの自己株式の取得を決議しました。自己株式の取得にあたっては、他の株主に売主追加請求の機会を確保する手続を行ったうえで、分配可能額の範囲内で取得しました。

結果

最終的に、役員退職慰労金は、過去の支給の実績と同じ功績倍率により算定した約5,200万円を支給し、保有株式は、会社が総額約1億3,500万円で自己株式として取得することで合意しました。株式の代金は、会社の資金繰りに配慮して、和解の時と翌事業年度の2回に分けて支払うこととしました。当初の要求額の合計は約3億9,000万円でしたが、合計約1億8,700万円で紛争を終結させることができました。

和解契約書には、本件に関する一切の債権債務がないことを確認する清算条項のほか、守秘義務、相互の誹謗中傷の禁止、取引先及び従業員への接触の制限、並びに合理的な範囲での競業避止の定めを置きました。また、元専務取締役は、会計帳簿の閲覧謄写の請求及び取締役の責任の追及を行わないことを約しました。

この結果、会社の株式は社長とその母に集約され、会社は株式が第三者に流出する危険を解消しました。社長は、親族間の対立を法的な紛争として長引かせることなく、後継者への事業承継の準備を進めることができるようになりました。本件は、会社に法的な支払義務や買取義務がない場面でも、紛争の長期化と株式の流出の危険を踏まえ、根拠のある価格で任意に一括解決することが会社の利益となった例といえます。

なお、本記事に記載した事案の内容は、当事者の特定を避けるため、実際の当事者及び実際の事件とは異なるものを用い、かつデフォルメを施しております。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。