非上場株式の株式買取業者とは?その実態や対処法などを徹底解説

近年、個人の株主が非上場株式を株式買取業者に譲渡したことにより、株式買取業者から会社に対して、強引な株式譲渡承認請求や株式買取請求を行うケースが増えています。
株式買取業者に株式が渡ってしまった場合、会社の経営に悪影響が及ぶ可能性があります。また、会社が非常に高値で株式を買い戻さざるを得なかった場合、会社の経営へのマイナスは計り知れません。
そこで、この記事では、非上場株式の株式買取業者について解説し、非上場株式が悪質な株式買取業者に売却されたときの対処法についても解説していきます。
非上場株式とは
非上場株式とは、株式の取引市場である証券取引所に上場していない株式を言います。その特徴として、市場が存在せず、取引価格もない点があげられます。
また、非上場株式には、会社から譲渡制限が付されていることが多いです。これを、譲渡制限付き株式と言います。
非上場株式を保有することのデメリット
非上場株式を保有することのデメリットとして、以下の点があげられます。
- 配当を得られるとは限らない
- 経営に関与できる可能性が低い
- 高額な相続税がかかる可能性あり
配当を得られるとは限らない
非上場株式により利益を得る方法としては、会社から剰余金の配当を受ける、または、誰かに株式を売却するというものがあります。
このうち、剰余金の配当については、原則として株主総会の普通決議によることが必要です。そして、株主総会の普通決議は、出席株主の議決権の過半数による賛成を要します。
もっとも、支配株主が剰余金の配当決議について賛成するとは限りません。その場合、配当を得られない可能性もあります。
経営に関与できない可能性が高い
非上場株式を発行する会社には、経営陣が家族や親族で形成されている同族会社が多いです。そして、同族会社では、経営陣が株式の大半を保有している場合もあります。
そうすると、個人株主が非上場株式を保有していても、会社の経営に対する影響力が少ないために会社経営に関与できない可能性が高いです。
高額な相続税がかかる可能性あり
非上場株式を相続する場合、相続税が発生します。相続税は累進課税となっており、最大で55%発生する可能性があります。
そうすると、仮に株式の評価が上がった場合には課される相続税の金額が大きくなり、結果的に莫大な相続税を支払わなければならなくなります。
株式買取業者とは
近年、非上場株式を保有する少数株主が、株式買取業者に株式を売却する事案が増えています。
株式買取業者とは、株式の買い取りを専門とする業者のことを言います。
その特徴は、非上場株式を少数株主から買い取って、会社に対して株式譲渡の承認請求をするという点にあります。
非上場株式を買い取る株式買取業者が増加している
株式買取業者のうち、非上場株式を買い取る株式買取業者が増加する傾向にあります。
その理由としては、非上場株式を保有している個人株主が株式買取業者を利用する場面が増えているためです。
また、近年は事業承継も多く行われており、支配株主になれなかった少数株主が非上場株式を売却しようとする動きも活発となっています。
株式買取業者は会社にとって利益になるのか?
株式買取業者の目的としては、金銭の取得があります。株式買取業者は非上場株式を買い取ったとしても、すぐに会社に対して売却を迫ることが多いのです。
そうすると、会社側としては、株式買取業者を株主とすることにメリットはないです。そのため、会社は株式を買い戻す必要があります。
もっとも、その際の株式の買取価格は高額になる可能性があり。会社にとっては不利益となります。
株主が非上場株式を株式買取業者へ譲渡する理由とは
株主が、非上場株式を、株式買取業者に譲渡する理由は2つあります。
-
買い手が見つからない株主が株式買取業者に株式譲渡の相談をする
-
会社の経営などに敵対的な株主が嫌がらせの方法として譲渡する
以下、それぞれの理由について解説します。
買い手が見つからない株主が株式買取業者に株式譲渡の相談をする
非上場株式は、譲渡制限が付されている場合が多く、保有していてもデメリットが大きいため、非上場株式を手放したい株主は多いです。
非上場株式を売却するためには買主を探すことが必要です。買主を見つけたら株式の買取価格について交渉し、会社に譲渡の承認を求めるのが基本的な流れになります。
もっとも、非上場株式の買い手を見つけるのは容易ではありません。そこで、早く株式を手放したい株主は、株式買取業者に非上場株式を売却するケースがあるのです。
株主としては、株式買取業者に勧誘されれば、それを信用して、非上場株式を売却してしまいます。
会社に敵対する株主が嫌がらせとして株式買取業者に譲渡する
非上場株式を発行する会社は、親族などが経営する同族会社であることが多いです。そのような会社では、経営陣と少数株主が対立することもよくあります。
たとえば、会社の現状や経営陣に不満を持っているような株主です。
そこで、会社に敵対する少数株主が、会社に対する嫌がらせのため、株式買取業者を利用するのです。
