同族・親族内におけるM&Aについて 株式譲渡の進め方と税務上のメリット・デメリットについて解説

同族・親族がオーナーとして経営している会社では、M&Aを進める際に特有の難しさが生じます。
例えば、株式が親族間で分散している場合には、誰の同意を得るべきかが問題となり、少数株主が存在する場合には、取引条件や手続に対する調整が必要になることもあります。また、株価の設定においても、単なる当事者間の合意だけでなく、税務上の時価や評価方法を踏まえた慎重な検討が求められます。
こうした点への理解が不十分なまま進めてしまうと、手続が頓挫したり、想定外の税負担が発生したりするおそれもあります。
この記事では、同族・親族内におけるM&Aについて、基本的な考え方から、実際の進め方、株価算定や税務上の注意点、少数株主への対応まで、実務上押さえておきたいポイントを整理して解説します。

同族・親族内のM&Aとは

同族・親族内におけるM&Aとは、会社の株式が創業者一族やその親族によって保有されている企業において行われるM&Aをいいます。一般的には、いわゆる同族会社やオーナー企業における株式譲渡や事業承継の一環として行われるケースが多く見られます。
このようなM&Aでは、株式が市場で自由に取引されているわけではなく、特定の株主間で保有されているため、取引の進め方や意思決定のプロセスが、上場会社などの一般的な企業とは大きく異なる点に特徴があります。例えば、株主が親族間に分散している場合には、それぞれの意向を調整する必要があり、必ずしも一人の判断で売却や譲渡を決定できるとは限りません。
また、同族・親族内におけるM&Aは、第三者への売却だけでなく、親族内での株式移転や経営承継といった形で行われることも少なくありません。そのため、単なるM&Aとしての側面に加えて、相続や贈与といった税務上の問題や、親族間の関係性にも配慮した対応が求められる点に特徴があります。
このように、同族・親族内におけるM&Aは、一般的なM&Aと比較して、株主構成や意思決定、税務などの観点で特有の論点が存在します。これらの点を踏まえて適切に進めることが重要となります。

同族株主・親族株主の意味と判断基準

同族株主・親族株主という用語は、法律上の厳密な定義として常に用いられるものではありませんが、非上場会社やオーナー企業のM&Aにおいては、株主構成や支配関係を把握するうえで重要な概念です。
特に、同族・親族内のM&Aでは、株主の数や持株比率だけでなく、株主同士の関係性によって意思決定の実態が大きく左右されます。そのため、形式的な株主構成にとどまらず、実質的に誰が会社を支配しているのかという観点から整理することが重要となります。
また、同族株主や親族株主に該当するかどうかは、会社法上の手続に影響するだけでなく、税務上の株価評価や課税関係にも関係する場合があります。そのため、これらの概念について基本的な理解を押さえておくことが必要です。

同族株主の定義

同族株主とは、一般に、特定の個人やその関係者が会社の株式を集中的に保有し、会社の意思決定に影響を及ぼすことができる株主を指します。典型的には、創業者やその一族が中心となって株式を保有しているケースがこれに該当します。
税務上は「同族会社」という概念が用いられており、一定の株主グループが会社の議決権の過半数を保有しているかどうかが重要な判断基準となります。具体的には、上位3株主グループで議決権の50%超を占める場合などが同族会社に該当するとされており、このような場合には、少数の株主によって会社が実質的に支配されていると評価されます。
このように、同族株主かどうかは、単に個々の株主の持株比率だけでなく、株主グループ全体としての支配力によって判断される点に特徴があります。

親族株主の定義

親族株主とは、株主が親族関係にある場合をいい、一般的には配偶者や子、兄弟姉妹などの一定範囲の親族が含まれます。具体的な範囲については、民法や税法における親族の定義を前提に判断されることが多いといえます。
実務上は、株主名簿上は複数の株主に分散しているように見える場合であっても、それらが親族関係にある場合には、実質的に一体として意思決定が行われるケースも少なくありません。そのため、形式的な持株比率だけでなく、株主間の関係性を踏まえて実態を把握することが重要となります。
特に、親族間で株式が分散している場合には、M&Aの際に意見の対立が生じやすく、意思決定に時間を要することもあるため、事前に関係性を整理しておくことが望まれます。

