少数株主対策として有効な方法は?少数株主の権利から具体的な対策方法までわかりやすく解説

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会社の重要事項は株主総会の決議や取締役の選任で方向性が定まりますが、単独株主権・少数株主権を持つ株主は、持分が小さくても経営に影響を及ぼし得ます。対立が長期化すると、意思決定の停滞やコスト増など健全なガバナンスの阻害につながるおそれがあります。

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だからこそ、少数株主対策として取り得る選択肢を知り、会社・既存株主・従業員・顧客の利益が調和する形で適切に手当てすることが重要です。

本記事では、少数株主対策の必要性と、実務で用いられる主要手法「譲渡制限、自己株式取得、株式併合、全部取得条項付種類株式などの具体的な進め方と留意点」を、非上場会社やオーナー企業を念頭にわかりやすく解説します。

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少数株主とは

少数株主という法律用語は存在しません。しかし、実務では少数株主という言葉がよく使用されます。

ここでは、少数株主とは、議決権割合が数パーセントから50パーセント未満であり、会社経営に大きな影響力を持たない株主のことを呼ぶことにします。

他方、支配株主や大株主という概念もあります。これらは、議決権割合が過半数以上で会社経営に大きな影響力を持つ株主のことを意味します。

少数株主対策の必要性

少数株主が経営者の意向に反対している場合、少数株主としての権利を行使して、経営戦略を妨げるということがあります。

このような少数株主による妨害への対策を誤ると、スムーズな経営判断ができなくなる可能性があります。たとえば、少数株主の存在によりM&Aなどの交渉が進まなくなる可能性があります。

そこで、少数株主による妨害を回避するため、少数株主の権利について理解し、対応策を検討しておくことが重要です。

また、少数株主を可能な限り少なくしておくことも有効な予防手段となります。

少数株主対策の方法を考えるにあたって、まずは、少数株主の権利について、見ていくことにします。

少数株主の権利

株式会社では、取得している株式数に応じた議決権が多ければ多いほど、発言力が大きくなります。そして、少数株主も株主として認められる権利を有しています。

よって、少数株主対策を考えるにあたっては、少数株主の株式の持株比率や議決権ごとに、それぞれどのような権利を取得しているのかを把握する必要があります。

1株以上の株式を保有する場合

1株以上の株式を取得した株主が持つ権利のことを単独株主権と言います。単独株主権には以下のような種類があります。

1株以上の株式を保有する場合
自益権と共益権 議決権、利益配当請求権、残余財産分配請求権

閲覧謄写権

定款閲覧謄写請求権、株主名簿閲覧謄写請求権、株主総会議事録閲覧謄写請求権、取締役会議事録閲覧謄写請求権

株主総会についての権利

取締役会を設置していない会社での株主総会における議題提出権、株主総会における議案提出権、取締役会を設置していない会社での株主総会における議案通知請求権、役員選任議案における累積投票請求

取締役会についての権利

取締役会招集請求権、

差止請求権

募集株式発行差止請求権、自己株式処分差止請求権、新株予約権発行差止請求権、取締役の違法行為差止請求権、執行役の違法行為差止請求権、略式組織再編行為の差止請求権

訴訟提起の権利

会社の組織行為の無効確認訴訟提起権、株主総会決議不存在確認の訴え提起権、株主総会決議無効確認の訴え提起権、株主総会決議取消の訴え提起権、株主代表訴訟提起権、特別清算開始申立権

以下、注意すべき点だけ解説します。

自益権と共益権

株主は、1株でも株式を取得すると自益権と共益権を持つことができます。

  • 自益権:株主が個人的に会社から経済的な利益を得られる権利
  • 共益権・株主が会社の経営などに参加することができる権利

このうち、1株を保有する株主は、議決権、利益配当請求権、残余財産分配請求権を取得します。

  • 議決権:保有する株式の個数に応じて株主総会決議に参加しうる権利
  • 利益配当請求権:配当金など会社の利益の分配を受ける権利
  • 残余財産分配請求権:会社が解散した場合に最終的に残った財産を分配してもらう権利

