スクイーズアウトで敵対的少数株主を排除し円滑な経営権を取り戻しましょう!

スクイーズアウトで敵対的少数株主を排除し円滑な経営権を取り戻しましょう!

スクイーズアウトと敵対的少数株主

強制的に株式取得し、会社から少数株主を排除する戦略を「スクイーズアウトと呼びます。

相続で株主となった親族を排除したい、あるいは完全子会社化して事業をじっくり育てたいと考える経営者の間で、スクイーズアウトの活用事例が多く見られます。

事業への理解が浅く、短期的利益ばかり追求しようと敵対的行動を取る。

そんな少数株主から経営の舵を取り戻したい人へ、スクイーズアウトで得られる会社への効果を解説します。

⇒少数株主の排除(スクイーズアウト)の方法を見る!

敵対的少数株主が行使できる権利

経営方針に反発する敵対的少数株主は、株主の利益保護を目的とする権利を悪用し、事業の成長を妨害します。また、今後敵対する可能性のある少数株主の保有割合がごく少ないからといって、油断はできません。

たった1株からでも、株主には様々な権利が認められるからです。

【株主の権利①】単独株主権(1株あれば権利発生)

  • 株主総会議決権
  • 取締役会招集請求権
  • 剰余金配当請求権
  • 残余財産分配請求権
  • 募集株式発行・自己株式の処分・新株予約権発行の差止請求権
  • 取締役および執行役の違法行為差止請求権
  • 略式組織再編行為差止請求権
  • 株主代表訴訟提起権
  • 会社組織に関する行為の無効の訴え

【株主の権利②】少数株主権(総発行株式の3%または10%で権利発生)

  • 会計帳簿の閲覧権(総発行株式の3%以上)
  • 役員解任の訴えの提起権※(同上)
  • 業務執行に関する検査役選任請求権(同上)
  • 役員などの責任免除に対する異議権(同上)
  • 株主総会・種類株主総会の招集請求権※(同上)
  • 解散の訴えの提起権(総発行株式の10%以上)

少数株主のスクイーズアウト方法(排除方法)

少数株主の存在に悩まされている会社では、株式取得により排除する手段として「任意の株式買取り交渉」と「スクイーズアウトのいずれかが考えられます。

肝心の手段の選択に関しては、問題の株主との関係性によると言わざるを得ません。

任意の株式買取り交渉

簡便なのは、大株主が他の株主と交渉して株式の買取りに応じてもらう方法です。

もっとも、この方法が利用できるのは「少数株主が多少なりとも株式を手放すことに意欲を持ってくれる場合」に限られます。相手方となる少数株主が株式売却に意欲的でなくても、換金性を重視して交渉に応じる場合はありますが、どのみち、価格を巡って折り合いがつかなくなる可能性は捨てきれません。

また、会社法上の問題もあります。

会社が買取り人となる「自己株式取得」なら株主総会の特別決議(法第156条各項)、売買対象が譲渡制限株式であっても株主総会もしくは取締役会の決議(法第139条1項)が必要です。

スクイーズアウト

もう1つの手法は、会社法等で定められる手続きに沿って強制的に株式取得する「スクイーズアウトです。少数株主に交付する対価が現金である場合、キャッシュアウトとも呼ばれます。

なお、M&Aにおいては、事業育成等の目的でグループ会社を完全子会社化することを指します。

スクイーズアウトの特徴は、少数株主の利益を保護しつつ、その意向に左右されることなく経営から締め出せる点です。ただし、実施の手順・株価算定・税務上の判断の3点で適正さを心がける必要があります。

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スクイーズアウトの6つのメリット

一定のスケジュール下で確実に少数株主を排除したい会社には、スクイーズアウトがおすすめできます。特に、すでに少数株主が敵対的行動をとっている下記のようなケースでは、早急に実施することで「経営の大幅な効率化」「円滑な事業承継」が期待できます。

