株券発行会社と株券不発行会社の違いとは?メリット・デメリットと少数株主対策への影響を解説

株券不発行会社化(即日可能か?)の問題とM&A!

この記事の要点

一 会社法は、株券を発行しないことを原則としております。株券を発行するには、定款にその旨を定めなければなりません(会社法第二百十四条)。

二 もっとも、平成十八年五月の会社法施行前から存在する会社は、定款に株券を発行する旨の定めがあるものとみなされました。したがいまして、それ以前に設立され定款を変更していない会社は、現在も株券発行会社でございます。

三 株券発行会社では、株券の交付がなければ株式の譲渡は効力を生じません(会社法第百二十八条第一項)。株券を発行していなければ、株式は事実上、移転できない状態にございます。

四 この構造は、少数株主対策において両刃の剣でございます。株式の外部流出を抑える効果がある一方、会社自身が株式を集約しようとする場面では、かえって障害となります。

第一 株券発行会社と株券不発行会社

一 会社法の原則

平成十八年五月に施行された会社法は、株券の不発行を原則といたしました。株式会社は、定款に定めた場合に限り、その株式に係る株券を発行することができます(会社法第二百十四条)。これは、株券という紙片の管理の費用と紛失の危険を回避するための転換でございます。

二 施行前から存在する会社の取扱い

会社法の施行前は、株券を発行することが原則でございました。そこで、施行の際に現に存在した会社については、定款に株券を発行する旨の定めがあるものとみなすこととされました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第七十六条第四項)。

したがいまして、平成十八年五月より前に設立され、その後に定款を変更していない会社は、現在も株券発行会社でございます。中小企業の相当数がこれに該当いたします。

三 確認の方法

履歴事項全部証明書に「株券を発行する旨の定め」の記載があれば、株券発行会社でございます(会社法第九百十一条第三項第十号)。記載がなければ株券不発行会社でございます。履歴事項全部証明書は誰でも法務局で取得することができますので、自社の状態を一度も確認したことがない場合には、まずこれを御確認ください。

四 株券を発行していない株券発行会社

公開会社でない株券発行会社は、株主から請求があるまでは株券を発行しないことができます(会社法第二百十五条第四項)。この規定があるため、実務上、株券発行会社でありながら一枚も株券を発行していない会社が数多く存在いたします。これが後述する種々の問題の原因でございます。

第二 両者の比較

比較項目 株券発行会社 株券不発行会社
根拠 定款の定め(会社法第二百十四条)。会社法施行前からの会社はみなし規定により該当 会社法上の原則
譲渡の効力要件 株券の交付(会社法第百二十八条第一項) 当事者の意思表示のみ
会社に対する対抗要件 株主名簿の名義書換え 株主名簿の名義書換え
第三者に対する対抗要件 株券の占有 株主名簿の名義書換え(会社法第百三十条第一項)
善意取得 成立し得る(会社法第百三十一条第二項) 成立しない
株券の管理 必要(金庫での保管、紛失の危険) 不要
株券の紛失時の手続 株券喪失登録(登録から一年を要する) 該当なし
譲渡制限の実効性 株券がなければ事実上譲渡できない 定款の譲渡制限による
質入れ 株券の交付(略式質)又は株主名簿への記載(登録質) 株主名簿への記載(会社法第百四十七条)

第三 株券発行会社のメリット

一 株式の外部流出を事実上抑制することができる

株券を発行していない株券発行会社では、株主が第三者へ株式を譲渡しようとしても、株券の交付ができないため譲渡の効力が生じません。この結果、少数株主が株式買取業者その他の第三者へ非上場株式を売却することを、事実上抑制する効果が生じます。同族会社において、株式が外部へ流出することを防ぐという観点からは、一定の意味がございます。

二 株主であることの証明が容易である

株券という有体物が存在いたしますので、その占有により株主であることを主張することができます。

三 善意取得による権利関係の早期の安定

株券の交付を受けた者は、悪意又は重大な過失がない限り、当該株券に係る株式についての権利を取得いたします(会社法第百三十一条第二項)。

第四 株券発行会社のデメリット

一 自社の株式集約にも支障が生じる

第三の一に述べた効果は、会社自身が株式を集約しようとする場面では、そのまま障害となります。少数株主から株式を買い取ろうとしても、株券が発行されていなければ、まず株券を発行しなければ譲渡が成立いたしません。相手方が多数に及ぶ場合、株券の発行だけで相当の手間と時間を要します。事業承継のために後継者へ株式を集中させる場面でも、同様の障害が生じます。

二 株主から株券発行請求を受ける

株券発行会社は、株主から請求があれば株券を発行する義務を負います。株式の売却を望む少数株主から請求を受けた場合、これを拒むことはできません。

会社が不当に株券の発行を遅滞している場合には、株券の交付がなくとも意思表示のみによって譲渡の効力が認められるというのが確立した判例でございます(最高裁判所昭和四十七年十一月八日大法廷判決・民集第二十六巻第九号一四八九頁)。

したがいまして、発行を拒み続けても株式の流出を防ぐことはできず、かえって会社の対応が不当であったと評価される危険を招きます。少数株主対策としては、極めて拙劣な対応でございます。