同族会社との関係

同族会社とは、主として税法上の概念であり、一定の株主グループが会社の議決権の過半数を保有している会社をいいます。一般的には、上位3株主グループで議決権の50%超を占める場合などが該当するとされています。
同族会社に該当する場合には、役員報酬の取扱いや取引条件、株式の評価などについて、通常の会社とは異なる税務上の取扱いが適用されることがあります。また、同族会社では、特定の株主グループによる支配が強いため、M&Aにおいても意思決定が比較的迅速に行われる一方で、親族間の利害調整が問題となることもあります。
このように、同族株主・親族株主の問題を検討する際には、当該会社が同族会社に該当するかどうかを含めて整理することが重要であり、これが株価算定や税務、さらにはM&Aの進め方にも影響を及ぼすことになります。

同族株主・親族株主によるM&Aの進め方

同族株主・親族株主が関与するM&Aでは、株式が特定の株主に集中している場合と異なり、株主間の関係性や持株の分散状況を踏まえた慎重な対応が求められます。特に、親族間で株式が分散している場合には、利害関係の調整や手続の進め方によって、取引の成否が左右されることも少なくありません。
そのため、一般的なM&Aと同様の手続を踏まえつつも、同族・親族特有の事情を踏まえて段階的に進めることが重要です。

株主構成の確認

まず、M&Aを検討するにあたっては、現在の株主構成を正確に把握することが不可欠です。具体的には、誰がどの程度の株式を保有しているのか、議決権の割合はどのようになっているのかを確認するとともに、株主間の関係性についても整理する必要があります。
特に、名義上は複数の株主に分散している場合であっても、親族関係にある場合には実質的に同一の意思で動くことが想定される一方で、必ずしも全員の意向が一致するとは限りません。そのため、形式と実態の両面から支配関係を把握することが重要です。
また、株式の譲渡制限の有無や、定款の内容(株式譲渡承認の要否など)についても、この段階で確認しておく必要があります。
さらに、株主名簿上の名義株主と、実際に出資した者や株式を実質的に管理している者が異なる、いわゆる名義株の問題が存在しないかも確認が必要です。非上場会社では、親族や従業員の名義を借りて株式を保有している例が見られますが、このような場合、誰に株主権が帰属するかが争点となり得ます。
会社との関係では、会社法126条1項により、会社は原則として株主名簿上の株主を権利者として取り扱うことができます。他方で、名義株主と実質株主との間で紛争になった場合には、最終的には出資の経緯、株式取得資金の負担者、配当の帰属、議決権行使の実態などを踏まえて、真の権利者が誰かが争われることになります。
この問題を放置したままM&Aを進めると、誰から株式を取得すべきかが不明確となり、譲渡契約の有効性や総会決議の安定性に疑義が生じるおそれがあります。そのため、株主名簿だけで足りると考えず、株券の所在、過去の配当受領者、申告資料、議決権行使の実績なども含めて確認しておくことが重要です。

承認手続の実施

非上場会社の多くでは、株式の譲渡について会社の承認を要する旨の譲渡制限が設けられています。そのため、株式を第三者や親族に譲渡する場合には、取締役会や株主総会における承認手続を適切に行う必要があります。
この承認手続を怠った場合には、株式譲渡の効力に影響が生じる可能性があるため、定款の規定に従って適切に進めることが重要です。また、承認を得る過程において、他の株主との間で条件交渉が行われることもあり、実務上はこの段階で調整が難航するケースも見られます。
さらに、少数株主が存在する場合には、承認の可否や条件を巡って紛争が生じる可能性もあるため、事前に対応方針を検討しておくことが望まれます。

