株式買取業者への譲渡を無効とした判断の理由―大阪高裁令和6年7月12日判決

この記事で扱う問題

株式買取業者が少数株主から譲渡制限株式を買い取り、発行会社側に高額での買取りを求めた事案について、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決が売買契約を無効とした理由を解説します。会社側から見た個別判例の解説であり、株式買取業者の取引一般を一律に無効とする説明ではありません。

知らない株式買取業者から譲渡承認請求が届いた場合、会社は、株式の価格だけでなく、その業者がどのような目的・方法で株式を取得したのかも確認する必要があります。本判決では、業者が売主から取得した価格と会社側に求めた価格との差に加え、価格の説明内容や、株主にならずに差額利益を得る事業の実態が問題となりました。

大阪高等裁判所は、弁護士法73条違反を理由として売主と業者との株式売買契約を無効とし、発行会社の指定買取人が業者に対して売買代金を支払う債務も存在しないと判断しました。以下では、事案、判断の順序、会社側が確認すべき事項を説明します。

判決と当事者の関係

  • 裁判所・判決日:大阪高等裁判所令和6年7月12日判決
  • 事件番号:令和6年(ネ)第149号
  • 事件名:株主権確認等請求控訴事件
  • 原審:大阪地方裁判所令和3年(ワ)第4173号

当事者は、実名や判例資料の固有の略称を用いず、当事務所独自の表記に置き換えています。判決文を引用する場合も、当事者の表記を同じように置き換えています。

  • 発行会社A:親族が株主となっている同族会社です。問題の株式には譲渡制限がありました。
  • 売主Bさん:発行会社Aの無議決権株式52株を保有していた株主です。
  • 買取会社C:Bさんから40株を買い取った株式買取業者です。
  • 指定買取人D:発行会社Aが株式の買取人として指定した会社です。

株主から4,800万円で買い取り、会社側に約1億4,257万円を求めた事案

売主と会社側の価格交渉がまとまらなかった経緯

Bさんは発行会社側との間で株式の売却価格を交渉していましたが、合意には至りませんでした。その後、買取会社Cとの間で、保有する52株のうち40株を4,800万円、1株当たり120万円で売却する契約を締結しました。

買取会社Cは、発行会社Aに対し、Bさんと共同して株式譲渡の承認を求めました。発行会社Aは譲渡を承認せず、指定買取人Dを指定しました。Dが会社法142条1項の通知をしたことにより、DとCとの間にも株式売買契約が成立したものと扱われる関係になりました。

売主への提示価格と会社側への請求価格の違い

買取会社Cは、公認会計士の意見書に基づく1株当たり356万4,162円、40株で1億4,256万6,480円での買取りをDに打診しました。一方、Bさんとの合意価格はその約3分の1でした。

高裁は、Cが株式売買契約の締結前に公認会計士へ価格査定を依頼していたことなどから、その評価額を認識しながらBさんに伝えず、Cの経営判断に基づく価格で合意を形成したと推認しました。単に転売で利益を得たというだけでなく、価格の隔たりを認識しながら売主に説明しなかったことが、判断の重要な事情となっています。

なお、判決が「実質価格」と呼ぶ評価額は、この事案においてCが公認会計士の意見書によって認識していた価格です。本判決自体が、会社法144条の売買価格決定手続における最終的な買取価格を決定したわけではありません。

会社側が求めた確認と、第一審から変更された結論

発行会社Aは、BさんとCとの売買契約が無効であるとして、Bさんが従前どおり52株を有する株主であることの確認を求めました。指定買取人Dは、Cに対する売買代金債務が存在しないことの確認を求めました。

第一審は、Bさんが売却対象外の12株を有する株主であることを確認したものの、Aのその余の請求とDの請求を退けました。これに対して高裁は原判決を変更し、Bさんが52株を有する株主であることと、DのCに対する代金債務が存在しないことを確認しました。

会社側は通謀虚偽表示、弁護士法72条違反、同法73条違反を主張していましたが、高裁は73条違反によって結論を導き、その余の争点を判断する必要はないとしています。第一審の通謀虚偽表示や72条に関する判断を、高裁が独立の争点としてそのまま是認したと説明することは適切ではありません。

弁護士法73条について、高裁はどの順序で判断したか

権利を譲り受け、手続によって実行する事業に当たるか

高裁は、Cが譲渡制限株式を譲り受け、譲渡承認請求や売買価格決定の申立てなどによって権利を実行することを業としていると認定しました。本件の売買契約も、その事業の一環として締結されたものと判断しました。

ただし、このような形式に当てはまることだけで、直ちに違法としたわけではありません。高裁は、最高裁平成14年1月22日第三小法廷判決を引用し、次の判断枠組みを示しています。

「形式的には、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、上記の弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同法73条に違反するものではない」

大阪高等裁判所令和6年7月12日判決・第3の2(2)

そのうえで高裁は、権利を取得する方法、権利を実行する方法、業務内容と実態を具体的に検討しました。業務の適法性に関する一般的な説明は、株式買取業者の業務は違法なのか|会社側が知るべき考え方をご参照ください。