非上場株式の売却はしかるべき手順さえ踏めば何も問題ありません。しかし、それはあくまで会社に問題のない買主が株式を買うケースです。
株式買取業者が会社の株式を買った場合、会社にとって大きなマイナスとなります。
株式買取業者に非上場株式を譲渡することのリスクとは
株式買取業者に非上場株式を譲渡することによって、会社と売主である株主の双方がリスクを負うことになります。
売主である株主が負うリスク
非上場株式を株式買取業者に売却する株主のリスクには、以下の3つがあります。
- 著しく低い価格で買い取られてしまう
- 詐欺や通謀虚偽表示などの違法行為に巻き込まれてしまう
- 株式買取業者に強引な株式の売却を迫られてしまう
それぞれ詳しく解説していきます。
著しく低い価格で買い取られてしまう
非上場株式を売却したい株主が個人株主である場合、株式売買に関する専門的な知識が少ないことが多いです。
これに対し、株式買取業者は、株式売買に関する専門的な知識を持っています。
そうすると、売主である個人株主が株式買取業者に対して、非上場株式の譲渡をしようとすれば、不当に低い価格を提示される可能性があります。
つまり、非上場株式を著しく低い価格で買い取られてしまうのです。
違法行為に巻き込まれてしまう
株式買取業者のうち、悪質な業者と取引する場合には、違法行為に巻き込まれる可能性があります。
たとえば、株式買取業者が売買代金を支払ってくれないことがあります。
また、株式買取業者と個人株主との間の取引が虚偽の株式譲渡にあたる場合は通謀虚偽表示になり、民法94条に反することになります。
さらに、株式を売却した行為が詐欺にあたる場合には、損害賠償責任を追及される可能性もあります。
強引な取引を迫られてしまう
株式買取業者の中には、個人株主の無知を利用しようとする悪質な業者もいます。悪質な業者が取引相手になると、強引な取引を迫られる可能性もあります。
このように、株式買取業者を相手にする取引は、個人株主にとってリスクがあるのです。
非上場株式を発行した会社が負うリスク
株式買取業者が非上場株式を買い取った場合、非上場株式を発行した会社側にも以下のようなリスクがあります。
- 株式買取業者による違法行為の被害に遭ってしまう
- 株式買取業者から強引な買取請求をされてしまう
- 悪質な株式買取業者の行為により会社の経営が混乱してしまう
- 悪質な株式買取業者への譲渡をきっかけに会社の業績にも影響が出てしまう
- 会社の財政がひっ迫してしまう
- 株式買取業者からの株式譲渡承認請求を拒否すると嫌がらせをされる
違法行為の被害に遭ってしまう
株式買取業者が非上場株式を買い取る場合、通謀虚偽表示や詐欺によってなされていることもあり得ます、そうすると、その株式を買い取る会社側も被害を受ける恐れがあります。
たとえば、株式買取業者が株式の買い取りを請求し、会社がこれを断った場合には、会社や経営者を誹謗中傷したり、株主総会の進行を妨害したりすることがあります。これを総会屋と言います。
さらに、株式買取業者は弁護士資格を持たないにもかかわらず訴訟を提起して、会社に対して金銭を請求することもあります。これを事件屋と言います。
強引な株式買取請求をされてしまう
株式買取業者の中には、金銭を目的とする業者もいます。そのため、会社は高額な買取価格を提示され、強引な株式の買取請求をされる恐れがあるのです。
会社経営が混乱してしまう
株式買取業者が株主となれば、総会屋や事件屋として会社経営を妨害する可能性があります。
そうなると、株主総会において会社の重要な経営判断に関する決議を得られなくなる、経営者が委縮して経営判断をしなくなるなどの弊害が出てきます。
そして、会社経営が混乱してしまうのです。
会社の業績にも悪影響が及ぶ
会社の経営が混乱すると会社の事業にも影響が出ます。
非上場株式の譲渡問題が原因で経営が混乱し、事業運営もままならなくなり、個々の事業の業績も落ちてしまいます。
会社の財政がひっ迫してしまう
株式買取業者から非上場株式を高値で買い戻さざるを得なくなる場合、会社の財務上の負担が大きくなってしまい、それだけで会社の経営がひっ迫する可能性があります。
非上場株式が、悪質な株式買取業者に譲渡され、株式買取業者が会社に対して株式譲渡承認請求及び株式買取請求をする場合には、株式売買価格を巡って裁判になるケースも多いです。
裁判になった場合には、株式の価格は非常に高くなる傾向があります。税理士が算定する評価額よりもかなり高くなることが一般的なのです。
株式譲渡承認請求を拒否すると嫌がらせをされる
会社としては、株式譲渡承認請求を拒否せずに承認して、悪質な株式買取業者が株主になったとしてもやり過ごせばよいのではないかと考えるかもしれません。
もっとも、悪質な株式買取業者は非常にアクティブであり、会社に押し掛けてきたり、株主総会で長時間粘り社長を責めたりするなどの嫌がらせをするようになります。
会計帳簿閲覧請求権を行使して会社の情報を乱用したり、株主代表訴訟などを提起して、会社の経営を混乱に陥れます。
非上場株式の売買上の問題点
非上場株式を保有することにはデメリットがあるため、非上場株式を手放したいと考える株主は多いです。しかし、非上場株式を売却することは、以下の理由により容易ではありません。