契約締結と名義書換

株式譲渡の条件について当事者間で合意が成立した場合には、株式譲渡契約を締結します。この契約では、譲渡対象株式、譲渡価格、支払方法、表明保証、誓約事項などを明確に定めることが一般的です。
契約締結後は、株主名簿の書換を行うことで、株式の譲渡が対外的にも確定します。特に非上場会社においては、株主名簿の記載が権利関係の基準となるため、名義書換を適切に行うことが重要です。
また、親族間での取引であっても、契約書を作成せずに口頭で済ませてしまうと、後に紛争が生じた際に証明が困難となるおそれがあります。そのため、形式的であっても契約書を整備し、取引内容を明確にしておくことが望まれます。

株価算定・株式評価の考え方

同族株主・親族株主が関与するM&Aにおいては、株価の算定が重要な論点となります。上場会社のように市場価格が存在しない非上場会社では、当事者間の合意だけで価格を決定するのではなく、一定の合理的な評価方法に基づいて株価を算定することが求められます。
特に同族・親族内の取引においては、恣意的な価格設定が行われやすく、税務上「時価」との乖離が問題となることがあります。そのため、適正な株価をどのように考えるかは、M&Aの適法性や税務リスクの観点からも重要なポイントとなります。
株価算定にあたっては、会社の財務状況や収益力、純資産の内容などを踏まえ、複数の評価方法を組み合わせて検討するのが一般的です。
譲渡制限株式について会社が譲渡を承認せず、会社または指定買取人が買い取る場面では、当事者間の協議で価格がまとまらないことがあります。この場合、会社法144条に基づき、会社または譲渡等承認請求者は、通知日から20日以内に裁判所へ売買価格決定の申立てをすることができます。
裁判所は、譲渡等承認請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めるとされており、単純に相続税評価額や簿価だけで決まるわけではありません。実務上は、純資産、収益力、将来性、配当実績、支配権の有無、会社の規模や事業内容などが総合考慮されます。
したがって、価格交渉が対立した場合には、あらかじめどの評価方法を前提にするのか、どの事情を価格に反映させるべきかを整理しておくことが重要です。特に、親族間では感情的対立が価格論に転化しやすいため、早い段階から客観的資料を備えておくことが紛争予防につながります。

同族間取引の評価

同族株主・親族株主間で株式の譲渡が行われる場合には、税務上の評価方法が重要な意味を持ちます。一般的には、相続税評価額をベースとした評価(純資産価額方式や類似業種比準方式など)が参考にされることが多いといえます。
これらの評価方法は、税務上の課税の公平性を確保する観点から定められており、特に非上場株式の評価において広く用いられています。ただし、これらはあくまで税務上の評価であり、実際の取引価格と必ずしも一致するものではありません。
同族間取引においては、税務上の評価額とかけ離れた価格で株式を譲渡した場合、低額譲渡や高額譲渡として、贈与税の課税や法人税上の問題が生じる可能性があります。そのため、評価額の妥当性については慎重に検討する必要があります。

第三者取引の評価

一方で、第三者に対して株式を譲渡する場合には、当事者間の交渉によって価格が決定されるのが一般的です。この場合、会社の将来収益や成長性を踏まえた評価(いわゆる収益還元法やDCF法など)が用いられることが多くなります。
第三者取引においては、投資家の視点から企業価値が評価されるため、純資産だけでなく、事業の収益力や将来性が重視される傾向にあります。その結果、同族間取引における税務評価額とは大きく異なる価格となることも少なくありません。
もっとも、同族株主・親族株主が関与するM&Aであっても、第三者が関与する場合や、実質的に第三者取引と評価される場合には、合理的な価格設定が求められます。そのため、どのような前提で株価を算定するのかを明確にし、必要に応じて専門家の意見を踏まえて検討することが重要です。

同族株主・親族株主によるM&Aで問題となりやすいポイント

同族株主・親族株主が関与するM&Aでは、株式が特定の個人や親族に分散して保有されていることから、一般的なM&Aとは異なる問題が生じやすいといえます。特に、株主間の関係性や利害対立が取引に影響を与える点が大きな特徴です。
また、形式的には株主構成が明確であっても、実際には感情的な対立や過去の経緯が意思決定に影響することも少なくありません。そのため、法的な手続だけでなく、実務上の調整やコミュニケーションの在り方も重要です。
以下では、同族株主・親族株主が関与するM&Aにおいて特に問題となりやすいポイントを整理します。