三 紛失時の手続が重い

株券を紛失した場合、株券喪失登録の申請を行い、登録の日の翌日から起算して一年を経過して初めて当該株券が無効となり、再発行を受けることができます(会社法第二百二十一条以下、第二百二十八条第一項)。この一年の間、株式の譲渡は事実上停止いたします。相続の場面において、被相続人が株券をどこに保管していたか分からないという事態は珍しくございません。

四 管理の負担及び偽造の危険

株券の作成、交付、回収及び保管の事務が生じます。また、株券の偽造が問題となった裁判例も存在いたします。

五 組織再編及びM&Aの実行に支障を生じる

株式譲渡によるM&Aにおいて、株券が発行されていないことがクロージングの直前に判明し、日程が大幅に遅延するという事態が実務上しばしば生じます。法務デュー・ディリジェンスの初期段階で必ず確認すべき事項でございます。

第五 株券不発行会社のメリット及びデメリット

一 メリット

第一に、譲渡が当事者の意思表示のみで成立するため、株式の移転が簡便でございます。事業承継、M&A、少数株主からの買取りのいずれにおいても、手続が円滑に進みます。

第二に、株券の管理及び紛失の危険から解放されます。

第三に、権利関係が株主名簿に一元化されます。誰が株主であるかが名簿によって明確に定まり、株券の所在によって左右されません。

二 デメリット

第一に、株式の外部流出を物理的に妨げる仕組みがなくなります。もっとも、非公開会社には定款による譲渡制限がございますので、会社の承認なくして株式が第三者へ移転することはございません。譲渡制限が本来の防波堤でございまして、株券の不発行はその代替とすべきものではございません。

第二に、株主名簿の管理を適正に行う必要が生じます。名簿が整備されていない会社では、移行に際して株主の確定作業を要することがございます。

第六 株券不発行会社への移行手続

株券発行会社が株券不発行会社へ移行するには、定款を変更して株券を発行する旨の定めを廃止いたします。

第一段階 株主総会の特別決議による定款の変更でございます(会社法第四百六十六条、第三百九条第二項第十一号)。議決権の三分の二以上の賛成を要します。

第二段階 効力発生日の二週間前までに、株券を発行する旨の定めを廃止する旨、効力発生日、及び効力発生日に株券が無効となる旨を公告し、かつ株主及び登録株式質権者に各別に通知いたします(会社法第二百十八条第一項)。なお、現に株券を発行していない株券発行会社においては、公告のみで足り、各別の通知を要しません(同条第三項)。

第三段階 効力発生日に定款の変更の効力が生じ、株券は無効となります。

第四段階 効力発生日から二週間以内に、株券を発行する旨の定めの廃止の登記を申請いたします。

所要期間の目安は、株主総会の招集手続を含めて、おおむね一箇月から三箇月でございます。

第七 少数株主対策の観点からの評価

当事務所には、少数株主との対立を抱える会社からの御相談が数多く寄せられます。株券の発行の有無は、その対応方針に少なからぬ影響を及ぼします。

一 株券を発行しないことによる防御は、有効な対策ではございません

株券を発行しないことにより株式の流出を防ごうとするのは、一時しのぎにすぎません。株主から請求を受ければ発行義務を負い、不当に遅滞すれば譲渡の効力を否定することができなくなります。

さらに、発行を拒む対応そのものが、その後の交渉及び訴訟において会社に不利な事情として評価されます。株式買取請求の価格をめぐる争いにおいて、会社の不誠実な対応が心証に影響することは避けられません。

二 少数株主を整理するのであれば、正面から行うべきでございます

少数株主の存在が会社の意思決定の障害となっているのであれば、株式の併合、特別支配株主の株式等売渡請求、金銭を対価とする株式交換といった法定の手続により、正面から整理するのが正当な対応でございます。

これらの手続を実行するに当たっては、株券が発行されていない状態がむしろ支障となります。したがいまして、少数株主対策を本格的に進めるのであれば、その前提として株券不発行会社への移行を検討すべきでございます。

三 株式買取業者への売却を防ぐ本来の手段

株式買取業者への売却を防ぐ本来の手段は、株券を発行しないことではなく、定款による譲渡制限の適正な運用、相続人等に対する売渡しの請求の定めの整備、及び少数株主との関係の適切な維持でございます。

第八 当事務所が取り扱う御相談

一 自社が株券発行会社であるか否かの確認及び移行の要否の判断

二 株券不発行会社への移行手続の設計及び実行支援

三 株主から株券発行請求を受けた場合の対応

四 株券が発行されていない状態における株式の集約手続の設計

五 株式の併合、特別支配株主の株式等売渡請求その他による少数株主の整理

六 株式買取業者から通知を受けた場合の対応

七 株券の紛失、喪失登録及び株主名簿の整備

株券の問題は、単独で生じることは稀でございます。少数株主との対立、事業承継、M&A、相続といったより大きな問題の一部として現れます。その全体像を踏まえた設計が必要でございます。弁護士法人M&A総合法律事務所まで御相談ください。

参照条文及び裁判例

  • 会社法第百二十八条、第百三十条、第百三十一条、第百四十七条
  • 会社法第二百十四条、第二百十五条、第二百十八条、第二百二十一条以下、第二百二十八条
  • 会社法第三百九条第二項第十一号、第四百六十六条
  • 会社法第九百十一条第三項第十号(株券を発行する旨の定めの登記)
  • 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第七十六条第四項
  • 最高裁判所昭和四十七年十一月八日大法廷判決(民集第二十六巻第九号一四八九頁)

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