買い手が見つかりにくい
非上場株式は市場で取引されておらず、流動性が低いといえます。
そのため、非上場株式を売却したいと思っていても、すぐに買い手が見つからないことが多いです。
したがって、非上場株式を処分するのは、上場株式の売却に比べて難しくなっています。
譲渡承認などの手続を要する場合がある
非上場株式の多くは、譲渡制限が付されていることがあります。
譲渡制限付き株式を譲渡しようとすれば、会社や株主総会で譲渡承認の手続きを踏む必要があります。もっと、譲渡承認のための手続には、株主総会決議などを要し、時間がかかります。
また、譲渡承認がなされなかった場合には、株式買取請求をしたり、指定買取人を探したりしなければなりません。
このように、譲渡制限付き株式である場合には、譲渡承認などの手続を要する場合があるのです。
株主が悪質な株式買取業者に対抗する方法
非上場株式の処分に困り、早く処分するために悪質な株式買取業者に相談することもあるでしょう。また、会社に不満があれば、安易に悪質な株式買取業者に売却して経営権への介入や嫌がらせなどを考えるかもしれません。
もっとも、悪質な株式買取業者との取引は違法行為に該当する可能性があります。
そこで、違法行為に関与しないためにも、そしてリスクある取引に巻き込まれないためにも、非上場株式を売却するときは相談先や買主を慎重に選ぶことが重要です。
たとえば、以下のような機関や専門家に相談することができます。
銀行などの金融機関
金融機関には取引先が多いため、非上場株式の買い手として様々な企業を紹介することができます。また、金融機関は会計についての専門的な知識もあるため、売却価格の相談にも乗ってくれます。
もっとも、金融機関に相談する場合、手数料が他の相談先よりも高額になることがあります。また、紹介先の企業は大企業である場合も多く、小規模な企業はサポートできないこともあります。
商工会議所などの公的機関
公的機関は、その地域に根差した情報やネットワークを持っているため、地元企業などに売却したい場合には、商工会議所などの公的機関に相談するとよいでしょう。
なお、公的機関にはM&Aの専門家が在籍していないところがほとんどです。そのため、公的機関に買い手の相談をする場合でも、細かい契約条件を決めたい場合には弁護士などの専門家に別途依頼する必要があります。
M&Aを専門とする弁護士や税理士
非上場株式を売却するのであれば、M&Aを専門とする弁護士や税理士に相談するのもよいでしょう。弁護士であれば、買い手の決定から契約のクロージングまでサポートすることが可能です。また、税理士であれば、売却にかかる税金などの知識が豊富です。
もっとも、弁護士や税理士の技量はそれぞれなので、M&Aの経験豊富な弁護士や税理士を慎重に選択する必要があります。
会社が悪質な株式買取業者に対抗する方法
会社側としては、株式譲渡の前後を基準として、事前対策と事後対策をすることが可能です。
事前対策としての自社株式買取り
非上場株式を悪質な株式買取業者に譲渡されないためには、会社側が譲渡前に対策しておくことが重要です。
たとえば、株主が悪質な株式買取業者と取引する前に、会社が株式買取の対応するという方法があります。悪質な株式買取業者に株式譲渡の相談をする前に対処すれば、悪質買取業者それ自体と株主との間に取引関係ができなくなるため、ひとつの対処法になるのです。
事後対策として弁護士に相談する
悪質な株式買取業者が株主となった場合には、株式の買取りをさせるために、違法な手段や過激な手口を使うケースもあります。
それにより、会社の経営側が畏怖したり、対応に頭を悩ませたりすることは十分考えられます。
したがって、悪質な株式買取業者が出てきた場合は、そのような業者への対処経験のある専門の弁護士へ早急に相談し、適切な対処をすることが重要です。
会社が株式買取業者に対してとるべき対応
会社は、悪質な株式買取業者に「非上場株式を買い取るぞ!」と迫られたからといって困惑する必要はありません。
悪質な株式買取業者は違法行為や強迫手段を用いることもありますが、それに対して怯えることもありません。
悪質な株式買取業者が株主となった場合には、しかるべき専門家に相談し、毅然とした態度で対応してください。
最後に
非上場株式には処分が難しいという問題点があることから、悪質な株式買取業者の勧誘に乗って譲渡を進めてしまうケースがあります。また、敵対株主が会社に対する嫌がらせや経営への介入のために悪質な株式買取業者を利用するケースもあります。
どちらの理由であれ、悪質な株式買取業者が会社経営に絡んできた場合、会社にとっては非常に大きなマイナスになります。
そこで、トラブルや会社経営への悪影響を防ぐためには適切な対処が重要になります。
個人の株主であれば、株式売買に精通している弁護士に相談すること、そして、会社側であれば、数々の敵対的少数株主対策、悪質な株式買取業者への対応実績のある弁護士に相談することが大切になります。
専門家に相談することで、株主側も会社側も損をしないように対処していけるようにしましょう。