株式の分散

同族会社やオーナー企業では、相続や贈与を経て株式が親族間に分散しているケースが多く見られます。このような場合、M&Aを実施するにあたって、複数の株主から同意を得る必要があり、意思決定に時間を要することがあります。
また、株式の持分が細かく分かれている場合には、一定割合の株式を集約できなければ、買収や経営権の移転が円滑に進まない可能性もあります。そのため、事前に株式の集約方法や取得方針を検討しておくことが重要です。
さらに、一部の株主が売却に応じない場合には、取引自体が成立しない、あるいは条件の見直しを余儀なくされるといったリスクも生じます。
株式の分散が問題となるのは、単に「同意を取りにくい」という点にとどまりません。株式が複数の親族に分散すると、まず重要な局面ごとに利害調整が必要となり、M&Aの方針決定や譲渡承認の場面で意思決定が停滞しやすくなります。
さらに、過半数近い株式が複数の系統に分かれて保有されている場合には、どの親族グループが会社を主導するのかが不安定になり、経営支配の基盤自体が揺らぎやすくなります。現経営陣が事実上会社を運営していても、議決権構成次第では、総会決議や役員選解任の局面で別グループの株主が対抗し、経営権争いに発展することがあります。
その結果、当初は価格や売却方針をめぐる意見の違いにすぎなかったものが、株主権確認訴訟、株主総会決議取消しの争い、株価をめぐる紛争などに発展し、M&Aそれ自体が長期化・頓挫することもあります。したがって、株式の分散は、意思決定の遅延、支配関係の不安定化、紛争化という連鎖を生みやすい点に注意が必要です。

少数株主の存在

少数株主が存在する場合には、その対応が大きな論点となります。特に、親族間で経営に関与していない株主が存在する場合、株式の売却に対する考え方や期待する条件が一致しないことが多く、交渉が難航するケースも少なくありません。
また、少数株主は、株主総会における議決権の行使や株式買取請求など、一定の権利を有しているため、その意向を無視して手続を進めることはできません。場合によっては、少数株主との間で紛争が生じる可能性もあります。
このようなリスクを踏まえ、事前に少数株主との関係性を整理し、必要に応じて適切な説明や交渉を行うことが重要です。

経営権と議決権の不一致

同族会社では、経営に関与している者と、株式を保有している者が必ずしも一致していないケースも多く見られます。例えば、現経営者は少数株主であり、議決権の過半数を他の親族が保有しているといった状況です。
このような場合、M&Aの意思決定にあたって、実際に経営を担っている者の意向と、議決権を有する株主の意向が一致しないことがあります。その結果、取引の方向性が定まらなかったり、意思決定に時間を要したりすることがあります。
また、経営権の移転と株式の移転が同時に進まない場合には、M&A後のガバナンスにも影響を及ぼす可能性があります。そのため、議決権構成と経営体制の関係を整理したうえで、取引の設計を行うことが重要です。

同族・親族内のM&Aのメリット・デメリット

同族株主・親族株主が関与するM&Aには、第三者への売却とは異なる特有のメリットとデメリットが存在します。
親族間での承継や株式移転は、関係性の近さから円滑に進む場合もある一方で、感情的な対立や利害の不一致が顕在化しやすい側面もあります。
そのため、同族・親族内でのM&Aを検討する際には、これらの特徴を踏まえたうえで、慎重に進めることが重要となります。

メリット

同族・親族内でM&Aを行う最大のメリットは、会社の経営や事業の方向性を維持しやすい点にあります。外部の第三者に売却する場合と異なり、これまでの経営方針や企業文化を大きく変えることなく、事業を引き継ぐことが可能となります。
また、親族間での取引であることから、相手方の人柄や考え方をある程度把握しているケースが多く、交渉が比較的スムーズに進む場合もあります。特に、後継者がすでに社内で経営に関与している場合には、引継ぎも円滑に行いやすいといえます。
さらに、株式譲渡の条件についても、短期的な利益だけでなく、長期的な事業継続や家族全体の利益を踏まえた柔軟な調整が可能となる点もメリットの一つです。