【一例】経営リスクを招く少数株主の行動

  • 面倒な提案をしたり、株主総会の重大議案に決まって反対したりする。
  • 親族であることを理由に、経営に口出ししたり取締役就任を要求したりする。
  • 短期的利益にしか興味がなく、高額配当金や高値での株式買取りを要求したりする。

下記では、経営ビジョンに関わらず「少数株主の強制的な排除」が会社にもたらす効果をより詳しく紹介します。

1.経営を妨げる株主を排除できる

敵対的少数株主の存在に悩まされる会社にとって、スクイーズアウト「経営を妨げる株主を確実に排除する手段」として活用できます。

スクイーズアウトの実施は、公正に行われる限り差し止められません。株主が実施に反対する場合は、基本的に株式買取請求権を行使せざるを得ず、対価で折り合いがつかない時は裁判所に価格を決定してもらえます。

以上の点から、任意の買取り交渉でおこる「不確実性」は、スクイーズアウトでは原則発生し得ないのです。

2.意思決定が効率化する

まだ明確には少数株主の敵対化が見られない場合でも、株式の集約により「意思決定の効率化」が図れます。

取締役だけで株式を保有すれば、日常の業務を通じて議案・議題に関する意思統一出来るでしょう。また、株主が1名であれば総会を省略でき(会社法第319条・第320条)、招集手続きや株主異動の管理などの事務コストからも解放されます。

3.長期ビジョンに基づく経営が可能になる

基本的に、会社経営は株主の利益を優先しなければなりません。そこで、少数株主の存在する会社では、中長期計画でじっくり成長を図りたい会社側の方針と、短期的に利益を得たい他の株主との間で、しばしば意見対立が起きます。

スクイーズアウトで経営視点に立てない少数株主を排除すれば、上記のような問題は起きません。自社や子会社の事業をじっくり育て、将来の株主や地域社会への利益還元が実現します。

4.利益・配当を独占できる

会社の剰余金や利益は貴重な経営資源の一部ですが、株主に還元しなければなりません。株式の分散は、見方によっては「経営資源の流出」と捉えられるのです。

経営陣だけで株式を独占できれば、積み重ねた努力によって得られる収益をこれ以上流出させることはありません。成長の見込める企業として、対外的にもアピールできます。

5.後継者や買い手企業が安心して承継できる

高齢化が進む日本では、経営者の高齢化に伴って「人手不足」や「後継者不在」に悩まされている会社が多く見られます。運よく有望な後継者がいる、あるいはM&Aで買い手企業を探すとなっても、敵対する可能性がある(あるいは現に敵対している)少数株主の存在が原因で事業承継を敬遠されてしまうでしょう。

現経営者の代でスクイーズアウトを実施しておけば、意思決定と資源活用の効率性を最大化した点で信頼を得られ、事業承継にかかる話し合いがスムーズにまとまります。また、相続対策を組み合わせることで、後代に「少数株主の再出現」という難題を抱えさせることも防げます。

6.上場継続によるコストをカットできる

スクイーズアウトは、上場継続で発生するコストをカットする目的でも活用されています。

上場会社の中には、信用や人材確保に関して当初メリットがあったものの、事務の手間やそれに伴う支出に悩まされるケースが少なくありません。具体的には、有価証券届出書等の作成、決算開示、内部統制などに関連するコストが挙げられます。

また、株主の利益を一層優先する必要があり、時に意思決定が阻害される点も指摘できます。上記のような課題に対し、スクイーズアウトで少数株主を尊重しながら上場廃止をする事例が近年見られます。

【上場廃止を実施した事例】

  • 光製作所(2019年)

…親会社4社(光商・久光・久伸・松栄)で株式併合を実施

  • 雪国まいたけ(2017年)

…米国ベインキャピタルによるTOB+スクイーズアウト

  • 関西汽船(2009年)