閲覧謄写権

閲覧謄写権とは、会社に対して一定の会社に関する資料の閲覧謄写を請求できる権利です。

取締役会についての権利

取締役会設置会社においては、1株以上の株式を保有する株主は、取締役会招集請求権を行使できます。

この権利は、会社のスムーズな経営の妨害を目的として必要以上に行使され、会社全体が対応を迫られてしまう可能性があります。そのため、対策を検討しておく必要がある権利の一つです。

差止請求権

このうち、取締役の違法行為差止請求権・執行役の違法行為差止請求権・略式組織再編行為の差止請求権については、公開会社(株式の譲渡に特に制限を設けていない会社)の場合は、6か月以上の株式保有要件があります。

訴訟提起の権利

訴訟提起の権利は、株主が1株でも会社の株式を取得すると訴訟を提起することができる権利です。

総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の株式を取得した株主が持つ権利

総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の株式を保有する株主は、以下の権利を有しています。

  • 株主総会議題提案権
  • 議案通知請求権(取締役会設置会社の場合)

株主総会議題提出権は、次のような3つの内容に分けられます。

  • 株主が議決権を行使できる事項について株主総会の目的(議題)とすることを請求する権利
  • 株主総会の議題について、株主が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載または記録することを請求する権利(議案通知請求権)
  • 株主が株主総会において議題について、議案を提出することができる権利(議案提案権)

議案通知請求権(取締役会設置会社)とは、株主総会の目的である事項として提出しようとする議案について、その要領を他の株主に対して通知(または記載、記録)するように、会社に請求する権利を言います。株主総会の日の8週間前(定款で短縮することは可能)までに請求する必要があります。

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一定の議決権割合を満たす場合に認められる少数株主権

少数株主が一定の議決権割合を満たす場合、少数株主権が認められます。たとえば、以下のような権利があります。

議決権割合

少数株主権

1%以上

株主総会の検査役選任請求権

3%以上または発行済株式総数の3%以上

業務執行に関する検査役の選任請求権、会計帳簿閲覧請求権、役員解任請求権、清算人解任請求権

3%以上

役員等の責任軽減への異議権(阻止権)、株主総会招集請求権

10%以上

募集株式発行時の株主総会請求権(公開会社)、募集新株予約権発行時の株主総会請求権(公開会社)

以下、注意すべき点だけ取り上げます。

議決権の1%以上の株式を保有する場合

議決権の1%以上の株式を取得した株主は、株主総会の検査役選任請求権を有します。

これは、株主総会に先立って裁判所に対し検査役の選任を申し立てることができるという権利です。 検査役は、株主総会での招集や決議の手続きに違法または不当な点がないかを調査し、報告書を作成します。

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少数株主対策の方法

基本的に少数株主は、単独では、会社経営に対して直接影響を与える存在ではありません。

もっとも、少数株主権を行使すれば会社運営の遂行の妨げとなる可能性があります。そうなると、M&Aをしようとしても買い手が見つからないような状況に陥ってしまします。

また、少数株主が集まって協力すれば、大株主と同等の発言力を得ることも可能です。

そこで、会社経営者は、これらのことを理解した上で、少数株主対策を行うことにより、健全な会社経営を維持できます。また、そのことがM&Aの際の会社の評価にも繋がります。

ここからは、少数株主対策の方法を見ていきます。

少数株主対策としては、積極的対策と予防的対策が考えられます。それは以下の様に分類できます。

積極的対策 予防的対策
①任意の株式買取交渉 ①種類株式の発行
②募集株式の発行など ②相続人等に対する売渡請求制度の導入
③自己株式の取得 ③後継者への集中承継
④スクイーズアウト  
   

積極的対策

会社側から積極的に少数株主対策にアプローチする方法があります。積極的対策をすることによって、少数株主の持っている権利を抑制することが可能となります。

①任意の株式買取交渉

会社は、少数株主に対して、その保有する株式を買い取るための交渉を行うことができます。

普段から問題があると考えられる少数株主に対しては、株式を買い取るという方法が、直接的であり、非常に有効です。

しかし、この方法では、会社側が株式の買い取りを提案するため、少数株主から高い価格での買取りを要求される可能性はあります。

②募集株式の発行など

募集株式を新たに発行し、会社の株式総数を増やすことによって、既存の株主の持株割合を下げることができます。

この方法を採用すれば、少数株主の持株割合が相対的に低くなり、少数株主権における株式保有要件を満たさなくなります。

なお、1株以上から認められる権利や、株式の個数を要件とする権利、つまり株主総会議題提案権や議案通知請求権(取締役会設置会社)などの場合には採用できません。

また、10%以上の株式を取得している株主は、この募集株式の発行に対抗する権利、たとえば、募集株式発行時の株主総会請求権(公開会社)や募集新株予約権発行時の株主総会請求権(公開会社)を有するため、この方法を採用するには一定の手続きを経る必要があります。