株主になることではなく、会社側への売却が事業の中心だったこと

Cは、発行会社の株主となり、株主提案などによって増配を目指すことが第一の目的であると主張しました。しかし、高裁が認定した事業の実態では、譲受けの約9割で最終的に株主の地位を取得せず、発行会社又は指定買取人への売却によって利益を得ていました。

また、Cの代表者は、譲渡が承認されることを事業上のリスクと認識しており、株主として行った具体的な増配活動や成果を裏付ける証拠も十分ではありませんでした。高裁は、こうした事情から、むしろ株主の地位を取得せず、取得価格と会社側への売却価格との差額を得ることが事業目的であると認定しました。

売主への説明、紛争の助長、売買価格決定手続の利用を合わせて評価したこと

高裁は、発行会社側と価格交渉がまとまらなかった株主から、C自身が認識する評価額より相当に低い価格で株式を取得し、その隔たりを売主に伝えず、売買価格決定手続などを利用して差額利益を得ようとする点を重視しました。

発行会社Aへの内部資料の提供要求や面談の申入れについても、この事案では、会社が譲渡承認を控えるよう仕向ける活動であったことが強く疑われると評価しています。資料の請求があるという事実だけで一律に違法と判断したものではなく、事業目的や取引経緯を含めた認定です。

高裁は、この事業が売買価格に関する紛議を助長し、弁護士法72条本文の禁止を潜脱するものと評価しました。ここでの72条への言及は、73条が防止しようとする弊害を検討する文脈に位置付けられています。

売主が価格に満足していても、結論は変わらなかったこと

Bさんは、会社側の提示額の2倍を超える4,800万円という価格に満足していました。Cの顧客からの支持も認定されています。それでも高裁は、Bさんが契約前に評価額との隔たりを知らされておらず、その価格差と自ら手続を行う時間・費用などを比較したうえで売却を選択したとは認められないと指摘しました。

高裁は、少数株主に株式を換金したいという需要があること自体は否定していません。しかし、その需要や顧客の満足だけでは、この事業における法律生活上の弊害を正当化できないとしました。

契約無効と代金債務不存在という結論

高裁は、次のように結論付けています。

「買取会社Cが本件事業の業として行った本件売買契約の締結は、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがないとはいえず、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとは認められないから、本件売買契約は弁護士法73条に違反して無効である。」

同判決・第3の2(2)(ウ)。当事者表記を置き換えています。

これにより、Bさんは40株の売却後も52株を有する株主であり、DのCに対する代金債務は存在しないと判断されました。本件の中心は、当初の売買契約が弁護士法73条に違反して無効となるかという問題です。単に会社が譲渡を承認しなかったことだけを理由として、代金債務が否定されたわけではありません。

会社側がこの判決を検討する際の注意点

本判決を踏まえて対応を検討するときは、相手方が「株式買取業者」と名乗っていることだけで判断せず、取得の経緯、売主との価格合意、価格算定資料の説明、譲渡承認後の活動、会社側への要求内容を具体的に確認します。判決の当てはめを支えた事情が、目の前の案件でも存在するかが重要です。

また、契約の無効を争うことと、会社法上の譲渡承認請求にどのように対応するかは、並行して検討する必要があります。無効と考えていることだけを理由に通知を放置せず、請求書の内容や受領日を踏まえて会社側の手続を判断します。対応の整理は、株式買取業者への株式譲渡を会社は止められるかをご参照ください。

本判決は、株式を売りたい少数株主本人の権利まで当然に否定するものではありません。相手方が株主本人なのか、株式を取得した業者なのかによって確認事項は異なります。会社側から見た株式買取業者と少数株主本人の違いも併せてご覧ください。

よくあるご質問

株式買取業者への譲渡は、すべて無効になるのですか

本判決からそのように一律にはいえません。高裁は、権利の取得・実行の方法や事業の実態を具体的に認定し、社会的経済的に正当な業務の範囲内とは認められないとして、本件売買契約を無効と判断しました。

会社側が安い価格を提示していたことは、考慮されましたか

考慮されています。BさんとCとの合意価格が会社側の提示額の2倍を超えていたことや、Bさんの満足も検討されました。それでも、Cが認識する評価額との隔たりを契約前に説明していなかったことなどから、結論は変わりませんでした。

この判決で、株式の最終的な売買価格が決まったのですか

いいえ。この訴訟で判断されたのは、株主の地位と指定買取人の代金債務の不存在です。判決中の評価額を、そのまま会社法上の売買価格決定として扱うことはできません。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決の事実認定と判断過程を扱う判例解説です。株式買取業者への対応全般や譲渡承認手続の説明は、次のコラムと役割を分けています。


具体的なご相談をお考えの皆様へ

株式買取業者から通知が届いた場合や、株式の譲渡・買取りへの対応でお困りの場合は、ご相談ください。会社側の対応については、次のページでご案内しています。

敵対的少数株主・株式買取業者トラブル総合

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。