…商船三井のTOBで子会社化、その後スクイーズアウトを実施

7.税制面でも恩恵を得られる

子会社化を目的とするスクイーズアウトでは、税制面でメリットがあります。連結納税制度やグループ法人税制により、損益通算や(※連結納税制度のみ)、受取配当金を全額益金不算入とすることが出来るのです。

排除される株主にとっても必要十分な利益が保護される点も考慮すると、税制面のメリットを目的とする組織再編手段としてスクイーズアウトは有用です。

スクイーズアウトで少数株主を排除する手法

スクイーズアウトの具体的な手法として、株式売渡請求・株式併合・株式交換・全部取得条項付種類株式の4種類が挙げられます。これらの手法は、会社法改正でより利用しやすくなりました。

スクイーズアウトの手法 必要な議決権
特別支配株主の株式等売渡請求 90%以上
株式併合 67%以上
株式交換 67%以上
全部取得条項付種類株式 67%以上

特別支配株主の株式等売渡請求

第1の手法は、議決権の90%以上を保有する「特別支配株主」がその権利を行使し、その他の株主から一方的に株式を取得する方法です。

平成26年会社法改正で導入されたこの方法は、議決権割合の要件が厳しいものの、最優先で検討できるスクイーズアウトの手段です。株主総会の決議(法179条の3第3項)や端株処理が不要である点から、最短20日程度と短期間で少数株主の排除を完了できるからです。

株式併合

第2の手法は、株主総会の特別決議を経て株式併合を実施し、少数株主の保有数が1株未満の「端株」となるように調整する方法です(会社法第180条)。端株については、競売にかけるか、適正額の代金を交付して会社が購入します(法第235条・法第234条2項〜同5項)。

なお、株式併合によるスクイーズアウトは、平成26年会社法改正を機に実施しやすくなりました。従来、併合に反対する株主には総会決議取消しの訴え(法第831条1項1号)しか対抗手段がなかったところ、法改正で反対株主の株式買取請求権(法第182条の4)が新設され、併合後の株主に対する利益保護が手厚くなったためです。

全部取得条項付種類株式

第3の手法は、種類株式を発行できるよう定款変更した上で、発行株式を「全部取得条項付種類株式」(法第171条1項)に変更する方法です。変更後の株式は、株主総会の特別決議(会社法第111条2項1号)により、株主の同意がなくても会社が取得できます。

なお、全部取得条項付種類株式の取得対価は、現金もしくは端株となるよう配分調整した別の種類株式となります。

株式交換

他のスクイーズアウトの手法としては、子会社に対する支配権強化をもっぱら目的とする「株式交換」が挙げられます(会社法第2条31号)。具体的には、現金もしくは親会社の株式を対価とし、子会社の少数株主からその保有株式を取得するプロセスを辿ります。

株式交換にあたっては、親子各社において株主総会の特別決議が原則必要(法第309条2項12号・第783条・第795条)です。ただし、交付する財産の金額が純資産額の20%以下である場合は「簡易株式交換」となり、親会社での特別決議は省略できます。

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スクイーズアウト税制の改正

グループ企業間でのスクイーズアウトは、平成29年度税制改正(2017年10月1日以降実施分に適用)でより実施しやすくなりました。本改正では、スクイーズアウト対象会社の資産を時価ではなく簿価評価できる「組織再編税制」のルールが緩和され、少数株主排除の手法の幅が広がっています。

組織再編税制の適用対象が広がる

これまでの税制では、全部取得条項付種類株式の端数処理・株式併合の端数処理・株式等売渡請求の3手法が組織再編税制の対象外となっていました。

しかし本改正以降は、上記手法も組織再編税制の対象とされ、適格要件を満たせば対象子会社の資産を簿価評価できるようになりました。

現金対価型の手法が適格再編扱いに

また、スクイーズアウトで現金を対価とした場合、組織再編税制において非適格再編扱いとするのが従来のルールでした。

本改正以降は、現金対価型のスクイーズアウトでも、親会社が発行済株式の2/3以上保有していれば、金銭不交付以外の適格要件を満たすことで適格再編扱いとなります。

スクイーズアウトの注意点

スクイーズアウトを実施する際は、企業法務と税務に詳しい専門家の支援が欠かせません。実施計画を立てる際、例えば「株主への通知はいつまでに行えばよいのか」「定款変更は必要か」などといった点について、法令知識と類似事例の取り扱い経験が必要になるからです。