③自己株式の取得

自己株式の取得とは、特定あるいは不特定の株主から自社の発行した株式を買い付ける方法のことで、少数株主対策として有効です。

ただ、これは株式売買であり、売り手の少数株主に株式を売る意思がなければ成立しません。そこで、例えば売り手に有利な株価を提示することなどによって、少数株主に株式売却のメリットを提示する必要があります。

自己株式の取得の手続き

自社株式の取得は、買い手を特定しない場合には、株主総会の普通決議(過半数の議決権を持つ株主が出席し、その過半数が賛成すれば決議される)によって行うことができます。

株主総会では、取得する株式の数、株式の取得と交付する金銭等の内容およびその総額などの事項を決定します。その後、株主が会社に対して株式譲渡の申し込みを行い、会社はこの株式を買い取ることによって、自己株式の取得を行うことができます。

また、特定株主から自己株式を取得したい場合には、株主総会の特別決議(過半数の議決権を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成で決議)で行わなければなりません。

株主総会の特別決議では、特定しない株主から自己株式を取得する場合で決定する内容に加えて、特定の株主からのみ株式を取得することを決定する必要があります。

その後、取締役会で具体的な株式取得の内容を決議して、すべての株主に通知する必要があります。たとえば、以下の項目について決議します。

  • 取得する株式の数
  • 1株の取得と引き換えに交付する金銭等の内容およびその数
  • 額またはその算定方法
  • 取得と引き換えに交付する金銭等の総額
  • 譲渡する申し込みの期日

なお、特定株主から自己株式を取得する場合には、他の株主にも、自分も売主として追加するように主張する権利(売主追加請求権)が与えられており、株主総会の決議前にこれを行使することができます。

その後、売り手の株主は会社に対して株式譲渡の申し込みを行い、会社はこの株式を買い取ることによって、自己株式の取得を行うことができます。

このように、売主追加請求権の行使によって、特定の株主以外から自分の株式の売却にも応じるように主張されると、特定の株主からのみ自己株式の取得をしたいという本来の目的が達成できない可能性があります。

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④スクイーズアウト

スクイーズアウトとは、会社の経営を支配している側が、少数株主の意向に関係なく少数株主を締め出す手法を言います。会社の経営支配側は、少数株主に金銭やその他の財産を交付することによって、株式を取得します。

具体的には、以下のような方法があります。

特別支配株主の株式等売渡請求

特別支配株主の株式等売渡請求制度は、平成26年の会社法改正で、スクイーズアウトを行うために設けられた制度です。

総株主の議決権の90%以上の株式を保有する株主を特別支配株主とし、この特別支配株主が少数株主に対して、少数株主の保有する株式すべてを売り渡すことを請求することができるという制度です。

この制度によれば、株主間で株式の売買を行うため、会社としては、時間的・金銭的に非常に効率よく少数株主のスクイーズアウトを実現できることになります。

もっとも、そもそも特別支配株主になることが難しいという側面もあります。そこで、事前に、1人の株主に株式を集約させるなどの調整を図る必要があります。

さらに、少数株主は、差止請求権、価格決定申立制度、無効確認訴訟の提起などの対抗策を持っているため、この方法が必ずしもスムーズに進むとは限りません。

株式併合

株式併合は、発行済み株式を併合させて全体の株式数をより少なくするという手法です。

これにより、少数株主の保有する株式は1株未満となり、少数株主権を行使できなくなります。

株式併合を行うには、株主総会の特別決議において議決権の3分の2以上の議決が必要となります。

さらに、少数株主には、差止請求権、反対株主の株式買取請求権などの対抗策があり、これらの権利行使に備える必要もあります。

予防的対策

上記の積極的対策は、M&Aなどの重要な判断を行う際に有効な手段です。

もっとも、普段から少数株主対策を行うことで、健全な会社運営を続けることができます。そこで、以下のような予防的な対策も少数株主対策として重要になってきます。

①種類株式の発行

会社法では、種類株式の発行が認められています。この種類株式によって、議決権をコントロールすることも可能です。たとえば、議決権制限株式、拒否権付株式、役員選解任種類株式があります。