デメリット

一方で、同族・親族内のM&Aでは、感情的な対立が生じやすいというデメリットがあります。特に、相続や過去の経緯が関係している場合には、株式の評価や譲渡条件を巡って意見が対立し、交渉が難航することも少なくありません。
また、株価の設定についても、第三者間取引のように客観的な市場価格が存在しないため、「高い・安い」といった評価が主観的になりやすく、後に不満や紛争の原因となることがあります。
さらに、親族間での取引であることから、契約内容が曖昧になったり、形式的な手続が軽視されたりする傾向も見られます。その結果、後になってトラブルが顕在化するケースもあるため、第三者間取引と同様に、契約書の整備や手続の適正な実施が重要となります。

同族株主・親族株主のM&Aにおける税務上の注意点

同族株主・親族株主が関与するM&Aにおいては、税務上の取扱いが重要な論点となります。特に、親族間で株式を譲渡する場合には、当事者間の合意だけで価格を決定するのではなく、税務上の「時価」を意識した対応が求められます。
仮に、実際の取引価格が税務上の評価額とかけ離れている場合には、意図しない課税が行われる可能性があるため注意が必要です。以下では、特に問題となりやすいポイントについて解説します。

時価乖離のリスク

同族間で株式を譲渡する場合、取引価格が税務上の時価と大きく異なると、課税上の問題が生じる可能性があります。例えば、時価よりも著しく低い価格で株式を譲渡した場合には、その差額が実質的な利益の移転とみなされ、贈与と評価されることがあります。
逆に、時価よりも著しく高い価格で譲渡した場合にも、法人が関与しているケースでは、損金算入の否認や寄附金認定といった問題が生じる可能性があります。
このようなリスクを回避するためには、事前に合理的な評価方法に基づいて株価を算定し、その根拠を明確にしておくことが重要です。

贈与税・相続税の問題

親族間で株式の譲渡を行う場合、贈与税や相続税の問題にも注意が必要です。特に、低額譲渡が行われた場合には、その差額について贈与があったものとみなされ、贈与税が課される可能性があります。
また、株式の移転が将来の相続に影響を及ぼすこともあるため、単に目先の取引だけでなく、長期的な資産承継の観点からも検討することが重要です。
さらに、事業承継の一環として株式を移転する場合には、一定の要件を満たすことで税負担の軽減措置が適用されることもありますが、その適用には厳格な要件が定められているため、事前の確認が不可欠です。

法人税上の論点

株式の譲渡に法人が関与する場合には、法人税上の取扱いにも注意が必要です。例えば、法人が株式を低額で譲渡した場合には、その差額が寄附金として扱われ、損金算入が制限される可能性があります。
また、逆に高額で取得した場合には、その取得価額の妥当性が問題となり、税務上の否認リスクが生じることもあります。
さらに、同族会社においては、特定の株主との取引について税務上厳格なチェックが行われる傾向があるため、通常の第三者間取引以上に、取引条件の合理性を説明できる状態にしておくことが重要です。