とりわけ高度な判断が必要なのは、下記の2点です。

株式取得の対価

スクイーズアウトによる株式取得では、対価を巡って意見対立しがちです。

株価算定法には3種類の評価アプローチが存在し、1つのアプローチ内にDCF法・収益還元法・類似業種批准方式……など様々な方式が含まれます。会社と株主双方にとって不利益がないようにするには、自社に合う算定方法を適宜見極めなくてはなりません。

【株価算定のアプローチ1】インカムアプローチ

…将来の収益やキャッシュフロー予想に基づく評価法

(例)DCF法・収益還元法・配当還元法・配当還元方式

【株価算定のアプローチ2】マーケットアプローチ

…市場の取引価格や類似上場企業との比較など、相対的な評価法

(例)市場株価法・株価倍率法・類似取引比較法・類似業種批准方式

【株価算定のアプローチ3】コストアプローチ

…純資産に基づく評価法

(例)簿価純資産法・時価純資産法・純資産価額方式

実務では、利害関係調整の必要性を意識し、複数の評価方法を適用する場合もあります(併用法または折衷法)。また、裁判所が用いる算定方法はDCF法等ある程度固定されており、株式買取価格決定の申立てを株主側から行われてしまうと、対価が適正額より高くなってしまう恐れがあります。

以上の点から、対価を余分に支払ったり長期化させたりすることなくスクイーズアウトを終えるには、専門家から事前に株価算定書を得ておくことが肝要です。算定の専門家は、公認会計士・税理士・その他金融機関等が挙げられますが、不公平感がないよう第三者的な立場を取れる人物を選ぶべきでしょう。

株式の集約を行うタイミング

また、スクイーズアウトの決断はなるべく早めに行うべきです。

計画の開始から株式集約の完了までの時間は、訴訟の有無により6か月程度に及ぶことがあります。この間、事業承継やM&Aを実施することは出来ません。

また、少数株主の存在に悩まされる企業の多くは、経営者の高齢化が見られます。

万が一にも認知症と診断されてしまった場合、後見開始により委任の終了事由(民法第653条3項)に該当するため、取締役を退任せざるを得ません。また、遺言書の作成等を含む法律行為が自己判断では出来なくなります。

ここで少数株主の排除計画ごと事業継続がとん挫してしまう、スクイーズアウト完了後の相続対策(生前贈与や遺贈による後継者への株式譲渡等)が出来なくなってしまう等の問題が発生しかねません。

スクイーズアウトの実施プランを立てること自体も、会社を個別に診断する必要があり、一定の時間がかかります。必要性を感じた場合は、すぐ相談する等行動を開始しましょう。

まとめ

1株でも保有することで株主の権利が発生する仕組みから、少数株主の存在は遅かれ早かれ経営の非効率化を招きがちです。実際に、株主の敵対行動には上記のような権利が悪用されます。

スクイーズアウトのメリットは、以上のような困った少数株主を確実に排除することで、経営の舵をしっかり取り直せる点です。事業承継やM&Aでも後継者等から高く評価され、スムーズに話し合いをまとめられます。

個別企業でのスクイーズアウトの実施は、手法の選択・計画の立案・株価算定・課税面など様々な課題があります。実施中に業績や経営者の体調が悪化し、結果的に事業が立ち行かなくなる可能性が否めません。

少数株主の存在に頭を悩ませることがあれば、思い立った時にすぐM&A専門の弁護士に相談しましょう。

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