会社経営に対する妨害を防止するには、これらの株式を有効に発行しておくことが効果的です。

議決権制限株式

議決権制限株式とは、株主総会などにおける議決権の行使を制限する株式です。制限内容は、定款で定めます。

議決権行使を抑制することで、会社の方針に影響を与えさせないという効果を得られることができます。

拒否権付株式

拒否権付株式とは、株主総会で決議された内容に対して拒否する権限を与えられた株式です。

この株式を1株でも持っていると、株主総会での決議を拒否できることから、黄金株とも呼ばれます。これは、会社経営のコントロールに役立ちます。

役員選解任種類株式

役員選解任種類株式とは、種類株主のみで集まる総会でのみ役員の全部または一部の選任決議ができる旨を定めた株式で、非公開会社でのみ発行しうる種類株式です。

これらの株式を発行して、会社の意向に沿った株主に取得してもらうことで、少数株主による妨害などに対する対策をある程度行うことができます。

②相続人等に対する売渡請求制度の導入

非公開会社の場合には、定款に相続人に対する株式の売渡請求制度を定めることができます。これにより、株式の相続人に対して株式を売り渡すように請求することができます。

この制度を導入するためには、会社は、相続発生前に株主総会の特別決議によって売渡請求制度の導入の定款変更手続きを行い、相続が発生したことを知った日から1年以内に相続人に対して、売渡請求を行う必要があります。

また、実際に売渡請求をする際にも、株主総会の特別決議が必要となります。

このような制度を導入することによって、少数株主の株式がさらに細分化されてしまうなどのリスクを回避し、会社が買い取ることによって、少数株主を減らすことができます。

③後継者への集中承継

後継者に会社を引き継いだ後も安定した経営を継続するには、後継者となる人に対して株式を集中して承継させる必要があります。

後継者は、少なくとも3分の2以上の議決権を取得することが望ましいです。株主総会の特別決議をすることができるためです。

譲渡による承継

株式承継の方法として、ます、株式の生前贈与または売買による承継が考えられます。

生前贈与は相続人による遺留分侵害の対象となり、贈与者の死後、後継者と相続人との間でトラブルになる可能性があります。また、相続税よりも高い贈与税がかけられることもデメリットです。

次に、売買による承継は、正当な価格で行った場合には、極めて明快で望ましい形になります。しかし、後継者側がその代金を用意しなければならないという難しさがあります。特に株価が高い場合には、ハードルが高いと言えます。

経営者側の承継

次に、経営者単独でも株式を集中承継させる準備をしておくことが可能です。それは、遺言と死因贈与です。

遺言のメリットは、前経営者が生きている間は、前経営者に支配権が集中していて、いつでも変更することができる点です。もっとも、遺言を書いた時点での本人の責任能力など法的効果について紛争が起こりやすく、また、相続人の遺留分について別途対策が必要だというデメリットもあります。

遺留分対策としては、種類株式を発行しておいて、遺留分には例えば無議決権株式を用意し、遺留分を相続した者を経営的に関与させないようにすること、黄金株を発行して会社経営の承継者に相続させることなどが考えられます。

死因贈与とは、具体的には、前経営者と承継者との間で前経営者の死亡を条件として、前経営者の保有する株式・事業用資産を承継者に贈与するという契約を締結することです。

このようにしておけば、前経営者が死亡した場合には、承継者に株式を集中させられることになります。

ただ、遺言と同様、相続人の遺留分について、対策が必要なことは変りません。

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まとめ

今回は、少数株主対策について解説してきました。直接的には経営の判断に関与することは出来ない少数株主であっても、実際上はその権利を行使して、実質的にスムーズな会社経営に対して、妨害する手段を講じてくる可能性があります。

経営者は、上記のことを認識する必要があります。その上で、可能であれば、普段から敵対的な少数株主が現れた場合の対策についても、想定して対応を検討しておくことが肝要です。

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