少数株主・反対株主がいる場合の対応

同族株主・親族株主が関与するM&Aにおいては、すべての株主の意向が一致するとは限らず、少数株主や反対株主への対応が重要な論点となります。特に、株式が親族間に分散している場合には、経営に関与していない株主が一定数存在することも多く、取引に対する理解や期待が異なるケースも少なくありません。
このような場合、手続を一方的に進めることは難しく、適切な説明や交渉を通じて合意形成を図ることが基本となります。以下では、代表的な対応方法について整理します。
なお、同族・親族内のM&Aで実際に生じやすい紛争類型としては、まず、名義株主と実質株主のいずれに株主権が帰属するかを争う株主権確認訴訟が挙げられます。これは、過去に親族や従業員の名義を借りて株式を保有していた場合や、相続を契機に名義株の帰属が問題化した場合に典型的に発生します。
次に多いのが、譲渡価格やスクイーズアウト時の対価をめぐる株価紛争です。親族間では、当事者の一方が相続税評価を基準にすべきと考え、他方が事業の収益力や将来性を重視して高い価格を主張するなど、前提自体が対立することがあります。譲渡制限株式の売買価格決定申立てや、反対株主による価格決定申立てに発展するのは、この類型です。
さらに、誰が議決権を行使できるかが争われる結果、株主総会決議の有効性や役員選任の適法性をめぐる紛争に発展することもあります。このように、同族・親族内のM&Aでは、価格だけでなく、株主資格、議決権行使、機関決定の適法性が複合的に争われやすい点に注意が必要です。

任意交渉

まず基本となるのは、少数株主との任意交渉です。株式の譲渡条件や価格について丁寧に説明し、理解を得たうえで合意による株式取得を目指します。
特に親族間では、法的な権利関係だけでなく、これまでの関係性や感情面も交渉に影響を与えることがあるため、形式的な説明だけでなく、納得感を意識した対応が重要となります。
また、価格については、客観的な評価方法に基づいた説明を行うことで、不公平感を軽減し、合意に至りやすくなる場合があります。

会社法上の整理手法

任意交渉による解決が困難な場合には、会社法上の手法を用いて株主構成を整理することも検討されます。代表的な方法としては、株式併合や全部取得条項付種類株式の活用などにより、少数株主の持株を集約する手法(いわゆるスクイーズアウト)が挙げられます。
また、株主側からは、株式買取請求権の行使などにより、自ら株式の買取りを求めるケースもあります。これらの手続は法令に基づいて行う必要があり、適切に進めなければ無効や紛争の原因となる可能性があります。
スクイーズアウトが実務上争点となりやすいのは、手法の選択そのものよりも、対価である株価の相当性と、手続の適法性です。少数株主からみれば、自らの意思に反して株式を取得される以上、提示された価格が不当に低いのではないか、通知や決議の過程に瑕疵があるのではないかが主要な争点になります。
具体的には、基準日や算定基準の設定が合理的か、算定資料に恣意性がないか、少数株主への情報提供が十分か、必要な機関決定や通知が法令・定款に従って行われているか、といった点が問題となります。手続に瑕疵があれば、差止めや価格決定申立て、決議の効力を争う紛争に発展する可能性があります。
そのため、スクイーズアウトを用いる場合には、単に会社法上可能な手法を選ぶだけでなく、価格の説明可能性と手続の透明性を確保することが不可欠です。
また、これらの手法を検討する場合には、手続の適法性や価格の妥当性について慎重に検討するとともに、必要に応じて専門家の関与を得ながら進めることが重要です。

同族株主・親族株主のM&Aのまとめ

同族株主・親族株主が関与するM&Aは、非上場会社やオーナー企業において一般的に見られる一方で、株主構成や親族関係といった特有の事情により、通常のM&Aとは異なる難しさを伴います。
特に、株式が親族間に分散している場合や、少数株主が存在する場合には、意思決定や条件調整に時間を要することがあり、事前の整理や慎重な対応が重要となります。また、株価の算定においても、単なる当事者間の合意だけでなく、税務上の評価や合理的な根拠を踏まえて検討することが求められます。
さらに、親族間での取引であっても、契約書の整備や手続の適正な実施を怠ると、後に紛争や税務上の問題が生じる可能性があります。そのため、第三者間取引と同様に、客観性や透明性を意識した対応を行うことが重要です。
同族・親族内のM&Aを円滑に進めるためには、株主構成や関係性の把握、適正な株価算定、税務リスクへの対応、少数株主への配慮といった各論点を総合的に整理する必要があります。これらを踏まえたうえで、必要に応じて専門家の助言を受けながら進めることが、トラブルの回避と円滑な取引の実現につながります。